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落語界の右派から左派まで(?)、色の異なる実力派3人が競演! 『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺』

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インタビュー

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左から、桂春蝶と春風亭一之輔

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古典落語だけでなく新作にも魂を注ぎ込む桂春蝶。メディアで活躍しつつも上方落語の王道をまい進する桂吉弥。古典の世界観を壊さず“今”を落語に吹き込む春風亭一之輔。次代の担い手である上方の先輩ふたりと、最もチケットが取れない噺家と言われる江戸落語の雄、というユニークで刺激的な顔合わせの落語会がついに実現する。そこで春蝶と一之輔に「三人噺」について、先輩としての本音、後輩としての心の内を聞いた。

この会は落語が素晴らしいと思わせる3人じゃないといけない!

――「三人噺」の会は上方勢ふたりの出演が決まったのち、春蝶さんに主催者側から「江戸からどなたか?」と依頼があったとか。一之輔さんに、即決だったのですか。

春蝶 落語でいうと一之輔、講談では神田伯山。ふたりともタレント的な売れ方じゃなく、技術みたいなもので頭角を現してきたというか、ちゃんとその業界を背負ってる。そういう人と一緒にやることが絶対に不可欠だと思ったんですよ。やっぱり、この会は落語が素晴らしいなと思わせる3人じゃないといけない。そこで彼の力を借りようと。

――春蝶さんからの直々のオファーに対し、どのような感想を持たれましたか。

一之輔 おふたりの名前を聞いて、すぐにイメージはしますよね。三人会ってどんな感じになるかなあって。落語会って面白いもんで、やる意味のある会と、そんなに意味のない会…意味がないっていうか、いわゆる仕事。もちろん聞いてくださる方がいるのは有難いんだけど、いわゆるお仕事的な会じゃなくて、違う意味もある会になるんじゃないかなっていう気はしました。そろそろ後輩とやる会が増えてきて、トリをとることも多くなって。僕に伸びしろがあるとするならば先輩とやる会は本当に有難いし、ましてや大阪の第一線を走ってる方々との三人会っていうのは本当に嬉しいですね。まだ終わってないんで、本当に意味があるかどうか分かんないんですけど(笑)。自分がやって良かったなっていう会にしなきゃいけないと思います。

――一之輔さんは、記者会見でこの会を“ホームラン競争”と例えられました。

「春蝶・吉弥と一之輔 三人噺」チラシ

一之輔 でも、あんまりバットを振り回そうとするとダメになるんで、マクラからさぐりさぐり。僕はだいたい低いところからスタートするんでね。

春蝶 でもね、元南海ホークスの門田博光選手は、ズバンと当たって、バーンって飛んでいって、柵を超えたぐらいから弧を描くぐらいじゃないとホームランとは言わんと。一之輔君なんかもフェンスに届きゃいいっていうのではなくて、自分のフォームと自分の軌道みたいなのがあるはずなんです。それに、勝敗はウケた数なのか? でも、それだけじゃないのが落語の面白いところで。ウケた数じゃなくて、メモリなんやと思う。お客さんの中の感動メモリ。

一之輔 例えが違ってました。ワニワニパニックにしましょうかね。全然違う?

春蝶 (笑)そっちの方が正しい!

華と泥臭さを併せ持つ春蝶に、言葉の説得力が半端ない一之輔

 

――お互いが思われている、お互いの噺家としての魅力を教えてください。

春蝶 噺家にとって一番大切なのは説得力なんやろなと。一之輔という噺家は、この人のこの噺のこの間なら聞かざるを得ないっていう風なことを第一声から思わせてしまう。最初の段階で空気を支配できる。完全に自分の色に染められるっていうか。僕より後輩では、東西で彼が一番できてる人。だから、ほんまに頼りにしてるんですよ、「三人噺」の会では。「三人噺」というのは三国志みたいなもので、三分の計なんですよ。3人で天下を治めましょうという。それぞれ土地を持ってて、そこはちゃんと責任もって治めてね、っていうことやと思うんです。

一之輔 領地、明け渡しますよ(笑)。春蝶師匠は、高座に上がった時の華がすごいんです。それに二世の人って卑屈さがない。僕なんか落語を選んだ時点でちょっと卑屈なとこがあって、人があまり見てないものに興味があったというか。だから、ずっとねじ曲がって生きてきたところがあるんで、高座に上がった瞬間のふわっとした心地良い光というか華というか、そういうものを感じますね。前向きさも羨ましいし、もちろん落語に対しても新たなものを切り開いていこうという。新作もそうだし、古典もね。でも、ある意味、すごく泥臭いと思いますよ。失礼な表現だけど、それができるのがすごい。だって“三代目春蝶”を継いで、見た目もシュッとしてカッコいいし、大阪の古典やってりゃいいじゃねえかと思いますよ。でも、そうじゃない。そこに留まらない。泥臭い二世ってそんなにいないですよね。

春蝶 泥臭いと思いますね。何か枯渇してるっていうか、乾いてるっていうか。自分の心の中にある井戸を掘り続けるみたいな。いつだって自分自身と語り合って、「一体なにをやりたいために噺家になったの?」と。そこで考えに考え抜いた末に、これを探してたっていうものを見つけて紡いでいくと、自分の納得する言葉になっていって説得力を編み出せるのかな。そこまでやると面白がれる。落語って自分が面白がってないと、お客さんは全然面白くないと思うんですよね。

ハイブリッド型の桂吉弥は落語界のグレイシー一族!?

――では、お二方の桂吉弥さんに対する印象を教えてください。

一之輔 全国的にも顔と名前がちゃんと一致してる落語家って、たぶん20人いないと思うんですよ。その中の一番若い人なんじゃないかなぁ。メディアでも活躍されてるハイブリッドな噺家で、そこからお客さんを落語会に呼んできて心をつかむという。変な話、出てきた瞬間「おっ、吉弥だ」って。僕はマクラの部分で、いろいろお客さんとの距離をつめていく作業をするんで、羨ましいっちゃ、羨ましいですよ。メディアで売れてるっていうのは努力の上にそれがあるんでしょうけど、米朝一門、しいては吉朝一門に対する畏敬の念というか…何かあるんですよ。

春蝶 ブラジリアン柔術のグレイシー一族(笑)!

一之輔 (笑)怖いですよね。すぐに腕を固められそうで。

春蝶 彼と僕は平成6年入門の同期で、常にトップを走ってくれてる人。人気でも落語の技術でもね。ああいう人が同期にいてくれると幸運なんですよ。じゃ、自分は一体なにをするべきなのか早くに気づけるという。彼は知性と品格と可愛げの3つのバランスがすごく取れてる。「芸は人なり」といって、AMラジオをきっちりとできる人は落語もすごくいいんだと思います。優しいんですよ、彼の落語って。

――優しさの中で、時に毒も吐かれますが。

春蝶 それは、ピリ辛ぐらいの感じやと思いますね。例えば、おうどんにちょっと一味かけるみたいな。対して、僕が出すものは生レバーとか。それをごまかしたようにパテにしてバゲットの上に塗って、それを芦屋で出すみたいなね(笑)。

一之輔 なんか感じ悪い!生レバーで食べたいですよ。刻み生姜かなんかで。

春蝶 肝をそのまま出すから、お客さんが引く。ある意味、吉弥君と僕は対極なんかなと。だからこそ、仲良くやっていけるんやと思うんです。僕が右で、吉弥が左とするならば、チラシの通り一之輔君は真ん中。やや、僕寄りと違う?優しさとか温もりというより、割とエッジ効かせるやろ。

一之輔 そんな感じですね。何かお客さんにぶつかっていく落語家というか。

春蝶 一之輔君の場合は、池袋で煮込み料理かな。

一之輔 つゆを継ぎ足し継ぎ足し作った煮込みを、ご飯にかけてかっこむという。

言霊ひびく「浜野矩随」に対し、軽やかに「青菜」とダンス!?

――「三人噺」で披露される演目ですが、春蝶さんは「浜野矩随(はまののりゆき)」です。金属彫刻師の浜野矩随は、名人と言われた父親の足元にも及ばない下手くそで…。

春蝶 矩随の父親の時代から、彫り物を買っている若狭屋っていう道具屋があるんです。これは僕が作った言葉なんですが、その若狭屋が「あなたのお父さんでは、ええ夢を見させてもらいました。私はあなたで、その夢の続きが見たいんです」と。で、ある仏像がホンマに矩随の作品だと知った時に、若狭屋は涙しながら「これが、私が見たかった夢の続きです」って言うんです。どうしてこの言葉が自分の中の井戸に水脈としてあったかというと、襲名の時に笑福亭仁鶴師匠に挨拶に行った際「あなたのお父様は志半ばにして倒れられました。お父様が見果てることができなかった夢の続きを、今度はあなたが見てください」と言われたんです。よく分からないけど何か感動して涙が出たんですよ。それが胸の中に刻まれてて、僕の中でウワーって膨れ上がってきて、若狭屋ってこういうことを考えてたんちゃうかなと。誰かにもらった言葉や経験…それで本当に自分の心が動いたことって、なぜか知らないけど人に伝わるんですよ。それを見つけることが、噺家というものの責任なんかなと思ったりもする。でも、こういうこと言うってクサいでしょ。噺家は往々にして照れるからよう言わんのだけど、僕はたぶん変態なのかな。

一之輔 変態です。ド変態です(笑)。

――一之輔さんの演目は滑稽味あふれる「青菜」です。

一之輔 ストーリーとしては他愛もないものですよね。植木屋さんがお屋敷に上がって、お屋敷の品というか、鷹揚なやりとりをいいなあと思って真似してやったらうまくいかないという。それだけの噺ですから。でも、ある人が「ここで一番ウケなきゃいけないよ」って。どこかと言うと、あとで調べられると嫌なんで言いませんけど…ただ僕の中では今のところ、そこがMAXにはなってないんですよ。それは正しいことだと思うので、考える余地はあるのかなぁと。でも僕の落語に対する接し方がさほど真摯じゃなくて、その場その場の付き合いというか、その時、このネタとどういうダンスを踊れば、みんなが喜んでくれるかなっていう感覚でやってるので、台詞なんかもなんとなく変わってきちゃったり、間の取り方もおぼつかなかったりするんですよね。案外、落語ってドキュメンタリーなところがあって、「こないだはああだったけど、変わってきてるね」とか言われる。ちゃんとしてないってだけなんだけどね(笑)。でも、本当に好きな落語ですよ。真夏の落語だから、たぶん今年初めてやると思うんで。今年はどんな「青菜」ができるのかなっていう。



夢は「三人噺」の会を引っ提げて日本全国津々浦々へ

――最後に、「三人噺」の今後の展望についてお聞かせください。

一之輔 1回で終わるのは、もったいないですよね。この顔ぶれで。年5回は多すぎる?年2回は…みんな忙しいからスケジュールが合うかどうか。2年に3回?

春蝶 何のこだわり(笑)。僕の夢としては、とにかく近畿一円は全部行きたいな。あと東京はもちろん、名古屋、福岡も行って。このメンバーと話してると面白いんで、例えば沖縄とか。二泊三日ぐらいで旅行せえへんか、みたいな感覚でね。離島の小学校で、ボランティアで落語会とかもいいですね。

一之輔 でも、米朝事務所さんが何ていうか分からないですね。

春蝶 そうなった場合は、一之輔と春蝶だけで行きますよ(笑)。

一之輔 まぁ、仕方ないですよね(笑)。



取材・文:松尾美矢子



『春蝶・吉弥と一之輔 三人噺』チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2298143