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池松壮亮が語る、『斬、』塚本晋也監督への思い 「モノを作ること、時代への覚悟が違う」

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リアルサウンド

 塚本晋也監督最新作『斬、』が11月24日より公開となる。戦争の恐怖をあぶり出した『野火』を経て塚本監督が挑む本作は、塚本が監督、出演、脚本、撮影、編集、製作を務めた完全オリジナル作品。開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸時代末期を舞台に、時代の波に翻弄される1人の浪人と彼に関わる人々を通して、生と死の問題に迫る。

参考:<a href=”http://www.realsound.jp/movie/2018/11/post-282168.html”>その他画像はこちら</a>

 今回リアルサウンド映画部では、剣術に優れながらも、今まで人を斬ったことがない主人公の浪人・杢之進を演じた池松壮亮にインタビュー。“いつか会ってみたい人”だったという塚本監督とのタッグや共演を務めた蒼井優、そして独自の道を突き進む俳優としての今後について、話を聞いた。

ーー本作の撮影を終えて、公開を控える今の心境はいかがですか?

池松壮亮(以下、池松):僕も、皆さんと同じように生きていく上でいろんな感情を当然抱えていて、そういうものをこの作品に託すことができたんです。そういった、塚本さんやスタッフの皆さん、僕の叫びや祈りが映画として、2018年の人の心にどこまで届くのかという期待と不安が今はありますね。

ーーヴェネチア国際映画祭のワールドプレミアでは、上映後5分間の喝采が起こりました。ある意味、池松さんらの映画に込めた思いが届いたとも言えると思うのですが、その時の感想は?

池松:遠く離れたヨーロッパでこの映画を見てもらえて、ものすごくまっすぐな目で拍手をもらえたことはほっとしましたし、これから日本で公開することへの背中を押された感じはしましたね。

ーー本作の始まりから振り返りたいのですが、塚本監督からオファーを受けた時の心境は?

池松:僕みたいな一人の職業俳優が、塚本監督の作品に参加できるとは想像もしていなかったです。ただ塚本さんは、僕にとっていつか会ってみたい人でした。近年の塚本さんの『沈黙−サイレンス−』での演技や監督作品の『野火』を観て、「自分が社会に対して思うことを全然違う場所で代弁してくれている」と勝手に感じていて。ちょうどそんな時にオファーを頂いたんです。「出会うものなんだなあ」と思ったし、本当に嬉しかったです。なにより、頂いたプロットが凄まじかった。すぐに世の中に対して発表したい、早く作らないと、と思いましたし、大袈裟じゃなく自分はこれをやるためにここまで俳優を続けてきたんじゃないかと思えるプロットでした。

ーーそんな憧れとも言える存在だった塚本監督の作品に参加して、他の監督の現場との違いは感じましたか?

池松:全然違いますね。こんなやり方を長年続けるなんて、多分普通の人は真似できないと思います。映画を作るのってお金も労力もかかりますし、映画を作るシステム自体がもう出来上がってしまっているこの時代に、全てご自身で手がけられていて。自分で握ったおにぎりを自分で出せるというのは本当にすごいことだと思います。現場はすごく少人数なんですよ。部署もへったくれもなくて、みんなが映画を作ることだけに向かっている現場。だからこそ、直接的なやり取りになったし、格別な経験をさせてもらいました。

ーー蒼井優さんとの共演はいかがでしたか?

池松:お互い10代の頃に出会っていたのもあって、何年かに1回は必ず会ったりするすごく縁のある女優さんなんですけど、現場でしっかり向き合ったのは初めてでした。モノを作る上でこれだけ共闘できる女優さんは見たことがないです。技術もさることながら、あの存在感はとてもじゃないけど僕は敵わない。塚本さんと蒼井さんの3人で『斬、』という映画を共有できたことは、宝物ですね。

ーー本作の撮影を通して、得たものは大きかったと。

池松:塚本さんにしても、蒼井さんにしても、こちらが感動するくらい、ものすごいものを出してくるんですよ。毎回驚かされるというか。塚本さんは俳優としてもすごく好きですね。『沈黙−サイレンス−』で塚本さんがやったことは、普通の職業俳優じゃ絶対無理です。モノを作ること、時代への覚悟が違うなと感じます。

ーー池松さんのインタビューや発言を振り返ってみると、俳優というある種の“プレイヤー”がありながら、どこか常に俯瞰で自身が参加している作品を見ているように感じます。他の俳優の方には、どんな作品であれ与えられた役を全うするという人もいるかとは思うのですが。

池松:人と違うと言われると、「あ~そうなんだ」くらいなんですよね(笑)。でもおっしゃっていることはすごくわかります。モノを作るスイッチと俳優のスイッチは違うってよく言いますが、そんなこと言ったら塚本さんなんて監督もやって、あれだけのお芝居をやられてますからね。

ーー池松さんは、元からこういう風にやってきたと。

池松:そうですね。でも、本当の最初は違いましたよ。ずっと俳優をやっていく中で、一つ上の高いところを目指そうと考えるとやっぱり何かが必要だったし、もっといい映画を自分自身が見たいと思ったら映画を自ずと考えるようになったというだけのことです。自分が出演した映画がつまらないのって本当に悲しいですからね。もちろん、俳優という仕事も放っておくと、ルーティンになるんですよ。でも、ルーティンにならないように工夫することを諦めて、別の趣味を持つとかパーソナルな人生に喜びを感じるみたいなことは、20代は少なくともなかった。だとしたら面白い場所と面白い人で、面白い映画を作っていきたいんです。

ーー『斬、』は、池松さんにとってそういう願いが叶った作品なのかなと思います。『斬、』公開後の、池松さんの展望はありますか?

池松:あんまりもう、展望とかを考えないんですよね。別に『斬、』が最後になってもいいと思ってやってますし。なんだろう……幸せになりたい(笑)。

ーー間違いないですね(笑)。海外進出は考えたりしますか?

池松:そうですね、そういうタイミングが来るかどうかはさておき、それも一つ考えていますね。国内映画を諦めたくない気持ちもありますが。

ーー役者という仕事に限らず、プライベートでやってみたいことはありますか?

池松:子育てです。

ーーそれはなにかやりたいと思うきっかけが?

池松:年齢も年齢だからじゃないですかね。もうアラサーですし、一つ自分の中で『斬、』が撮り終わって時代の区切りがついたというか。どう抗ったって平成は終わるわけですから、新しい時代に向かってどう懸命に生きていくかしか考えていなくて。だからなにしたいの? と言われるとやっぱり幸せになりたい(笑)。

(取材・文・写真=島田怜於)