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阿部寛×内田英治が語る若手世代とのコミュニケーション術「環境や時代の変化は考え方ひとつでどうにでもなる」

映画

インタビュー

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左から)阿部寛、内田英治 撮影:奥田耕平

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年をとると、どんどん意固地になるもの。自分のやり方に固執し、時代や環境の変化に取り残され、いつしかお払い箱になる。今までの自分の人生は何だったのだろうと悩む人も少なくない。

8月26日(金) 公開の映画『異動辞令は音楽隊!』の主人公・成瀬司もその1人だ。30年間、現場一筋でやってきた鬼刑事が、ある日突然警察音楽隊に異動に。自分の居場所はここじゃない。輝かしい過去の栄光が忘れられない。未知の環境で成瀬はもがき、くすぶり続ける。

けれど、そこで成瀬は終わらない。世代も価値観も異なる音楽隊の仲間とふれ合うことで、少しずつ新しい自分に生まれ変わっていく。50歳を過ぎてなお変わろうとする成瀬の姿は、きっと多くの人の心を打つだろう。

そこで今回は、主人公・成瀬司を演じた阿部寛と、監督の内田英治に、変化とどう向き合うか、世代の違う人たちとどう接するかについて語ってもらった。2人は共に50代。でもそのマインドは柔軟で瑞々しい。第一線を走り続けるトップランナーの姿勢から、きっと何かを学べるはずだ。

苦手なことをやるのはワクワクする

――主演・阿部寛さん、監督は内田英治さん。誰もが観たいと思う組み合わせが実現しました。

内田 僕は、最初阿部さんは絶対出てくれないだろうなと思っていました(笑)。

阿部 何でですか(笑)。

内田 いつかお仕事してみたいとは思っていましたけど、大きな舞台で活躍されている方なので現実味がなかったんですよ。だから、最初にやっていただけると聞いたときは嘘だと思いました(笑)。

阿部 僕はうれしかったですよ、『ミッドナイトスワン』の内田監督だって。ぜひお仕事をご一緒してみたいと思っていましたし。

内田 最初にお会いしたのが(製作幹事・配給の)GAGAの会議室で。そこに阿部さんが現れて、ようやく本当に出てくれるんだって現実感が湧いてきました。

阿部 これ、監督にいつも言われるんですよ。阿部さんが出るとは思わなかったって。

内田 大作のイメージが強いんでしょうね。言われてみると、結構チャレンジングな海外作品に出てたりするんですけど。こうやってお付き合いしてみて、チャレンジングスピリットが旺盛な方なんだなってわかりました。

――実際、阿部さんは楽器未経験。別のインタビューで「通常だったら断っている役」とおっしゃっているのを読みました。そこを引き受けられたのはどうしてだったんでしょう。

阿部 ドラムという楽器には毛嫌いに近い苦手意識があった。でもそういう自分が苦手なことをやるのは見たこともない景色、会ったこともない人間に会えるという意味ではワクワクする。後は監督ですね。この企画は監督がずっとやりたいと温めていたもの。それを僕でやりたいと言われたのは嬉しかった。どんな小さな作品でも関係ない。そこに情熱があるから喜んで受けます。

阿部さんには、世界を虜にするスケール感がある

――監督はどうして阿部さんにお願いしたいと思ったんでしょうか。

内田 日本の映画って若手中心のシステムなので、ある程度年齢を重ねてもずっと一線でやっている方となるとめちゃくちゃ少ないじゃないですか。阿部さんはその貴重な1人で。しかもこの間、ニューヨーク・アジアン映画祭で賞を獲られたときに改めて思いましたけど、海外の舞台に出ても一気に会場を虜にするスケール感があるんですよね。僕はいつも映画を撮るとき、日本という枠組みで見ていなくて、世界に通用するものをという意識が頭の中にある。一緒に日本を飛び出していける方ということを考えても、阿部さんしかないだろうと思いました。

――本編では、阿部さん演じる50代の刑事・成瀬が“ミッドライフクライシス(中年の危機)”に直面するさまが描かれています。監督の言う通り、確かに日本の映画は若手が中心です。その中で阿部さん自身も“ミッドライフクライシス”を感じる瞬間はありますか。

阿部 確かに外国の俳優さんて歳をとられてからも主演をやられていますよね。それは例えば、アンソニー・ホプキンスが出るか出ないかで配給の規模も変わるような世界的なブランド力があるからで、なかなか日本の中だけだとそうはいかない。ある程度、年齢がいったタイミングでがたっと仕事が減る。その危機感は自分にもあります。だからこそいつ現場に出ても、セリフぐらいは言える状態を維持していたいし、どんな役が来ても対応できるだけの鍛錬をしていこうというのはありますね。

内田 阿部さんのすごいところはこのストイックさなんですよね。これだけ長くやっていらっしゃったら、多少手を抜くところがあっても不思議じゃないと思うんですよ。でも、阿部さんは1ミリも手を抜かない。

阿部 たぶん(劇中で)走るところですよね。

内田 そうです。本番前から走られていて。

阿部 それはストイックなんじゃなくて、面倒くさいからなんですよ(笑)。息を切らしてる演技をしなくちゃいけない。それが嫌で。だったら本当に走って汗をかいておけば、そこの部分は芝居をしなくてすむ。横着なんです(笑)。

環境や時代の変化は、考え方ひとつでどうにでもなる

――現場一筋でやってきた鬼刑事の成瀬は、コンプライアンス第一の今のやり方に適応できず、捜査一課で居場所を失っていきました。こうした時代や環境の変化に、お2人はどう対応していますか。

内田 僕は時代の変化なんて考え方ひとつっていうことをこの映画で描きたくて。と言うのも、僕自身、子どもの頃は環境の変化が激しくて、子どもながらに戸惑った時期があったんですね。ブラジルで生まれ育って、10歳のときに日本に来たけど、ブラジル出身ということでいじめられたり嫌な思いをして。

でもあるとき、ブラジル出身であることをプラスに捉えようと考え方を変えたんです。みんなの前でも隠さず堂々と振る舞うようにして。そしたら、周りのリアクションもガラッと変わって、「まじで? すごい!」って話を聞いてくれるようになったんです。結局、考え方ひとつでどうにでもなるんだと学んでからは、環境や時代の変化も怖くはなくなりましたね。

阿部 確かにそうですよね。僕たち役者の仕事なんていうのは、3カ月に1回、環境が変わるわけですから。僕なんかは逆にひとつのところにずっととどまっていると辛くなる。だから、この仕事は性に合っているのかもしれない。

内田 それこそ阿部さんなんて毎回違うことばっかりやってますもんね。音楽隊になれば、ローマ人にもなる(笑)。

阿部 同じ役をやっていると息がつまってくるんですよね。特に30代の頃は脇役が多かったから、意識的にこういう役をやったら次は必ず違う役をとポンポンポンポンまったく違う役をやって。その感じが好きだったから、こうして主演をやらせていただいている今も、できればそうしていきたいと思っている。変化を恐れるんじゃなく、楽しめるといいですよね。

若い人にものを聞かれるのはうれしいんです

――もうひとつ映画にちなんで聞かせてください。映画の中で、成瀬と20代の若者たちの交流が描かれていました。お2人も現場で若い人と仕事をすることは多いと思いますが、世代の違う人とセッションをするときに気をつけていることは何ですか。

阿部 何かあります?

内田 僕はまったく世代の差を感じないんですよね。僕たちがいるのが映画の現場というのもあるかもしれないですけど、好きな映画の話をしたら、若い頃に僕らが観ていた映画と一緒じゃんなんてこともよくあるし。

阿部 なるほど。

内田 この間も、ある若い役者さんがウォン・カーウァイが好きだという話をしていてね。聞いたら、『パルプ・フィクション』とか『イージー・ライダー』とか好きな映画が全部一緒じゃんって。ものづくりの現場というのは、それほど世代は関係ないのかなあなんて気がします。

阿部 そうやって好きなものの話をするのはいいですね。

内田 そうですね。相手のことがよくわかるというか。

阿部 僕も現場で仕事の話はしません。僕から仕事の話をすると圧になるから(笑)、できるだけしないようにしていて。若い子と話すときは、僕は格闘技が好きなんで、それこそ格闘技の話とか。

内田 え。阿部さん、格闘技がお好きなんですか。

阿部 そうなんですよ。

内田 初めて知りました。だったらもっとネタがいっぱいあったのに(笑)。

阿部 本当ですか。ボクシングとか好きで毎週観てます。若い子もボクシングとかK-1とか観ている子が多くて。そういう共通の話題ができると接しやすくなるんじゃないかな。

――年をとると、つい「自分の若い頃はこうだったのに……」と小言を言いたくなりませんか。

阿部 いや、むしろ礼儀正しいですよ。今はネット社会なので、いろんなことを前もって勉強してくるし、それこそちょっと前までは、「芝居大丈夫か?」って言う若手がいて。逆にそうだよな、自分もそういう時期があったよなって温かい気持ちになったけど。今の子はみんなある程度できるから、何にも心配していない。自分のことに精一杯ですよ。

内田 (笑)。

阿部 それこそ僕なんかよりもいろんな監督と仕事してたりね、僕の知らない監督の話を聞いたり情報源にもなる。

――阿部さんが長く活躍されているのは、まさにその姿勢にある気がしました。では最後にそんな阿部さんに質問です。逆に、もっと年上世代と接したいけど、どうコミュニケーションをとっていいかわからない若者世代がいたとしたら、なんてアドバイスをかけてあげたいですか。

阿部 僕が20代の頃は、年上の人がいても「これからは俺たちの時代だから」ってわざと距離をとっていた時期もあったんですよ。でも、30代になると興味が出てくるわけです。やっぱり年上の方たちはその分いろんな技術を持っているし、その方たちが進む道はいずれ自分も辿る道。そこをどう渡っていくのか知りたいって。それで、いろいろと話しかけるようになって。だからまずは興味を持ってみることは大事ですよね。

それに、自分もこの年になったから言えますけど、若い人にものを聞かれるのはうれしいんですよ、やっぱり。ついいろんなことを教えたいという気持ちになっちゃう。だから、恐れず何でも聞いてください。そしたら相手も喜んで何でも話してくれると思うので。

『異動辞令は音楽隊!』は8月26日(金) より全国公開
https://gaga.ne.jp/ongakutai/

取材・文=横川良明
撮影=奥田耕平
ヘアメイク=AZUMA(M-rep MONDO-artist)
スタイリング=土屋シドウ

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