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映画『PLAN 75』磯村勇斗インタビュー、「“生きる”ということに対して何かを感じられる作品になっている」

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磯村勇斗 撮影:小嶋文子

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75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保障し支援する制度“プラン 75”――そんな制度が施行された世の中で、それぞれの選択を迫られる人々を描く映画『PLAN 75』が、6月17日より公開される。

早川千絵監督が、第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)の次点に当たる特別表彰を受けたことでも話題の本作。

磯村勇斗が演じる岡部ヒロムは、市役所の“プラン 75”申請窓口で働き、日々、高齢者たちに優しく丁寧に“死を選ぶ制度”を推奨している。だがある日、父の死後、会うこともなかった伯父の岡部幸夫(たかお鷹)と再会。“プラン 75”の申請をしにきた伯父の対応をすることになる。

“自ら死を選ぶ権利を保障し支援する制度”――現在の世の中ではそんなものはあってはいけないとされているが、磯村が「無いようである」と感じたと言うように、絵空事として受け入れることができないリアルさがある。

磯村がこの作品とどのように向き合い、何を感じたのか、そして、彼の考える未来とは――。

早川監督は今後、日本の映画界を背負っていく一人

――脚本を読んだときの感想を教えてください。

この世界観と感性というか、感覚的なものがとても自分に合うなと思いました。75歳になったら自ら死ぬことを選択できる“プラン 75”という制度が、無いようである気がして。妙なリアルさを感じました。

自分がちょうど高齢化社会について考えていたタイミングでもあったので、これから高齢者に対してどう向き合っていくのかを考えさせられましたし、この“プラン 75”という賛否両論が出るテーマもいいなと。

あとは自分がこういう近未来の世界観がもともと好きだったので、そこも魅力に感じました。

『PLAN 75』 (C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

――ヒロムというキャラクターを演じるうえで、どんなことを意識していましたか。

ヒロムは公務員としてこの“プラン 75”という制度を推奨していく立場で、最初は年配の方に優しく接しながら仕事をしている姿を見せているんですけど、伯父さん(たかお鷹)に出会うことで徐々に根に持っていた感情が出てくるんです。

もともとヒロムも本心から“プラン 75”に賛成しているわけではないと思うんです。だからそれが伯父さんと触れ合っていく中で、表と裏の比重が変わっていくというか、徐々に人間的になっていく。その辺りの表現は監督ともシーンごとに話し合いながら進めていきました。

――具体的に早川千絵監督とはどんな話をしたのですか。

撮影シーンでヒロムの持つ感情をその都度話していたんですが、前半はどこまで業務的で、どこまでの明るさが必要なのかとかを話して。後半、伯父さんと出会って、例えば、伯父さんを見つめるというシーンであれば、どういう表情をするのか、とか。

子どもの頃に知っていた若い頃の伯父さんではない、年を取って“プラン 75”に加入して死ぬ覚悟を持った伯父さんをどう見てどう感じているのか。止めたい気持ちがあるけど、それができない。そういうちょっとした感情の変化の確認作業みたいなところでいろいろと話しました。

話し合うことで道標が見えたので、監督のおっしゃるビジョンに向けて演じることができました。監督はご自身で脚本も書かれているので全部わかっているんです。だから不安なことがあったら逐一聞いていました。

――早川監督の印象も教えてください。

早川監督は今後、日本の映画界を背負っていく一人になるんだろうなと。偉そうですけど、そのパワーとか、センスを現場でひしひしと感じました。

演出も俳優に親身に寄り添ってくれて丁寧なんです。お芝居が嫌いと言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、いかに芝居っぽいものを削っていくかという作業をされていて、その場で生まれるリアルなものを大事にする方でした。

それは早川監督が今回の長編を撮られる前に作っていた短編(2018年公開のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一篇として公開)を観ても感じました。出てくる人たちがリアルでナチュラルなんです。俳優さんも出ているんですけど、実際にその場にいる一般の方も出ていて。そういう撮り方や演出に長けていらっしゃるんだなと思いました。

登場人物の感情をセリフではなく画で見せる

――個人的にセリフがなくて、食堂で伯父さんの背中が映されるシーンが、何でもない情景なのに泣けました。

後半は(伯父さん役の)たかおさんとのシーンが多かったんですけど、僕もそのシーンは印象に残っています。

最初、たかおさんからは「現場ではあまりしゃべらないようにしよう」と言われていたんです。関係性として久しぶり会った伯父さんで、仲が良い設定でもなかったので。それで僕も「わかりました」って答えたんですけど、結局、後半すごく仲良くなってしまいました(笑)。

物語の終盤、ネタバレになってしまうから詳しくは言えないんですけど、伯父さんがある状態になるところから吹っ切れたんでしょうね(笑)。そこからはすごくしゃべっていました。

ヒロムが伯父さんの家に行って、一緒にご飯を作って食べたりする辺りから二人の距離が近づいていくので、たかおさんともどんどん距離が近くなっていけたのは嬉しかったですね。

――他にもセリフにはせず、状況で伯父さんがどんな人生を歩んできたのか想像させるシーンなどもあり、言葉以上に感情に訴えかけられることが多かったです。

そこが早川さんのすごいところだと思います。登場人物の感情をセリフではなく画で見せるのは僕も好きな部分で、それが脚本の段階から伝わってくるんですよ。ここは画で伝えたいんだなって。

だから自分もここではこういう感情でいればいいんだ、というのがわかる脚本でした。すごく細かいところまでよく考えられていました。

――完成した作品を観て、磯村さんがグッと来たシーンはありますか。

このお話は、倍賞(千恵子)さんが演じるミチさんを追ってストーリーが進んでいくんですけど、普通の日常を描いているだけでも胸がギュッとなることがありました。

スーパーでお惣菜を選んでいる姿を見るだけで、なんというか、自分のおばあちゃんの姿もちらつくし、そのおばあちゃんが揺らぎながらも自分で死を選択していく過程が。

特にコールセンターのオペレーター役の河合(優実)さんとの電話のシーンは好きでした。ミチさんが“プラン 75”を実行することを止めたいけど、止められない。素敵なシーンでした。

――倍賞さんとの共演はどうでしたか。

倍賞さんとの共演はそこまで多くなかったのですが、目を合わせるシーンがあって、そのときの目がすごく魅力的でした。役柄のせいかもしれないんですけど、力強い目をしていて、そこに引き込まれるような感覚もありました。何もしゃべらなくても目が語っている。俳優にとっては必要な要素ですよね。

それからすごくチャーミングな方で。会話の感じが可愛らしくて、場を和ませるようなこともおっしゃっていました。ミチさんと近いというか、倍賞さんとミチさんの境目があまりないのかもしれないです。そんなふうに作っていらっしゃったのかも知れないですけどね。

生きていれば何かを解決する可能性はある

――本作と磯村さんが監督を務めたショートフィルム『機械仕掛けの君』は、テイストが似ている気がしました。こういう社会問題を扱うことには興味がありますか。

自分が作る上では社会問題なしでは作れない気がしますね。特にそういうものに自分の興味があるというのもありますし、今起きていることを取り入れないと物足りなく感じてしまうんです。作っている感覚が無くなってしまうというか。そういう思考が強いんでしょうね、きっと。

それはたぶん伝えたいという想いがあるからだと思うし、平和にしたいという想いがあるからだと思います。

――ニュースやドキュメンタリーを観ていてアイデアが湧くことも?

ありますね。ただニュースで取り上げられていることを単にピックアップして脚本にしても薄い内容になってしまうので、そこからさらに詳しく調べていく作業が結構大変で。僕の興味があるものは表現しづらいというか、触れるのが難しいものが多いんですよね。

――本作でも、『機械仕掛けの君』でも近未来が描かれていましたが、今、磯村さんには“未来”はどんなふうに見えていますか。

未来についてはよく考えるんです。都市伝説とかも好きなので(笑)、そういう観点から自分の中で考察をしてみたりもします。あとはロシアとウクライナの国際問題とかを見ていると、このまま戦争が長引いてリセットが始まるんじゃないかとか。

リセットがどういうものかははっきり言えないですけれど、戦争によって多くの人たちが命を失う可能性があることを考えると、この先って悲しい未来なんですよね。それでリセットが起こって、汚いものはすべて流れて消えて、またゼロから始まるってことになりかねない。

ただこれだけ長い人類の歴史があって、軌跡があるので、そうもいかないとも思うし。だから本当に平和になってほしいと願うんですが、悲しことに一生平和にはならないとも思ってしまうんです。

――そんな未来を私たちは生きていかなければならないですよね。

難しいですよね。まさにこの“プラン 75”の世界でもありますけど、未来に希望がないのであれば死を選択するというのも一つの意見だとは思うんです。

けれど僕は、それはすごくもったいない考え方な気がしていて。せっかくなら最後まで見届けて死んでいく方がいいと思うんです。

確かに生きることは怖いのかもしれない。でも生きているということが大事で、生きていれば何かを解決する可能性はある。逆を言えば、生きることをやめてしまったら、変えられたはずのものを、変えられずに終わってしまう可能性がある。だから僕は少なくとも生きていくことをやめてはいけないと思うんです。

それで、自分が「違う」と感じたものに対しては声をあげていく。そういうことを積み重ねていけば、悲しい未来もきっと変えられると思うんです。それが「怖いから死んでしまおう」という考え方では変えることができなくなってしまうので。

僕らがちゃんと真っ直ぐに生きて、手を取り合って、声をあげて、変えていこうとすれば、いい未来になるチャンスはあると思います。僕はそういう時代を見ていきたいなと思います。

こういう映画をよりたくさんの方に観ていただくためにも、僕はドラマに出演している

――磯村さんは本作のような社会問題を切り取ったような作品もあれば、現在放送中のドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~(じぞ恋)』(TBS系)のようなラブストーリーにも出演されています。例えば、『じぞ恋』で磯村さんに興味を持った方が、この『PLAN 75』を観てくださることで、高齢者問題への解決に一歩近づくとか。そんな考え方をすることはありますか。

もうそのまま書いていただければ、僕が答えることはもうありません(笑)。でもまさにそういう考え方もあって。『PLAN 75』のような社会的なメッセージのある作品は今後も出演したいと思っています。でもそういう作品にばかり出ていると、観てくれる方が偏っていくとも思っていて。

こういう映画をよりたくさんの方に観ていただくためにも、僕はドラマに出演していて、僕自身のことをより多くの方に知ってもらう機会を作りたいと思っています。もちろん、ドラマに出演する理由はそれだけではないですけど、そういう考えもあります。

今回のような社会派の映画を観に行ってもらえる道を作って、一緒に今起きている問題や、未来について考えてくれる人たちを増やさなくてはとも思うので、そういう意味でいろんな作品をバランスよくやっていけたらいいな、と思っています。

――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

『PLAN 75』は、75歳以上の人が死を選択できるというお話ですが、単にそれだけではなく、“生きる”ということに対して何かを感じられる作品になっていると思うんです。

だからこれを観てくださった方が、今一度自分の人生であったり、この先の人生というものをどうしたいか考えてもらえたら……まあそこまで考えなくても、少しでも自分自身というものと向き合う時間を作るきかっけになれたら嬉しいです。

この“PLAN 75”というアイディアを生んだのも、社会全体の問題だと思うので、より今起こっていることに対して視野を広げてもらって。特に若い方には観ていただきたいですね。何かそういうことを考えるきっかけにこの映画がなれたらいいなと思っています。

※本作は倍賞千恵子さんが演じる主人公のミチが、“プラン 75”を通して“死”と向き合う姿を軸に、さまざまな人たちの想いが描かれています。人は何のために生きるのか――そんな永遠の命題を改めて突き付けられる想いもあります。

軽い気持ちで観ることができる作品とは言い難いですが、磯村さんの言うように「自分自身というものと向き合う時間を作るきかっけ」の一つとして、劇場に足を運んでみるのはいかがでしょうか。

文=瀧本 幸恵
写真=小嶋文子

<作品情報>
『PLAN 75』

全国公開中

『PLAN 75』チラシ表

映画『PLAN 75』予告編

公式サイト:
https://happinet-phantom.com/plan75/

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