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それは「愛」の物語であった。 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た、『THE BOY FROM OZ』

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ミュージカル『THE BOY FROM OZ』より 撮影:阿部章仁

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ミュージカル『THE BOY FROM OZ』の主人公ピーター・アレンを演じた主人公の坂本昌行は魅力的なエンターテイナーであり舞台人であると実感させてくれた。定評のある歌唱力、しなやかなダンス力、そして説得力のある演技力。ミュージカル俳優に必至な三要素を過不足なく持ち合わせている。

ピーター・アレンは1970年代から80年代に光り輝いたエンターテイナー、トップスターだった。その波乱に満ちた半生を一気に駆け抜けた。第1幕の最初の曲「この俺の別の顔」で客席に語りかけるように、伸びる高音で歌った。坂本は、観客と共有するその姿勢を終始、貫いていた。

エンターテイナーの自分自身がエンターテイナーを演じる。それはたやすいようで、実は違う。まして、アレンはトップである。同様のレベルで観客を納得させる力量が求められるからだ。

前座歌手として起用してくれた大スター、ジュディ・ガーランドの鳳蘭とのダンス。明るく陽気である。その娘でスターにのし上がる前のライザ・ミネリ(紫吹淳)との結婚生活は野心的に。1幕の幕切れではライザと離婚し、売れなくなった失意の中、故郷に戻って再起を胸にしたソロダンス。ピアノの上に立ち、決意を込めた渾身のポーズを決める。その立ち姿がスタイリッシュだった。

2幕の幕開けはナイトクラブでのショーから始まる。ピアノを使ったセクシーな歌と踊り。続いて、ラインダンスの中央で跳ねるように踊る。坂本は1幕で10曲、2幕で9曲披露した。まさに“坂本オン・ステージ”である。

坂本は主人公と自分を重ねながら演じていった。ジュディ・ガーランドと、ライザ・ミネリという女性との関係。同性の恋人グレッグ・コンネル(末澤誠也)との喜怒哀楽。そして今陽子が演じだ最愛の母マリオンとの情愛。女、男、家族、さらに人々。それは「愛」の物語であった。ラストシーンで表現したのが命を燃焼し切ったポーズ。長くはなかった人生とはいえ、走り抜いた満足感を全身で見せた。

2年ぶりの復活上演の今作。フィリップ・マッキンリーの演出、ジョーイ・マクニーリーの振付が坂本の才能を充分に引き出した。坂本の代表作である。(6月20日所見)

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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