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ソニア・ヨンチェヴァ 世界トップの歌姫の高貴な声と豊麗な響きに酔う

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ソニア・ヨンチェヴァ ソプラノコンサート

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ようやく動きはじめた。しかも、いきなり超ド級である。

コロナ禍で海外の力ある歌手の至芸に酔う機会は激減したが、やっとチャンスが広がってきた。そして、まだ来日を果たしていなかったあの歌姫がやってくる。ブルガリア生まれのソニア・ヨンチェヴァ。「大物」「スター」と自然に言える、数少ない現役のソプラノである。

その声は心に染み入る深い抒情をたたえ、わずかに翳りを帯びている。その翳りが、よろこびの最中にも先々の悲劇を予感させるような、深い味わいにつながっている。

そんなとびきり魅力的な声で、大きなダイナミックレンジを実現できるのが、ヨンチェヴァの真骨頂だろう。ひとことで言えば歌唱のスケールが大きいのだが、さらにスケールの質が違うのだ。弱音まで完璧にコントロールを行き届かせ、いざ声を大きく広げれば圧巻の響きになる。

ヨンチェヴァは楽譜の指示にしたがい、広いレンジのなかで声を自在に行き来させ、人物の感情を適切に浮かび上がらせる。そして、その広いレンジのどこにも隙がないから、その歌は感情が豊かに表現されながら、気品が失われることがない。そのうえ超高音が余裕で、コロラトゥーラ(装飾歌唱)も得意ときているから、ますます隙がない。ウィークポイントがないので、聴き手はストレスをまったく溜めることなく至芸に酔うことができる。

たとえば、ベッリーニ《ノルマ》の「清らかな女神」。歌い出した瞬間から聴き手はその高貴な響きに、心を強く撃たれてしまうのではないだろうか。そして余裕の息と、倍音をともなった弱音の美しさ。ヨンチェヴァの歌にはギリギリの表現がない。いつも余裕がある。そこに力強いコロラトゥーラが加わると、聴いていて震えが止まらなくなるほどだ。

また、ヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》の「穏やかな夜」も、曲のもつ夜の色彩と彼女の声の翳りが絶妙に合い、そこに鮮やかなコロラトゥーラで彩りを添える。一方、同じヴェルディ《運命の力》の「神よ平和を与えたまえ」は、コロラトゥーラはない代わりに、きわめて大きな響きが求められる曲だが、細密画を描くような繊細な弱音と、劇場を揺るがすような音圧の高い豊麗な響きを同居させ、圧倒的である。

もちろん、プッチーニを歌ってもすばらしい。たとえば、《トスカ》の純粋な恋心から嫉妬、そして怒りや悲嘆、絶望までを、ヨンチェヴァほど豊かに、そして切実にメロディににじませることができるソプラノは、いまほかにはいない。

すでにMETライブビューイングでは日本でもおなじみなのだから、ヨンチェヴァが名歌手であることに異論をはさむ人はいないと思う。だが、言葉を失うほどの歌唱スケールは実演でしか伝わらない。プラシド・ドミンゴ主催「オペラリア」で優勝したのが2010年。それから12年を経て声が理想的に成熟し、脂がのったまさに聴きごろでの来日。そこに立ち合った人は「2022年にヨンチェヴァを聴いた」と、後々まで自慢できるだろう。

ソニア・ヨンチェヴァ ソプラノコンサート
指揮:ナイデン・トドロフ 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
7月2日(土) 15:00
東京文化会館
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/singer/01.html

文:香原斗志(オペラ評論家)

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2208541

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