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劇団ヒトハダ旗揚げに想う、『僕は歌う、青空とコーラと君のために』鄭義信×大鶴佐助インタビュー

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左から、大鶴佐助、鄭義信  撮影:川野結李歌

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鄭義信が結成し、大鶴佐助が座長を務める劇団ヒトハダの旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』の初日が迫る。戦後の米軍御用達キャバレーに集う人々の切なくもおかしい人間模様が、1930〜50年代のアメリカンポップスに乗せて綴られる群像劇だ。開幕を約20日後に控えた稽古場で、作・演出を務める鄭、そしてハワイの日系二世ハッピー役の大鶴がインタビューに応じた。

劇団は「自分たち主体で何かを発信したい」という初期衝動の形(鄭)

――鄭さんは劇団結成の経緯を「もう無縁だと思っていた劇団を、皆さんの熱意にほだされ結成することになりました」とコメントされました。作品をつくって上演するなら別の形もあるかと思いますが、あえて“劇団”にした意図を教えてください。

 プロデュース公演が主流の中で「劇団をつくろう」という気は最初まったくなかったんですよね。飲み屋で話しているうちに、そういう流れになって。オファーを受け取って作品に参加するだけでなく、「自分たち主体で何かを発信したい」という強い初期衝動みたいなものが根底にありました。自分たちがやってみたいことに小回りの利く形でトライできる場、という文脈です。

大鶴 僕は櫻井(章喜)さんにお誘いいただき、結成のモチベーションをお聞きして共感しました。鄭さんと初めてご一緒した三人芝居の『エダニク』(2019年)に櫻井さんが観客としていらしていて。そのあと食事をご一緒した時にヒトハダの話をされていたので、「それ何のお話ですか?」と首を突っ込んだら……櫻井さんが「入る?」って。

 もともと劇団は、僕が作・演出した『赤道の下のマクベス』(2018年)のキャストだった浅野(雅博)くんとヒロ(尾上寛之)が意気投合して生まれた話だったんです。「二人芝居を書いてもらえませんか?」と酒場に呼ばれて、ベロベロに酔っ払ううちに……いつの間にか劇団ができていた(笑)

大鶴 その御三方にどうして櫻井さんが加わることになったのか、いま劇団メンバー全員で話しても誰もわからないんです! でも櫻井さんがいなかったら僕は参加していないし、梅沢(昌代)さんだって……そうですよね?

 みんなの間でよく話題に挙がるよね、「サク(櫻井)さんはいつからいるの?」って。僕とサクさんは『焼肉ドラゴン』(2016年)で一緒になったけど、ヒトハダ参加の経緯は誰も知らないんです。早くも劇団七不思議のひとつですね(笑)

劇団の座長として、僕は何をすればいいですか?(大鶴)

――劇団旗揚げのお知らせは最初、鄭さんお一人で行われました。そのまま主宰の座に就かず、大鶴さんを座長に据えたのはどういった経緯だったのでしょうか?

 多数決です。普通は作・演出が座長になるのかもしれないけど……逃げました(苦笑)。言い出しっぺの浅野くんやヒロもやらないと言うし。「じゃあ誰がやる?」となった時に「いちばん若い佐助が適任では?」って。多数決したら全員一致で佐助に決定!

大鶴 僕、その場にいなかったんですよ? それで次の日に「佐助、座長になったからよろしく」って事後報告を受けました。最初はジョークだと思ったけど、どうやら本気らしく。

――欠席裁判みたいですね(笑)。座長って何をされているんですか?

大鶴 僕もそれを知りたいくらいです。いろんな方に「座長って何をすればいいですか?」と聞いて回っているんですが……明確なことを誰も教えてくれません(笑)

 あはは(爆笑)! まぁ、追い追いだよね。いろいろ責任をかぶることになるんじゃないかな。

大鶴 脅かすのやめてくださいよ!

――たとえばオファーを受けて参加することになった現場と比べて、座長だと作品に取り組むスタンスが何か異なるのでしょうか?

大鶴 (しばらく思い浮かべて)……特に違わないですね。

――じゃあ、なおさら「座長とは?」と迷宮入りしますね(笑)

大鶴 ホントですよ! 誰か教えてください(苦笑)

――お父さまの唐十郎さんは状況劇場や唐組と大所帯を率いていましたが、大鶴さんにとって初めて携わる“劇団”はいまのところ、どんな場所でしょうか?

大鶴 父の劇団を指しているわけじゃなく、僕の勝手なイメージですが……劇団ってトラブルが多発するイメージがあるんですよね(苦笑)。いい意味でも悪い意味でも喧嘩があったり。でもヒトハダは劇団員がみんな優しく、人肌のように温かい。「こんなに平和で居心地のよい劇団あっていいんだ」と感じるほどです。芸達者な先輩たちから、いろんな刺激をたくさん頂戴したいと思っています。

一人一曲、見せ場にソロ歌唱があります(鄭)

――鄭さんは、大鶴さんの俳優としての魅力をどんなところに感じていらっしゃいますか?

 まだ若いので飲み込みが早く、柔軟ですね。頭がやわらかすぎるのか、演出の要求に対して「それでいいんか?」って変化球を投げてきます。たとえば僕が「現状こうなのを、こういう風に変えてみて」と要求したことに対して、こちらの想像より一歩二歩違ったところに着地するというか。演劇DNAというか、思考回路が本当におもしろい。思わず「どんどんやれ」って助長してました(笑)

――大鶴さんは『エダニク』でご一緒された時に感じた鄭演出の魅力をどのように感じましたか?

大鶴 静かな会話劇だと思って、本読みの時にストレートにやっていたら……鄭さんから「もっと声を出してみて」とか「今度は東北のおばあちゃんが孫に語りかけるように」といろんなパターンでセリフを言うことを求められました。実際にやってみたら、最初に一人で台本を黙読していただけでは想像もつかなかった人物像が立ち上がっていて。そこからすごく楽しくなりましたね!

――鄭さんの戯曲に挑戦するのは本作が初めてですよね? 大鶴さんが『僕は歌う、青空とコーラと君のために』をお読みになって感じたことを教えてください。

大鶴 戦後の進駐軍クラブに出入りしている、ハワイの日系二世や在日朝鮮人が組んだコーラスグループの物語です。登場人物すべて、戦争に対して抱えているわだかまりや屈託のグラデーションが異なっていて。各自のルーツが異なることに起因するんですが、それでも同じ歌を口ずさみ、歌声で共鳴し合っている。それが素敵だなって思いました。シリアス一辺倒かと思えば、笑えるシーンもあって。緊張と緩和が効果的に活用されていて、ご覧になっている方は感情を揺さぶられるんじゃないかと思います。

 前々から進駐軍のキャンプまわりにいたコーラスグループの存在に興味があったので、彼らを題材にした物語をつくりたいと構想していました。そこに普段からよくテーマにしている在日外国人やマイノリティを登場させることで、僕らしさを発揮できるのではないか、と思って。それと劇団の“旗揚げ公演”だから、キャストの歌声やピアノの生演奏で華々しく盛り上げたいという気持ちもあって、メンバーには台本よりも先に「あなたの役が歌うソロパートの楽曲はこれです」ってタイトルを渡しました。一人一曲、見せ場にソロ歌唱があるんです。

大鶴 鄭さん、執筆前に「みんな歌えるよね?」って確認してましたよね。僕、本格的なミュージカルではないけれど「音楽劇なら」とお答えしたら、おそらく登場するナンバーの中でダントツに難しい「Boogie Woogie Bugle Boy」(The Andrews Sisters:1941年)を充てがわれて(笑)。歌詞は英語で言葉数も多いわ、テンポも速いわで……大変です。はじめは「あれヤバい、歌いこなせるか?」って不安でしたけど、練習を重ねるうちに楽しめるようになりました。

 そうだね、少しずつサマになってきたんじゃない?

役人物として揺れ動くのが楽しみ(大鶴)

――配役はどのように考えられたのでしょうか?

 メンバーの顔を見渡して、少しだけハードルの高い役割をそれぞれに与えました。各自苦労するポイントもあると思いますが、これから稽古で詰めていきます。佐助が演じるハワイの日系二世ハッピーには、彼のちょっとトボけたところを乗せてみました(笑)

――大鶴さんのハッピーにはどんなハードルを課したのでしょうか?

 ハッピーは途中でコーラスグループを抜け、朝鮮戦争へ行くんですね。そこから帰って来て、どういう人間に変化しているか。これが佐助にとって、ハードルになるでしょうね。きちんとハッピーを掴んで演じ切ることができたら、いつもよりオトナな佐助を見ていただけるんじゃないでしょうか。

大鶴 そうですよね。彼を掴むために、ここ2週間くらい鄭さんからお借りした『ハワイ日系二世の太平洋戦争』という資料を読んでいました。敵として日本と向き合うことになった彼らは戦争をどのように受け止め、生きてきたのか書かれた本です。彼らはローマの百四十高地で同僚の兵士がバンバン死んでいく悲惨な状況を体験したうえで、また朝鮮戦争に駆り出される。そりゃハッピーの心はボロボロになりますよね。

――しかもアメリカ人のハッピーに対して、コーラスグループのメンバーはアメリカの敵国である朝鮮人なわけで。

大鶴 そうなんです。この歴然とした事実を受け止めて、自分の中にものすごく大きな根を張らないと……虚構に見えてしまうんじゃないか、と思いました。でないと、単なるハッピー野郎になってしまう(笑)

 ハッピー野郎!(爆笑)

――深い根を張るために、鄭さんからお借りした資料をお読みになったのですね。

大鶴 はい。知識を得たので、これから稽古でどんどんアウトプットしていきたいです。資料を読んでおもしろいと思ったのが、ハワイの日系二世ってそんな凄惨な戦争体験をしたと感じさせないくらい、普段はあっけらかんとしていること。これ、わりと誰にも当てはまる普遍性なんじゃないかと思いました。人間ってずっと過去にとらわれて生きているわけじゃない。ツラいことを忘れるために、矛盾を抱えることだってありますよね。

――ハッピーの人物造形にも当てはまりそうなお考えですね。

大鶴 そういう人間くさいところを、鄭さんは日常と地続きに描いていらっしゃいます。コーラスグループの愉快な掛け合いをしたかと思えば、急にシリアスになって場をまとう空気の色が変わる。すごくリアルな台本だと思いました。そんな劇世界の中で、いまからハッピーとして揺れ動くのが楽しみでなりません。



取材・文:岡山朋代 撮影:川野結李歌



ヒトハダ旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』(劇場公演/配信公演)チケット情報はこちら
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2205521

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