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「アニメに興味がない人にも観てもらいたい」『ハケンアニメ!』監督が作品にこめた想い

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『ハケンアニメ!』

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直木賞、本屋大賞作家・辻村深月の人気小説を映画化した『ハケンアニメ!』が5月20日(金)から公開になる。本作は、アニメーションの世界の“ハケン=覇権”をとるべく作り手たちが奮闘する姿を描いた作品だが、単なる“お仕事もの・業界もの”ではなく、そこで苦闘する人たちの想いが周囲の人々や視聴者に伝わっていく様も描いている。

監督を務めた吉野耕平はCMやミュージックビデオの世界でも活躍し、『水曜日が消えた』で長編デビューを果たした人物で、舞台になったアニメーションの世界を徹底的にリサーチし、愛情をもって描きつつも「アニメーションに興味がない人にも観てもらいたいです」と語る。

日々、次々と放送されるアニメーション。しかし、そこで人気を得る作品はほんのひとり握りしかない。この世界の“ハケン=覇権” をとるアニメーションはどの作品なのか? 原作小説はアニメーション制作の現場で活動する人々の姿を多角的に描いており、吉野監督は映画化が決まる前から「自分で映画化してみたい」と思っていたようだ。

「頭の中で映像化しながら小説を読むことが多いんですけど、この小説も読みながら“どうすれば映画化できるかな?”と思いながら読んでいました。読んでいるとアニメーションの制作現場に自分も足を踏み入れている感じがあって、ビジュアル喚起力がすごくありました。それに同じ年齢ぐらいの、他の仕事をしていてもおかしくない人たちが仕事としてアニメーションに真剣に向き合っている。その姿がすごくリアルに感じましたし、描写も展開も“地に足のついている”感じが魅力だと思ったんです」

やがて願いが叶い、吉野監督は本作の映画化に参加。原作の様々な要素を丁寧に絞り込んで、脚本家の政池洋佑と脚本をつくりあげていった。

「僕が参加した段階の脚本からすでに瞳監督と王子監督の対決が脚本の中心にはなっていたんですけど、その段階ではまだ瞳監督の気持ちがしっかりと描ききれていないと思ったんです。だから王子監督と瞳監督の成長をしっかりと描くことで、他のキャラクターがたくさん出てきても最後までブレずに映画にできるだろうと思いました」

公務員から大手アニメーション会社に転職した斎藤瞳(吉岡里帆)は、新作アニメーション『サウンドバック 奏の石』でついに監督デビューを果たすことになったが、監督としての経験もスキルも少ない瞳のやる気と熱い想いは空回り。作品を売るためには手段を選ばないプロデューサー行城理(柄本佑)とは衝突ばかりで、チームの足並みは乱れていく。一方、瞳がアニメーションの世界を志すきっかけになった天才アニメーション監督の王子千晴(中村倫也)もプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)のバックアップを受けて8年ぶりの新作『運命戦線リデルライト』の制作にあたっていた。

瞳の手がける『サウンドバック』と王子が手がける『リデルライト』は同じ曜日の同じ時間に放送。どちらの作品が視聴者の支持を得るのか? それぞれの作品が問題を抱えながら制作を進め、ついに初回放送がスタートする。

本作ではアニメーションの制作過程が丁寧に描かれ、そこで活動する人々の日常や悩み、迷いが描き出されるが、監督は観客が自分の目でアニメ制作の世界を覗き込んでいるような語り口を選んだ。

「脚本の段階で頭にあったのは『千と千尋の神隠し』です。あの映画は不思議な湯屋の世界を、観客は千尋の目線で一緒に旅していく。結果的にその全貌はわからないけど、最後のゴールまではたどり着くことができる。だからこの映画でも観客が突然 “アニメづくりの世界”に放り込まれて、瞳監督と一緒に旅していくイメージがありました。だから撮影の段階でも、瞳監督の見ているものを描こうとしましたし、彼女が話す場面では、そこにいる全員が彼女を見ている場面を入れるようにして、観客に瞳監督の視点を味わってほしい、ということを意識していました。

それと前から『マネーボール』が好きだったんですよ。あの映画もブラッド・ピット演じる主人公が周囲に理解されない中で、根気よく野球チームを改革していき、そこに熾烈なトップ争いの話が入ってくる。チームリーダーの目から見ると野球はこう見える、ってことを感じられる。視点や切り取り方の面白さがあるんです」

本作は物語を語る視点=瞳監督を明確にして、瞳監督と王子監督の対決と成長を映画の背骨にすることで映画としての強度を上げ、ブレのない状態で両監督を取り囲む人たちの魅力、映画ならではの日常描写の面白さ、文字や吹き出しが画面内を動きまくるモーショングラフィックを盛り込んでいった。

「劇中の人物については役者さんの力が大きいですよね。それに僕自身もいろんな映像の現場で仕事をしてきていますので、それぞれの現場で様々な立場のプロフェッショナルたちを見てきたんですよ。彼らはその分野で自分の人生を切り拓いてきた人たちなわけで、そこはリアルに伝えたい。だから主人公とその人の距離感、主人公の感じる“その人との関係”をカメラアングルを工夫して描いていきました」

監督が実感する“作り手が最後にできること”とは?

吉野耕平監督

さらに本作ではProductionI.Gをはじめとする日本のトップスタジオが劇中アニメを手がけ、老舗アニメ制作会社・東映アニメーションが業界監修を担当しているが、劇中アニメを実写に“挟み込む”だけでなく、その作品が物語の中で存在し、作り手や視聴者に伝わったり、影響を与えていく様子をしっかりと描いている。

「劇中のアニメを登場させる時は“広がり”を見せなければならないので、意図的に完成した映像だけではなくて、絵コンテの段階で見せておいたり、テレビ越しに見せたりすることで、“物語の世界の中の作品”という表現をしています。撮影している段階では、どんなアニメーションがあがってくるのかわからなかった部分もあり、あれこれ準備を進めていたんですけど、その心配が結果としてうまく機能したところもあったと思います。

映画の中では、そのキャラクターが美男や美女かどうかは、周囲の人のリアクションだったり、振り向いたりする様子によってわかるわけですよね? だからどんなに美形の役者さんでも“可愛くない”役ができる。『ハケンアニメ!』でも劇中アニメが登場する時には、視聴者のSNSでの反応も含め、さまざまな方法でそれを観ている人、周囲にいる人の反応とセットにして「どう受け取られているアニメなのか」を描くようにしています」

おそらく本作を観た観客は劇中に登場するアニメーションを観たくなるはずだが、それは“作品を観て反応する人”が前後にしっかりと描かれているからだ。

「僕は車にはまったく興味がないんですけど『フォードvsフェラーリ』を観ると、前半に車をつくっている人のドラマが丁寧に描かれていて、クライマックスは車が走ってる描写と、それを見守っている人たち、そこまでに積み上げていった感情が描かれていて、車に興味のない僕でも楽しめたんです。

僕はアニメが好きなんですけど、アニメに興味のない観客もいるわけで、この映画をつくる上では、アニメそのものだけでなく、それを観ている人の感情も大事に描いてます。だから、アニメーションに興味がない人にも観てもらいたいですね」

アニメーションが生み出される過程で監督もスタッフも声優もみな、それぞれに悩み、考え、完成した作品を観た視聴者は盛り上がったり、友達と感想を言い合ったり、固唾を吞んでテレビ画面に向き合ったりする。

作品には誰かの想いが込められている。作品は観る人に手渡され、伝わり、広がっていく。

「この映画を観た辻村さんは『私はこの作品で“フィクションに救われる人間”のことを描きたかったんだなぁ』と仰っていたように思います。瞳監督は最初、隣の部屋に住んでる男の子に自分がアニメ監督であることを伝えてないし、そのことを隠したいと思っているんですけど、話が進んでいく中で『絶対に面白いから観て』と言うようになる。

彼女は最初は“過去の自分”に届けたい、自分の中で完璧なものをつくりたいと思っていたけど、物語が進む中で、自分のつくったものを現実に“届けたい相手”を見つけるんです。

そういうことって映画だけじゃなくて、音楽や小説でも同じだと思うんですよね。それに実際に作品をつくっている側の実感で言うと、自分たち作り手が最後にできることは“いま、誰かが観てるといいな”と思うことぐらいなんですよ(笑)。自分がつくったものが誰かに届くことを願うしかないんです」

アニメーション界の“ハケン”を目指す人たちの想いと、そこで生まれた作品は広がり、多くの人たちに伝わっていく。何かを変えていく。そのダイナミックなドラマが本作の最大の魅力だ。公開後、本作の作り手たちの想いは観客に伝わり、各地に広がっていくことになるだろう。

『ハケンアニメ!』
5月20日(金)全国ロードショー
(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

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