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「自慢の相方を持ちました」さくらしめじが青春群像劇で表現した、音楽への強い思いと成長

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『春しめじのお花し 二冊目』公開ゲネプロの模様 撮影:鈴木友莉

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SHIBUYA PLESURE PLEASUREにて4月2日、3日全4公演に渡って行われた、さくらしめじワンマンライブ『春しめじのお花し 二冊目』。演劇とライブを組み合わせた公演となっており、昨年中野サンプラザで行われたワンマンライブ『春しめじのお花し』に続き、2回目となる。
アドバイザーには小説家の中村航を迎え、今回もメンバーの田中雅功が脚本を手掛けた。
本公演に先立ち、4月1日に行われた公開ゲネプロの模様をレポートする。

解散ステージから始まった物語の行方は?

「僕たち2人の音楽はこれで最後です」
そんな言葉で始まった物語。
「ラストコンサート」と銘打たれたステージで高田彪我と田中雅功が「みちくさこうしんきょく」を歌う。時おり笑顔を見せる彪我に対し、雅功の表情は冴えない。そう、雅功は「さくらしめじの解散」に納得できていなかった――。

「ラストコンサート」を終え、場面は代わり、ふたりが暮らす部屋のリビングに。
もともとは幼なじみ4人でバンドをやるために始めたルームシェア。しかし、ひとり、またひとりとバンドを抜け、部屋を出て行き、残ったのは雅功と彪我だった。
大学3年生、将来について考え始める中で、彪我が切り出した解散。
最後のコンサートも終わり、彪我は新しい部屋探し、雅功は音楽を一緒にやるルームメイトを探し始める。

解散しても、まだルームメイトである2人の日常は続く。寝起きが悪い雅功に対し、先に起きた彪我が「パン食べる?」と声をかけ、一緒に朝食を食べる。どんなふうに2人がこれまで一緒に過ごしてきていたのかが垣間見える。
互いに部屋探し、ルームメイト探しの進捗を報告し合うが状況は芳しくない。

そのとき、雅功が「1曲だけ歌わない?」とねだる。これから大学に行かなきゃいけないのに、と渋る彪我にギターを握らせ、始まったのは「ティーケージー」。アップテンポなサウンドに、最初は渋々だった彪我だが次第にノッてくる。その表情を見て、雅功は「最高!」と嬉しそうに笑顔を輝かせる。

ノッてきた彪我を雅功は逃がさない。「もう1曲やろう!」と「Iroto-Ridori」では2人そろってステップを踏み、エネルギッシュな「たけのこミサイル」では向かい合ってギターをかき鳴らし、ライブ会場でするかのように、ジャンプをしてフィニッシュ。
「楽しいなあ」としみじみ言う彪我に雅功も「楽しいでしょ?」と嬉しそうに問い返す。
「時間を忘れるぐらい楽しかった」

そんな彪我に雅功がためらいながらも声をかける。
「ねえねえ、1個、相談があってさ」と、切り出すが、彪我の「やっぱ趣味でやる音楽って最高だなあ、本当に」という言葉にかき消されてしまう。サッと表情が曇る雅功。解散しようと言ったのは彪我。でも、雅功にはまだまだ未練がある。それがはっきりとわかる場面だった。言葉に出さなくても短い時間の中で雅功の心の変化が表情に現されていて、胸が締め付けられる。

「やっぱり、もう1回俺とやろう、音楽」

一方、彪我は、大学から帰ってきても、家探し、就職活動で忙しそうだ。きっと、彪我が出て行っていけば、本当に終わりを迎えてしまう。
でも、いまならまだ間に合うのでは? 観ていてそんなハラハラを抱かせる。
そこでとうとう、雅功が切り出す。

「やっぱり、もう1回俺とやろう、音楽」

しかし、彪我の表情は冴えない。
「無理でしょ」「俺の中で終わってる」
彪我は無理に強い言葉を使っているように見える。でも、雅功だって引き下がらない。解散ライブに来ていたのはたったの6人。6人しか自分たちの解散を知らない、今なら引き返せる。俺は解散に納得していない……。
けれど、彪我も頑なだ。解散を取り消させようと説得を試みる雅功、それを拒否する彪我。2人の心が反発し合う。

自分の部屋に戻ってしまった彪我。雅功はリビングでひとり曲を作り始める。これまでは彪我が曲を作っていた。だから、自分で作ろうとしても、うまくいかない。
「できねぇよ、ひとりじゃ……」
うなだれる雅功から伝わるのは、寂しさ。そしてギターを鳴らす。雅功の弾き語りで「朝が来る前に」。

雅功から彪我への歌に聞こえてしまって切ない。
「言葉だけじゃどうしても足りないんだ 伝えたいことが山ほどあるから」
2人には伝えきられない想いがたくさんあって、お互いにきっと抱えたままなんだろう、ということがわかる。
そのまま「きみでした」へ。上手からは彪我が出てきて、ステージに腰を下ろして2人で一緒に歌う。でも、2人でいるようには感じられなくて、それぞれの寂しさが描かれているような。続いて、「だるまさんがころんだ」。2人の視線は交わらないけれど、ときどき雅功が上手へ視線を向ける。もしかしたら、自然な視線の動きなのかもしれないけれど、セリフがないのに、一緒に音楽を続けたいという、まだ雅功の一方通行の気持ちが伝わってくる。

では、彪我はもう音楽をやりたくないのか――。
彪我は引っ越し先もほぼほぼ決まり、就活準備にも精を出す。雅功は気分転換に出かけた。ひとりで面接練習をしている姿が微笑ましい。どうやら音楽業界に就職したいらしい。休憩中に自然と手が伸びるのはギターで……。そう、音楽が、嫌いになったわけじゃない。
彪我がひとりで歌うのは「お返しの約束」。楽しそうに歌う彪我。窓の外には見慣れた人影。
出かけたと思っていた雅功は、実は外で彪我の歌声に耳を傾けていた。
やっぱり、一緒にやりたい、と雅功。
彪我は突っぱねる。作詞も作曲もできて、引っ張ってくれるような人を紹介するから、と言ってあくまで受け入れない。

「きれいな花を咲かせるなら彪我がいい」

強い想い。そして、雅功は彪我にある提案をする。
彪我が出ていくまでの1週間で曲を作る。その曲がいいと思ったらまた一緒にやってほしい。彪我の主観で決まるわけだが、雅功はそれでもいい、という。 もう一度、考え直してほしい、という切ない想い。
楽曲制作に悩みつつも励む雅功、着々と就活を進める彪我が1週間のカレンダーと共に描かれる。余談だがここで、2人の衣装が日ごとに変わる演出も嬉しい。

約束の日 彪我の心を動かした雅功の音楽

そして、約束の日。
曲ができた雅功は得意げ。朝から彪我を起こして、「聴いて!」と表情を輝かせる。
しかし、彪我は「聴かないよ」「正確にはもう聴いた。音漏れでフルコーラス聴いたから」
確かに、一緒に暮らしていて、雅功は家で制作を行っていた。聴こえていても不思議ではない。彪我はたっぷりと間を取り、結論を告げる。
「全然ダメ、最高とは言えない」
一瞬、ピンと張り詰める空気。が、彪我が続けた言葉で変わる。
「俺ならこうするな、ってところ何カ所かあるけど、聴く?」
パアッという音が聞こえそうな、雅功の笑顔。
約束をした時間帯は夕方だった。じゃあ、期限は今日の夕方。それまでに良い曲を作ろう。
彪我の言葉に表情を輝かせる雅功。嬉しそうに話し始める彪我。彪我が求めていたのはこんな時間だったのではないだろうか。

相談しながら作り上げた新曲。出来上がったのは夜だったけど、彪我は「完成した曲はめっちゃいい曲。夕方に出来ていた曲もすでにいい曲」。つまり、答えは……。
雅功の行動が、彪我の心を変えた。いや、頑なになっていた心を溶かしたのかもしれない。
もう一度、一緒に音楽をやる条件として彪我が出したのは「何かするときは2人でやる」。
これまでだって2人でやってきたけれど、本当はひとりとひとり、だったのかもしれない。それが、彪我が音楽をやめようとした理由のひとつだったのか……。

新曲のタイトルは「辛夷のつぼみ」。新曲を奏でるふたりの視線がようやく互いを捉え、この日、一番の笑顔がこぼれた。

最後を締める曲は「みちくさこうしんきょく」。
劇中のさくらしめじが再スタートを切るライブ、という設定だろうか。
「これから先、みなさんに寂しい冬が訪れるかもしれません。ですが、いつか必ず春はやってきて綺麗な花が咲くはずです。僕たちはそのときまで、新しい1歩を踏み出し続けていこうと思います。これからの僕たちを見ていてください」と、彪我。
そして雅功が「僕たち自身が綺麗な花を咲かせます」と続ける。
物語だと分かっているのに、ふたりが再び一緒に歩き出したことに胸がいっぱいになる。会場からは思わず大きな拍手があふれた。

終演後、再び登場したさくらしめじ。さくらしめじとしては、今回のような公開ゲネというのは初めて、とのこと。
雅功は「みなさんが拍手をいただいたので僕らも楽しくできたな、と」というと、「一個だけいいですか?」と続け、「楽しかったですか?」と客席に向かって問いかける。もちろん、会場からは大きな拍手が。
「(今回のような形式は)2回目ということで、当然アップグレードしていくべきだな、と思いまして。脚本も雅功が、考えてくれて、こういうのもちょっとおこがましいかもしれないんですけど、この脚本を持っていろんな方にお話ししていきたいものだな、と思っております。自慢の相方を持ったなと思っております」と彪我。そんな彪我に雅功も少し照れくさそうに笑みを浮かべた。
物語の余韻に引きずられて、そんな場面がより胸に来る。

そしてラストは、急きょ前日にバンドサウンドをアレンジして作った「辛夷のつぼみ」を披露し、公開ゲネプロを締めくくった。

多くの人がぶつかるであろう壁や迷いを鮮やかに描き、ふたりの心が互いを向き合うさまが丁寧に積み重ねられていた青春群像劇。まちがいなく、さまざまな年代の人たちの胸を打つ物語となっていた。そこに重なる、さくらしめじの曲たち。音楽と演劇によってより厚みのあるステージを見せてくれたのではないだろうか。

取材・文=ふくだりょうこ
撮影=鈴木友莉

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