Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 国立新美術館で李禹煥の大回顧展が開幕 50年以上にわたる創作の軌跡を展観

国立新美術館で李禹煥の大回顧展が開幕 50年以上にわたる創作の軌跡を展観

アート

ニュース

ぴあ

《関係項—アーチ》2014/2022年 作家蔵

続きを読む

フォトギャラリー(13件)

すべて見る

「もの派」を代表する作家として活躍し、国内外で注目を集める作家、李禹煥(リ・ウファン)。彼の東京では初めて、国内でも17年ぶりとなる大規模回顧展『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』が、11月7日(月)まで国立新美術館で開催されている。

李禹煥は、韓国の慶尚南道生まれ。ソウル大学校美術大学に入学後、1956年に来日、日本大学文学部で哲学を学んだ後、60年代後半より本格的に制作活動を開始する。2010年代以降はニューヨークのグッゲンハイム美術館や、フランスのヴェルサイユ宮殿、ポンピドゥー・センタなどで個展も開催し、国際的にその動きが注目されている作家だ。同展は、李禹煥本人が自ら展示構成を考案。彼の仕事やその歩みが網羅的に紹介されている。

壁面左:《第四の構成B》1968/2022年 作家蔵、中央手前:《関係項》1968/2019年 森美術館蔵  壁面右:《第四の構成A》1968年作家蔵

展覧会は、彫刻作品と絵画作品の2セクションにおおまかに分かれ、それぞれが時系列的に展示される。

1968年頃から制作されている「関係項」は、石や鉄、ガラスを組み合わせた立体作品のシリーズ。これらの作品にはほとんど手が加えられておらず、ものと空間の関係、ものともの同士の関係、ものとイメージの関係に着目したものだ。

5枚の鉄板で構成された《関係項(於いてある場所)Ⅰ 改題 関係項》は、それぞれの置かれた状況により、その形状が異なっている。床にそのまま置かれたもの、立てかけられ、たわみが生じたもの、それぞれの状況から鉄がもつ硬質さ、剛性などを感じ取れる。《現象と知覚B 改題 関係項》は、ひびの入ったガラスの上に岩があることで、それぞれの素材の強さやもろさ、不透明なもの、透明なものなど素材の特性を対比的に提示している。

奥:《関係項(於いてある場所)Ⅰ 改題 関係項》1970/2022年 作家蔵 手前:《関係項(於いてある場所II)改題 関係項》(部分) 1970/2022年作家蔵
手前:《現象と知覚B 改題 関係項》1968/2022年 作家蔵

年代が進むにつれ、李の作品は、サイトスペシフィック(建物や地理的状況など、作品が置かれる場所の特性や環境を考慮に入れること)的な傾向を強めている。《関係項―棲処(B)》は、2017年にル・コルビュジェの設計したフランスの修道院、ラ・トゥーレット修道院で発表されたもの。《関係項―鏡の道》は、もともとは同じくフランスのアルル、アリスカン墓地で発表された屋外作品だ。鑑賞者は中央の鏡張りの道を歩き、足元の変わりゆく風景を眺めながら移動する。

《関係項―棲処(B)》2017/2022年 作家蔵
《関係項―鏡の道》2021/2022年 作家蔵

野外展示場に展示された新作《関係項―アーチ》は2014年にヴェルサイユ宮殿で公開された作品を原型としたもの。アーチをくぐりぬけると、それまで見えていた日常の空間が新鮮な非日常への空間へと変わるという、鑑賞者の見えるものの変化を狙った作品だ。

《関係項—アーチ》2014/2022年 作家蔵

70年代からの取り組んだ絵画作品の変遷

絵画作品の展示も、李の意識の変化と時間の流れをつぶさに感じ取れる構成となっている。ヨーロッパ、アメリカへの旅行を経て1970年代から絵画作品に取り組み始めた李は、たっぷりと絵の具をのせた筆を規則的にキャンバスに載せていく「点より」、「線より」のシリーズで、作品のなかに時間を表現することを試みた。

左:《点より》1973年 いわき市立美術館蔵 中央:《点より》1977年 東京国立近代美術館蔵 右:《点より》1975年 国立国際美術館蔵
左:《線より》1977年東京国立近代美術館蔵 右:《線より》1973年 東京都現代美術館蔵

そして、李の絵画作品は彫刻作品と同様に、時代を経て大きく幅を広げていく。80年代からスタートした「風より」シリーズなどでは李の筆致は荒々しくなり、対して2000年代からの「照応」のシリーズなどでは、ストロークはわずかにとどまり大きな余白を見せる作品となる。

左 :《風より》1985年 豊田市美術館蔵 右:《風より》1983年 神奈川県立近代美術館蔵
左:《照応》1992年 神奈川県立近代美術館蔵 右:《照応》1992年 神奈川県立近代美術館蔵

展覧会の最後に展示されているのは、展示室の壁に直接描かれた「対話」シリーズの新作《対話─ウォールペインティング》だ。繊細なグラデーションや、近づいて見ないとわからない筆のタッチなどを、実際に見て楽しんでみよう。

《対話─ウォールペインティング》2022年 作家蔵

ちなみに、国立新美術館のエントランス近くにも李禹煥の作品が展示されている。《関係項─エスカルゴ》は作品の中心部分まで足を踏み入れることができる作品。中がどのようになっているか、こちらも実際に訪れて実感してみよう。

《関係項─エスカルゴ》2022年 作家蔵

1960年代より、50年以上にわたり「もの派」を牽引し、ものともの、ものと人との関係を問い続けてきた李禹煥。その代表的な作品を網羅した貴重な展覧会をぜひとも体験してほしい。



取材・文:浦島茂世



【開催情報】
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』
2022年8月10日(水)~11月7日(月)、国立新美術館にて開催
https://leeufan.exhibit.jp/

フォトギャラリー(13件)

すべて見る