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記憶喪失の青年がたどる世界を豊かに彩ったミュージカル『COLOR』上演中

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ミュージカル『COLOR』より、浦井健治(ぼく) 柚希礼音(母) 撮影:田中亜紀

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草木染作家・坪倉優介氏が、自身の体験を綴った著書を新作ミュージカル化した小山ゆうな演出『COLOR』が今月5日、東京・新国立劇場 小劇場で開幕した。坪倉氏がモデルの草太役には浦井健治と成河、その母・葉子には濱田めぐみと柚希礼音を配し、浦井×柚希、成河×濱田の2チームで上演。舞台上には最大3人というシンプルさ、かつ約80分間というコンパクトさで、心に何色ものCOLORが広がる豊かな作品に仕上げている。

中央:浦井健治(ぼく) 左:柚希礼音(母) 右:成河(大切な人たち)

大きな枝葉が垂れ下がる大木のようにも、画用紙をビリッと破ったようにも見えるセット。白一色のそれに、さまざまな色彩や映像を投影しながらシーンが進む。バイク事故で一命を取り留めるも記憶を失った美大生の草太は、原始的な感覚までもがリセットされた状態に陥っている。“満腹”がわからず食卓上の食事を全部食べてしまう、“熱い・冷たい”がわからず水風呂に浸かってぶるぶる震えている、といった具合。体は青年のまま幼児に戻ったような息子に、母は1から育て直すかのように慈しみ接するが、父は「子供扱いするな」と突き放す。形は異なるが、どちらも親の愛だ。

成河(ぼく)×濱田めぐみ(母)
浦井健治(大切な人たち)

復学した草太は事故前からの親友(成河、浦井が草太を演じない回でそれぞれ演じる)の助けもあり、徐々に今の世界での生き方を見出す。イキイキしたこのふたりのシーンがいい。それでも埋めようのない現実とのギャップにぶち当たり、我慢の限界に達した草太は母と激しく衝突する。息子の行動をまさに体を張って母が止めようとするこのシーンには、胸が熱くなるのをどうしたって抑えられない。

浦井健治(ぼく) 成河(大切な人たち)
成河(ぼく)×濱田めぐみ(母)

個性の違いで、別の作品を味わった感覚にもなる2チーム制。あくまで筆者の印象だが、成河×濱田は緻密に練り込んだ芝居で感情を揺さぶり、自然体なタッチの浦井×柚希にはドキュメンタリーを観ているような共感があった。音楽はヒット曲「トイレの神様」で知られる植村花菜。言葉とメロディがしっかり手を携えた楽曲は、ミュージカルとしてのスケール感も伴いながら、耳に優しく運ばれてくる。

成河(ぼく)×濱田めぐみ(母)
浦井健治(ぼく)×柚希礼音(母)

先に触れたような親子愛は色濃く描かれているが、限定的で明確なテーマが存在しないからこそ、観客それぞれに自由な想いが広がる作品だ。強烈な鮮やかさはないが、いつまでも見ていられる深みのある淡さ――この舞台に抱いたそんな印象は、後に草木染作家となった坪倉氏が生み出す色に酷似していた。氏の作品は劇場ロビーにも数点展示されている。舞台と併せて、ぜひ味わってほしい。

取材・文:武田吏都 撮影:田中亜紀

ミュージカル『COLOR』チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2211805

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