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特集上映が開催。アピチャッポン・ウィーラセタクンが語るこれまで、そして次回作

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アピチャッポン・ウィーラセタクン

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タイ出身の映画作家アピチャッポン・ウィーラセタクンの代表作を一挙に上映する特集「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」が、9日(土)から22日(金)まで東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催される。カンヌ映画祭で最高賞に輝くなど高評価を集め、芸術家としても活動する彼はコロンビアで撮影した最新作『MEMORIA メモリア』が先ごろから日本でも公開されているが、早くも次回作に向けて準備を始めているようだ。特集上映の開幕前に話を聞いた。

アピチャッポン・ウィーラセタクンは1970年にタイのバンコクで生まれ、タイの東北部にあるコーンケン県で育った。両親は医者で、病院を遊び場代わりにしながら幼少期を過ごし、コーンケン大学では建築を学び、シカゴに留学して美術、映画、中でも実験映画や個人映画に興味を抱いた。

2000年に最初の長編映画『真昼の不思議な物体』を発表。その後は『ブリスフリー・ユアーズ』でカンヌ映画祭・ある視点部門のグランプリを受賞し、『トロピカル・マラディ』では同映画祭のコンペ部門に出品。2010年には『ブンミおじさんの森』がカンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールに輝き、最新作『MEMORIA メモリア』では名女優ティルダ・スウィントンを主演に迎えた。

今回の特集上映は彼のタイ時代の代表作を集めたもので、長編デビュー作『真昼の不思議な物体』、デジタルで上映される『ブンミおじさんの森』、2015年製作の『光りの墓』、そして監督が自らセレクトしたプログラム『アピチャッポン本人が選ぶ短編集』が上映される。

「私は過去の自分の作品を頻繁に見返すことはないんです」と語るアピチャッポンは「そもそも私はとても忘れっぽいですしね」と微笑む。「それでも、自分の過去の作品を見返す機会があると、新しい発見があります。先ごろ『ブリスフリー・ユアーズ』を見返したのですが、作品の中に“時間に関するアイデア”が、自分がこれまで関心を持っていなかったベクトルで存在していました。同じようなことが観客にも起こりえるかもしれません」

アピチャッポン作品において“過去の作品を観る”こと、かつて観た作品を時間をおいて“再び観る”ことは、単なる特集上映やレトロスペクティブ以上の意味を持つ。なぜなら、アピチャッポン作品は繰り返し記憶と忘却を描き続けてきたからだ。先の通り、彼は忘れっぽいため、ある時期から音声や映像をひたすら記録するようになり、その行為の延長に映画制作があったという。何かを記録すること、記録することで記憶を呼び覚ますこと、記録と記憶を作品として束ねる中で何かを忘却すること。最新作『MEMORIA メモリア』にも連なるテーマはいたるところに埋まっている。

「私は作品づくりは“自分の記憶を取り戻していくプロセス”なのだと思っています。同時にそれは日記をつけるようなもので、何かを“忘れる”ために記録している部分もあると思います」

1日を過ごして、夜に机に向かって日記を書く。印象的な出来事、食べたもの……それらは文字で記録され、書かれなかった部分は忘れてしまう。人間が見たもの、聞いたことすべてを覚えていたらどうなるだろう? だから人は記憶して、記録して、忘れていく。

「何かを覚えていると、そのことに自分がこだわりを持ってしまう。だから、そのようなものはどんどん捨てていく。自分が何かを話せば、自分の中にあるものを外に出してしまうことができる。作品制作はそういうものだと思っています」

アピチャッポン監督はこれまでも繰り返し「自分自身のために映画をつくっている」と言い続けてきた。完成した作品が高評価を得ても、ファンが増えても、そこはブレることがない。

「自分にとって作品をつくるプロセスは、誰かに仕えるためのものではありません。自分が興味のあることを探求し、自分と世界を接続していく感覚が生まれてきて、それが映画として出てくる。そういう意味では映画監督は特殊な職業だと思います。シカゴで実験映画をつくっている頃からずっと考えていることですが、私はお金のために映画をつくっていないですし、シカゴ時代の友人たちもみな、大学の教員をしたりしながら他の仕事で収入を得て、映画をつくっています。

そういう意味で、私は映画制作や映画監督というものが、自分の生活を成立させる真面目な職業だとは感じられないんです。だからこそ私は自分自身のために映画をつくろうと思えますし、観客から反響やフィードバックがあればあるほど、自分のためだけに映画を作ろうと思うのです。私が自分の魂と合致する作品を作ろうとすればするほど、作品は純粋なものになっていくからです」

アピチャッポン・ウィーラセタクンが語る次回作

『真昼の不思議な物体』 (C)Kick the Machine Films

興味深いのは、監督は自分ために映画をつくるが、その過程で多くの人と共に行動し、友人たちの話を聞き、彼らの物語や撮影場所の歴史、音、記憶を作品に取り込んできたことだ。自分自身を追求するために、自分以外のものに時間をかけて触れていく。「それこそが世界で生きることだと思います」と彼は語る。

「コロンビアで撮影した時もロケ地に座って、どうやって撮影するのか考える時間がありました。1作目の映画からずっと制作する際には周囲の環境に自分を浸して、周囲の人たちの人生や生活に浸ったりして、それらを自分の中に取り込んできました。それはフィクションとして映画の中で描かれることもありますが、多くは事実がベースになっていて、『ブンミおじさんの森』のように幽霊が出てくるような話であったとしても、それは誰かにとってのリアリティで、そこにいる人たちの事実だと思っています。

だから大学で教える際には、学生に“こんな映画をつくりたい、こんな映画監督になりたい”と思うようなことはしてはいけない、と話しています。まずはそこに座って、その場で起こっていることをじっくりと見る。あるいはその場で生まれている音を聞く。それを記録するだけでいいんだ、とずっと言い続けています。映画をたくさん観ることで、あらゆる出来事を物語という“まとまった形”で自分の中に取り入れてしまうことは、制作する側としてはすごく問題です。映画監督自身が決まった形の物語を探すようになってしまうからです」

今回上映される作品も、監督が友人や制作の過程で知り合った人たちの物語、その土地の記憶にあふれている。『真昼の不思議な物体』では複数の人たちが即興で架空の物語を語る様を記録したドキュメンタリーだが、強烈な想像の飛躍やイメージの洪水が描かれる。『ブンミおじさんの森』では死が迫った主人公の前に亡くなった人たちが次々と現れる。『光りの墓』では原因不明の眠り病にかかった患者が多く収容されている病院に、かつて王の墓があったことが明かされる。

さまざまな人の記憶、物語、忘れてしまったこと、スクリーンに映し出される記録……初めて作品を観る観客も、再鑑賞だという観客もアピチャッポン作品を通じて、さまざまな記憶に触れることになるだろう。場合によっては映画には描かれていない“観客の忘れていた記憶”が呼び覚まされるかもしれない。

「もし、そのようなことが起こったとしたら、それはとても喜ばしいことだと思います。それは自分の映画制作の目的ではありませんが、そのようなことが起こるということは、私の作品がひとつの視覚芸術として観客に受け入れられ、いろんなことを思い出す“扉”として開かれた存在であるということを示しているからです。

もちろん、記憶だけでなくてもいいと思います。かつて自分が持っていた可能性でもいいですし、世界の美しさでもいい。作品そのものではなく、作品を“経由して”何かを思い出すようになってくれたとしたら、それはとても素晴らしいことだと思います」

映画は単にスクリーンに映ってるいるものを観るだけでなく、作品を経由して自分の中に眠っていたものを発見するプロセスなのかもしれない。

今週末から多くの観客が彼の過去作と遭遇することになるが、監督自身は次の作品に向かっている。

「実はいまスリランカに行こうと思っています。コロンビアでの経験が教えてくれたのは、人間は誰もが同じように悲しいことや愛するものを持っていて、顔であったり肌の色というのは、どちらかと言うと幻想に過ぎない、ということでした。

『MEMORIA メモリア』ではティルダさんが自分とコロンビアや撮影した場所をつなげる媒介になってくれたのですが、次の作品に向けてそのような媒介を探さないといけないと考えています。それは俳優なのかもしれないですし、他のものかもしれない。何にせよ、自分とその場所をつなげてくれるものを見つけなければならないと考えているところです」

「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」
『真昼の不思議な物体』2000年
『ブンミおじさんの森』2010年
『光りの墓』2015年

『アピチャッポン本人が選ぶ短編集』特別上映
『国歌(The Anthem)』2006年
『La Punta』2013年
『M Hotel』2011年
『エメラルド(Morakot )』2007年
『Mobile Men』2008年
『Cactus River』2009年
『Footprints』2014年
『Worldly Desires』2005年
『ABLAZE』 2016年
『ブンミおじさんへの手紙(A Letter to Uncle Boonmee)』2009年
4月9日(土)~22日(金)
シアター・イメージフォーラムにて2週間限定上映(全国順次上映予定)
http://www.moviola.jp/api/

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