『TOUCH THE PINK MOON』というタイトルを聞いて真っ先に頭の中に浮かんだのは、実際にこの日の終演後にもかかっていたニック・ドレイクのラストアルバム『Pink Moon』(1972年)だった。うつ病の悪化によりライブはおろか人とのコミュニケーションすらままならなかった彼が、人々を飲み込む不吉な存在を桃色の月に見立て、喪失感や後悔の念に苛まれながらも音楽に対するピュアネスだけを頼りに光を求めているような作品だ。今回はw.o.d.がそんなニック・ドレイクの魂をロックバンドとして受け継ぎ、純度を突き詰めた最高のパーティーを作り上げようとしているように思えた。
THE NOVEMBERSのパフォーマンスの余韻も冷めやらぬなか、セットチェンジを終えw.o.d.が登場。ヴァニラ・ファッジによるザ・ビートルズ「Ticket To Ride」の濃厚なサイケデリックカバーが鳴り響き、サイトウタクヤ、Ken Mackay(Ba)、中島元良(Ds)の3人が登場。佇まいは今日もばっちり。
「サイトウくん、今日はスマッシング・パンプキンズのTシャツだ」とついついファッションチェックをしてしまう。からの1曲目「スコール」、そして「楽園」の流れは、筆者が昨年11月にTSUTAYA O-EASTで観た、Age Factoryを迎えた対バンツアー「スペース・インベーダーズ 5.5」のファイナル公演と同じだが、明らかに前よりもパワーアップしている。
サイトウのときにスラックで、ときに切れ味の鋭いメロディとギターのメリハリはより研ぎ澄まされ、Kenのw.o.d.たらしめる太くて震度マックスレベルのベース、元良のリズムに対する柔軟なリテラシーと衝動にまかせた野性味を併せ持つドラムのシナジーもさらに増強。観るたびに限界を塗り替えてくるからw.o.d.は止められない。続いて電撃グルービーな「Mayday」、シンプルでストレートなパンク「1994」、16ビートの効いたダンサブルな「Kill your idols, Kiss me baby」と縦横無尽に駆け抜ける。
ジャック・ホワイトやジョン・フルシアンテといったギターヒーローとサイトウが重なったように見えた「VIVID」、ジェットコースターのような揺さぶりのある展開がスリリングな「KELOID」、熱いサビのメロディが響く「みみなり」と、ファーストアルバム『webbing off duckling』(2018年)からの3連発も懐かしみは一切なく、今この瞬間を彩る新鮮味に溢れている。
ラストは最新曲「バニラ・スカイ」。どこかThe Whoを思わせる高らかなギターと、The Strokesの伝説的ファーストアルバム『Is This It』(2001年)の冒頭を飾るタイトル曲が浮かぶドラムの重なるイントロは、新しい時代の始まりを告げるかのよう。そこからエモーショナルなメロディが疾走しフロアの熱はさらに上昇する。この日の段階でリリースから10日も経っていない曲だが、すでに圧倒的なアンセム感。最高の盛り上がりとともにw.o.d.はステージをあとにした。
■THE NOVEMBERS
01. Hallelujah
02. Flower of life
03. 1000年
04. 鉄の夢
05. Hamletmachine
06. 最近あなたの暮らしはどう
07. Close To Me
08. New York
09. BAD DREAM
10. Ghost Rider(Suicide Cover)
11. 黒い虹