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ポジティブに再始動しよう!コンドルズ×彩の国さいたま芸術劇場『Starting Over』近藤良平×スズキ拓朗×黒須育海インタビュー

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左から)スズキ拓朗、黒須育海、近藤良平   (c)HARU

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埼玉・彩の国さいたま芸術劇場(以下:埼玉)の芸術監督に就任した近藤良平が構成・振付を手がける、コンドルズ埼玉公演2022新作『Starting Over』。2006年以降、ほぼ毎年埼玉で創作・発表してきた彼らにとって15作目の舞台作品となる。

ジョン・レノンのラストシングル「(Just Like) Starting Over」から想を受けて冠したタイトルには、「やり直そう、新しくはじめよう」という前向きなメッセージが込められている。本作の構想をはじめ、昨年の振り返りや“コンドルズと音楽”について、近藤と若手メンバーのスズキ拓朗・黒須育海の3人に語ってもらった。

「鳥のような自由」を真っ白な劇世界で体現した、2年越しの埼玉新作

──昨年6月に上演された『Free as a Bird』は、コンドルズにとって2年ぶりの埼玉新作でした。「埼玉アーツシアター通信」(VOL.97 2022.2-3)に掲載されているインタビューで、プロデューサーの勝山康晴さんが「帰りの車でみんなウルっとした」とおっしゃっていましたが、どんな想いが胸に去来していたのでしょうか?

近藤 去年の6月って今よりコロナ禍どっぷりだったんです。2020年の埼玉新作『Golden Slumbers』が中止になって、「今年は無事にやれるかな」と不安に思いながら稽古していた気がするな。でも、ちゃんと2日間の公演期間を終えることができました。自分たちのメッセージを前面に打ち出して、まっすぐステージに立てたことに達成感があったんですよね。(前後左右を空ける)千鳥格子状の客席ではなくて、2年越しにほぼ満席の客席だったことも大きい。「フルだよ!」ってたぶん拓朗あたりが最初に泣き始めたんじゃない?

スズキ 僕、良平さんが芸術監督になった時も泣いて……泣きキャラみたいじゃないですか(笑)。でも、そうだったかも。バラシの時もみんなボーッとしていましたしね。

黒須 放心状態で、みんな頬に涙が伝ってる……みたいな。

スズキ リノ(リノリウム:演技面のステージ床に敷く長尺のマット)を巻くのも久しぶりで、いちいち感激しちゃってました。

コンドルズ 埼玉公演チラシより、左から)中止となった2020年の公演『Golden Slumbers』、2年ぶりに彩の国さいたま芸術劇場の舞台に立った2021年の公演『Free as a Bird』

黒須 (公演中止になった2020年の『Golden Slumbers』チラシを手にして)これ、初めて見ました! Webに載ったのは知っているけど、手に取れる紙媒体で見るのは初めてですね。埼玉の劇場外壁に大型ポスターが出ている様子も見てたから、2020年の公演中止は寂しかったです。だから去年、『Free as a Bird』ができたのは余計に嬉しくて!

近藤 上演できなかった『Golden Slumbers』の構想も残しておこう、って話があってね。「いつかやれたら」と思っています。

──『Free as a Bird』では、真っ白な舞台美術の中に白い学ランやカラフルなTシャツをまとったコンドルズメンバーの姿が際立ちました。タイトルに謳われている“自由”について観客の想像力をかき立てるステージだと感じたのですが、どういった想いがあってあの白い劇世界に行き着いたのでしょうか?

コンドルズ埼玉公演2021『Free as a Bird』より (c)HARU
コンドルズ埼玉公演2021『Free as a Bird』より (c)HARU

近藤 メンバーと「真っ白な世界を一度つくってみたいね」「鳥のような自由ってテーマにも合うんじゃない?」って話になって。各地を回るツアー公演には舞台美術にも制約があって、セットについてじっくり考えることは少ないんです。でもコンセプチュアルな埼玉の新作公演なら、セットを含めた創作が存分にできる。それで「お金かかるかもしれないけど挑戦だ」って。

黒須 実際、お金かかりましたよね!(笑)

近藤 めちゃくちゃ真面目に「仕方ない、電柱1本減らすか」とか考えてた(笑)

スズキ 良平さん、去年あの時期にパネル系の美術にハマってませんでした?

近藤 そうそう! 僕の娘が美術系に進学して、幾何学模様を円錐や円柱みたいな立体で形づくる課題があったんです。で、持ち帰って家に置いてある娘の作品を見たら……「こういうの、舞台でもできないかな」って。あの白い劇世界、身近なところから見つかったんだよね。白は僕たちを浄化させたし。

スズキ 唐突な名言どうしました(笑)

黒須 (爆笑)

「やり直す」「新しくスタートしよう」が時代とコンドルズの空気

──今回の『Starting Over』には「やり直そう、新しくはじめよう」という想いが込められているそうですね。止まっていた何かを前向きに再始動させる楽曲はこれまでいろんなアーティストが発表していますが、なぜジョン・レノンのラストシングル「(Just Like)Starting Over」だったのでしょうか?

スズキ ジョン・レノンには我々みんな思い入れがあって。勝山さんを筆頭にビートルズも大好きだから、タイトルは彼らの楽曲から想を得て冠することが多いですよね。今回もしかり、で。

近藤 『Starting Over』というタイトルについては、4〜5年前くらいから勝山と温めていました。そこにコロナ禍がやって来て、「もとの生活をやり直す」「新しくスタートする」って英語の意味が「時代にフィットするのでは」と思って今回の埼玉新作タイトルに据えた。でもタイトルを決めたあと、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって。ジョン・レノンの考えていた“平和”に対する想いを受けると、いまは「やり直そう」ってニュアンスの方が大きくなっている気がします。

──スズキさん・黒須さんは、近藤さんや勝山さんのコンセプトを受けて、どんな想いを観客に届けたいと考えていらっしゃいますか?

黒須 いま良平さんから出た「やり直す」って言葉が、いまの空気にぴったり合うなと感じていて。コロナ禍もまだ現在進行形という中で「一歩踏み出さなきゃ」って想いもあるし、深刻なウクライナ情勢も「早く終わらないかな」と感じています。そういった時代の空気を踏まえて「日々の暮らしをやり直そう」って、すごくいいメッセージだと思いました。鬱屈した何かを抱えて劇場にいらした皆さんが、コンドルズのステージを観て「明日からがんばろう」と思ってもらえたら嬉しいです。僕自身、観客としてコンドルズを観ていた時にそういう前向きな感情になれたので。

コンドルズ埼玉公演2022新作『Starting Over』

スズキ 僕は、良平さんの芸術監督就任1年目に、この『Starting Over』を打ち出す意味は大きいと思いました。良平さんが「やり直す」というか……生まれ変わっちゃったんで!

近藤 芸術監督になったからって、僕自身の人間性や作品に対するスタンスは何も変わらないよ(笑)

スズキ というより、僕らもがんばって良平さんについていくというか、追い抜いていかないと……コンドルズが生まれ変わらない。いつも新作をつくる埼玉で、芸術監督になった良平さんと何ができるか──。僕の場合、「新しくスタートする」という文脈での『Starting Over』に使命を感じています。

ジョン・レノンと同じ舞台で「共生」します

──「埼玉アーツシアター通信」(VOL.98 2022.4-5)に掲載されている勝山さんの寄稿文には、「コンドルズが大切にしたいのは、ダンスと音楽が、対等かつ同価値で舞台空間に“共生”していること」といった内容が書かれています。これを受けて御三方は「コンドルズと音楽の“共生”」についてどのように考えていらっしゃいますか?

近藤 結成当時のコンドルズって、ロックの持っている音楽性に着目して大きな音を上げてガンガン踊っていたのね。ロックと同じように、ワールドミュージックもクラシックも扱っていて。だから勝山の大好物であるブルーハーツや僕が好きなエレカシ(エレファントカシマシの愛称)は、ベートーヴェンと同じ名盤扱いなんです。そういう音楽をかけてエネルギッシュに踊るのって、コンテンポラリーダンスの世界では当時誰もやっていなかったんだよね。名アーティストと呼ばれる人たちのつくる音楽に、正々堂々と立ち向かう──。これがコンドルズと音楽の「共生」だと思っています。

──勝山さんも、寄稿文のラストで「僭越ながら言わせてください。この6月、コンドルズはジョン・レノンと同じ舞台に立ちます」と覚悟を述べていらっしゃいました。

一同 勝山さんらしいですね(爆笑)

スズキ 多くの場合、ダンスって音楽が最初にあって、メロディやリズムに対していかに振付をはめるか。これが普通なんだけど、コンドルズや良平さんはその反対を行ってるんですよね。音楽に合わせるのではなく、僕らが興味のあること・僕らがいま持っている身体が先にあるんです。だから昔、良平さんは「お前の好きな音楽で振り付けるぞ」ってCDを持って来させた。

──コンドルズと音楽は「対等」なんですね。

スズキ まさに。音楽に追いつこうとするんじゃなくて、コンドルズと音楽が出会って何が生まれるか。これが大切で。勝山さんは、その状態が成立している様子を「共生」と呼んだのかもしれません。僕らがいきいきしていないと、音楽と一緒に生きることはできないんじゃないかな。そういう稽古場の雰囲気をいつも感じますし、コンドルズはそうやってダンスをつくっています。……だからカウントがいつも音楽とズレる(笑)

黒須 拓朗さんの言うこと、すごくわかります! 良平さんがつくる振付を、コンドルズのメンバーで踊る時に発されるエネルギーって不思議で。振付をつくったあと、いろんな楽曲で試していくんですが……どの曲でもメンバー全員がカッコよくポップに見えるのが不思議なんですよね。

コンドルズ埼玉公演2018『18TICKET』より (c)HARU

──ダンススキルやそれぞれのルーツは異なるのに、皆さんが同じようにカッコよくポップに見える瞬間、たしかにありますね!

黒須 そうなんですよ。すごい踊れる人から微妙な人まで(笑)コンドルズには多様なメンバーがいますけど、そういう個性豊かな踊り手が揃っているエネルギーが前面に出てくる。そういうステージを生み出している状態が、コンドルズと音楽の「共生」なんだと思います。だから、カウントはズレます(笑)

一同 (笑)

芸術監督になったら稽古の出席率が上がった(笑)

──去年のインタビューで「スズキさんが近藤さんの芸術監督就任を泣いて喜んだ」とお聞きしました。活動が本格化しているいま、スズキさんは近藤さんの横顔や後ろ姿をどんな想いで見つめていらっしゃいますか?

スズキ 僕、蜷川さんが埼玉の芸術監督をやっている時に師事したんですよね。そうしたら次は良平さんが……。背中を追いかけたふたりが、同じ芸術監督になるって運命感じちゃうじゃないですか。だから嬉しくて! 長塚圭史さんとの『新世界』も観に行ったし、今度やる松井周さんとの『導かれるように間違う』も拝見しようと思っています。この一年はもう、良平さんの手がけた作品はすべて目撃したい!

──近藤さんの芸術監督就任って、コンドルズにどんな良い影響をもたらしていますか?

黒須 就任して間もないので明確な反応はわからないですが……稽古の出席率が上がっています(笑)

近藤 事情があってもなくても、稽古を休む人が減ったんだよね。

スズキ ちょっとピリッとする言い方やめましょう(笑)

黒須 これまで稽古初日は少人数で迎えていたんですが、今回は10人以上揃っていて! 良平さんもアクセル踏んで、初日からいきなり創作が進みましたもんね。

──みんなの本気度がこれまでと違った?

黒須 強く意識しているわけではないと思うんです。「良平さんが芸術監督になったから気合い入れよう」ってことは決してなくて(苦笑)。でも気づかぬところで、無意識下にはあるんじゃないかな。

──2022年度ラインナップの記者会見で打ち出したテーマ「クロッシング!」の取り組みが、「ジャンル・クロス」シリーズで形になろうとしています。その一作目である『新世界』の上演を終えたいま、近藤さんは現時点でどんな手応えを得ていらっしゃいますか?

近藤 「クロッシング」というテーマを打ち出すことは簡単だけど、舞台はやっぱりナマモノですからね。自分なりに「やるべきことはできたかな」とホッとして、「次はどうしようか」って考え始めたところです。

──パフォーミングアーツの世界は「点の熱狂」と見なされがちで、ダンス好きはダンス、演劇好きは演劇しか観ないなど越境しないジレンマが現状あると思います。『新世界』でその壁が薄くなるような手応えを受けることはありましたか?

近藤 まだコロナ禍だから、お客さんと直に触れ合う機会がないんです。舞台上で完結できる取り組みしかできないのが、もどかしい。でも「これから徐々に」かな。「クロッシング」の中には地域との交流も含まれているんだけど、『新世界』を劇場のあるさいたま市中央区の区長が観に来てくださって。

──区長が舞台作品をご覧になる世界、いいですね!

スズキ 仲良いんでしたっけ?

近藤 苗字が同じ近藤なんだよ。

スズキ・黒須 まさかの(爆笑)

近藤 ワークショップにもご参加いただいて。区長が興味を持ってそういった姿勢を取ってくださると、より地域との交流が盛んになるようなきっかけが生まれるかもしれないので嬉しいです。

──区長をはじめ、あらゆるエンタメファンの越境(クロッシング)に期待しつつ、最後に近藤さんからメッセージをお願いします。

近藤 埼玉の大ホールで上演する、フルパッケージの作品としては15作目になります。けっこうな数ですよね。贅沢な稽古場の環境もあって、舞台をつくる条件としては申し分ありません。その中で明確なメッセージを打ち出せる『Starting Over』を届けることができる幸せを噛み締めながら、いま創作しています。埼玉でしかつくれない作品を楽しんでもらえたら。

取材・文=岡山朋代

<公演情報>
コンドルズ埼玉公演2022新作
『Starting Over』

2022年6月4(土) 14:00 / 19:00・5日(日) 15:00
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

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