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五感を揺さぶる朗読劇と銘打つ公演に、中村勘九郎が8歳の子どもになって登場。どんな驚きが待っているか!

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中村勘九郎  撮影:花井智子

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脚本は宝塚歌劇団で数多くの名作を生み出してきた上田久美子の書き下ろし。演出は『麒麟がくる』『精霊の守り人』を手がけた一色隆司。力強いタッグのもと、演劇界を牽引する俳優たちが顔を揃え、スペクタクルリーディング『バイオーム』が上演される。その真ん中に立つのは歌舞伎役者・中村勘九郎だ。本人も「完成形が想像できない」と話す未知なる朗読劇で、8歳の男の子と女の子の二役を演じる。さて、その意気込みは。

自分もその世界に入っている感覚になる脚本

──朗読劇『バイオーム』へのオファーがあったとき、まずどんなところに興味をお持ちになりましたか。

お話をいただいたときに上田久美子さんがお書きになった脚本を読ませていただきました。すると、読み進めていくうちに、「これは本当に朗読劇なの?」という思いになったんです(笑)。それくらい、スケールの大きい物語が描かれていて。どう表現していくのか、完成形がどうなるのか、まったく想像できない。そこが面白いなと思いましたね。 ​

──物語の舞台はある政治家一家の庭で、愛憎渦巻く人間たちとそれを見ている植物たちが描かれていきます。製作発表会見では演出の一色隆司さんがまさしく、自然や大地、地球を感じるようなスケール感があり、自分もその世界に入っているような気持ちになる脚本だとおっしゃっていました。そしてそこから、今回の公演を“スペクタクルリーディング”と名付けられたと。

スペクタクルってどういうことなんだと思いますけど(笑)、一色さんにお伺いすると、例えば、舞台セットに大きなストリングカーテンを使って、そこに映像を映したり、また、舞台機構も使ったりもするそうなので。それをお聞きするだけでも朗読劇の枠に収まりそうにないなと本当に楽しみになりました。 ​

「植物同士の会話がとても楽しいんです」

──今回は、ほとんどの方が人間と植物を一人二役で演じられる中、勘九郎さんが演じられるのは、政治家一家に生まれた8歳の男の子ルイと、家政婦の孫の8歳の女の子ケイ。どちらも人間ですね。

僕も人間と植物がやりたかったです(笑)。脚本を読んでいても、植物同士の会話がとても楽しいんです。中でも、麻実れいさんが家政婦役と二役で演じられるクロマツが、威厳があって堂々としていてカッコいいんですね。みんなに栄養を与える場面もあって、そこがコミカルであり、どこか生命というものの原点を感じさせる。一方僕が演じるのは8歳の男の子と女の子です。今40歳の自分が演じるとどうなるんだろうという不安しかありません(笑)。 ​

──身近にいらっしゃる長男の勘太郎さんと次男の長三郎さんを観察して、参考にすることもありそうでしょうか。

次男が8歳ですが、やはり、子どもたちから出てくる言動や発見というものには、感動させられますね。僕たちも同じ道を通って今に至っているんですけれども、いつの間にか欲や感情に流されて、純な心というものが失われてしまっている。とくに、このルイとケイは、欲の塊の大人たちの中で、本当に純な存在としているので。子どもたちをよく研究して、遠い昔に置き忘れてしまった純粋な心を本番までに取り戻して(笑)、演じていきたいなと思います。 ​

──一人の方が演じる人間と植物は、対照的なキャラクターである場合が多いようですが、勘九郎さんが演じられるルイとケイの人物像はいかがですか。

ルイのほうは、大きなお屋敷の中で一人息子として育てられるんですけども、一族が崩壊し暴走している中で、唯一信じられるというか、拠りどころとしているのが、庭の木々や、そこにやってくるフクロウなんですね。そして、植物やフクロウとも対話することができて、そこに安らぎを求めている。片やケイは、ルイが爆発しそうになるところを、いつも冷静な目で止めてくれる存在です。だから対照的と言えると思うんですけれども、ただ、同じものも持っているかもしれないという感じではありますね。 ​

──ということは、ルイとケイが会話するシーンも多そうですね。

そうなんです。二役が会話するのは僕だけなので、これは大変だなと思っています。しかも、8歳くらいって、男の子も女の子も声は変わらないじゃないですか。どうやったら違いを表現し、二人でしゃべっているということを見せられるのか。落語のように左右を向いてしゃべるのも違うような気がしていて、たぶんそれでは収まらないものが求められるのではないかなと思っています。 ​

身体を使う表現も・・・?「観てのお楽しみです」

──政治家一族に生まれたルイと、代々続く歌舞伎役者の家にお生まれになった勘九郎さん。共通項も見出せそうですか。

どうでしょう。ルイは、独特な自分の世界を常に持っているので、家による縛りや責任感を感じることなく、無邪気であったりはするんですよね。だから、大人になったら何になるのかと聞かれても、さらりと「大臣になるんじゃないの?」と言ったりする。でも、純粋であるがゆえに、とくにお母さん(花總まり)に愛されていないというのは、すごく感じているんじゃないかとは思います。家政婦のふきさんの言うことは聞くし、お父さん(成河)のことはすごく好きですけれども、おじいさん(野添義弘)は威圧的で逃げ場がないですし。だから、その辛さや悲しみみたいなものも、しっかり出していかなければならないと思っています。そういう濃密な人間ドラマに、お客様もハッとさせられる部分があるかもしれませんね。 ​

スペクタクルリーディング『バイオーム』出演者 左から)中村勘九郎、花總まり、古川雄大、野添義弘、安藤聖、成河、麻実れい

──朗読劇というもの自体には、どんな印象をお持ちですか。

一度、2020年にWOWOWの番組『劇場の灯を消すな!Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭』の中で、大竹しのぶさんと、井上ひさし先生の「十二人の手紙」の中から『泥と雪』を朗読させていただいたことがありました。それは手紙のやりとりの朗読だったので、会話の部分はなかったんですけれども。でも、稽古も場当たりの1回だけだったので、本番では本当にその場で出た感情で読んでいって、大竹さんが発するものに応えていく楽しさがありました。ただ、今回は、スペクタクルリーディングという摩訶不思議な舞台になりそうなのでどうなるのか。きっと本を離す瞬間も生まれてくると思いますし。稽古をして、一色さんの演出、キャストの皆さんとの話し合いの中で、面白いものになっていけばいいなと思います。 ​

──朗読劇といえば声の力が重要になるのではないかと思いますが、声の表現については、どんなことを心がけておられますか。

声って、与えられた役柄の肉体から出てくるものなので、ちゃんとその肉体を通した声になればいいなということをいつも意識しています。だから、まずは8歳の肉体として存在できたらとは思いますね。とはいえ、あえて子どもっぽい声にしなくてもいいというようなことはちょっと伺っていますし。引き出しや可能性をたくさん持って稽古に臨みたいと思います。それに今回は、身体を使う表現もあるのではないか、いや、このメンバーが揃っていて使わないのはもったいないでしょうとも思うので(笑)。そこは観てのお楽しみというか。朗読劇だと思って観に行ったら、なんかすごいものだった! というふうになればいいなと思いますね。 ​

今までで一番、どうなるか想像できない作品

──ちなみに、この物語の中の庭にはいろいろな植物があって和洋折衷になっているそうですが、勘九郎さんがご自身で庭を作るとしたら、どんな庭にしたいですか。

僕は純和風が好きで、形から入るタイプなので、どこかのお寺の枯山水の庭を真似て作って、それ以上凝ったりすることなく、満足すると思います(笑)。僕自身はルイと真逆で、そんなに自然と一体になるのを喜べる人間じゃないんですよね。だからむしろ、一族の大人を演じるほうが向いているんじゃないかと思っているんです(笑)。 ​

──でも、全然違う人物、それも子どもを演じられたり植物を演じたりされることが、今回の醍醐味ですし。本当に楽しみです。

そういう意味では、これまで歌舞伎以外の舞台にもいろいろ出演させていただきましたが、今までで一番、どうなるか想像できない作品です。お客様にとってもきっと観たことのないものになると思うので、わかりやすいもの、見やすいものが良しとされている今の世の中に、パンチを与えるような作品になるんじゃないかと、僕自身は思っています。暗いニュースが多い今を感じながら上田さんが書かれた脚本には、感じ取ってもらえるもの、持ち帰ってもらえるものもたくさんあるでしょうし。朗読劇が好きでも苦手でも関係なく楽しんでいただけると思いますし。楽しんでもらえるものにしたいと思います。 ​

取材・文:大内弓子
撮影:花井智子

<公演情報>
スペクタクルリーディング『バイオーム』

2022年6月8日(水)~2022年6月12日(日)
会場:東京・東京建物 Brillia HALL

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