ディーン・フジオカの人生観「人間は生きていく上で、何かを得ると何かを失う」
インタビュー
ディーン・フジオカ 撮影:奥田耕平
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すべて見る本格サイエンスミステリーとして話題を呼んだドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル』。現在はSeason2がHuluにて独占配信中だ。
警察官僚・小比類巻祐一と、科学界を離れた天才科学者・最上友紀子、ベテラン刑事・長谷部勉で構成される科学犯罪対策室。彼らが向き合うのは、法整備や警察機構の対応が追い付かない、最先端科学にまつわる犯罪だ。Season2では新たなキャストも加わり、新たな事件へと立ち向かっていく。
小比巻類を演じるディーン・フジオカに、作品の魅力、自身の役との向き合い方について聞いた。
パンドラの果実という作品に「関われたことが幸せ」
Season1と2、同時進行で進んでいた撮影。そのため、自身の中で撮影に関しては区切りというものはなかったと言うが、「一視聴者として、Season1の最後にふさわしいエンディングだったと思う」とディーン。
「いわゆるSeason1の最終章と言われる8話から10話は、加速していく物語の展開だったり、アクションのスケールだったり、アドレナリンが出るようなスリリングなものになっていましたね」
そして、今作の監督を務めた羽住英一郎の映像作品に参加できた喜びを口にした。
「今回の作品のようなトーンは、今の日本のテレビドラマではなかなか観られない気がしていて。自分も俳優部として、チームの一員として関わらせてもらっていることがすごく幸せだな、と思いました。現場にいると展開がすごく早いんですよね。羽住組の精鋭部隊が現場を回していく。もちろん、監督ひとりではできないことであって、毎週ドラマが放送されていくペースの中で、チームの構造がすごいな、と」
Season1の最終章では激しいアクションシーンもあった。
「アクションシーンに関してはすごく大規模だな、と思いました。これまでの日本の現場ではない空間の広さがありましたね。特に、小比類巻と西城(平山祐介)とのシーンはいろんな重機を用意して、火まで焚いて、ワイヤーもあって、とかなり大がかりなものだったんですよ。手数から考えると、普通のドラマの現場ではなかなか捌ききれない分量なんですよね。アクションってすごく時間がかかるから。それをやろうと思っているのもすごいな、と思いました」
しかし、アクションシーンを撮り終える直前でハプニングがあり、撮影は中断。最後のシーンは間を置いての撮影となった。
「繋がりのシーンを飛ばして、もともとなかった場所で、なかったシークエンスを撮ったんです。それでも、仕上がりを観たときに遜色のない形になっていて驚きました。現場での羽住監督の判断力がすごい。どういうふうに組み直して、どういう編集をすれば成立するかを一瞬で判断しているんでしょうね。高次元での視野で部隊を統率しているのを感じました」
ハプニングが起きても、どこでどうやればリカバーできるかという計算がなされているのが感じられると言う。それは監督の頭の中に、どんな映像を作っていくか、という確固たるものがあるからだ。
「それを支える撮影部や照明部とか、データのやりとりや、伝達、現場でのVFXのCGの逆算の仕方だったり……どれも統率されたものなんですよね。でも、みんな効率よく楽しく撮影をしていて。羽住さんはずっとニコニコしているし。大規模なアクションのシーンを撮ると、現場の底力を感じるんですよね。本当に勉強になりました」
意識した「公」と「私」の演じ分け
エリートとして警察庁に入庁し、新しく設立された「科学犯罪対策室」の室長を任された小比類巻。一方で、愛する妻を亡くし、シングルファザーとして幼い娘を育てている。そんな小比類巻を演じる上で意識していたのはどんなことだろうか。
「警察官は、公共のために尽くす人間だと思うので、生活臭というか、個人的なカラーが見えないように意識しましたね。新しい部署を作って、しかも人の命を扱うような場所で、凛としている、1本筋が通っているのはしっかり出したいな、と思って。それができるのは、きちんと家庭の部分が小比類巻も描かれているから」
殺伐とした事件のシーンが多い作中で、小比類巻の家での様子、娘と過ごす様子はホッと息がつけ、和める。
「プライベートの部分では1人の夫として、父親として、1人の人間としてナチュラルにいられるからこそ、仕事のときはピシッとできるという。『公』と『私』の演じ分けというのは、Season1から2を通してずっと一貫してやっている部分ですね」
公と私がしっかり分かれていたからこそ、事件が起こる中でその境界線が揺らいでいくさまは人間臭く、共感を呼ぶ。
「いい夫であり、いい父親であり、でもそれが現代社会の大多数から見ると普通ではない行動を取ってしまったり。小比類巻は、愛ゆえに妻を冷凍保存をするという選択をしているので。最終的にはその愛の深さゆえに、娘を守るためのアクションに繋がっていく。でも最初に、明確に小比類巻の筋が通っている部分を作っておくほうが、あとでその境界線が見えなくなったり、崩れていくのがドラマチックになるな、と思いました」
現場でまさかのミット打ち!?
Season2では吉本実憂演じる新人捜査官・奥田玲音が加わる。
「シーズンを重ね、新たな科学犯罪対策室のメンバーが加わることで、物語的には視点が増えるというんですかね。オーディエンスの方が、そういう見方があるんだ、という新しい角度の視点がSeason2の序盤では生まれたと思います」
そんな吉本とは「自分も体を動かすのが好きなので、現場でミット打ちをしたりとか」と言う。そういったこともあり、楽屋での空気感が少し変わったという。
「以前だったら、自分はトレーニング道具を現場に持ち込まなかったんですけど……。実憂ちゃんがアクションに対して前のめりで。いろいろと持っていくと喜ぶんですよ(笑)」
いろんな武器を集めているというディーン、吉本からの「見たい」というリクエストに応えて自身の中国剣を持っていったことも。
「見せたら、『私の?』っていきなり言われましたからね(笑)俺のなんだけどな』って。新手のギャングだな、と(笑)。でも記念に刀を1本プレゼントしました」
そう言いながら、楽しげに微笑む。人に教えるのは嫌いじゃない、というディーン。中国剣を持って行った際も、どう演舞するか型を見せて吉本にやってみて、と促す場面もあったそうだ。
「すごく向上心があるんですよね。いろいろなことを学びたいというので、人体の構造から話をしたり。勘がいいから、すぐにできるようになる。教え甲斐がありましたよ」
実はSeason1の現場では最上役を演じる岸井ゆきのにも教える場面があったという。体の筋を痛めた岸井にどこを伸ばしてバランスを取れば治るとアドバイス。実際に岸井の調子は回復したそうで、「体の隅から隅まで知り尽くしている」という現場からの証言に、「勉強するのが好きなんです」と照れくさそうに微笑んだ。
ディーンが表現する「人間らしさ」とは
「科学を信じる」ということと同時に、ドラマのひとつのキーワードとなっているのが生と死。事件の中で命を落としていく者がいる。一方で小比類巻は妻の死が受け入れられず、妻の遺体を冷凍保存し、科学の未来に望みを託している。ディーン自身はそんな小比類巻と、生と死と、どのように向き合ったのか。
「医学的には死亡した、という判断が下されている命を延命しようとする努力をしているようには見えないほうがいいな、と思ったんです。何かに対して執念とか、執着みたいなものを持って、自分の弱さゆえにその行動を取っているように見えるのは嫌だな、と。でも、逆に全くないのも嫌だな、と思ったんですよ。それがひとりのキャラクターをポートレートする上で、すごくリアルだな、と。人間は生きていく上で、何かを得ると何かを失っている。前に進めば、そこで何かを得るけど、選ばなかった機会損失はある。どこかのタイミングでは自分にとっては、ネガティブな選択をしたとしても、その後、それによって得られたことの方が大きかったかもしれない。もしかしたら自分としては正しい選択をしたと思っていても、意外ともっとチャンスがあったのに気づかなかったとか……分からないですよね」
そんな中で、「それでも自分は科学の光の方を信じる、と言っている小比類巻の言葉は、綺麗事とかじゃないし、自分が自分でいるために、どうしても必要であるから、それを選んでいる」と小比類巻を分析する。そして、ドラマの主題歌でディーンが歌う『Apple』のコアになっている部分でもあるという。
「言葉で言うと神と悪魔……そういうとなんか『善と悪』みたいになってしまうからうまく伝わるか分からないんですけど、よくプロコン(Pros & Con)っていうじゃないですか。ひとつのことを考えるときに、プロがあってコンがあって、意外とプラスの面とマイナス面や、その間で揺れている。それでも、自分はこれを選ぶ、という決断を常にし続けている、選び続けてるって、なんだか……一番、生(なま)な部分。そこが楽曲で表現できたらいいな、と。緊張感であったり、究極の選択みたいなものを、生理現象として体験してもらえたらいいなと思って、楽曲を作りました。なので、ぜひ聴いてください(笑)」
地上波からHuluへと場所を移し、ますます大きいスケールで動いていく物語。ダイナミックさに目を奪われがちだが、その中でも細かな人間の心の揺れも見どころのひとつだ。次々と起こる事件の中で、ひとつの芯を持って佇む小比類巻の姿が作品の「芯」になっているのは間違いない。
Huluオリジナル「パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜」Season2は、Huluで独占配信中
取材・文=ふくだりょうこ 撮影=奥田耕平
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