「海辺の彼女たち」藤元明緒が大島渚賞を受賞、黒沢清「世界に胸を張って推薦できる」
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左から荒木啓子、黒沢清、藤元明緒、PFF理事長の矢内廣、大島新。
第3回大島渚賞の授賞式が本日4月4日に東京・丸ビルホールで開催され、受賞者の藤元明緒と審査員の黒沢清、ゲストの大島新が登壇した。
ぴあフィルムフェスティバルで知られる一般社団法人PFFが、映画の未来を切り拓く若く新しい才能に対して贈るため、2019年に創設した同賞。3回目となる今回は「海辺の彼女たち」の監督・藤元が受賞した。
藤元は「大島渚賞をいただくのはうれしいことですし、驚くとともに本当に重いものであることを感じます」と述べ、「前作を撮ったときに、『ドキュメンタリー映画みたいだ』と多くの方に言われたので、『海辺の彼女たち』ではそうならないようにしたのですが、本作もそう言われることが多々ありました。それは演じてくれたフォンさん、アンさん、ニューさんや、日本在住のベトナム人の方々、ロケ地である青森の方々など、すべての方の説得力ある芝居とその力を引き出してくれたスタッフ、すべての力が合わさった結果、彼女たちが北国に実際にいるかのような親密さと説得力を持つものになったのだと思います」とキャスト、スタッフをたたえる。
続けて藤元は「僕の親族がミャンマーにいるのですが、クーデターが起きたり、映画を一緒に作ってきた仲間が捕まったり、最近のウクライナ情勢などもあり『映画に何ができるんだろう』と考えた1年でした」と振り返り、「今の時代に映画作家として、あまりにも立ち向かうものが強大すぎる、どうすればいいんだろうとすごく考えましたが、映画を観てくれた人の思いやりに触れ、本当に勇気が出て背中を押されました。映画は無力じゃない、それを信じて作っていかなければいけない、届けていかなければならないと強く思っています。映画は抵抗の力であってほしい、闇を照らす光、灯火であってほしいと願っていますし、優しい世界につながる力になるような映画を仲間とこれからも届けていきたいと思っています」と決意を伝えた。
黒沢は「『海辺の彼女たち』を観た瞬間に、胸がザワザワと掻きむしられるような不穏な感じが全編に流れていて、随所にハッと思わずスクリーンを凝視してしまう、映画に吸い込まれていく瞬間がありました」と述べ、「理屈で検証することは難しいけれど、感覚的にこの作品は大島賞にふさわしいと思いました」と説明する。また審査委員長の坂本龍一との議論の中で、なぜ本作がフィクションである必要があったのか疑問が出たことに触れ「作品の最後に、主人公がのっぴきならない決断をするものすごいシーンがあるのですが、主演女優から素晴らしい演技を引き出すためこのシーンを撮るのに2日間掛かったと聞き、これは堂々たるフィクションだ、これを選んでよかったと感じました」と述懐。「『海辺の彼女たち』は、ここ数年の日本映画の中でトップクラスに値する、堂々と世界に胸を張って推薦できる、大島渚の名前にふさわしい1本だと考えています」と絶賛した。
続く大島も「海辺の彼女たち」を「本当に素晴らしい作品でした」と評し、「私が一番感じたのは、父・大島渚もドキュメンタリーを作っており、その中に『忘れられた皇軍』というテレビドキュメンタリーがあります。元日本軍在日韓国人傷痍軍人の姿を描いた作品ですが、その最後は『日本人たちよ、私たちよ、これでいいのだろうか?』というナレーションの問いかけで終わります。『海辺の彼女たち』はそう声高に言ってはいませんが、ベトナム人の技能実習生の方たちの姿を見て、本当に私たち日本人はこのままでいいのだろうか、と突き付けられる作品でした」と言及した。
なおイベント中には審査員でありPFFディレクターである荒木啓子が坂本のメッセージを代読。「残念ながら僕には大島渚賞にふさわしいと思える作品はありませんでしたが、幸いなことに黒沢清さんには1つの作品がありました。審査員団として意見を一致させるべきかどうか議論しましたが、審査員が異なる意見を持つことは自然ですし、審査員団と言っても2人だけですから、黒沢さんの意見に明確に反対するのでなければ異なる意見は受け入れるべきだと判断しました。このような審査のあり方があってもいいのではないでしょうか」と述べ、「今後は候補作の収集方法も含めてより大島賞にふさわしいと思える作品が集まるように改善していきます。来年以降これこそ大島渚賞にふさわしいと思える作品に出会えることを大いに期待しております」と語った。
※記事初出時より、内容を一部変更しました