TRICERATOPSのニューアルバム『Unite/Divide』に見る、洋楽ポップスの迫力を踏まえた現在のロックンロールとは？！

きっかけは…ミスチルの桜井和寿さん！

――『Unite/Divide』は間違いなく、TRICERATOPSが停滞せずに挑戦し続けていることを感じるアルバムですよね。今までのTRICERATOPSにはなかった要素もふんだんに盛り込まれている。

その感じがワクワクするよね。むしろ、期待してた感じと違う！　とさえ言われたいぐらい、『変化する』ってことが俺は好きみたい。しかも、この間出した俺のソロアルバムとも全然違う感じになってるでしょ？
同じ人間が詞曲を作ってるのに、どこまで短期間で変化していけるか？っていうのは、やってる本人もちょっと面白いんだよね。もともと振り幅のあるアーティストになりたいっていう憧れがあるけど、今回はそれが自然に出来たかもしれない。

――そもそも2022年はデビュー25周年目の節目の年。そのタイミングでもう一度TRICERATOPSとして新たなアルバムを出そう、と思えたのは？

2020年末にトリビュートアルバム『TRIBUTE TO TRICERATOPS』を出したでしょ？　あれに参加してくれたミスチルの桜井（和寿）さんが、トリビュートには以前俺ら3人と一緒に結成したユニット、Quattro Formaggi（クアトロ フォルマッジ）で参加したいって言ってくれたの。ちょうど俺もソロ活動中の時期だったから、桜井さんのスタジオでメンバー3人が久々に演奏したんだよね。
まずは、桜井さんが作ってくれたデモ音源をもとにリハーサルをしたんだけど、3人で演奏するのがちょっと変な感じでさ（苦笑）。その様子を桜井さんがブースの向こうから動画で撮ってくれてたよ（笑）

――なんと！　桜井さんのおかげだったとは。

厳密にいうと、実はQuattro Formaggiのレコーディング前に3人で久々に会ってたんだよね。そしたらみんな何かぎこちなくてさ。佳史はいきなり、売れてる某バンドを挙げて『俺は最近彼らが好きだから』とか言い出すし。それどういう意味？みたいな（笑）でもそうやって何度か3人で会って、っていうか飲みに行ってコミュニケーションのウォーミングアップをしたり、その後やった復活ライブ（『THREE HORNS IS BACK 2020』）が想像以上に良かったのもあって、どんどんいい感じになっていったというか。だから精神的にもTRICERATOPSのアルバムを作るための準備が整った、ということなんだろうね。

――万全の状態で今回のアルバム『Unite/Divide』の準備を始めることが出来た、と。

そうそう。最初にふたりに渡したデモが、これで曲のイメージ伝わるかな？っていうぐらいシンプルな弾き語りの音源で。ドラムもベースも、俺の頭の中にアレンジのイメージはあるんだけど、デモ音源にそれを打ち込んでしまうと、ふたりはレコーディングでそれをなぞる形になっちゃうでしょ？
そうじゃなくて、今回はふたりにもアルバム作りにずっと長く関わって欲しかったから、3曲目「CLUB ZOO」みたいなビートの曲でさえ打ち込みをしないで、アコギでドゥッドゥッドゥドゥドゥッって弾いてさ（笑）。俺がイメージしてるものよりも、“うわ！そっちの方がいいじゃん！”っていうものを、林と佳史のふたりに出して欲しかったの。
ルールがあるとすれば、「普通じゃないもの」。それだけをお願いして、佳史はそこにドラムを打ち込んで、林もそこにベースの音を入れるって感じで進めていったんだよね。

――その「普通じゃないもの」というのは、今までのTRICERATOPSっぽい感じではないもの？

それもある。あと、よくある感じもNG。俺は厳しいよ、その辺は（笑）。それでまず出来たのが、「マトリクスガール」と「THE GREAT ESCAPE」の2曲。他の曲も詞曲は全部出来てたんだよね。

――恋愛や夢や希望を歌うのもロックだけど、反体制的であることもロックンロールの原点というか。少なくとも今回のアルバムは「本来のロックンロールとは何か？！」をTRICERATOPSとして初めて追求した作品じゃないかなと思うんです。

ほんとそう思う。むしろ今回はラブソングが少ないよね。そんなとこもトライセラとしては極めて例外だし。ロックが反体制の音楽だとするなら……だとしたら、今回初めてロックアルバムを作ったなって思う。

バンドの再始動は必然だった

――そういう、シリアスなロックアルバムを作ろうと思ったのには何かきっかけが？

今のご時世、このままどうなっていくんだろうっていう思いがあって。やがてひとつになる（Unite）のか？それともいろんな考え方の人もいるわけだし、このまま分断（Devide）されていくのか？
俺自身はかなりマイノリティな方だと思うのね。ひとつになった方が幸せだと思ってたし、自分でも《WE ARE ONE♪》って歌ってきたけど、そんなこと言ってる場合じゃないぞ、いっそ分裂した方が幸せなんじゃないと思う場面が多々あって。
「いっそ分裂」って曲はそういうところから出来たんだよね。心の奥底では今もUnite出来たらと思ってるけど、かたや諦めてるっていうか。そういう揺れ動くふたつの気持ちがあったから、『Unite/Devide』っていうアルバムタイトルになりました。

――「いっそ分裂」には世界や社会に対しての憤りや思いが描かれてると思うけど、捉え方によっては、活動休止期間もあったTRICERATOPS自身のことを歌った曲にも聞こえるかもしれない。

あぁ、なるほどね。でもそういう、ダブルミーニングというか、とくに今回はいろんな風に取れるように歌詞を書いたというか。以前は引き出しの少なさゆえ、そのまんまの言葉が多かった。でもようやく100%納得のいく家が建てられたなと思う。
今回、ロック的な怒りの衝動みたいなものから出来た曲が多いアルバムが出来たわけだけど、そういう衝動とバンドサウンドって、ぴったり合うよね。
つまりバンドの復活と歌いたいテーマが見事に合致したというか、バンドの再始動は必然だったと思う。初期のラブソングを愛してくれてる人にとっては、もしかしたらちょっと難解だな……と思う部分もあるかもしれない。でも人は変わるもんだし、そういう人たちにこそ『Unite/Devide』を聴いてもらいたいんだよね。

ワインがバンバン空くんだよ

――デビュー25周年というタイミングで、いろんなことがうまく合致した、と。

今回、デモテープを作ってる時の雰囲気がすごく良くてさ。シリアスな作品を作ってる反面、バンドの状態は非常に和気あいあいとした中で作っていったんだよね。今でこそそこそこ操れるようになったけど、デモ制作を始めた頃は佳史や林の方がPC作業に慣れてたから、みんなで家に集まって、ああだこうだ言って打ち込んでもらって。
ちょうどうちの奥さんが撮影の仕事が入ってない時期で、たくさん晩ごはん作ってくれて。で、ごはんが出来たらその日の作業を終えるっていう。みんなで食べながらかなり飲んだね。俺も飲むけど、林も佳史もすごい飲むからさ、ワインがバンバン空くんだよ（笑）。ちょうど暑い時期でさ、それがすごい楽しかったんだよ。

――合宿みたいな楽しい時間を経て生まれたアルバムだったんですね。だからなのか、和田くんが子供の頃に聴いていた音楽を彷彿させるのミュートの効いたトランペットの音（「CLUB ZOO」）とか、今までのトライセラ作品になかった要素もふんだんに散りばめられてますよね。

そうだね。「キミにひとつ地球」なんかは俺のソロっぽいよね。実際この曲はベースとか入ってなくて、ほとんど俺の演奏だけだったりするし。

――かと思えば、エンターテインメントの世界へのアイロニーを歌った「ROSIE」みたいなR&Bなナンバーもあったり。この曲、安室奈美恵氏に歌って欲しかったな……。

ほんとだね、楽曲提供したかったね（笑）。「ROSIE」は、よくショービジネスの世界で魂を売る売らないの話があるでしょ？そういうことを皮肉ってる歌。

TRICERATOPSのロックンロールの定義は、「自分の“好き”とポリシーの追求と、現代的な要素」

――『Unite/Devide』はTRICERATOPS史上最高のロックンロール・アルバムと思うのですが、和田唱の考える「ロックンロール」はどういうものなのでしょうか？

俺の考えるロックは、右へならえじゃなく、自分の“好き”とポリシーを追求することに加えて、ちゃんと現代的な要素を意識してること。
この3つがブレンドされてるかを気をつけてる。とくにサブスクとかでロックとポップスを並列で聴くと如実なんだけど、ロックの曲って、ちょっとグチャッとして、迫力なく聞こえることが多くて。
それこそジャスティン・ビーバーとかの最近のポップスの曲って、好き・嫌いはともかくとして、パキーンとしててカッコいいんだよ。
いろいろ研究した結果、ポップスは全体的な音数もすごく少ないの。だけどコーラスがすごい多いんだよ。エド・シーランの最近の曲なんて、サビでいきなり音が減るのに盛り上がるの。そこは前作「スターライト スターライト」の頃から意識してるんだけど、とくに今回のアルバムはギターもベースもドラムも、それぞれの音の居場所を作ってる感じだから、サブスクで聴いてもきっと迫力あると思う。

――確かに！　古臭さはまったくない音なんですよね。

そう！　そこをいちばん大事にしたからね。最近のロックアルバムの中で、いわゆるポップス系、ダンス系の音楽と比べて聴き劣りしないなぁと思ったのが、ウィーザーの『ブラックアルバム』だったの。ロックなんだけどブライトで、迫力があるけどスッキリした音なんだよね。
このアルバムのマスタリングやってるの誰だろうって調べたら、エリック・ブーランジェって人で。それで俺たちのアルバムのマスタリングもエリックさんにやってもらったの。

――へぇっ！　やっぱりサブスクで聞かれることも意識してる？

自分もさんざんサブスクで音楽をつまみ食いしてるからね。ライブ現場で聴くとそれなりに迫力ある感じに聞こえても、PCとかスマホとか、車で聴いてもタイヤが道路に擦れる音とかでロックバンドの音は損しちゃうことがあるんだよね……。だから、そうならないための音作りはすごい考えてる。

――今年はデビュー25周年のアニバーサリーイヤー。6月からはツアー『tour 2022”Unite/Devide”』もスタートしますね。

久々のツアーだし、アルバムからの曲を中心にした今までと違うテイストのライブにしようかなと思ってる。まぁきっと「Raspberry」はやるよ（笑）。最近はバンドとかソロとか関係なく、曲を生み出したいモードというか。それを熱いうちに仕上げたいっていう思いがある。とにかく、曲は今現在も作ってるよ。

Text：早川加奈子　Photo：森好弘

＜リリース情報＞
TRICERATOPS ニューアルバム『Unite/Divide』

Now On Sale
価格：3,300円（税込）

【CD収録内容】
01. Unite/Divide
02. マトリクスガール
03. CLUB ZOO
04. 仮面の国
05. いっそ分裂
06. LOST
07. 噴水
08. キミにひとつ地球
09. ROSIE
10. リメインズ
11. THE GREAT ESCAPE
12. 仮面の国-United-

＜ツアー情報＞
TRICERATOPS tour 2022 “Unite / Divide”

6月10日(金) KT Zepp YOKOHAMA
開場18:15 / 開演19:00

6月12日(日) 新潟LOTS
開場16:30 / 開演17:00

6月18日(土) 福岡スカラエスパシオ
開場17:30 / 開演18:00

6月26日(日) 仙台Rensa
開場16:15 / 開演17:00

7月18日(月･祝) 名古屋ダイアモンドホール
開場16:15 / 開演17:00

7月24日(日) 大阪なんばHatch
開場16:15 / 開演17:00

7月29日(金) 東京Zepp DiverCity TOKYO
開場18:15 / 開演19:00

チケット料金：6,500円（ドリンク代別途必要）
購入リンク：
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2205643

プロフィール

TRICERATOPS
1997年のメジャーデビュー以来、圧倒的な演奏力とパフォーマンスに多くのアーティストからもリスペクトを集め続けている3ピースロックバンド。メンバーは、ソングライティングにも定評があり、2018年からはソロ活動も開始した和田唱（Vo/Gt）、LOVE PSYCHEDELICOのKUMIや深沼元昭らとのバンド「Uniolla」や、菅原龍平とのユニット「Northern Boys」などでも活躍し、安定したプレイにも定評のあるの林幸治（Ba）、矢沢永吉や吉井和哉、渡辺美里、高橋優、スキマスイッチなど、セッションドラマーとしても各アーティストからも大きな信頼を得ている吉田佳史（Ds）の3人。2020年にリリースされたトリビュート盤には奥田民生、UNISON SQUARE GARDEN、桜井和寿（Mr.Children）といったそうそうたるアーティストが参加し、好セールスを記録した。

TRICERATOPS オフィシャルサイト：
https://triceratops.net/