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「八月納涼歌舞伎」初日公演レポート 手塚治虫原作『新選組』や夏の風物詩「弥次喜多」を上演

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第一部『新選組』左より、土方歳三=中村七之助、深草丘十郎=中村歌之助、近藤勇=中村勘九郎、鎌切大作=中村福之助 提供:松竹(株)

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松本幸四郎、市川猿之助、中村勘九郎、中村七之助そして坂東彌十郎、中村扇雀と毎年“納涼歌舞伎”を彩ってきた出演者に、フレッシュな花形が加わった歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」が8月5日に開幕した。ここではそのレポートをお届けする。

第一部は、手塚治虫の漫画が初めて歌舞伎になるとあって初日前から話題の新作歌舞伎『新選組』。原作の漫画『新選組』は昭和38(1963) 年1月から10月まで『少年ブック』で連載された作品で、“漫画の神様”とも称される手塚治虫が生み出した魅力的なキャラクターが活躍する歴史ドラマ。本公演では主人公の深草丘十郎を中村歌之助、その親友・鎌切大作を中村福之助が勤める。

第一部『新選組』左より、深草丘十郎=中村歌之助、鎌切大作=中村福之助

時は幕末。父親の仇を討つため新選組に入隊した深草丘十郎と謎を秘めた少年剣士・鎌切大作の友情と少年の成長を軸に物語は展開。幕が開くと、舞台には漫画の世界を現した印象的な舞台美術が配され、手塚治虫の漫画でおなじみのキャラクターも舞台の随所に散りばめられていた。歌舞伎座初主演となる歌之助は登場の瞬間から溌溂と丘十郎を演じ、瑞々しい姿で客席を魅了。「苦難を乗り越えていく丘十郎というひとりの少年の姿を通して、お客様に何かを感じ取っていただければ」と真摯に語った思いを感じる熱演を見せた。丘十郎の親友・大作を演じる福之助は「手塚先生が描いた鎌切大作という人物になるべく近づけるよう、大事に演じたい」と語った通り、自身にぴったりと合った大作を丁寧に舞台上に表現し、丘十郎との対比がそれぞれのキャラクターをより印象的にしている。

兄弟だからか何事も「間」が合う、と話していたふたりによる息の合ったスピード感のある立廻りや、汁粉屋でほっとひと息つく姿も印象的。様々な経験を重ね成長していく若者たちを見守る中村勘九郎演じる近藤勇、中村七之助演じる土方歳三ら新選組隊士たちひとり一人の存在が物語を深め、芹沢鴨を演じる坂東彌十郎と坂本龍馬を演じる中村扇雀が舞台上に現れるとグッと舞台の密度が上がった。

第一部『新選組』左より、近藤勇=中村勘九郎、深草丘十郎=中村歌之助、鎌切大作=中村福之助、土方歳三=中村七之助、沖田総司=中村虎之介

客席には若い世代の観客も多く、これまで納涼歌舞伎を盛り上げてきたメンバーと若い花形メンバーの新しいものを作り上げていく団結力を感じる、“納涼歌舞伎”らしい公演に客席からは大きな拍手が送られた。

続いては、妖怪たちが活躍する舞踊『闇梅百物語(やみのうめひゃくものがたり)』。舞台は『百物語』が行われているとある大名屋敷。辺りが怪しげな雰囲気に包まれると、宙に浮く一本足の傘に、狸や河童など個性豊かな妖怪たちが次々と登場。艶やかな美しさの雪女郎(中村七之助)に続けて中村勘九郎、中村勘太郎、中村長三郎が演じる骸骨たちが登場すると可愛らしくもユーモラスな姿に会場は大盛り上がり。最後に現れたのは百鬼夜行の読本を持った読売。実はこの読売の正体は……。『百物語』の怪異に始まり、個性豊かな妖怪たちの踊りなどみどころが続く夏にぴったりの演目となった。

第一部『闇梅百物語』左より、河童=中村虎之介、傘一本足=中村種之助、狸=中村橋之助

松本幸四郎、中村勘九郎の組み合わせで35年ぶりの上演

第二部は、『安政奇聞佃夜嵐(あんせいきぶんつくだのよあらし)』で幕を開ける。本作は明治の初めに実在した脱獄事件をもとに、大正3(1914) 年に古河新水(十二世守田勘弥)が、時代設定を世情不安定な安政期に改め、書き下ろした世話物。六世尾上菊五郎と初世中村吉右衛門、二世尾上松緑と十七世中村勘三郎、当代菊五郎と二世吉右衛門といったコンビで上演されてきた本作を、今回は松本幸四郎の青木、中村勘九郎の神谷という組み合わせで実に35年ぶりに上演される。

第二部『安政奇聞佃夜嵐』左より、神谷玄蔵=中村勘九郎、青木貞次郎=松本幸四郎

舞台は冬の人足寄場。苦役の日々を過ごす青木貞次郎と神谷玄蔵は隅田川を渡り島抜けしようと計画する。泳ぎが得意な青木と泳ぎが苦手な神谷のふたりが何とか隅田川を渡っていく場面では、幸四郎と勘九郎のコンビならではの面白み溢れるやりとり、どこか憎めない可愛らしさすら漂う様子に会場もクスリ。「幸四郎さんと僕の強みのひとつは可愛らしさだと思っています。」と勘九郎が話した通りのチャームポイントを活かした絶妙なコンビの魅力を見せた。

第二部『安政奇聞佃夜嵐』左より、青木貞次郎=松本幸四郎、神谷玄蔵=中村勘九郎

ともに脱獄を果たしたふたりは路銀調達のため悪事を重ねると、青木は神谷と別れ故郷甲州へ。そこで青木は渡し守の義兵衛一家と出会うが……。これまでの上演でも人気を博したふたりが川を泳いで脱獄する場面は一面に浪布を使った歌舞伎ならではの演出も必見。そして前半の脱獄劇から物語は進み、親の仇討ち、埋蔵金も絡み合い後半に進むにつれて予想外にスリリングな展開を見せていく。「生の舞台で、勘九郎さんと僕のふたりの芝居で芸をお見せして、歌舞伎を堪能していただきたい」と幸四郎が初日に向けて寄せたコメントの通り、最後の最後まで見逃せない見ごたえのある物語、歌舞伎らしい演出で客席を魅了した。

続いては、澤瀉十種の内『浮世風呂(うきよぶろ)』。「澤瀉十種」のひとつで、洒落た味と軽快な動きがみどころの舞踊だ。小粋な三助政吉を市川猿之助、艶っぽい女なめくじを市川團子が勤める。幕が開くと、朝日が差し込む風呂屋でせわしなく働く三助政吉。風呂屋で働く三助の粋な様子を猿之助が軽快に見せていく。そこへいつのまにやら現れたのは、女の姿をしたなめくじ。なめくじは粋な三助に惚れ、口説きにかかりるが……。惚れた三助にすり寄っていくなめくじの様子や、それに驚き逃げる三助の滑稽さが面白く、テンポよく踊り進めていく様子が目にも耳にも心地よいひと幕に客席からは大きな拍手が送られた。

第二部『浮世風呂』左より、三助政吉=市川猿之助、なめくじ=市川團子

本水の演出も復活した夏の風物詩『弥次喜多』

第三部は『東海道中膝栗毛 弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)』。弥次郎兵衛と喜多八が東海道を旅する『東海道中膝栗毛』を下敷きに平成28(2016) 年より松本幸四郎の弥次郎兵衛、市川猿之助の喜多八という新たなコンビで練り上げられ、毎年上演されてきた本作。今では歌舞伎座の夏の風物詩となっている。

3年ぶりの歌舞伎座での上演となる今回は、前回、伊勢神宮の花火で天高く打ち上げられてしまった弥次喜多のふたりが辿り着いた遠く離れた無人島から始まる。弥次喜多のふたりは無人島から何とか長崎までたどり着くと、古巣である歌舞伎座の閉館の危機を救うため歌舞伎座を目指す。幸四郎と猿之助の弥次喜多は今回も安心感ある名コンビぶりを発揮。久々の上演とあって、ふたりが舞台上に登場すると客席からは「待ってました!」と言わんばかりの熱烈な拍手が送られた。

第三部『弥次喜多流離譚』左より、弥次郎兵衛=松本幸四郎、喜多八=市川猿之助

ふたりは冒頭の場面から阿吽の呼吸で縦横無尽に舞台を駆けまわり、観客を奇想天外な“弥次喜多ワールド”に引き込む。歌舞伎ファンなら「あっ!」と気づく名作のパロディがいたるところに盛り込まれ、予想外の展開に驚きの連続で飽きる間が無く次の場面へ。好評を博した配信版の図夢歌舞伎『弥次喜多』の舞台“家族商店”の登場も見逃せない。弥次喜多シリーズに欠かせない市川染五郎と市川團子のふたりは、これまで演じてきた梵太郎と政之助に加え、今回弥次喜多シリーズでは初の女方の役にも挑戦し、早替りで二役を華麗に演じ分ける。染五郎演じるオリビア、團子演じるお夏が、ともに可憐な姿を見せ淡い恋模様を描く場面もあり、これまでにない新たな魅力を発揮した。

第三部『弥次喜多流離譚』左より、弥次郎兵衛=松本幸四郎、娘オリビア=市川染五郎、娘お夏=市川團子、喜多八=市川猿之助

歌舞伎座ではコロナ禍以降初となる本水の立廻りも解禁。大量の水を使った滝の中を弥次喜多のふたりが激しく立廻り、涼を感じる演出に客席は大興奮。「弥次喜多」シリーズおなじみのメンバーも総出演で久々の歌舞伎座での上演を盛り上げる。今年92歳となる市川寿猿もゴンドラでの宙乗りを披露(ギネス申請中とのこと!)し、元気な姿を見せた。弥次郎兵衛、喜多八、そして梵太郎、政之助の4人が宙乗りを披露すると、客席の盛り上がりは最高潮に。コロナ禍からの復活への願いを込めた舞台に客席は明るく晴れやかな空気に包まれた。

第三部『弥次喜多流離譚』家族商店店長寿知喜=市川寿猿

写真提供:松竹(株)
※無断転載禁止

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