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【おとな向け映画ガイド】フランス革命の裏で起きていた“美食革命”──『デリシュ!』

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イラストレーション:高松啓二

今週末(9月1日〜3日)の公開映画数は23本。全国100館以上で拡大公開される作品が『ブレット・トレイン』『さかなのこ』『この子は邪悪』の3本、中規模公開・ミニシアター系が20本です。その中から、エスプリのきいたフランス映画 『デリシュ!』をご紹介します。

『デリシュ!』

料理人をテーマにした映画は、たいていハズレがない。まして食の王国、フランスが舞台となるとさらに確率があがる。“美食”が、王侯貴族の屋敷内のものから、いかにしてレストランという形でふるまわれるものになったかを描いたこの作品、人気絶頂の俳優が出演するわけでもなく、公開時のスクリーン数も多くないのだけれど、やはりすこぶる面白い! 食べることにも目がない、映画好きのおとなが、グルメムービーのリストの上のほうに記録しておきたくなる……そんな1本だ。

実はレストランの誕生は、1782年以降15年ほどの期間で諸説あるらしい。これらの史実をもとに、監督のエリック・ベナールが作り上げた、歴史物語だ。“美食”というフランスの歴史的遺産と、“革命”という大きなうねりを背景にした人間ドラマでもある。

主人公は、公爵おかかえの宮廷料理人マンスロン。絶大な信頼を得ていたのだが、創作料理「デリシュ」に究極の美味を追求するあまりトリュフとジャガイモを使ったことを公爵の食事会で貴族たちに非難され、職を解かれてしまう。当時、このふたつの食材は、悪魔の産物ととらえられていたからだ。誇りを傷つけられ、息子とともに故郷に戻り、しばらく料理から離れていた彼のもとに、あるとき、謎の女性ルイーズが「弟子にしてほしい」と訪ねてくる。

この時代、城の厨房に女性料理人はいない。そんななかで、彼女はなぜ、料理人をめざしたのか? その秘密は、彼女の気品ある態度と利発な発想に隠されている。

マンスロンの実家は、馬車の中継所をなりわいとしていたが、ルイーズの助力もあって、彼はこの場所で、旅人や隣人を相手に、前菜からメイン・ディッシュ、そしてデザートまでという斬新なメニューで食事を提供し始める。ルイーズと息子は、いまでいうホールスタッフだ。このレストランが評判をよび、ついに、公爵の耳にも届くのだが……。

マンスロンを演じているのはグレゴリー・ガドゥボア。6月に公開された『オフィサー・アンド・スパイ』では主人公の部下役、7月公開の『キャメラを止めるな!』のカメラマン役と出演作目白押しなのだが、知名度はまだ高くはない。ひげづらで、いかにもグルマンという体型。料理人にはぴったりだ。弟子入り志願をする女性ルイーズ役はイザベル・カレ。セザール賞主演女優賞を受賞したこともある名女優だ。ルイーズの出現で映画が動き出す。

ふたりは数々の受難に立ち向かいながら名コンビとなっていく。フランス革命という時代もまた、かれらの美食革命に力強い追い風となる。そんな流れに突き動かされるように人気レストランが形作られて行く様子は、テレビのビジネス成功秘話ものをちょっと彷彿とさせる。

明るい室内で、客をテーブルまで案内し、メニューをみせて注文をきき、食事をサーブする、そんな光景はこの時代以降のこと。料理人だけでなくホールスタッフの存在が重要なのだと改めて感心する。レストランのあるべき基本姿勢が台詞に散りばめられている。

城の厨房と美食を極める食宴のテーブル、オーナーシェフの厨房ときもちのよい庭のテーブル……、再現された18世紀の風俗、数奇を凝らした料理の数々など、これまであまり見たことのない映像にも魅了される。

数多く出てくる絶品料理のなかで、キーになるのはタイトルにもなっている「デリシュ」。映画の公式サイトにはそのレシピが掲載されている。ジャガイモと生のトリュフが、悪魔の産物と考えられていた理由は、地中からの作物だから。「当時は、空中にいるという要素が多ければ多いほど神聖な存在になる。鳩なんか完璧で、地面に近い牛はちょっと劣る」とベナール監督は語る。ジャガイモが食材として認められるのはもう100年かかった、という。映画のなかにはちらっとジャガイモのフライも登場する。あれが、世界で愛されるフレンチフライとよばれるようになる時代はさらにあとの話だ。

また、監督はこの映画のことをこう語る。「腕に自信をもつ誇り高き料理人が、屈辱を味わわされ、いったん自分の武器ともいえる厨房機器を封印するが、皆の幸せのために再びそれを手に取る。そんな西部劇の文脈でプロット、筋書きを作った」。なるほど、たしかに話の運びも実に巧妙だ。

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