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福士誠治×林遣都 名作戯曲『セールスマンの死』で兄弟を演じるふたりが、今に問いかけるもの

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『セールスマンの死』出演の福士誠治(長男:ビフ役)と林遣都(次男:ハッピー役)

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世界中で長く上演されてきたアーサー・ミラーの代表作『セールスマンの死』。過酷な競争社会が生んだ弱者であるセールスマンのウィリー・ローマンとその家族の物語である。ウィリーの息子兄弟を演じるのは、福士誠治(長男:ビフ役)と林遣都(次男:ハッピー役)。この名作戯曲と演じる役から感じることを、自身に重ねながら話してくれた。生きづらい困難が様々にある今だからこそ、誰にとってもこの家族の物語は胸に迫ってくる。

熱量高く、「描かれていない部分」を掘り下げる日々

──稽古が始まっているそうですが(取材は3月上旬)、どんな感触ですか。

福士 ペースがめちゃくちゃ速いです。始まって3日目か4日目くらいで、もう一幕をさらいました。

 はい、既に半分通しました。

福士 だから、ここ何日間はセリフが追いつかなくて頭がいっぱいな感じですけど、とても集中できる稽古だなと思っています。

 ペースは速いですが、毎日8時間くらいみっちりとそして丁寧な稽古で。ショーン・ホームズさんの演出に熱を感じます。

福士 そう。それぞれの関係や起きる出来事のことを考えたり、なぜこのセリフを言うのかといったことを細かくセッションしていて。感情を平面から起伏のあるものにしていくヒントをもらっている感じがします。

 描かれていない部分をみんなで話し合いながら掘り下げていってくださるので。ほかの方の質問で自分が見えていなかった部分も知ることができて、充実した稽古になっています。稽古2日目に、ショーンさんが役者と一対一で話す時間を設けてくださり、その時間も素敵だったなと思って。

福士 すごくいい時間だったよね。ひとり30分ずつくらい自分の役の話ができて。次々に来る役者の質問に真摯に答えるショーンは大変だったと思うけど。僕もけっこういろんな話をしました。たとえば、僕が演じるビフの根本にある家族に対する愛とか、このローマン家特有のオブラートに包んでいる嘘のこととか、お父さんのウィリーの友人であるチャーリーに対するビフの態度についてとか、いろいろ細かいところを確認しました。

 僕は、役のことじゃなくて、自分のことばかり話してしまって、ちょっと失敗したなと思っています。この『セールスマンの死』をやっていると自分の家族のことを思い出してしまって、作品への語りたい思いがあふれて、気づいたら役についての質問をほぼできずに終わってしまいました。ショーンさんに、「あいつ何なんだ」と思われたんじゃないかなってすごく落ち込みました(笑)。

自分の家族を思い出すような普遍的な戯曲

──そもそも林さんは、「数年前にこの作品を知り戯曲を手に取って、あまりの感動に、いつか自分は『セールスマンの死』をやるんだと心に決めた」とコメントされていました。それも、ご自身の家族を思い出すような戯曲だったからなんですね。

 はい。そうなんです。

福士 アーサー・ミラーのこの戯曲の初演は1949年で、物語もその頃のアメリカの時代背景や社会情勢が反映されていますが、書かれていることは普遍的。ビフが父親から過剰に期待されていることも、今はここまではないのかもしれないけど、自分も野球をやっていた頃は、親は「お前の好きなように進んだらいい」と言いながらも新しい野球道具を買ってくれたりしていたので、上手く乗せられていたような気もする(笑)。

もしかしたら、僕の知らないところで野球選手にしたいと話してたのかもしれないし。そういう家族関係を上手く回していくための嘘は、変わらずあると思うので、わかるところが多い。そこが面白くもあり、演じるにあたっては難しいところでもありますね。

 どんな時代でも、人は常に世の中の不条理に巻き込まれていくというか。今もコロナのパンデミックがあったり。そんな中で、ごくごく普通の人が、自分の家族を守るため、家族をいい方向に向かわせていくために一生懸命生きている姿っていうのは、やっぱり誰もが共感するものがあって。だから、今に至るまでずっとたくさんの人に愛され続けてきた作品なのかなと、とくにお父さんを演じる段田さんを見ながら、感じます。

ハッピーみたいに家族と接する人は多いはず

──その家族の中で、福士さんは兄のビフを、林さんは弟のハッピーを演じられます。この兄弟をどんな関係だと感じられていますか。

福士 ビフはハッピーのことを、この家族に生まれた者として、ある種同志だと思っている。でも、自分ほど父親から期待されていないのを見ているので、お前は俺についてくればいいみたいなところはあって。ところが長じると、不器用なビフは期待通りに進めていなくて、ハッピーはできるだけ責任を負わないですむよう器用に生きている。それに気づいた兄貴としては、やっぱり腹立たしくなるんですよ。今のハッピーの生き方をぶち壊したくなるというか。

大人になればそれぞれ一個人として生きているのであまり干渉しなくなりますが、ビフは妙に深く入っていく。そこはウィリーの性格を受け継いでいる気がしますが、だからこの家族に叛乱が起こっていくのだろうなと思います。

 ハッピーとしては、誠治さんがおっしゃるように、ビフを腹立たせなきゃいけないなと思っています。ハッピーは、どこか上っ面で生きているようなところがあるんですよね。ショーンさんの話を聞いていても、思っていた以上に本当にダメなヤツなんだなと思って(笑)。だから、人として欠けている部分を、もっともっと掘り下げていかなきゃいけないなと思います。

あと、今の家族の状況を何とかしたいと思ってはいるんですけど、その思いがどこから来るのかっていうのもこれから考えなきゃいけないところで。思いがあっても、自分に負担がかからないように上手く立ち回っているところもあるので。家族と向き合っているようで向き合っていないんだなというところを、これから考えて作っていかなければと思っています。

福士 やっぱり次男っぽいよね。僕も次男だからわかるけど、長男がいてくれるから俺は自由でいいでしょ。というところがある。

 はい。僕も兄がいるのでわかります。

福士 でも、ハッピー的にはちゃんとしているつもりなんだよね。

 それなりに(笑)。たぶん、子どもの頃はすごくカッコいい存在だったビフが上手くいかなくなったこととかも俯瞰して見ていて、父が堕ちていく姿も見ながら、自分自身も社会の厳しさを知って、ちょっと冷めた思いみたいなものを抱えているんだと思います。自分の家族は何者でもないんだということをちゃんと受け止めて、お父さんやお兄ちゃんに対しても、自分自身に対しても、どこかあきらめがあるんじゃないかなと。

福士 そういう意味では、ハッピーみたいに家族と接している人はいっぱいいると思う。それこそ上っ面で、「元気?」「頑張ってる?」と言うくらいで。逆に、兄弟でも「給料いくらもらってるの?」なんて聞いてきたらおかしい。干渉しないことが礼儀にもなっているんでしょうね。日本人だからなのかもしれないけど、きっとそれが上手く回していくための知恵だと思います。

 お母さんのセリフにも「それぞれの幸せがあればいい」って言ってますけど、そうなってきますよね。

海外のクリエイターたちと創作する刺激的な現場

──ショーン・ホームズさんは、英国有数の劇場で数々の作品を手がけ、日本では、2020年に『FORTUNE』のワールドプレミアを開けたことで記憶に新しい演出家。そして、美術・衣裳を、新進気鋭のデザイナー、グレイス・スマートさんが手がけるなど、今回の公演は海外のクリエイターが揃っています。どんな刺激を受けていますか。

福士 まずセットが面白いです。模型を見せてもらって、デザインの思いも聞かせてもらうと、ショーンさんも言っていましたが、アーサー・ミラーがこの戯曲を書いたときの原点みたいなものを、今回は抽出しようとしているんだなということがわかります。ウィリー・ローマンという死を目前にしたひとりの男の頭の中を覗くみたいな感じで、ウィリーの過去や妄想や現実が断片的に現れるんです。

 自分が観た映画やほかのカンパニーでやっていた『セールスマンの死』に限って言うと、ここまで何もない空間でやるのは新鮮だし、想像するのを楽しめるものになっていくんじゃないかなと思います。

福士 ウィリーを演じる段田(安則)さんだけは縦横無尽にどこにでも行けて、僕たちは、ウィリーの頭の中のそれぞれの登場人物みたいに見えるといいかなとも思うし。僕らがウィリーの頭の中を引っ張っていく感じが出ると、観ている方もこの世界に絶対についていけると思います。

 確かに!

福士 あと、海外のクリエイターっていうことで言うと、稽古場に英語が飛び交っているのが刺激的(笑)。何話してるのか全然わからないときもあるけど、脳を刺激される。

 英語が飛び交っていると、アメリカの物語だから、気分も乗ってくるというか(笑)。すごく楽しいです。

──最後に、劇場に来られる方にメッセージをお願いします。

福士 美術館じゃないですけど、これだけ長く残っている過去の作品に触れられるのは素敵なこと。その中にある普遍的なものをお見せするので、楽しんでもらえたら嬉しいです。

 そうですね。家族とも会いづらくなった状況の中で、ここまで深く家族を感じられる作品を観るのもいい時間になるのではないかなと思うので。楽しみに観に来ていただけたらと思います。

取材・文:大内弓子

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