薮宏太「頭の片隅に常にジョセフがいた」ミュージカル『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』2年越しの幕開け
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ミュージカル『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』公開ゲネプロより、中央左・ファラオ役の小西遼生、右・ジョセフ役の薮宏太(Hey! Say! JUMP)
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すべて見るHey! Say! JUMPの薮宏太が主演するミュージカル『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』が4月7日、東京・日生劇場で開幕した。『キャッツ』『オペラ座の怪人』などで知られる現代ミュージカルの巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーが学生時代に生み出し、世界中で愛されている作品。この日本版は本来なら2020年4月に上演されるはずだったが、新型コロナウイルスの影響で直前で全公演中止に。2年越しの待望の開幕となる。
物語は旧約聖書「創世記」に登場する、わずか数ページのエピソード「ジョセフの物語」をベースに、こちらもミュージカル界の鬼才、『エビータ』『ライオンキング』のティム・ライスが生み出したもの。ジョセフは12人兄弟の11番目、父ジェイコブの一番のお気に入り。ある日ジョセフだけ父から素敵なカラフルなコートを与えられたが、ほかの兄弟の嫉妬を買い、売り飛ばされてしまう。奴隷としてエジプトに行ったジョセフは、紆余曲折がありながらも持ち前の真面目さと“夢を読み解く能力”で登り詰め、ついにファラオに仕える身に。そこへかつて自分を売った兄弟たちが現れて……。
日本では少々馴染みの薄い物語だが、牧歌的な鷹揚さとおとぎ話のような突拍子のなさが同居する物語はシンプルで楽しい。今回の日本版は現代的なキレのいいダンスでスタイリッシュかつエネルギッシュに魅せつつ、“何度でもやり直そう”“夢がやぶれても、また立ち上がろう”というメッセージ性が強く浮かび上がるものになった。アンドリュー・ロイド=ウェバーの音楽も、その後の作品群にくらべるとシンプルなメロディラインながらもロックにカントリー、シャンソン、ロカビリーとカラフルに表情を変える楽しさがあり、その魅力を存分に伝える力強いキャスト陣も素晴らしい。
初日前に行われた取材会で、薮は「この作品は2年前に突然中止となってしまい、今日やっと2年越しに幕が開きます。この2年のあいだ、色々なお仕事をやっていましたが、頭の片隅には常にジョセフがいて、忘れたことはなかった。稽古で久しぶりに皆さんにお会いした時は最初は緊張しましたが、歌を合わせ、皆さんの声が聴こえ、懐かしい音楽が聴こえ、その瞬間に『ジョセフ~』の世界に帰ってきたんだ、ここからリスタートだと思った。これは再生、そして再起の物語です。なかなか明るい光が見えない世の中ですが、この『ジョセフ~』を観て、少しでも「明日からまた頑張ろう」という気持ちになってもらえたら嬉しい」と思いのたけを語る。
人を許し、手を取り合って、また一歩ずつ歩いていこうという気持ちになれるように
薮はさらにこの2年「自分でも楽譜を見たり歌稽古をしていた」と話し、「歌唱指導の方や音楽監督が気付いてくれて「えらい」と言われました。嬉しかった。(前回は)1オクターブ下で歌っていたものを、今回の歌稽古でオクターブ上げてみようかとか、そういう試みができたのは、ポジティブな部分かな」と、2年のブランクが逆にプラスに働いたポイントもアピール。
ギラギラのロックスターばりのファラオを演じている小西遼生も「2年前は、稽古をすべて終え、この劇場に入る前日に中止を告げられました。すでに劇場にはこのセットが組まれていたので、こっそり見にきたんです。その時に見たセットの上に今立って、ファラオ役として生きることができる。2年、この仕事を続けてきてよかった」とこちらも感慨を口にしつつ、「ハジけた作品ですので、たくさんの人に楽しんでもらえたら」と語った。
物語を運んでいくナレーター役は、平野綾とシルビア・グラブのダブルキャスト。平野は初参加、シルビアは前回も出演予定だった。平野は「私は初参加なので、皆さんに引っ張っていただきながら、ナレーターとしては皆さんを引っ張っていけるように頑張りたい」と意気込み、シルビアは「ここに立っているのが夢のよう。一昨年は最終稽古を終えて「劇場で会おうね!」と言ったっきり会えなかった薮さんや皆さんと、ちゃんと衣裳を着けた状態で舞台上に一緒にいられる。本当に嬉しいです」としみじみと語る。
ジョセフが仕える富豪のポティファーを演じる小浦一優(芋洗坂係長)は「こういう状況下で公演できることが夢のよう。私はジョセフが窮地に立たされる時に出てくる役が多いので、「ジョセフが可哀想だな」と思った時に私の名前を心の中で叫んでください(笑)。演出のダレン・ヤップさんが、辛いシーンの中であなたが出てきたらポッと癒しになるようにしてほしいとおっしゃいましたので、頑張ってポッさせたいと思います」と笑いを交えて話した。
ジョセフの父ジェイコブを演じるのは村井國夫。薮扮するジョセフを特別に可愛がる父親だが「薮君はとても素直で、作らずにすっと“そこ”にいる。最後の再会のシーンは自然と嬉しさが沸く。(ほかの兄弟たちより)可愛い、ほかはどうでもいい(笑)」と場を笑わせた一方で、「今は夢をなかなか持てない時代ですが、この作品の歌詞を聞いていると、色々な夢を見ていいんだなと思う。今やるべき作品だと強く思います」と作品の意義も語っていた。
最後に薮が「人を許し、立ち上がるということがテーマの作品です。色々な出来事があるご時世ですが、ご覧になった方が、人を許し、手を取り合って、また一歩ずつ歩いていこうという気持ちになれるよう、誠心誠意頑張って、千秋楽まで気を引き締めていきたいと思います」と改めて挨拶をして会見は終了した。周りの人と手を取り合い、夢やぶれてもふたたび立ち上がるというメッセージは、この作品が辿った2年の状況ともリンクし、そして現在の社会情勢とも重なり、いっそう心に響く。初演から50年以上たつミュージカルだが、これほどまでに胸を打つ『ジョセフ~』はそうはないだろうと思える、今だからこそ観たい一作だ。東京公演は29日(金)まで同劇場にて。その後愛知公演、大阪公演あり。
取材・文・撮影:平野祥恵
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