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CDや配信作品で使われる「EP」ってなに?

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CDや配信作品で使われる「EP」ってなに?

突然ですが、「EP」をご存知でしょうか? もともとはアナログレコードの形態の1つで、文字通り片面に1曲ずつ収録されたシングル盤よりも曲数が多いものがEP盤と呼ばれていました。現在では「メジャー1st EP」「配信EP」といった形でCDや配信作品でも幅広く使われていますが、レコードに触れてこなかったリスナーにとっては馴染みの薄い用語で、SNSではしばしば「EPって何?」という声が上がります。

音楽ナタリー編集部では、「『EP』はアナログ時代のシングル盤に由来する言葉だから」という理由で、作品の固有名詞である場合を除いて使用を避けてきたのですが、ここ数年でレーベルの方が作成されるプレスリリースに「EP」が使われるケースが如実に増えたことを実感しています。また「ミニアルバム」に言い換えて記事を掲載したところ「EPです」とレーベルから訂正されたこともあり、編集部としても「EP」の具体的な定義付けができていないというのが実情です。そこで「EP」の定義を明らかにすべく、レーベルスタッフを中心にアンケートを取りました。また、レコードプレスメーカーである東洋化成のカッティングエンジニア・西谷俊介さんにもお話を伺いました。

取材・文・構成 / 丸澤嘉明

EPと、シングル、ミニアルバム、アルバムの違い

Official髭男dism「HELLO EP」、sumika「Harmonize e.p」、Aimer「ninelie EP」、D.A.N.「EP」……「EP」と名のつくCD / 配信作品を挙げると枚挙にいとまがありません。タイトルに入っていなくても、マカロニえんぴつの「愛を知らずに魔法は使えない」は“メジャー1st EP”と銘打たれ、YOASOBIの初CD作品「THE BOOK」は“1st EP”という表現が用いられいます。miletも先日8th EP「Flare」をリリースしました。

シングルやアルバム、そしてミニアルバムとEPはいったい何が違うのか。さっそくですが、その質問に対するアンケートの回答をご紹介したいと思います。

シングル以上アルバム未満のものをEPと呼ぶような気がしています。EPとミニアルバムの違いに関しては、EPのほうが総尺が短いイメージで、シングル以上、アルバム未満で30分未満のものがEP、30分を越えるものはミニアルバムと称している作品が多い気がします。(レーベルスタッフ)
シングルは1~3曲程度、EPは4~6曲程度(30分以内)、ミニアルバムも4~6曲程度ですがCDで使う名称のイメージです。(レーベルスタッフ)
・シングル→収録曲数が3曲まで
・EP→4~6曲
・アルバム→7曲以上
といった形で、作品の収録曲数にて判断しております。(レーベルスタッフ)
シングルは単曲、EPは3曲~5曲、そしてミニアルバムはEPの言い換え、といったイメージで使い分けています。(レーベルスタッフ)
1~3曲はシングル、4~6曲がEPという認識をしています。(レーベルスタッフ)
フィジカルは4曲までがシングル、5、6曲がミニアルバムもしくはEP。もともとミニアルバムだったものが、現在ではEPという表現方法が主流になりました。(アーティストマネージャー)
1~3曲がシングルで、4~6曲がEP / ミニアルバム。作品全体でコンセプトがある場合はミニアルバム、ただ曲を並べている場合はEPと区別しています。(レーベルスタッフ)
Appleを基準にお話しさせていただくと、シングルは3曲まで、EPは6曲まで、それ以上の場合はアルバムという考え方です。EPとミニアルバムの意味は同じなのですが、アーティストによってミニアルバムという言い方をしたりEPという言い方をしたりすることもあります。(レーベルスタッフ)

若干の誤差はあるものの、4~6曲入りで30分未満の作品を「EP」と呼ぶことが多いようです。ただし先ほど挙げたYOASOBI「THE BOOK」は9曲入り。厳密に規定されているわけではなさそうです。またEPとミニアルバムの違いについては、収録時間やコンセプトの有無などで区別されているケースと同義で使われているケースの両方がありました。

続いて、いつ頃からEPという言葉を使うようになったのかについてもアンケートを取ったのでご紹介したいと思います。

2000年前後くらいにマキシシングルという表現があったと思うのですが、この表現を聞かなくなくなってきたくらいでEPという表現が出てきた気がします。ダウンロード配信が主流になったタイミングくらいだと思います。(レーベルスタッフ)
2015年、2016年くらいから使っている印象です。(レーベルスタッフ)
最初からレコード以外でもシングル以上アルバム未満の収録物としてなんとなく使っておりました。EPという言葉がレコードから来ているという認識は、知識として後からでした。(レーベルスタッフ)
ストリーミングサービスが拡大してきた2015年あたりから徐々に聞くことが多くなってきたような気がしております。(レーベルスタッフ)
ここ5年くらいで使うようになりました。(レーベルスタッフ)
自分が音楽業界に入ったのが2016年頃ですが、そのタイミングでは「EP」という言葉がパッケージや配信で当たり前に使われていました。個人的にはそこからEPという言葉を使い始めました。それまで、リスナーとしてはアルバム(多数)かシングル(少数)か、くらいのイメージでしか聞いてなかったので、特に意識していなく、どこから、といった明確な線引きは正直わからないです。(レーベルスタッフ)

どうやら2015、2016年あたりから頻繁に使われるようになってきたようです。そして1つ目のアンケートの回答にあった「Appleを基準にお話しさせていただくと」にヒントが隠されていそうです。音楽ストリーミングサービスであるApple Musicがスタートしたのは2015年。そして同様のサービスであるSpotifyが日本でのサービスをローンチしたのは2016年。そこでApple Musicのガイドラインを調べてみたところ、下記のような記載がありました。

3.3. シングル 含まれている曲数が1~3曲で、各曲の長さが10分未満であるアルバムは、シングルと識別されます。「- Single」は、タイトルの最後に表記します。「- Single」がタイトルに追加されていない場合は、自動で追加されます。

3.4. EP 次の条件を満たすアルバムは「EP」と識別されます。
・曲数が1~3曲で、少なくとも1曲が10分以上かつ合計演奏時間が30分以下
・曲数が4~6曲で、合計演奏時間が30分以下
「- EP」は、タイトルの最後に表記します。「- EP」がタイトルに追加されていない場合は、自動で追加されます。
(引用:Apple Music スタイルガイド)

Spotifyのガイドラインは公にはなっていませんが、楽曲を配信でリリースする際に必然的にカテゴリーを選ぶ必要があり、そこでレーベルスタッフやアーティストもEPという区分をより意識するようになってきたのではないでしょうか。

この仮説を音楽プロモーター / マーケターの松島功さんにぶつけてみたところ、「その通りだと思います。業界標準的にはAppleの影響が大きく、レーベルやディストリビューション会社にはSpotifyからもメタデータスタイルガイドラインが提供されており、そのルールに則って納品しています。なので曖昧だった業界慣習に影響を及ぼしていることは間違いありません。ただしそのルールもアーティスト側の希望で変更されているケースが散見されるため、結果的には一概に明文化できないというのも事実です。例えばエイフェックス・ツインの『Cheetah EP』という作品は7曲入りで33分あります」とのことでした。

また、とあるディストリビューションサービスのスタッフの方は、EPが増えた背景について「シングル、アルバムといっただけのフォーマットに縛られず、自分のペースでリリースできるからこそ(特にインディペンデントの場合)、Remixはもちろん、インスト / Remaster / Demo ver. / Delux ver. / Live ver. / Acoustic ver.、中には楽器ごとのステムver.やサビver.、Short ver.まで、自分の活動ペース、戦略に合わせてリリースする曲のフォーマットもより柔軟になってきていると感じます。あと、やはり音楽ストリーミングの場合、カタログは基本多いほうが収益につながりやすいという部分もあると思います」と教えてくれました。

もちろん、EPという呼称はストリーミングサービスサービスが主流となる前のCD全盛期にも使われており、例えば1991年にCOALTAR OF THE DEEPERSの「White E.P.」、1993年にCorneliusの「Holidays In The Sun E.P.」、1994年にサニーデイ・サービスの「INTERSTELLAR OVERDRIVE EP」、1997年にNONA REEVESの「GOLF.EP」といった作品がCDでリリースされています。

続いては、EPの本来の意味について、東洋化成株式会社のカッティングエンジニア・西谷俊介氏へ行ったインタビューをお届けします。

東洋化成 西谷俊介氏インタビュー

──さっそくですが、EPの定義について教えていただけますでしょうか?

インターネットで調べると「シングル以上アルバム未満」という定義になっていることが多いですけれども、そもそもEPという言葉は「Extended Playing」の略になります。「Extended」は「拡張する」という意味ですね。レコードにはおおまかにSP盤(Standard Playing)、LP盤(Long Playing)、そしてEP盤(Extended Playing)という3種類があります。まず最初、1920年前後に登場したのがSP盤で、大きさがだいたい25cm(10inch)から、大きいもので35cm(14inch)。回転数が78回転と速いので、片面で4、5分くらいしか収録できません。それから1950年代初頭に塩化ビニールでできたLP盤が登場します。SP盤は素材や回転数、針の問題などがあり、針も盤も消耗するのが早かったのですが、それが塩化ビニールに変わったことで、長時間再生しても溝が摩耗するのを軽減することができるようになりました。そしてLPの回転数は1分間に33 1/3回転。SP盤の78回転と比べると半分以下のスピードになりました。回転数を落とすことで限られたスペースに溝を多く刻むことができ、収録時間を長くしたのがLPなんですね。

──なるほど。

ただLPにはネックがありまして。レコードは回転数が一定なので外側と内側で音を保存できるスペースが変わってくるんです。収録できるスペースが、外側は広く、内側は狭くなります。33回転だと外側と内側の音質が顕著に変わってしまうんですね。内周に行けば行くほど高域の周波数帯がどんどん減り、LPの内側の高域は10kHzでだいたい-2、3dBほど外側に比べて減衰します。この性質を改善するために生まれたのが17cm(7inch)のEP盤になります。33回転でEP盤と呼ばれるものもありますが、基本的には回転数を45回転にすることで、線速度(※1)を上げて保存スペースを拡張する。Extended Playingを直訳すると「拡張されたプレイ」になりますが、どこを拡張するかと言うと33回転のLPの弱点である内周の部分になります。その拡張した部分に、より詳細な情報を刻み込むことができるのです。

※1. うずまき状のレコードの溝を直線に見立てたときに針が進む速度

──Extendedは「SP盤の収録時間を“拡張する”」ことだと思っていたんですが、そうではなくてLPの弱点である内周部の保存スペースを拡張するという意味だったんですね。

そうです。具体的に言いますと、LPの内周部の場合、1秒間に針は約15cm分進みます。一方EPは24cmほどなので、約10cm分拡張できていることになります。17cm 45回転のEP盤ですと収録時間はだいたい4分半から5分くらいで、短い曲であれば2曲入れることも可能です。ただ1曲収録のものがメインだったと思いますので、そういうドーナツ盤のことをシングル盤と呼ぶことが多かったと思います。

──17cm 45回転のレコードのことをEP盤と言い、その中でも1曲しか収録されていないものをシングル盤と呼んだということですね。ドーナツ盤というのは?

センターホールが通常よりも大きい17cm EP盤のことです。チェンジャー方式のジュークボックスにEPを入れるときに、センターホールが小さいとスピンドルにうまくハマらないんですね。そこでセンターホールを大きくしてチェンジャーで交換しやすいものが登場しまして、そういったレコードをドーナツ盤と呼ぶようになりました。ちなみにEP盤に関してはLPサイズの30cm(12inch)のモノもありますが、これは収録時間を伸ばすためではなく、限りある溝にできるだけ音を入れて大きく再生させるための目的で生まれた盤でして、特にクラブのような1曲単位で大音量で音楽をかけることに対しての盤として1960年代に入ってから出てきました。それまでは基本的にはシングルと言いますと17cmのEP盤になりますね。それが1980年代に入ってCDに変わっていきまして、昔は8cmのシングルCDがありましたよね。

──短冊型のCDですね。

あれは12cm CDに比べて収録時間が短くなりますので、17cmのシングル盤のA面とB面のような感じでだいたいメインの曲とカップリング曲、そしてカラオケが入った形だったと思います。12cm CDですと約74分は収録できますので、1曲しか入れないということは少なかったですよね。収録時間が長くなるので、だいたいはLPをそのまま12cm CDに移行する流れだったと思うんですけど、中には12cm CDで収録曲が4、5曲のものもあり、そういうときにEPと使われたのだと思います。CDでは回転数を速めて溝幅を拡張する“Extended”の意味がなくなってしまったので、そのタイミングで定義があいまいになったのではないかと思いますね。

──12cm CDで複数曲入っている作品はミニアルバム、もしくはマキシシングルとも呼ばれていますよね。

そうですね。シングル以上アルバム未満ということで、そういう言い方にもなっているのかなと思います。

──昔からEPという言葉はあったと思うんですが、ここ最近よりいっそう使われるようになった印象があります。Apple Musicが「シングルは1~3曲で各曲が10分未満。EPは1~3曲で少なくとも1曲が10分以上かつ合計30分以下、もしくは4~6曲で合計30分以下」と定義していて、そのあたりの影響もあるのかなと思いました。

デジタル作品でのEPの使われ方はちょっとわからないのですが、そうやってカテゴライズされることで今の方たちはそれが通常だと認識されるのでしょうね。

──西谷さんの個人的な感覚として、レコード以外のものに対してEPという言葉が使われることに対して違和感はありませんか?

いえ、私自身もCDを通してEPという言葉を知って、あとから「もともとはこういう意味だったんだ」とわかったので、納得感のほうが大きかったですね。本来の意味とは違う使われ方ってほかにもあって、ダンスミュージックなどで「グルーヴ感がある」と言いますけれど、グルーヴというのはもともとはレコードの溝のことを言うんですよ。

──へえ。それがどうしてサウンドのノリを表すニュアンスになったんでしょう?

レコードの溝は波模様にカットされていて、その溝をレコード針でトレースすることで再生されます。おそらくですけど、そのうねっている溝に針がきちんとハマって再生されたときに、「このレコードの溝いいね」と言っているところから「グルーヴ感のある音楽」という使われ方をするようになっていったのかなと思いますね。

──本来の言葉と違う使い方として、僕もインタビュー取材をするときについ「テレコを“回します”」と言ってしまうことがあります。ICレコーダーやスマートフォンのボイスメモで録音しますが、カセットテープ時代の名残で。

確かに録音系もそういった言葉は多く残っている気がしますね。「カッティングエッジ」という言葉も私はそうだと思っていまして。

──「最先端」の意味で使われる言葉ですよね。

カッティングしたレコードの最先端は溝の部分になります。一番新しく掘られた溝に入っている音楽が「カッティングエッジな音楽」というふうに新しい音楽として売り出されたのだと思いますね。そうやって言葉の使われ方は時代とともに変化していくのかなと思います。

最後に

冒頭のアンケート結果でも示されたように、現在CDや配信で使われている「EP」は曖昧なニュアンスが含まれます。しかしEPという言葉の本来の意味を踏まえても、「シングル以上アルバム未満」という認識で間違いはありません。それはつまり、8cm CDよりも収録曲数が増えた「マキシシングル」と同義と捉えていいでしょう。1990年代後半に登場し、2000年代に盛況を呈した「マキシシングル」ですが、2010年代に入って8cm CDで新曲が発売されることが激減し、さらにはCDを必要としないストリーミング時代に突入したことで今ではほとんど耳にすることがなくなりました。

一方「EP」と「ミニアルバム」の違いですが、あるレーベルスタッフの方が「EPのほうがカッコよくて、ミニアルバムだと古臭い感じがする」と言っていたのが印象的でした。若い世代にとっては、自分が生まれる前に使われていた「EP」という言葉のほうが一周回って新鮮に映るようです。CD全盛時代には「マキシシングル」と「ミニアルバム」は曲数やコンセプトの有無、パッケージデザインなどの点である程度棲み分けができていたと思いますが、現在では「ミニアルバム」も「EP」に置き換えられるケースが増えてきました。もちろん「ミニアルバム」が使われることも依然としてあり、業界関係者の間でもそれぞれ認識が異なるというのが実情のようです。

ちなみに本日は「RECORD STORE DAY JAPAN 2022」の開催日。その名の通り、レコードストアの発する文化を祝い、フィジカルメディアを手にする喜びや音楽を手にする楽しさを共有する祭典です(参照:レコードの祭典「RSD JAPAN」第1弾にDJ OZMA、KAN、ニューエスト、勝新太郎、パ音など82タイトル)。西谷さんはレコードの魅力について「針と溝の摩擦によって生み出される音を体感するのがレコードの楽しみです。その喜びは年齢に関係なく皆さん感じ取れるものだと思います」と語っています。ぜひこの機会にレコードも手に取ってみてはいかがでしょうか。