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【観劇レポート】劇団四季“オリジナル”のこだわり随所に光る『バケモノの子』

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劇団四季『バケモノの子』  撮影:阿部章仁

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4月30日、劇団四季の最新作『バケモノの子』が、東京・竹芝のJR東日本四季劇場[秋]で開幕した。製作費や公演期間など様々な点で、劇団史上最大規模のオリジナル作品となる。

原作は、15年公開の細田守監督による同名アニメーション映画で、脚本・歌詞を高橋知伽江、演出は青木豪が手がけている。

まず気づいたのは、劇団四季は決してアニメ映画の忠実な再現を目指したのではないということだ。『美女と野獣』『ライオンキング』など、ディズニーミュージカルの上演で培ったノウハウを生かしながらも、四季オリジナルの作品であることが随所に窺える。

アニメと同じオーヴァーチュア「祝祭」が流れ、幕が開くと、そこはバケモノたちが暮らす渋天街。この渋谷の街のすぐ裏側にある異界に、母親を亡くした9歳の少年蓮が迷い込む。折しも渋天街では、10万のバケモノを束ねる宗師(増山美保)が、9年後、100年に一度巡ってくる機会に神へ転生することを宣言し、跡目候補には、多くの弟子たちに慕われる猪王山(芝清道)と、乱暴者で弟子が居つかない熊徹(伊藤潤一郎)の名が挙がっていた。両者の対決では、“ビーストモード”と呼ばれる3人でパペットを操る仕掛けが用いられ、身体を大きく見せるのも面白い。

宗師から弟子を取るように言われた熊徹は、蓮を九太と呼び、弟子にする。「修行」のナンバーでは、熊徹の仲間の百秋坊(味方隆司)や多々良(韓盛治)に加え、近所の世話好きの女性たちや、街の八百屋や肉屋、魚屋などが材料を持ち寄り、蓮に洗濯や掃除、料理のし方を教えていくが、アニメには街の人々は出て来ない。蓮が渋天街に受け入れられていく様子を歌とダンスで見せる、ミュージカルならではのシーンだ。

もうひとりの“バケモノの子”

こうして熊徹をはじめ、周囲に支えられて成長していく蓮(大鹿礼生)に対し、高橋の脚本は、自分の出自に疑問を持ち、孤独を深めていく猪王山の長男一郎彦(笠松哲朗)を、もうひとりの“バケモノの子”として大きく膨らませることで、父と子の絆という作品のテーマをより鮮明にした。これには二重盆を使ってふたつの空間を同時に見せる演出も生きている。

熊徹と稽古を続けるうち、蓮は見違えるほど逞しくなり、熊徹も、独りよがりだった戦い方が洗練され、“父親”の自覚さえ生まれてくる。これは“父と子”ふたりの成長物語でもあるのだ。

2幕冒頭、17歳になった蓮が戻った渋谷の街は、2018年のハロウィンの夜。このシーンもアニメにはなく、人間がバケモノに仮装して騒ぐ横を、バケモノの世界から来た蓮が戸惑いながら歩く様子は、皮肉な取り合わせに映る。蓮が人間界との境を通る際に使われる、松澤延拓による映像が効果的だ。

蓮は楓(柴本優澄美)という女子高生と知り合い、音信不通だった実父とも再会。熊徹との“親子関係”にも変化が見える中、跡目を決める試合の日がやって来る。物語もクライマックスを迎え、意外な展開で新たに起こった壮絶な戦いに、蓮や楓も巻き込まれていく。このシーンは、トビー・オリエのデザインによるパペットと、映像を駆使して表現され、栗原直樹が付けた鮮やかな擬闘も観応えがある。最後に熊徹や蓮が歌う、富貴晴美作曲のミュージカルナンバー「胸の中の剣」と、「バケモノの子」が感動的だ。

取材・文:原田順子

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