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映画と働く 第12回 予告編ディレクター:今井あき(前編)「映画を観るきっかけになる映像を作りたい」

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今井あき

1本の映画が作られ、観客のもとに届けられる過程には、監督やキャストだけでなくさまざまな業種のプロフェッショナルが関わっている。連載コラム「映画と働く」では、映画業界で働く人に話を聞き、その仕事に懸ける思いやこだわりを紐解いていく。

第12回となる今回は予告編制作会社ガル・エンタープライズで働く今井あきにインタビューを実施した。予告編ディレクターとしてこれまで「あなたの番です 劇場版」や、「エル プラネタ」といった映画の予告編を制作してきた今井。映画館やテレビなどで私たちが目にする予告編はどのように作られているのか。前編では制作の裏側に関する話を聞いた。後日掲載する後編では、得意とするテロップワークや予告編ディレクターとして働くやりがいについて深掘りしていく。なお本コラムに登場する特報・予告編のYouTubeリンクはすべて今井が担当した作品だ。

取材・文 / 小宮駿貴 題字イラスト / 徳永明子

映画を観るきっかけになる映像を作りたい

──このたびはコラム企画にご協力いただきありがとうございます。

「映画と働く」のコラムは知っていて、今までのインタビューも読ませていただいていたので、オファーを受けて真っ先に手を挙げました。本当はもっとベテランディレクターのお話を聞きたかったと思うのですが、若手ですみません(笑)。

──こちらこそうれしいです! 経歴を拝見させていただきましたが、東宝宣伝部を離れて予告編ディレクターとして活躍されているのですね。なぜ予告編ディレクターの道を選んだのでしょうか?

私が東宝宣伝部で働いていたときに、オフィシャルYouTubeに予告編をアップする作業や媒体さんに予告編の素材を送ることもしていたので、自然と予告編に触れる機会が多かったんです。もともと映像の制作は学生時代や前職でしていたので「この予告編いいな! 作りたいな!」と日頃思っていて。映画が公開されるたびに取るアンケートの中に、「この映画を観ようと思ったきっかけは?」という質問があるのですが、「予告編を観て決めました」という答えがいつも上位に挙がっていて、それだけ映画の宣伝において予告編は大事なものなんだと感じました。誰かの映画を観るきっかけになる映像を作りたいと思い、宣伝部の仕事もすごく楽しかったのですがやりたいことにトライしたいと思って転職しました。

──ガル・エンタープライズは前職からのお付き合いがあって入社されたのですか?

私は面識がなかったのですが、宣伝プロデューサーの社内ボードによく「ガル」と書いてあったので存在自体は知っていました。会社の先輩に「予告編を作りたい」と話したら、ちょうどガルが人を募集していることを知ったのが始まりですね。

「最後どうなるんだろう」と思いながら制作に着手することも

──そうなんですね。では本題である予告編の制作についてお話をお聞きしたいのですが、予告編はどのように作られて映画館やテレビで流れているのでしょうか。

作品にもよりますが、基本的には「特報」という30秒の短めな映像からスタートして、そのあとに主題歌やキャストなどもっと情報が入った60秒や90秒の「本予告」を世に出しています。最初に映画の配給会社さんや宣伝会社さんからお仕事の依頼をいただき、そこからミーティングで映画の概要や宣伝方針、ターゲットなどを伺って、早くて1週間くらいでラフを作ります。その後、修正を何度か経て、いろんな人のチェックがあってOKが出たらスタジオで完パケ。そして1週間から2週間後に解禁という流れになっていますね。

──なるほど。

スムーズに行けば、最初にミーティングをしてラフを出し、1カ月から2カ月くらいで制作していく感じです。本編が完成しているときもあれば、まだ制作中のものもあるので、やり方や期間が作品によってさまざまになりますね。洋画だと本国の映画製作会社にチェックを出さないといけないので、その分時間がかかります。

──邦画と洋画ではスパンが異なるのですね。

洋画はまるっと本編の素材をもらえるときもあれば、2、3分程度のオリジナル予告から日本用に短くした「カットダウン予告」を作ることもあります。私は邦画を担当することが多いのですが、久しぶりに洋画やアニメを担当すると素材のタイプがまた変わってくるので新しい仕事をする感じで楽しいです。

──映画本編を鑑賞してから制作するのがベターなのでしょうか?

本編が完成していれば鑑賞して、それから着手するのがノーマルな作り方ですね。1度目は普通に観客として観て、2度目は予告編に使えそうなシーンやセリフを抜く作業をします。最低でも2、3度は観るようにしています。撮影中の作品の場合は「はい、シーン54スタート!」「はい、カット!」というような撮影素材がまるまる送られてくるのですが、それがすごい量で(笑)。1本の映画としてつながっていない素材なので、同じシーンが何個もあって、そこから選ぶのはけっこう大変な作業です。もらったシーンが本編のどこに登場するのかは脚本を読んで推測しています。断片的に本編を観ているので「最後どうなるんだろう」と思いながら制作に着手することもありますね。

──アニメ作品の場合はいかがでしょうか。

アニメはもっと時間がかかりますね。脚本や絵コンテから欲しい素材を選んで構成案を練ります。リストアップした絵コンテをアニメーションにしていただく必要があり、それを“先行カット”という言い方をするのですが、アニメーション制作会社さんにチェックしてもらい、リストの中からスケジュール的に描けるか描けないか判断していただきます。1、2カ月かけて予告先行カットを制作いただき、それをもとに予告編を組む作業に入ります。ですが、その素材はまだセリフや音が入ってない状態なので、そのあとにアフレコをしないといけなくて……。

──めちゃくちゃ大変ですね!

やはりアニメの制作は実写とまた全然違いますね! なので、予告編用に本編より先にセリフを収録するので、たまに本編と予告編の言い回しが違うこともあって……。あと最初の絵コンテがモノクロだった場合、日が差している絵だと思っていたら暗かったとか、戦って傷だらけの絵だと思っていたらそうじゃなかったとか、イメージしていたものと違う素材が届いたときはどうしようってなります(笑)。

いい曲って使いたくなるんですよね

──大変な苦労があるんですね……! 大きく「予告編の制作」についてお話を伺ってきましたが、普段予告編を観ていて気付いたことがいくつかあります。まずは主題歌やBGMといった音楽について。稀に劇中では使用されていない楽曲が使われていることがありますよね?

ありますね。それを私たちは“選曲”と呼んでいます。予告編用に曲を作っている海外のレーベルさんがあって、いくつかアルバムを出していて、私たちは日本の代理店と契約して曲を使っています。たくさんある曲リストの中からひたすら聴いて「これ!」と思ったものを予告編で使う。本編ができていれば“劇伴”という劇中で流れる曲を使ったりするのですが、劇伴がまだ完成していないときや、盛り上がりのある曲とかドラマチックな曲とか、劇伴とは違う雰囲気の曲がいいなというときは選曲を使っています。劇伴や主題歌が出せない場合も選曲リストから使っているので被ったりしますね。たまに「この曲どっかで聴いたことあるな」という経験をされたことがあるかと思います。いい曲って使いたくなるんですよね。

──映画好きな方は選曲被りに気付くことが多いのかもしれないですね。

そうですね。予告編を作っている人はみんな気付くと思います(笑)。予告編が解禁されたら担当外の作品も観るので、「聴いたことある」とか「昔使ったことがある」と思うこともたまにありますね。極力、新曲から選ぶようにしていて、被らないように日々いい曲を探しています(笑)。

予告編用に収録したカットが本編で使われる逆パターンも

──選曲のほかにも、稀に本編には登場しないシーンが予告編に含まれていることがあります。

1つ目の理由は、本編が完成していない素材から予告編を作ると本編では最終的にカットされちゃった、みたいなことがシンプルでわかりやすいかなと。2つ目は本編とは別で予告編用に撮影するパターンがあります。

──予告編のために撮影・収録したカットがある?

はい。クランクイン前や、まだ撮影が始まったばかりのときは予告編用に撮影・収録することが稀にあります。「ブラック校則」を担当させていただいたとき、撮影と同時に特報を作ることになり、数日分の撮影した素材がガーッと来て、そこから30秒の特報を作ったのですが、佐藤勝利(Sexy Zone)くんが光に向けてずっと目を開けているカットがあって。すごく眩しいから「カット!」って言われた瞬間に目をぎゅっと閉じるんです。その顔がすごくよくて、カットがかかったあとの表情だったので本編では使われない素材だったのですが、思い切って特報で使ってみました。それがプロデューサー陣にも評判がよく、最終的に本編でその表情が使われる逆パターンもありました。めったにない経験だったのでうれしかったです!

──予告編用に収録したカットが本編に使われる逆パターンもあるんですね! あと洋画の場合、字幕の内容が本編とは異なるケースがありますが、どういった意図があるのでしょうか。

特報や予告編は尺が短いので、字幕を読み切れるように、視認しやすいようにキュッとすることは多いです。あとはシーンを切り取ってつないでいるので、意味が大きくかけ離れない程度にアレンジを加えています。最終的な本編の字幕は翻訳家さんが付けてくださるのですが、本編が完成していない場合は宣伝部さんが当てた字幕をベースにすることも。宣伝部さんと「もうちょっと短くしますか」とか、「こっちの言い方がわかりやすいんじゃないか」という話し合いをして予告編用の字幕を作っています。字幕の内容が本編とは異なるのは、翻訳している人が違うのが大きいと思います。

効果的なセリフを目立たせることを意識

──字幕のお話を伺っていて気付いたのですが、そのシーンには登場しないセリフが当てはめられていることもありますよね。

ありますね。洋画に限らず邦画やアニメにもあります。効果的なセリフを効果的な画に当てはめる。この表情にこのセリフを、このシーンにこのセリフを当てたほうが、予告編の尺の中で面白いんじゃないか、伝わりやすいんじゃないかと思うことがあり、セリフに口パクが合っていないときもありますが、うまく合うように編集して、あたかもそのシーンで言っているかのように工夫しています。詐欺っぽいと言われることもありますが(笑)、予告編制作の手法の1つとして用いることがあります。

──いい予告編を作るためのテクニックなんですね。

例えば、「ハニーレモンソーダ」の予告編の真ん中あたりに「変わりたい……」「俺も」というセリフが登場します。それは本編では序盤に登場するセリフなんです。原作でもすごく印象的なシーンで、作品のテーマとして肝になるセリフだったので、それを予告編の頭で登場させるよりも、もっと有効的に立たせたいなと思って。シーンは違うのですが、予告編の真ん中、音楽が切れたところで登場させて、そのセリフを目立たせることを意識して作りましたね。

──なるほど! 貴重なお話ありがとうございます。

今井あき(イマイアキ)

予告編ディレクター。ガル・エンタープライズ所属。テロップワークを得意としている。これまで制作した主な作品は「鳩の撃退法」「あなたの番です 劇場版」「エル プラネタ」、2022年9月9日公開の「グッバイ・クルエル・ワールド」など。