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ワニが1100体超!その理由とは? 『ワニがまわる タムラサトル』展示の様子をレポート!

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「まわるワニ」シリーズ最大約12メートルの新作 撮影:白坂由里

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大小のカラフルなワニたちがゆっくりと回転する空間。6月15日(水)に国立新美術館で開幕したタムラサトルの個展『ワニがまわる タムラサトル』の内覧会をレポートする。

1972年栃木県生まれの現代美術家タムラサトルは、小さな山が大きな山を登る《登山する山》などの機械仕掛けの作品、白熱灯が明滅を繰り返すインスタレーションなど、意味や目的から解放され、その状態自体が理屈抜きに面白い作品をつくり続けてきた。今回はそんな彼の代表的なシリーズ「まわるワニ」に焦点を当てた展覧会だ。内覧会で語ったタムラの言葉を挟みながら紹介しよう。

過去の作品も混えたインスタレーション
作家のタムラサトル

「まわるワニ」が誕生したのは1994年。「筑波大学(芸術専門学群 総合造形)」3年の秋、電気を使った芸術装置をつくるという課題が出たのがきっかけです。それまでつくったことがない領域だったのでどうしようかと思い、朝起きて最初に頭に浮かんだものをつくろうと決めて寝ました。翌朝、なぜかワニが回っている絵が思い浮かび、それをつくることにしたんです」。

試行錯誤の結果、4.5メートルのワニの立体が毎分30回転(当時)するキネティックアート(動く彫刻)のような作品が完成した。「なぜか自分がつくったものなのに他人がつくったもののように感じるとともに、これで作家になれるという確信が湧いた。それが緑のワニの《スピンクロコダイル》です」。

「まわるワニ」シリーズ第1号となった作品

その後、複数のワニが回転する作品、ワニの丸焼きのような作品など形態を変えながらシリーズ化していく。今回の展示では、1体だけプロペラを使用した作品があり、ほかはすべてモーターが動力となっている。15~20分に1度、プロペラの作品が動き出すときに、町工場に機械音が響き渡るような感じも魅力だ。

黄色いワニの丸い穴の部分にプロペラが見える

「必ずと言っていいほど『なぜワニを回すの?』と聞かれるので、その意味を考えながら数年にわたって制作し続けてきたのですが、ワニがまわることに意味があるわけではなく、よくわからないけれどなぜかワニが回っているという不可思議なこの状況こそが作品の面白さの本質なんだと気づきました」。私たちは、アート作品を見るとつい、これってどんな意味があるの?と考えてしまいがちだが、言葉のない音楽を聴いたときのように、さほど意味を問わずに楽しんでもいいのではないかと思える。

複数体が回る作品も

今回、展示室に合わせてつくられた新作のワニは、これまでで最大の約12メートル! ガバッと口を開けて、尾の先を曲げた迫力のあるポーズで緩やかに回転する姿はシュールでもある。

栃木の大きなスタジオで寄ったり引いたりしながら造形していったという新作

さらに、「大きさで攻めるなら、数でも攻めよう」とタムラ一人でつくったのが10〜15センチの約1000体のワニたちだ。「機械的に手を動かすなかで良し悪しの差がなくなり、良いものをつくらなきゃという邪念が消えてフラットな気持ちになった」という。外見は同じようだが、1体ずつに名前がつけられていて、ワニの裏側に記されているそうだ。

1体1体が回りながら、大河のような群れに

さらに、タムラが非常勤講師を務める宇都宮メディア・アーツ専門学校の学生、日本大学芸術学部デザイン学科有志、国立新美術館で開催されたワークショップの参加者がつくったワニたちのエリアもある。子どもから大人まで参加者それぞれのオリジナリティが現れた多様な造形が目を引く。「ワニに見えないような、得体の知れないものになるほど褒めました(笑)」とタムラ。美術館の学芸課企画室と教育普及室が協力し、展覧会に一般の人々が参加できる方法ともなった。

「ワニがまわる」ワークショップでできた作品群

これらすべてを合わせた作品タイトルが《スピンクロコダイル・ガーデン》。個展であり、部屋全体で一作品ともいえる、ユーモアもある楽しい空間。それでも「理由がない」と言われるとモヤモヤしてしまうかもしれないが、「なぜここにこうして生まれたのかと聞かれても理由がわからないように、追求しても答えのない物事はあると思うんです」と語るタムラ。確かなのはどれひとつとして同じものはないということだ。


取材・文・撮影:白坂由里



【開催情報】
『ワニがまわる タムラサトル』
6月15日(水)~7月18日(月・祝)、国立新美術館にて開催
https://www.nact.jp/exhibition_special/2022/spinningcrocodiles/

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