隼太からHAYATAへ 第3回 表情を引き出すには、演出家のようなアプローチも必要
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竪山隼太が撮影した那須凜。
十代で「ライオンキング」ヤングシンバ役に抜擢、二十代を蜷川幸雄率いるさいたまネクスト・シアターで過ごし、32歳となった今年、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」のロン・ウィーズリー役を勝ち取った俳優の竪山隼太が、もう1つの夢であるカメラマン・HAYATAを目指す本企画。舞台をはじめさまざまなメディアで活躍するプロのカメラマン・平岩享が先生となり、隼太は毎回多様な課題に取り組みながら、“隼太からHAYATAへ”の道を突き進む。
3回目となる今回のテーマは「表情や動きを引き出そう」。第1・2回で、被写体とモデルという関係性にも慣れてきた朋友・那須凜を相手に、竪山は新たな表情を引き出すことができるのか。
構成 / 熊井玲 ヘアメイク / オオトウアキ
第3回の課題「表情や動きを引き出そう」
平岩「僕が考えるポートレートの本質は、その人そのものを写すということです。どんな撮影でもその日のその人にとってのベストの表情、雰囲気を撮ることがベストであると定義しています。今回はシンプルな白い背景に被写体の那須凛さんにいすに座ってもらい、バストアップでいろいろな表情をしてもらいました。カメラマンと被写体の関係性は人それぞれ。隼太くんにはまずシンプルな白い背景で喜怒哀楽を撮影してもらい、次に身振り手振り、最後に背景の色を変えて、写真がどう変わるかを知ってもらいたいと思います」
1st Trial
竪山と平岩先生は、部屋の一番広い白壁を使って照明をセットし、その前に1脚のいすをセット。準備が終わると、平岩先生は部屋の隅から竪山と那須のやりとりを見守った。竪山が「あの役の感じで!」と、那須がこれまで演じた役名を挙げると、那須はセリフを発しながら身振り手振りでさまざまな表情を見せ始める。驚いたのは、那須は自分が演じた役のセリフをほとんど覚えていたこと。那須のテンションに合わせて、竪山のテンションもどんどん上がっていった。
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竪山「被写体の人に喜怒哀楽を表現してもらう。僕が撮られる側であれば一番嫌な課題です(笑)。それを僕が引き出さなくてはいけません。ですが、凜はけっこうエンターテイナーなところがあり、最近凜が演じた『シェリーハックマンをやって!』とむちゃぶりすると、セリフをガンガンとしゃべり出します。大笑いしました。共演してから作品はけっこう観ていたので、『あのときのあいつやって!』と言うと、ノリノリでやってくれる。凜との関係値がそのまま写真に乗っかっています。と同時に、『僕も撮られるとき、これぐらい心を開かないとダメだなー』と勉強になりました。引き出したというより凜の能力に頼ってしまいました(笑)。凜が良い役者だから、まあそれはそれでいっか!!」
2nd Trial
今回はパソコン上のチェックは介さず、平岩先生が竪山の後ろに立って、竪山にエールを送ったり、茶々を入れたり、とさまざまな言葉を掛ける。平岩先生と竪山の砕けたやり取りに、笑いを抑えきれなくなった那須が吹き出すと、竪山がすかさずその表情をパシャリ! それが突破口となり、部屋の空気が変わった。さらに平岩先生がバック紙を変え、背景を変えることで同じ表情でも違って見えることを竪山に体感させた。
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竪山「背景の色紙を変えることで同じ服、メイクでも凜が別人に見えます。それだけ背景と被写体の関係値は密接なものなんだなと再確認しました。赤の背景がとても素敵ですよね。凜とは仲良しだし、彼女もポンポンいろんな顔を見せてくれる子なので、この課題は本当に楽しく撮影できました。また平岩さんの教えで、ストロボも1灯でなく、女性は2灯に。下から照明を当ててあげるとより美しく見えることは、今回の大きな収穫でした。今後いろいろな俳優さんのアーティスト写真を撮りたいのですが、このシンプルかつ重要な課題はより勉強していきたいです」
Review
平岩「今回の被写体の那須さんが非常に優秀な被写体だったので、シンプルな白い背景と顔の表情だけで喜怒哀楽以上の表現ができてしまいました(笑)。ただ、そこに身振りを入れることで、さらに被写体の感情が伝わる写真が撮れました。最後に背景の色を変えてみました。『黄色はエネルギッシュで元気な那須さん、黒い背景は静かな凛とした雰囲気の那須さん、赤い背景はしっとりとした大人の雰囲気の那須さん』という隼太くんの撮りたいイメージが被写体に写真を見せながら撮ることで良いコミュニケーションが取れていたんじゃないかなと思います」
モデル・那須凜が語る、隼太とHAYATA
撮影の中で、自分の表情を変化させるのは楽しかったです。役者をやっていると気分が入るのが大事なんだなって(笑)。隼太さんの写真に映る自分が、どんどん素敵になっていくのが楽しかったですね。私はただただ楽しくやらせていただきました。
俳優・竪山隼太が語る、俳優・那須凜
凜とは、2021年のKAAT「ポルノグラフィ」のリーディング公演で共演しました。役は僕と兄妹で近親相姦する相手役。リーディングのため、稽古期間が1週間ぐらいしかなく、また戯曲も一筋縄ではいきそうもありません。普段であれば稽古中に関係値を築いていくのですが、その時間もありそうにない。どうしようかと思っていたところ、凜主演の舞台が上演されていたため、観に行きました。度肝を抜かれました。当時26歳の凜は抜群にうまかった。単純に技術と心のバランスが素晴らしかったんです。しかも主な役が2つあり、完璧に演じ分けていたので、那須凜さん自身がどういう人かまったくわかりませんでした。終演後、ごあいさつに行き、めちゃくちゃ畏怖しながら「自主稽古しませんか?」と話しかけたのが出会いでした。リーディングが終わってからも親交は続き、今では信頼できる良き役者仲間です。読売演劇大賞杉村春子賞を受賞されたことで、今後がさらに楽しみな女優さん。赤提灯の居酒屋でまた飲みましょう!
第2回を終えて
竪山「どの課題でもそうかもしれませんが、やっぱり被写体とカメラマンの関係値が写真に出ることを再確認しました。平岩さんはほんとにいろいろな方と仲良くなる時間が早い。安心感があるんですよね。お会いしたことはありませんが、タモリさんみたいな感じ?(笑)。どんな人も受け入れる度量があります。今回は凜だから楽しく撮れたけど、今後いろいろな人を撮る中で「こんなときを思い浮かべて」とか「こういう感じを思い出して」と指示しなければいけないときが来ます。演出家みたいな要素も必要なんだなと、改めて痛感した回でした」
プロフィール
竪山隼太(タテヤマハヤタ)
1990年、大阪府生まれ。2000年に劇団四季ミュージカル「ライオンキング」ヤングシンバ役でデビュー後、「天才てれびくんワイド」にレギュラー出演し子役として活動。2009年に蜷川幸雄率いる演劇集団さいたまネクスト・シアターで活動。最近の出演作に「Take Me Out 2018」、「ガラスの動物園」(上村聡史演出)、さいたまネクスト・シアター最終公演「雨花のけもの」(細川洋平作、岩松了演出)など。7月から舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」に出演する。
平岩享(ヒライワトオル)
1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年はドローンを使った動画など、新しい手法にも取り組んでいる。
那須凜(ナスリン)
1994年、東京都生まれ。2015年、劇団青年座に入団。劇団公演のほか、「ザ・ドクター」「モンローによろしく」「貧乏物語」などに出演。7・8月にはシス・カンパニー公演「ザ・ウェルキン」に出演。第29回読売演劇大賞で杉村春子賞を受賞。