『仙厓ワールド』展、永青文庫で開幕 猫か虎か、当ててみろ!? ゆるカワな禅画の世界をレポート
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仙厓義梵 《虎図》 江戸時代後期(19世紀) 永青文庫蔵
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すべて見る江戸時代後期の禅僧・仙厓義梵(せんがいぎぼん)や周辺の禅僧が描いた絵、いわゆる「禅画」を紹介する展覧会、『仙厓ワールド―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―』が5月21日(土)より永青文庫で開催されている。おもわず笑ってしまう、ゆるくてかわいらしい禅画が並ぶ楽しい展覧会だ。
江戸時代以降の禅僧が描いた絵画「禅画」。僧侶が描いた絵と聞くと、禅宗の始祖である達磨図や、釈迦や観音などの仏画を思い浮かべがちだが、彼らは風景画や動植物、人々など様々な題材を、独自のタッチで描き続けた。そのなかでも、仙厓と白隠はバラエティに富んだ禅画を数多く描いたことで知られ、現在も人気を博している。
この展覧会では、永青文庫が所蔵する仙厓コレクションのほか、同館の設立者である細川護立が蒐集した仙厓周辺の禅僧の作品なども公開。永青文庫における大規模な「仙厓展」は6年ぶりとなる。
展覧会は、3つのセクションで構成されている。「ようこそ仙厓ワールドへ」では、初期から晩年までの仙厓の禅画を中心に紹介する。
仙厓は寛延3年(1750)に現在の岐阜県で生まれた。11歳で得度し、修行の後のちに諸国を行脚。40歳で福岡県福岡市の聖福寺の住職となる。住職を引退した62歳ころから本格的に書画に取り組み、その作風は大人気に。88歳でなくなるまで、筆を止めなかったという。
ゆるやかに、やさしく教えを説く仙厓の世界は、現代の私たちの目から見ても自由で奔放だ。
猪を捕まえて得意顔になっている《猪頭和尚図》や、エビや蜆を取ってうれしそうな《蜆子和尚図》など、シンプルな描き方ながら、印象に残る表情を描き出している。
だれもが恐ろしく、迫力ある構図とタッチを選択する《龍虎図》も、仙厓の手にかかればゆるキャラのようなたたずまいに。龍や虎は対峙する構図で描かれることが多いが、仙厓の描いた虎や龍は「我関せず」といった雰囲気と表情だ。
この画風が人気をよび、仙厓の元には書画の依頼が殺到していたという。あまりの多忙ぶりに83歳のときには「絶筆の碑」を立て、絶筆を宣言したという。ところが、かえって人気が高まり依頼が増えてしまうこととなったそうだ。
また、仙厓の兄弟子である誠拙周樗(せいせつしゅうちょ)が描いた《一つ目小僧図》もまた、見る人を引きつける作品だ。杖をついた盲目の僧侶が一つ目小僧に向かい合っているという、さまざまな解釈が可能な構図になっている。
続く「ようこそ禅画ワールドへ」は、白隠や仙厓、誠拙周樗などの作品を動物や風景画、福神図など画題ごとに紹介する。
江戸時代より前の禅宗絵画では、禅僧たちは理想郷のような風景を山水画として描いていたが、白隠や仙厓たちは、慣れ親しんだ風景を好んで描いていた。《西都旧跡図》は、仙厓が暮らしていた福岡の近く、太宰府周辺を描いた巻物だ。
仙厓《虎図》は、自分のゆるい画風を逆手に取り「猫か虎かあててみろ」と見るものに問いかけている作品。はたして、猫なのか、虎なのか、仙厓自身にしかわからない。
細川護立が積極的に集めていた白隠による《お多福粉引歌図》には、白隠が度々描いていたお多福が登場。お多福と布袋は白隠が得意とするキャラクター。ふくよかで愛らしい表情が印象的だ。
最終章となる「細川護立と禅画」では、設立者・細川護立と禅画とのかかわりを紹介する。護立は療養生活を送っていた十代の頃に白隠の書物を読んだことがきっかけで、白隠作品のコレクションを始めたという。その後、そのコレクションは白隠から幅を広げ、さまざまな禅僧の書画にまで広がっていった。
細川護立は38歳のときに自身の白隠コレクションを公開する展覧会を催した。「白隠墨蹟」は、そのときの主要な出品作や資料をまとめた書画集で、表紙絵が結城素明、見返し絵を横山大観と平福百穂という名だたる日本画家が手掛けている。護立の白隠への情熱がこの本だけでも見て取れる。
ユーモラスでありながら、ときには教訓となる数々の禅画たち。そのゆるやかで深い世界を永青文庫でゆっくりと楽しんでみよう。
なお、会期中大幅な展示替えが予定されているので、お目当ての作品がある場合は公式HPで展示期間を確認してから出かけよう。
取材・文:浦島茂世
【開催情報】
『仙厓ワールド―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―』
2022年5月21日(土)~7月18日(月)、永青文庫にて開催
※前期:5月21日(土)~6月19日(日)、後期:6月22日(水)~7月18日(月・祝)
※前・後期で大幅な展示替あり
https://www.eiseibunko.com/
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