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TikTokクリエイター・しんのすけ×荒木啓子ディレクターが語りつくす! 「PFFアワード」の魅力と未来

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今年で44回目を迎えた「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。多彩なプログラムで、映画ファンを魅了し続ける同映画祭の中核をなすのが、自主映画を対象にしたコンペティションで、新人監督の登竜門として多くの才能を世に送り出す「PFFアワード」だ。今年は520本の応募作品の中から入選した、16作品が上映され、最終審査員らにより各賞が決定する。

このたび、独自の切り口の映画感想で、絶大な支持を集めるTikTokクリエイター・しんのすけさんと、PFFディレクターの荒木啓子氏の対談が実現。実は2007年に創設された京都造形芸術大学の映画学科(現在の京都芸術大学)一期生だったしんのすけさんは、在学中にPFFアワードへの応募をひとつの目標にしていたのだとか。そんなしんのすけさんが考えるPFFアワードのすごさとは?

卒業制作が完成も、応募はせず。その理由は?

TikTokクリエイター・しんのすけ

しんのすけ PFFアワードは、映像を作っている人間なら誰もが知っている賞ですから、いつか応募したいという思いはありましたね。受賞すれば、次のステップが見えてくるような現実的なコンペが、PFFアワード以外ありそうで実はあまりないですから。実際、卒業制作は完成させたんですが、応募はしませんでした。

荒木 あら、残念。なんで?

しんのすけ はっきりした理由は思い出せませんが、ひとつは当時自信がなかったということですね。PFFアワードという、めちゃくちゃ大きなブランドに応募するハードルの高さを感じていたんだと思います。長い歴史もありますし、権威性というか……。

荒木 やってる側としては、権威にはなりたくないですよ。例えば、いわゆる世界三大映画祭みたいな、歴史と権威を誇るような場所ではない。自主映画の祭典ですから、常にフレッシュ、常にリニューアルの気持ちです。そうでなければ、存在する意味もないですし。権威って言われると、チェってなる(笑)。

しんのすけ もちろんそうですが、僕が学生だった10年前に比べても、映像祭と呼ばれるものが、尋常じゃないくらい増えた今だからこそ、よりPFFアワードは不動の位置にあるというか。PFFアワードを受賞すれば、劇場公開作品が撮れたり、そういう部分は、やはり揺るがない印象がありますね。

実際に後輩の工藤監督(『オーファンズ・ブルース』でグランプリを受賞し、PFFスカラシップ作品『裸足で鳴らしてみせろ』で商業映画デビューした工藤梨穂監督)の授賞は、学科内に留まらず、大学全体の大きなニュースとして扱われていましたし。

荒木 去年グランプリを受賞した『ばちらぬん』の東盛あいか監督も、京都芸術大学の後輩にあたりますよね。実は『ばちらぬん』がグランプリをとって「やったな」って思ったんですよ。こういうタイプの作品って見たことある人は少ないだろうし、劇場公開も決まりましたから。

PFFアワードは“才能に出会える”場

今年のPFFアワード全16作品

しんのすけ まさに“才能に出会える”場としての魅力が、PFFアワードにはありますよね。数多くの監督を輩出した歴史もあるし、会場に足を運ぶファンの中にも「自分も新しい才能を応援したい」という、ある種の“推し活”が楽しみ方のジャンルにもなっている。そうやって、映画祭を支えるファンの存在は確かにありますよね。

荒木 去年、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)と映画ファン賞(ぴあニスト賞)をダブル受賞した『愛ちゃん物語♥』や、観客賞の『距ててて』は、まさにそうかも。

しんのすけ そういう出会いって、一般的な商業映画ではなかなか生まれない感覚ですよね。

荒木 でも、今は映画制作を取り巻く環境もどんどん厳しくなっているでしょ? どういう映画祭でなければいけないのか。それを考えることが、いつの間にか仕事になっている面もあって。

映画って、音楽や小説と違って、成果が見えづらいし、成功したと認められるプロセスも違う。いわば、最も不安な仕事なんですよ、映画監督って。それでも「映画を作っていいんだ」と思ってもらえるよう、監督たちにどうやって寄与できるか。なにか力を貸せないかと考える。

それ以外のこと……、例えば、映画祭を大きくするとか、そういうことは目標ではないし、考えてもいないんです。強いて言えば、作ったものを、ちゃんと誰かに観てもらえるということだけが役割なのかなって。

しんのすけ コロナ禍もあって、みんなが同じ空間に集まるということの価値が、今まで以上に大きなものにもなっていますもんね。スクリーンで上映されて、誰かの反応が返ってくるという感覚は、確実に作家のテンションに直結するし、次回作を作ろうと思えるはず。PFFアワードに応募すれば、その可能性があるわけですから。



大切なきっかけ作り。でも「選ぶのって、本当に難しい」

荒木啓子ディレクター

しんのすけ TikTokで映画を紹介していて思うんですが、今はある種のお墨付きというか、レコメンドがないと、お客さんも映画を観ようって気持ちにならない。きっかけ作りがすごく大切で。

荒木 映画祭で言えば、(賞に)選ばれた作品の方が、観る側にとっても安心感がある。PFFアワードという形でコンペが始まったのは、1988年のこと。それまでは、例えば、大島渚や寺山修司、大林宣彦といった人たちが「おれはこれを推す」という作品をただ上映していたけど、応募者から「コンペにしてほしい」という声があがり、始まったそうです。

ただ、大切にしないといけないのは、応募者全員に「参加して良かった」と思ってもらうことで。賞を受賞すれば注目を浴びるのはもちろんだけど、じゃあ、賞に漏れた作品がダメなのかって言えば、もちろん、そんなことはなくて。

しんのすけ 僕も毎週、どの作品を紹介するのか? そのチョイスによって、もしかすると、動画を見てくれている人が、出会うはずだった作品に出会えないこともあるんじゃないかって考えることはよくあります。コンペもそれに近いのかなと。

荒木 それを考えたら、寝られないですよ。(審査する側として)選ぶのって、本当に難しい。受賞作品よりも、選考のボーダーラインにいた作品のことをずっとよく覚えている。そういった作品、そして作った監督たちにチャンスをつかんでもらうためになにができるのかは大きな課題で。

PFFアワードであれば、長編映画の製作を援助する「PFFスカラシップ」というシステムがあって、理想に近づけるように、今も試行錯誤をしているところなんですけどね。それって、映画祭がやることなのかなって、ふと思うこともあるけど(笑)。

多様化する視聴スタイル スクリーン上映の価値は?

しんのすけ 技術面でいうと、今、スマホで撮る作品も増えています。異常に高画質だったりするので。

荒木 スマホ、すばらしいよ! 本当にスマホでどんどん撮ってほしいと思います。おっしゃる通り、カメラの性能がすごくいいもん。問題は音ですよね。音もちゃんと計算しないと、映像が活きないよって。

しんのすけ そうなんです。音をちゃんときれいに調整しないと、なにが描かれているか分からない。音のリテラシーは、映像制作の大きな課題だなって思います。それと今は、自宅で映画を観るにしても、4Kのプロジェクターとか、いい機材が手頃な値段で手に入るんですけど、やっぱり音響には限界があって。映画館も今まで以上に音響へのこだわりが強くなっていますし、スクリーンで観る価値もそこにあるのかなって。

荒木 だからこそ、PFFアワードも、スクリーンでの上映は絶対に捨てないという気持ちがありますね。音のこともそうだし、同じ空間でいろんな反応に触れることって、作り手にも、お客さんにもすごく刺激的な体験になるはずなので。

しんのすけ 先ほどPFFアワードは“才能に出会える”場だという話をしたんですが、特にクオリティに縛られない初期衝動や、いい意味での粗さがある作品に奇跡的に出会えるのがいいんですよ。普通じゃ観られないもの(笑)。技術は後からついてくるとして、ちゃんと作りたいものがあって、どこか突き抜けている感覚というか。

荒木 自分でも自分がなにを作っているのか分からない。それくらい極端な冒険もしてほしいですよね。そういう自由さも含めて、PFFアワードは「いろいろあっていいんだ」っていう多様性を示す場所でありたいと思っていますね。

しんのすけ これだけSNSが浸透した時代なので、作り手には自分で発信することの大切さも知ってほしい。作るだけで終わるのではなく、作品をどうアピールするかを意識するのがすごく大事で。それは商業映画も自主映画も同じで、未来の作り手に求められることだと思いますね。その上で、PFFアワードが道を切り開くサポートをしてくれる。そういう意義があるんだと知ってほしいですね。



取材・文・写真:内田涼

PFFアワードとは?
“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマに、1977年に活動がスタートした「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」。その中心的な役割を果たす「PFFアワード」は、世界でも類を見ない自主映画を対象としたコンペティションで、入選者の中からは、後にプロとして活躍する映画監督を約170名輩出している。上映時間やジャンル、年齢、性別などは不問。新しい才能が集う場所として、広く認知されている。また、1984年から映画祭がトータルプロデュースする長編映画製作システムとして、「PFFスカラシップ」が実施され、新人監督のデビューを支援している。

【第44回ぴあフィルムフェスティバル2022】
会期:9/10(土)~25(日) ※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ

■映画祭公式サイト
https://pff.jp/44th/

■映画祭公式Twitter
https://twitter.com/pff_award

■チケット購入はこちら
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2218805
※会場での当日券販売はありません。

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