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『地球がまわる音を聴く』森美術館にて開催中 アートを通してコロナ禍以降の「ウェルビーイング」を考える

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新型コロナウイルスの流行により、私たちの生活は大きく変化せざるを得なくなった。この状況のなか、新しい時代をどのように生きていくかを、アート作品を通して多角的な視点で考える『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』が森美術館にて11月6日(日)まで開催されている。

「ウェルビーイング」とは、身体的、精神的に健康であり、社会的にも良好な状態を指す。新型コロナウイルス感染症の大流行以来、私たちはウェルビーイングとはなにかを常に意識しながら生活することとなった。同展は、私たちが生きることについて、そしてウェルビーイングについて、アートの視点から改めて考え直そうとしていくもので、国内外16名の作家による作品が約140点展示されている。

ちなみに「地球がまわる音を聴く」とは、オノ・ヨーコのインストラクション(指示書)・アートにちなんだもの。この言葉をはじめ、多数のインストラクション(指示)が収録された《グレープフルーツ》の展示から同展はスタートしている。

ドイツ人アーティスト、ヴォルフガング・ライプの《ヘーゼルナッツの花粉》は、その名の通りヘーゼルナッツの花粉をみっしりと敷き詰めた作品。鮮やかな黄色い色が目をひきつけ、花粉から漂う甘い香りが心を揺らす。他にも牛乳や蜜蝋を使った作品も展示されており、どの作品も生命のはじまりを考えさせるものだ。

ヴォルフガング・ライプ《ヘーゼルナッツの花粉》(2015-2018)

エレン・アルトフェストは、ライプとはまた異なる形で生命を考えさせる作品を作り出す。彼女は、対象を実際に見てその姿を緻密に描きだしていく。《木々》は木の幹を13ヶ月の歳月をかけて描いた油彩画だ。

エレン・アルトフェスト《木々》2022年 

小泉明郎のインスタレーション《グッド・マシーン バッド・マシーン》は、催眠術にかけられ、自らの感情を操作されている被験者の映像と、催眠術にかかってしまったかのように動いているロボットアームによって構成された作品。人間の主体性とは、意思とはなにかを考えさせられる緊迫した空間になっている。

小泉明郎《グッド・マシーン バッド・マシーン》2022年 

青野文昭のインスタレーション《僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019》は、作家が子供の頃遊び場にしていた仙台の八木山と、かつてあった神社、そして東日本大震災の経験を題材にしたもの。《八木山橋》を渡った先にある《僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019》には、日常のものを使った新しい神殿が作られている。

青野文昭《八木山橋》、《僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019》2019年

金崎将司は社会福祉法人にじの会が運営する「にじアート」に所属する。造形活動を始めた当初、金崎は雑誌やチラシを使ったコラージュを行っていたが、次第に紙片を同じ場所に貼り重ね続け立体作品へと展開していった。木工用ボンドで塗り固められた紙片はいつしか岩のようになり、独特の存在感を持っている。

金崎将司《百万年》2012年

堀尾貞治、堀尾昭子の対照的な作品世界

堀尾貞治は具体美術協会のメンバーとして、2018年になくなるまで「あたりまえのこと」を主題とした作品を毎日制作し続け、その数は10万点を超えているという。

堀尾貞治《色塗り》シリーズ

堀尾貞治の妻、堀尾昭子もまた具体美術業界に所属していたアーティスト。夫の貞治とは対象的にミニマルで凝縮された作品をじっくりと時間をかけて制作した。二人の対象的な作品がならぶ空間は圧巻だ。

堀尾昭子《無題》2012年

モンティエン・ブンマーの《自然の呼吸:アロカヤサラ》は独特の香気を放つ作品。作品の中心部から上を見上げると、テラコッタ製の肺の彫刻が吊るされている。自身の呼吸や身体について意識させられる作品だ。

奥:金沢寿美《新聞紙の上のドローイング》2022年 手前:モンティエン・ブンマー《自然の呼吸:アロカヤサラ》1995年 DCコレクション(チェンマイ)蔵

金沢の黒いカーテンのように見える作品は、新聞紙を10Bという濃い鉛筆で塗りつぶし、つなげたもの。1枚の新聞紙を塗りつぶすのに3日間かかるという。そして、彼女が気に留めた言葉や写真は塗りつぶされず残り、宇宙の星のように空を漂っている。

金沢寿美《新聞紙の上のドローイング》2022年 部分

ツァイ・チャウエイ(蔡佳蔵)の《子宮とダイヤモンド》は、密教からインスピレーションを得て、仏教の教えを図解した両界曼荼羅の形式を踏襲した作品。両界曼荼羅は、胎蔵界と金剛界の2つの世界を表したもので、鏡で作られた曼荼羅の上には、胎蔵界部分にはガラスの彫刻、金剛界部分にはダイアモンドが配置されている。周囲の風景を写し込んだ幻想的な世界が広がっている。

手前:ツァイ・チャウエイ(蔡佳蔵)《子宮とダイヤモンド》2021年 奥:「5人の空のダンサー」シリーズ 2021年
ツァイ・チャウエイ(蔡佳蔵)《子宮とダイヤモンド》部分 2021年 

このほかにも、飯山由貴や内藤正敏、ギド・ファン・デア・ウェルヴェ、ロベール・クートラス、ゾーイ・レナードといったアーティストの作品が展示されており、さまざまな観点から、考えるきっかけを与えてくれている。自分にとってのウェルビーイングとはなにか、またアートのもつ役割についてまでも、思いを馳せる機会となるだろう。

ギド・ファン・デア・ウェルヴェ《第9番 世界と一緒に回らなかった日》 2007年 
展示風景より 内藤正敏の写真作品 
ロベール・クートラス《僕の夜のコンポジション(リザーブカルト)》 1970年 

取材・文:浦島茂世


【開催情報】
『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』
2022年6月29日(水)~11月6日(日)、森美術館にて開催
https://www.mori.art.museum/jp

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