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映画館で待ってます 第7回 お客様を驚かせたい:神奈川 チネチッタ編

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チネチッタ 内観(提供写真)

神奈川・川崎のシネマコンプレックス「チネチッタ」。同館やライブホール「クラブチッタ」、複合商業施設「ラ チッタデッラ」を運営するチッタグループが今年2022年に創業100周年を迎える。このたび、映画ナタリーではチッタグループの代表取締役社長・美須アレッサンドロにインタビュー。シネコン激戦区と言える川崎で異彩を放つチネチッタの矜持、映画館の魅力と未来、幕間でかかっている音楽、お薦め上映作品などについて語ってもらった。

取材・文・撮影 / 平野彰

フットワークの軽さが強み

──まずはチッタグループ100周年、おめでとうございます。

ありがとうございます。

──美須社長が入社されたのが2004年。約18年の間で特に印象に残っていることはありますか?

川崎駅の周辺にシネコンが3館(チネチッタ、TOHOシネマズ 川崎、109シネマズ川崎)という状況になったとき、動員がガクッと落ちました。それまでは独占状態で、うちだけで全国の1%の興行収入のシェアを占めており、大手配給会社さんが作品を分析するときチネチッタの動員が指標になっていたほどだったんですが。TOHOさんが進出してきたときは不思議と動員が下がらず、駅前の映画館の選択肢が増えたことを喜ぶべきだと思いましたが、109さんも進出して3館となるとさすがにパイが割れ、この15年ぐらいは三つどもえの状態が続いています。

──そんなシネコン激戦区・川崎におけるチネチッタの強みはどんなところだとお考えでしょうか。

ほかの映画館ではIMAXや4Dが出てきたりして、僕らも“飛び道具”がない状態では戦えないと思いました。そこで2016年に“映画音響革命”という旗印を掲げ、「LIVE ZOUND(ライブ ザウンド)」(チネチッタのCINE8に導入している独自のシネマサウンドシステム。詳しくはこちら)をグループ会社であるクラブチッタの協力の下、始めました。そしてもう1つの武器がシアター内マーケティング。映画配給会社から貸し出された宣伝材料を展示するだけではなく、お客様が「おっ」と思うようなことをやろう、と抽象的な指令を出し、最初はお子様向けのクリスマスツリーの飾り付けをしたりして「チッタに来たら楽しいことがある」と思っていただける施策を行いましたが、次の問題は大人をどうやって驚かせるか。例えば「寒いからコーヒーを1杯サービスする」という手もありますが、もっと驚いてもらえるようなことをやりたかった。そんな中で劇場宣伝担当の社員が考えたのが、上映作品に出てくる衣装を手作りして展示すること。僕も最初は半信半疑だったんですが、お客様が展示物の写真を撮ってSNSにアップしてくれるようになりました。こういうことをできるフットワークの軽さが、僕らの強みの1つかなと思います。

──なるほど。コロナ禍の影響はいかがですか?

2011年の東日本大震災のときに1日か2日休んだことがありましたが、今回は休業もしたので、やはり大きく影響は受けています。でもそれはほかの映画館も同じです。

映画館には強い味方がたくさんいる

──コロナの影響もあって、Netflixなど動画配信サービスが存在感を増していると思います。それでもやはり映画館でしか得られないものとは何だとお考えでしょうか。

“体験”です。例えばトム・クルーズは「トップガン」も「ミッション:インポッシブル」も大スクリーンでかける前提で取り組まれており、おそらくジェームズ・キャメロン監督も同じだと思います。映画館にはそういう強い味方がたくさんいます。確かにテレビはどんどん高画質になっているし、場合によっては映画館のスクリーンよりきれいなこともある。でも画面の大きさや大音響から得られる“体験”は映画館でしか得られません。

──美須社長はあるインタビューで「映画館の未来について心配していない」と発言されていました。

心配していてもしょうがないですから。100年後は予測もつきませんし順風満帆ではないだろうけど、映画館はまだまだ面白くできるんじゃないかと思ってます。映画って今までにピンチをいっぱい迎えてそのたび窮地に立たされたけど、復活してきたので。それはたぶん、ほかのコンテンツやメディアにはない魅力があるからだと思います。

外見は格好をつけて、中身は親しみやすい感じで

──美須社長は、チッタ100周年のサイトで公開されているLiLiCoさんとの対談で「ただ作品を上映するだけじゃなくて、お客様と一緒に映画の世界を盛り上げていきたい」と発言されていました。これは具体的にはどういうことですか?

通常、映画の動員というのは、2週目以降は徐々に下がっていく傾向にあるのですが、ただ、この5年ぐらいは興行界の常識とは裏腹にV字回復をする作品が増えている気がしていて。例えば「バーフバリ」とか、土屋太鳳さんが声優として出演した「アイの歌声を聴かせて」とか。映画の本質がよければSNSで拡散され、口コミが昔よりも広がりやすくなったんじゃないかと分析してます。そういう中、作品に少しでもV字回復しそうな気配を感じたとき、タイミングを逃さず僕らは音響や展示などで援護射撃をしていく。そのV字のタイミングを作ってくれるのは、実際に映画をご覧になったお客様の口コミと、それを読んで観に行ってその作品のファンになるお客様。僕らがそれに同調してお客様と一緒に映画の世界を盛り上げていく。

──個人的に、チネチッタはとても温かみがあるシネコンだと思っていて。そういうところもコンセプトにされているんでしょうか。

外観は格好をつけてるので中身は親しみやすい感じでやりたいんです。もちろん各作品公平が大事なのはわかっています。でも時にはこれで行こう、これを推そうって。衣装を手作りしたりすると、作品の制作会社の方が見に来てくれたりもする。そんなふうに公式さんにも我々の作品愛が伝わっているのを見て、チネチッタのスタッフのモチベーションもまた上がるんです。

お薦めスクリーンはLIVE ZOUNDのCINE8

──それぞれの立場から影響を与え合っているのがいいですね。ところでチネチッタにはスクリーンが12ありますが、お薦めのスクリーンはありますか?

それはやはり「LIVE ZOUND」のCINE8のスクリーンです。それともう1つ、ライブホールさながらの重低音を楽しめる「LIVEサウンド」という音響システムを備えたスクリーンのCINE12もおすすめです。イメージ的にはLIVEサウンドが初号機で、LIVE ZOUNDがハイエンド機。

──「トップガン マーヴェリック」の映像や音響について、いくつかの映画館を比較している人をSNSで見かけましたが、その中にチネチッタも入っていました。

“音の面ではLIVE ZOUNDがベスト”、というような意見は2つ3つ目にしましたね。記事が出たタイミングでまだ「トップガン マーヴェリック」がLIVE ZOUNDで上映されていたら、ぜひ、他館と音響を比べていただけると面白いと思います。

「ビーチ・ボーイズは絶対外さん」

──「トップガン マーヴェリック」は1度観たんですが、2度目は LIVE ZOUNDで体験してみます。ところで“音”つながりの話ですが、チネチッタでは以前から幕間にザ・ビーチ・ボーイズの曲(「Long Promised Road」「Take a Load Off Your Feet」「Student Demonstration Time」「Surf's Up」など)を流していますよね。

チネチッタが今の形になる前、当時の営業部長がビーチ・ボーイズをかけ始めたと聞いた記憶ですが、チネチッタが新館になってからもビーチ・ボーイズを流すことは継承していて、お客様から「ものすごく気に入っている」とご意見をいただくこともあります。いろいろあって「社長、ビーチ・ボーイズを外しますか」って話もあったんですけど「絶対外さん」と。もうチネチッタのテーマソングみたいになってきてます(笑)。

──ビーチ・ボーイズの一部の曲を聴くと自動的にチネチッタの劇場内を思い出すぐらいです(笑)。最後の質問です。この記事は6月中に出る予定ですが、これからチネチッタで上映するお薦め作品を教えてください。

7月なら「ソー:ラブ&サンダー」は期待してます。あとは8月のウォン・カーウァイ(「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」の4K)や、この秋公開の「ソードアート・オンライン」の新作(「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ」)、11月の「転スラ」(「劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編」)、「君の名は。」「天気の子」の新海誠監督の最新作 「すずめの戸締まり」も楽しみです。それから、実はLIVE ZOUNDのこけら落としは「シン・ゴジラ」と「君の名は。」だったんですが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」や「シン・ウルトラマン」もLIVE ZOUNDで上映して、どれも相性は抜群でしたので、来年公開の「シン・仮面ライダー」でもチネチッタの唯一無二の音響で、ぜひご体感していただきたいですね。