ライブハウスが“ライブ配信”を続ける理由は? 新代田FEVERの場合「バンドとお客さんと店は対等であるべき」
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新代田FEVERでのフラワーカンパニーズのライブ Photo:吉田圭子
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すべて見る各地での春のフェスティバルの開催が控えていたり、多くのアーティストが全国ツアーを行っていたりと、歓声禁止や三密回避等の制約はありながらも、徐々にコロナ禍前の状態に戻りつつある……いや、戻らなくとも、その条件の中でできることを探しながら進んでいる、2022年のライブ業界。その中にあって、いち早く無観客配信ライブを始め、現在も新しいトライアルを繰り返しながらライブハウス・シーンを支えているのが、新代田FEVERである。オーナーの西村仁志氏に、配信ライブのことや、コロナ禍においてライブハウスができること等について、じっくり訊いた。
「このバンド、無観客だから手を抜いてるな」って思ったことは、一回もない
──コロナ禍になった当初、FEVERはいち早く生配信を始めましたよね。
でも、もともとは、自分きっかけではなくて。ライブハウスをやっている方は、やっぱり現場主義というか、生のライブが好きでやっている方が、ほとんどだと思うので。自分もそのひとりで、「配信とかやった方がいいんじゃない?」と言われた時、「うーん……」みたいな感じだったんですけど、自分のお嫁さんに押されたっていうのが正直なところで。で、FEVERには、映画を撮ったことがあるとか、映像に興味があるとか、映像の機材を持っているとか、そういうスタッフが何人もいたので、「じゃあちょっとやってみよう」っていう。で、スタッフがすごいがんばってくれるのと、アーティストも、お客さんがいない状態でもすばらしいパフォーマンスをしてくれて。その時初めて「あ、配信でもここまでできるんだ」とわかって……なので、身内とスタッフとアーティストには、今でも感謝してますね。配信ってすごいな、生のライブでは味わえない形のおもしろさがあるな、というのは、確かに感じました。
──確かに当時、お客さんがいなくても、ゲネプロっぽくはならない、本気のライブってできるもんなんだなあ、と思いました。
だから、バンドってすごいなと思ったんですよね。人がいなくても、何のひけもとらないぐらいのテンションで演奏することができるんだな、と。「このバンド、無観客だから手を抜いてるな」って思ったことは、自分がFEVERで観て来た限りでは、一回もないです。
──最初は試行錯誤とかありました?
やっぱり最初は、機材がスタッフの私物だったので。どうしてもないものは、ネットで安いやつを買うとか。たとえばGoProっていうちっちゃいカメラ、あるじゃないですか。
──はい、テレビのバラエティ番組とかでよく使われているやつ。
GoProは高いんですよ。でも、GoProみたいなやつは、安いんですよ(笑)。それを買って、でも、そのGoProみたいなやつには画面が付いてないので、PC越しで画を見ないといけない。そうすると映像が他のカメラよりも遅れて届くから、時間を合わせないといけない、とか。それに、カメラが違うと画質が変わったり、色味が変わったりするので、揃えなきゃいけない。そういう作業を、うちのスタッフが──今でもそうなんですけど──すごく時間をかけてやっていて、「大変な作業だな」って。自分は、コーヒーを配ることぐらいしかできなかったので(笑)。だから、クオリティを高くしたいというスタッフの向上心で、クリアしていった感じでしたね。とにかく自分たちでやるっていう。今でもそれは変わってないんですけど。
──カメラのスイッチングは?
それもスタッフが、無料のスイッチングのソフトで、PC上でやってましたね。今はスイッチャーを買いましたけど。あと、やっぱり……テレビ局だと、今映ってるカメラはこれですってわかるやつ、あるじゃないですか。
──ああ、カメラの赤いランプが点くやつ。タリーライトっていうんでしたっけ。
そう、あれがないので、演奏している側は、今どのカメラが映っているのか、まったくわからないんですよ。ただ、すごいのは、わかる人はわかるんですよ。それこそフラカンの圭介さん(フラワーカンパニーズ・鈴木圭介)は、ばっちりカメラ目線だったりして。「フラカンってすごいわ、なんでわかるんだろうね?」みたいな。そういうのも含めて、「こういう時にこうすれば、こういう画が撮れるんだな」とか、「カメラの場所をここにするとおもしろいんだな」とか。そういうふうに、勉強しながら配信しています。
──コロナ禍になった直後に配信ライブを始めた頃って、最初はみんな無料でやっていたけど、2〜3カ月くらいで、配信チケットを売って見せるようになりましたよね。
あ、でも、その間の段階があったんですよ。最初はYouTubeで生配信していたんですけど、YouTubeで投げ銭ができるようにするのが大変だ、っていうことがわかって。なので、協力を呼びかける文章を、自分が書いてアップしたのが、すぐに広まって。その晩のうちに、スーパーチャットが使えるようになったんですよね。
──登録者数が一定のラインを超えないといけないんでしたっけ?
それと、再生時間の総数が、×千時間を超えないといけない、というのがあって。そっちが難しかったので、文章をアップしたんですけど、すぐスーパーチャットが使えるようになったのが、第二段階ですね。お客さんが投げ銭をしてくれるという。ただ、投げ銭が多くても、そんなに入ってこないことが、やっていくうちにわかってきたんですよね。
──あのおカネがそのまま入ってくるわけじゃないですもんね。YouTubeを経由するから。
で、その2カ月後くらいに、チケットを売って生配信を見せるっていうシステムが、ZAIKOあたりから広まっていって、ぴあやイープラスも始めて。それは大きかったですね。
バンドとお客さんとお店が、対等であるべきだと思っている
──それら、当時は無観客生配信でしたよね。
はい。まだお客さんがライブハウスに来れない状況が、何ヵ月も続いてたので。その時は、配信チケットは売れましたね。もちろんバンドによりけりですけど、「これはビジネスと言っていいよね」っていう数字になる公演もあって。
──FEVERでワンマンをやった時以上の枚数の、チケットが売れることもありました?
ありました。FEVERって300人がマックスなんですけど、配信チケットは1000人でも10000人でも売れるので。ただ、あの時……っていうか、今でもそうなんですけど、FEVERが、バンド側から、普段より多くいただいてはいけないんじゃないか、みたいな気持ちがあって。たとえば、もし5000人が観てくれたとして、その5000人分をバンドと折半するってなったら、うちもめちゃめちゃ儲かるんですけど。それってなんか、違うような気がするというか。だから、300人分を超えた分はアーティストに返す、っていうことにしたんですけど。
──えー!? もったいない(笑)。
すごい葛藤はありつつも「そうじゃないと気持ちが悪いなあ」という。はじめのうちは、折半とか、3分の1とか、条件を考えてたんですけど、途中からやめました。うちは、バンドとお客さんとお店が、対等であるべきだと思っているんですね。そのバランスが崩れると……バンドが元気じゃないと、ライブハウスはどうしようもないので。うちはまだどうにかなるから、バンドにお返しする、という選択をしました。
──で、2020年の秋頃から、人数を絞って有観客ライブで、配信もやる、っていうふうになっていきましたよね。
でもやっぱり、お客さんが少しでもお店に来れる状況になると、ライブを生で観たい、その場に行きたいっていう気持ちの方が、あっという間に配信より超えてしまうんだな、というのは思いました。配信は、地方の方とか、事情があってライブハウスに来れない方に、喜んでいただけているので、やっていて意味がないとはまったく思わないんですけど。ただ、演奏する側が、「配信はなしで」っていう希望が、ちょっとずつ増えてきていますね。だから、「今後はチケット売り切れの時に配信しましょうか」とか。今は、それがスタンダードになっていくのかな、っていう変化の時期な気がしています。自分としては、配信をやって、地方のファンも喜んでくれて、それがきっかけでツアーでその地方へ行った時、ライブハウスにも来てくれる、というふうになれば、ベストだと思っているんですけど。だから、どういう形がスタンダードになるかは、今年いっぱいぐらいで決まってくるのかなあ、という気はしています。
──今後はどのように考えておられます?
やっぱりお客さんは現場で観たいし、バンド側もお客さんを入れてやりたいっていう気持ちの方が、強いと思うので。たとえば売り切れた時に配信する、ツアー・ファイナルで配信する、宣伝としてツアーの初日に配信して、地方のお客さんに観てもらった上で、ツアー先に来てくれる可能性に賭ける、とか。配信は、なくなるコンテンツではないと思いますし、僕もどんどん進めていきたいと思っているんですけど、やり方は正直まだ、手探り中なところだと思うので。海外に向けてとか、そういう意識もあるんですけど。
──ああ、そうですよね。
実際に、ヨーロッパに向けて配信したいから、時差に合わせて明け方の4時からライブしたい、という話もあるので。それはtricotなんですけど、3月にヨーロッパ・ツアーをやる予定だったのが、コロナで行けなくなって。その代わりに、そのツアーと同じ日程で、下北沢BASEMENT BAR、下北沢Flowers LOFT、FEVERから生配信をやるという。そういうおもしろい企画もあるし、他にも新しい可能性がないか、考えているところですね。たとえばですけど、FEVERも毎月全日ライブが詰まってるわけじゃなくて、空いている日もある。その空いてる日にパッとできるバンドは、配信だけですぐやる、とか。スタンスは軽くして、あんまり重々しく考えずに……思いついたらパッとできるというのが、ライブハウスのいいところだと思いますし。そういうふうに動けるといいなあ、と、今、ふと思いました。
Text:兵庫慎司 Photo:吉田圭子
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関連リンク
ライブハウスFEVER
https://www.fever-popo.com/
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