ディーン・フジオカ×岩田剛典、映画『シャーロック』インタビュー「登場人物全員が愛という言葉で交わっている」
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インタビュー
左から)ディーン・フジオカ、岩田剛典 撮影:稲澤朝博
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すべて見るあの誉獅子雄と若宮潤一のコンビが帰ってくる――2019年、フジテレビにて連続ドラマとして放送され好評を博した『シャーロック』が待望の映画化。
ディーン・フジオカ演じる犯罪捜査コンサルタントの獅子雄と、岩田剛典演じる元精神科医の若宮が、瀬戸内海の離島で起こった資産家の謎の死の真相に迫る『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が6月17日より公開となる。
舞台を東京から離島へと移し、『シャーロック・ホームズ』シリーズの人気作『バスカヴィル家の犬』を原案にして描く本作は、新木優子、広末涼子、村上虹郎、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平ら多くのゲスト出演者も登場し、ドラマ版とはまた違った重厚な物語が描かれる。
そんな中で、ドラマと変わらぬ関係性と、お互いに少しだけ変化した部分も見せる獅子雄と若宮。ディーン・フジオカと岩田剛典はこの新たな物語とどのように向き合ったのか。またお互いに俳優業にとどまらず、音楽、企画・プロデュース業など幅広く活動する中で感じていることなども語ってもらった。
続けられることは嬉しいこと
――2019年放送のドラマ版以来、約2年ぶりとなった『シャーロック』の現場はいかがでしたか。
ディーン まずは続けられることは嬉しいことだな、と思って。そこからのスタートでした。同窓会的な感じもありましたね。
今回、劇場版で初めましての方も多かったですけど、西谷監督を筆頭にこの『シャーロック』という物語が連ドラで積み上げてきたものを、映画というまた違う媒体で楽しんでもらえるように作っていきました。
コロナ禍での撮影だったのでその緊張感はありましたけど、撮影自体はリラックスとまで言ってしまうと語弊がありますが、いい緊張感を持って、いい作品をみんなで粛々と作っていく、そんな現場だったと思います。
最初から続編ありきとか、プラットフォームを変えて同じ作品を続けていくということを企画として打ち立てたとしても、それに現実がついていかないことってあるじゃないですか。
だから今回、こうやって映画という形になったのは、それだけ多くの方が観たいと思ってくださったからだと思うので、嬉しかったですね。
岩田 現実として久しぶりなんですけど“久しぶり感”はそこまで感じなかったです。同じ役柄とはいえ、時間も経っているから感覚を忘れていそうなものなんですけどね。
撮影に入る前に、キャスト全員が集まるシーンとかはリハーサルを重ねたんです。そのときに、“ああ、若宮ってこういう感じだったな”って、自分の中にだいぶ勘が戻ってきたこともあって、撮影自体はハードな部分もありましたが、作品に入っていく心持ちとしては楽しめました。
それからディーンさんも言っていましたけど、続編ができることはすごくありがたいことだと思いましたし、しかもスケールアップして劇場版としてお届けできることは嬉しかったです。
――人気ドラマから劇場版になることへのプレッシャーはありませんでしたか。
ディーン ドラマの時に基礎が出来上がっていたので、特に不安もなく現場には入れました。
岩田 僕もプレッシャーはそんなに感じていなかったです。どちらかと言うとワクワク感の方が大きかったかもしれないですね。
――『シャーロック・ホームズ』シリーズのファンに人気の『バスカヴィル家の犬』を原案に物語が作られたことに関してはいかがですか。
ディーン 脚本を読んだ時からこれに“バスカヴィル家の犬”とか“シャーロック”とかを付けなくてもいいんじゃないか、と思うくらい、この物語の独創性みたいなものを感じていました。だから、僕自身がそのことにプレッシャーを感じることはなかったですね。
もしかしたら西谷さんはプレッシャーを感じていたかも知れないですけど、自分としては西谷さんの見たいと思う画をどうやって成立させるか、ということを考えてやっていました。
岩田 人気のお話というのはありますけど、正直、演じる上では原作ファンの方が観てどう思うか、というのはそれほど強く意識はしていなかったです。
そういう側面的なところよりも、自分がリアルに感じたお芝居をシーンの中にどう積み立てていくか、構築の仕方に集中していました。
あとはやはり西谷さんが演出を導いてくださるので、そこに神経を張り巡らせて、どんなボールが来てもキャッチできるようにと考えていました。
若宮は狙ってやっていた部分もあります
――改めて、獅子雄、若宮というキャラクターに対して感じたことを教えてください。
ディーン 誉獅子雄は、そのために一つ新しいスイッチみたいなものが必要なキャラクターでした。セリフ回しや立ち振る舞いが普通じゃないというか、例えるとF1の感覚というか。
無意味にスピードが速いとか、スペックが高いことが、変人・奇人みたいな感じに映るといいな、と思っていました。必要なかったかも知れないけど、長台詞を呼吸しないで全部言い切ってみたり(笑)。今思うとドラマ版のときは本当に試行錯誤していたな、と思います。
リアルな自分は静かに生きていて、獅子雄みたいに周りに迷惑をかけまくって、奇行を重ねるというのはないので(笑)。ただそれが周りから見てイタイ感じになるのは嫌だから、結果的にちょっとこの人は普通じゃない、というふうに見えることを考えていました。
それが一つひとつの行動を極端にすることで、一番わかりやすく伝わると思って準備していったことを覚えています。
岩田 若宮はわりと怒ったり、泣いたり、笑ったりと喜怒哀楽がわかりやすく、感情のふり幅が出せる役だったのですごくやり甲斐があると思っていました。
あとは、このミステリーサスペンスというテイストの作品の中で、ちょっと箸休め的な、観ていただく方にほっこりしていただくような役柄でもあったので、そこは西谷さんとも相談しながらですが、狙ってやっていた部分もあります。
西谷さんが絶妙なさじ加減でさばいてくださるので、それが重厚なストーリーの中に違和感なく、サブリミナル的に出せたと思っています。
――会見ではそんな若宮に、ディーンさんが母性本能をくすぐられたとおっしゃっていましたね(笑)。
岩田 狙ってやっていますからね(笑)。僕というか、西谷さんが、ですけど。
――若宮のそういうかわいらしい部分は岩田さんの中にもありますか。
岩田 どうなんですかね(笑)。でも僕、意外にドジですし、落とし物とか忘れ物も結構多いです。
――久しぶりの共演でお互いに変わったな、と思うところはありましたか。
ディーン 印象が違うってことはないですね。やはり1クール一緒にドラマを撮って、ずっと一緒に居たので、大体の人となりはわかるので。ただ今回、松山でロケがあったんですが、岩ちゃんの荷物の少なさには驚きました(笑)。これは本当に新しい発見だったと。
岩田 あははは(笑)。言われるまでわからなかったんですけど、そうみたいです。本当に必要最低限のものしか持って行かないので、確かに少ない方だとは思います。
――今回、獅子雄と若宮は一緒に行動せず、それぞれに離れた場所から事件に関わる場面も多かったですよね。
ディーン 距離が離れていることに関しては、物語の中に自然とその必然性が落とし込まれているな、と思ったので、リモートでそれぞれに謎を解いて前に進んでいくことには違和感もなく、腑に落ちていました。
岩田 “リモートバディ”と言っていたんですけど、たまたまですが今のご時世にあった感じになりましたね。
ただ実質的な距離は離れていましたけど、一緒に事件を解決していく上ではドラマのときよりもバディ感があったというか。若宮の“やらされてる感”が少なくなっていたので、あまり距離は関係ないと感じていました。
ディーン ドラマ版のときは、謎を解くことに対しての獅子雄の好奇心や抑えきれない衝動に、若宮が無理やり付き合わされている感があったと思うんですけど、映画版においてはより主体的というか、独り立ちしていくような側面もありましたね。バディとしてお互いの知恵や能力を持ち寄っていくところが、魅力じゃないですかね。
謎を解くことでまた新たな悲劇のスイッチが押されてしまう
――本作には多くのゲスト出演者の方々が登場しますが、迎え入れる側として意識していたことはありますか。
ディーン バラエティ番組の司会者を二人でやっていて、そこにゲストが来るみたいな感覚に近いだろうな、とは思いますね。一人ひとりのキャラクターの魅力が前に出てくれば出てくるほど、作品として重層的なものになると思うので。
ただその調整は監督がやることでもあるので、僕らはそこに対してあんまり意識はしていなかったですね。
でも完成した作品を観たときに、すごく上質なエンターテインメント作品だな、と思ったのは、もちろん我々二人がドラマ版から続けてきたバディを見せるという物語もありながら、ゲストの方々のキャラクターが見せる物語もすごく見どころがあったからだと思うんです。
そちら側の物語が盛り上がれば、こちらとしても受け甲斐があるし、被せ甲斐もある。結果、そうなることができて良かったな、と思っています。
――ディーンさんが、蓮壁千里役の村上虹郎さんと撮影の合間にチェスを楽しんでいたというエピソードを聞いて、迎え入れる側としての配慮があったのかな、とも思ったのですが。
ディーン そういう思いはなかったですね(笑)。単純にあの場にたまたまチェスがあって、やったら楽しくなるかな、くらいです。
でも一人ひとりの登場人物に本領を発揮していただければ、結果、作品の本質的な良さにつながっていくというのは間違いないことなので、もしチェスをやったことがそこにつながっていれば良かったな、とは思います。
現場でコミュニケーションを取ることは、それは役者同士に限らず、スタッフもですけど、お互いに意見交換することで作品への熱量は高まっていくものだと思うので、仕事の邪魔にならない範囲でやれればな、とは思っていました。
――岩田さんも迎え入れる側として意識していたことはありますか。
岩田 僕はドラマ版で1クールできたことが自信になっていたというか。役柄に対して自分の中で整理がついていたので、誰がゲストとしていらしても若宮としてブレない感覚がありました。
獅子雄とのバディとしての関係性であったり、この作品における若宮の位置は把握していたので、逆にもうゲストの皆さんには暴れてください、という気持ちでした。ブレないものをドラマ版で作れていたので、自分は本当にフラットでいられましたね。
――お二人は完成作からはどんなことを感じましたか。
ディーン 謎を解くことでまた新たな悲劇のスイッチが押されてしまう。構造としてよくできているな、と思いました。
――印象に残るキャラクターはいましたか。
ディーン 小泉孝太郎さんが演じられた大学教授(捨井遥人)の一途な感じはいいな、と思いました。脚本で読んだときと、実際に作品が完成したときの印象に、一番ギャップを感じたキャラクターでもありましたね。
もうちょっと粘着質でストーカーっぽいのかと思っていたんですけど、可憐な感じもあって。これもまたひとつの悲劇だったのかもしれないですが、観終わったあとには、美しい恋心というか、愛というか、そういうものを感じました。
岩田 僕はとても悲しい物語なので、観終わった直後は言葉に詰まるというか、なかなか立ち上がれないような感覚もありました。どーんと、胸に来るものはありましたね。
ボタンの掛け違いのようなことで人生が変わってしまう、愛の悲劇というか。恋愛の感情もあれば、家族の愛もあり、主従間の愛もあり……登場人物全員が愛という言葉で交わっていて。
この映画のシチュエーションが普段の生活の中でよくあることか、と言われると、それはなかなかないことだとは思うんですけど、それでも人を愛する想いは誰しもが間違いなく持っているものだと思うので、そこは感情移入できると思います。
この作品を通して何かを持って帰ってもらえるか、というとわからないですけど、映画というエンターテインメントとして楽しんでいただけるのが何よりかな、とは思います。
全部ディーンさんになっている感じは憧れます
――ドラマ版、劇場版と共演してみて、お互いに感じたそれぞれの魅力的な部分を教えてもらえますか。
ディーン たくさんあり過ぎて言葉にできないかもしれないですが(笑)。例えば、とにかく自分でちゃんと考えて行動していることが、岩ちゃんからは伝わってきます。
誰かに言われたことをやるという方法も、一つの方法論として悪くはないんですけど、自分から動くからこそ、これからどういうふうに活動の場が広がったり、深まっていくのかすごく楽しみになります。そういうところが興味を引くと思うんですよね。それが岩ちゃんの魅力の一つなんじゃないかと。
演技でも、演技以外のお仕事でも“とりあえずやってみよう”という感覚は自分も持っているので、そこは好感が持てますね。
――では、岩田さんが思うディーンさんの魅力は?
岩田 ご自分が携わっているプロジェクトのすべてを連動させていることがすごいなとシンプルに感じます。全部が言ったらバラバラの職種だと思うんですよ。それを同時進行していて、それぞれが離れていなくて、全部ディーンさんになっている。その感じはすごいことなので憧れます。
――ディーンさんもご自身でその連動性のようなものは意識されているのですか。
ディーン シナジーみたいなものがちゃんと生み出せればいいな、とは思っていますね。やはり時間は限られているものなので、例えば、俳優だけをやっている人と比べるとハンディキャップがすごくあるわけなんですよ。
同じ回数バッターボックスに立てるわけではないので、そこでヒットをどれくらい打てるかを考えなくてはいけないので。それは音楽でも、他の仕事でも一緒だから、そのハンディキャップをどうやったら好転させられるか、というのは常に考えているかも知れないですね。
とにかく時間が足りないので、悔しい想いはするわけですよ。一日24時間、一年365日をそれだけに費やせないわけですから。ゆえに悪あがきをしていますよね(笑)。
――岩田さんもそこは共感できるのではないのでしょうか。
岩田 すごく共感できますね。スケジュール問題に関しては、マネージャーが戦ってくれて何とかここまでやってこれていますけど(笑)。
ただどこか専門職を重んじるという風潮がまだあるとは思っていて。だからディーンさんの“全部やったっていいじゃん”みたいなところはすごくシンパシーを感じるし、結果、それがオリジナルになっていくことが一番理想だな、と思うんですね。やってみないと結果なんてわからないので。そういう精神は僕と似ているのかな、と思います。
――では、そんなお二人で何か一緒にやるとしたら、何ができそうですか。
ディーン うーん、何だろう。プライベートサウナのプロデュースとか(笑)。
岩田 いいですね! それ、ホントにちょっとやりたいかも(笑)。
――(笑)。どんなこだわりを持ったサウナになりそうですか。
ディーン やっぱり温度設定じゃないですかね。
岩田 110度ぐらいいってみます?
ディーン いく? 結構攻めるね(笑)。そしたら水風呂は16度以下はちょっとキツイかな。18度くらいでいいかな。
岩田 95度の16度ぐらいですかね。
ディーン 16度、いっとく? 15度になるとキンキンだからね。
岩田 痛いですよね。肌が赤くなっちゃう。っていうか、何の話をしているんだか(笑)。
二人 あははは(笑)。
※劇中では正反対のキャラクターを演じているディーンさんと岩田さんですが、クレバーでクールな印象や、俳優業にとどまらず幅広い活動をされていることなど共通点も多く、インタビューをしていても、お互いへのリスペクトが感じられ、とてもいい関係であることが伺えました。
そんなお二人が約2年ぶりにタッグを組み、新たな事件に挑む本作。ぜひ、劇場でお二人の勇姿とともに、岩田さんもおっしゃっていたさまざまな“愛”の物語も感じていただければと思います。
文=瀧本 幸恵
写真=稲澤朝博
ヘアメイク=花村枝美[MARVEE](ディーン・フジオカ)/ 下川真矢[BERYL](岩田剛典)
スタイリング=村田 友哉[SMB International.](ディーン・フジオカ)/ 渡辺康裕[W](岩田剛典)
<作品情報>
『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』
全国公開中
公式サイト:
https://baskervilles-movie.jp/
映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』予告編
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