西島秀俊×斎藤工×三浦友和が考える“男の色気”「困難な状況に立ち向かっている人に色気を感じる」
映画
インタビュー
左から斎藤工、西島秀俊、三浦友和 撮影:奥田耕平
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すべて見る男の色気とはなんだろうか。
それは、わかりやすい見た目や年齢に起因しない、もっと別の何かから醸成されているように思えてならない。
9月9日(金) より公開された映画『グッバイ・クルエル・ワールド』に出てくる男たちは、みんな色っぽい。決して甘い恋愛映画ではない。むしろ「Cruel World(残酷な世界)」に翻弄され、1人またひとりと羽根をもがれていくような映画だ。でも、その姿さえ色気が漏れ出ている。
暴力と銃声と血飛沫が飛び散るこの狂乱のクライムエンターテインメントを生きた西島秀俊、斎藤工、三浦友和という名優3人と共に、男の色気について考えてみたい。
この映画と同じようなことが世の中で起こっている
――クルエル・ワールドとは直訳すると「残酷な世界」。このタイトルを聞いたとき、率直にどうお感じになりましたか。
三浦 いいタイトルですよね。どなたがつけたんだろう。
斎藤 最初に見たときは、なんて読むんだろうと思いました(笑)。「クルエル」という言葉ってあまり日本人的には馴染みがないと思うんですけど、でもその響きに得体の知れなさがあるというか。
三浦 確かに。日本語より英語の方がいいなと思いました。
斎藤 「狂う」とのダブルミーニングになっているところも魅力を感じますし。
西島 この映画の中で描かれている世界は、普通に生活している人たちからすると、ちょっと想像もつかないような世界なんですけど。やっぱりこういうことってどこかで起きているわけで。僕たちもどこかでこの世界の残酷さみたいなものを感じていて。そのメタファーみたいなものを、映画で描いてるのかなと。
斎藤 ここに出てくる人たちはみんな共通して、手詰まり手前にいる状態。でもそれって、急にそうなったというよりも、じんわりとフェーズが変わって、いつの間にか身動きがとれなくなっていた感じなんですよね。ある日突然世界が変わったというより、じんわりと選択肢が狭まっていく人たちの物語。それって、立場は違えど、同じようなことが世の中で起こってるのかなという印象は僕も受けました。
――お三方はこの世界は残酷だと思いますか。それとも美しいと思いますか。
三浦 こうした時世のこともあって、特に残酷だと思いますよね。これまでもシリアだったりアフガンだったり、世界のいろんなところで戦争は起きていた。でも、本当はいけないことなんですけど、どこか自分たちとは遠い世界のことだと感じていたところがありました。それが、今はとても身近なものになっている。明日は我が身という状況を目の当たりにしていると、残酷だなと思わざるを得ないですよね。
西島 厳しい世界だなというふうには感じます。僕も含めて、未来に対して希望を持つことがとても難しくなっている。安心して生活できているとは正直言えないので、そういう意味でやっぱりなかなか前向きなことは言えないですよね。
斎藤 僕は残酷さも美しさも両方あると思っています。僕はこの世界の原初的なものに対して、特に美しさを感じていて。逆に、いわゆるデジタルな世界はまだ歴史も浅いし、そこに美しさは見出せていないんですけど。僕よりずっと年下の方々は、デジタルの世界がリアルの世界と並行に存在していて、ごく自然に美しさを見出している。その感覚は僕にはないものだし、そうやって感性がどんどん移り変わっていくことも含めて、世界は美しいなと思うところはあります。
若い世代に希望を託しているように感じた
――行き場のない人たちがどんづまりの世界で、それでもあがいて、もがいて、閉塞した状況を突破していこうという姿に、今この時代にこの作品を上映する意義のようなものを感じました。お三方は、この映画が今公開される意義をどう感じていますか。
西島 僕は監督ではないので、作品の意義を語ることは難しいですが、先ほども少し言ったように、自分が安心してこの世界で生きられると感じている人は意外に少ないと思っているんですね。何かあったら人生が終わるような、ちょっとずつ追い込まれている感じをみんなが体感していて。だから、ここに登場する人物は確かに極端ですけど、誰かに感情移入することはできると思っています。その上で、僕は完成した作品を観たときに、若い世代に希望を託しているように感じました。どうですか。
三浦 あの2人(宮沢氷魚演じる矢島と、玉城ティナ演じる美流)には生き残ってほしいなと思いましたね。僕たちみたいなオッさんはもう知らんわみたいな(笑)。今から世の中を変えることはできないけども、自分たちは好きに生きていくぞっていう希望が見える2人ですよね。
西島 そうなんです。お2人とガソリンスタンドで対峙する場面がとても印象的で。2人ともスタイルも異次元じゃないですか。そんな2人が燃えさかる炎の中、近づいてくるシルエットから、若い世代が上の世代に復讐する意志というものを感じましたね。
斎藤 僕も喫茶店のシーンで2人と一緒になったんですけど、白いレインコートを着て店内に入ってくる矢島と美流の姿に、未来人が古き悪しき時代を絶つじゃないですけど、古い世代に対して明確に引導を渡す瞬間のようなものを感じました。
西島 そういう希望の持ち方みたいなものは、きっとご覧いただいたみなさんと共有できるんじゃないかなと、いち観客として思います。
斎藤 僕はこの映画に対して、現代の映画が自然と避けていくような場所を思い切り描いているなという印象を受けました。たとえるなら、何枚か撮った上でSNSにアップされず削除される写真のような。アップライトの後ろに確実にあるんだけど、人目にふれないという世界がこの映画なのかなと。そして、それは非常に現代的なんじゃないかと思っています。どのキャラクターにかはわからないですけど、自分の合わせ鏡のように感じる瞬間がきっとある。なかなか宣伝文句が見つかりづらい作品ではありますが、それがこの作品のコクというか、旨みになっている気がします。
三浦 まあ、意義なんてものは出演している僕たちが押しつけるものではないですから。お客様がどう感じるかが一番の正解。それは聞きたいですね、「どう思った?」って。ただ「面白かった」でもいいし、「あのシーンはちょっと…」でもいい。そういう意見は、特に聞きたい映画だったなと思います。
伸びている俳優には哀愁と陰がある
――映画に出てくる男たちからは、みんな色気が匂い立っていました。みなさんは、どのキャラクターに色気を感じましたか。
斎藤 みなさんそうですよね。モロ(師岡)さんとかすごく色っぽかったし。
三浦 自分は抜きにして、みなさん、本当に色気がありますよね。
西島 いや、友和さんこそまさに色気のある男じゃないですか。何度かご一緒してますけど、アート映画も、バジェットの低い映画でも大きな映画でも、あらゆるジャンルの映画に軽やかに出てらっしゃる。友和さんの軽やかさというのは理想形というか。難しいことだとわかっているからこそ、将来自分がこういうふうにいられたらいいなという、ひとつの憧れです。
三浦 本当? うれしいな。
西島 もちろんそれは工くんも同じで。工くんの演じた萩原は、何の理由もなく破滅に向かっている男で。なぜこの人がこんなに虚無的に生きているのかを説得力を持って肉体化するのはすごく難しいこと。それを実際に体を持って存在している姿に色気を感じましたね。
三浦 俳優の仕事をやってると、色気は必須じゃないですかね。でもそれって自分で出せるものではない。それこそ、その人がもとから持ってるものなんですよね。あるいは、どなたかの作品で引き出されるのかはわかりませんけど。いい俳優は色気があるなと思います。
――男の色気とは、どういうものだと思いますか。
三浦 僕は哀愁と陰のある人に色気を感じますね。若い俳優さんを見ていても、なんでこの子が今こんなに注目されているのかなって気になって作品なり写真を見てみると、伸びている人は哀愁と陰がある。そこに人は惹きつけられるんじゃないですか。
斎藤 僕が感じる色気は、無自覚さにあると思うんですね。何か意識してではなく、本人さえも無作為な瞬間に、その人柄とともに漏れ出るのが色気。むしろ意識した時点で消えてしまうものが色気なんだと今回の現場でも思いました。
西島 一概には言えないですけど、いろんな困難な状況に立ち向かっている人に色気を感じます。現状よりも良い方向に向かって進もうとする。その意志からこぼれるエネルギーが男の色気につながっているのかなと、いろんな人たちを見ていて感じますね。
取材・文:横川良明 撮影:奥田耕平
『グッバイ・クルエル・ワールド』公式サイト:
https://happinet-phantom.com/gcw/
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