高橋優が主催する地元密着型フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』が3年ぶりに開催された。
秋田の夏の締めくくりにして秋を告げるイベントが帰ってきた。この時を待ちわびた人々の心にすっかり定着した秋田CARAVAN MUSIC FESも今年で5回目となる。このフェスの最大の特徴は、毎回会場が異なるということ。秋田県内にある13の市を巡って開催されることから秋田CARAVAN MUSIC FESと名づけられた。今回会場となったのは、北秋田市・大館能代空港周辺ふれあい緑地。自然豊かなロケーションが心地よい。
北秋田市の津谷永光市長の開会宣言に続いて『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』で最初に音を出すのは、高橋優。会場に来てくれた人たちに弾き語りで1曲届けるのが恒例となっている。高橋が選んだのは、「ありがとう」。ステージと観客エリアの心の距離がグッと近づいたのが感じられた。
地元京都で『京都音楽博覧会』という音楽フェスティバルを主催しているくるりは『秋田CARAVAN MUSIC FES』初出演。アーティスト同士はもちろん、ローカルフェス同士の交流というものにも日本のフェス文化の成熟が窺える。現在のくるりを語る上で外せない曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」から、初期のくるりを代表する曲「ばらの花」へのシームレスな繋がりにバンドの歩みの確かさとフェスなどで幾多のバンドと渡り合ってきた圧倒的な実力を感じた。
「風が吹くとこれはどこからきた風なんだろうと考えて、勝手にいろんな人の顔を浮かべる」と言ってパフォーマンスしたのは「勿忘草」。これが初披露となる新曲だ。例えば遠く離れたところから誰かを想う瞬間や、ふと何かのきっかけで思い出した誰かのことなど、日々生きている中で芽生える大切な人への気持ちをつながりとして描いている。まさに1年に1回開催される『秋田CARAVAN MUSIC FES』への想いも滲む。
「高橋優のステージとしてはここで終わりなんですけど、3年ぶりの開催ということで『秋田CARAVAN MUSIC FES』のテーマソングを書かせていただいたんです。ここにいる皆さんと一緒に踊って最高のフィナーレを迎えませんか!」
音頭、ケルト、フォルクローレなどの要素をごった煮したお祭りソング「秋田の行事」で会場は遅れてきた盆踊り状態に突入。3年ぶりの『秋田CARAVAN MUSIC FES』初日、熱狂のまま幕を閉じた。
2日目・9月18日(日)
3年ぶりの開催となった高橋優が主催する地域密着型フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』、2日目も昨日に続き青空がのぞくフェス日和に恵まれた。開場中の会場内には秋田民謡が流れ、それが地元のお祭り感を盛り上げる。今年会場となった北秋田市の津谷栄光市長の開会宣言に続いて、高橋優による「one stroke」の弾き語りでスタートした。
メインステージとなる白神STAGEとバラエティ豊かな出演者がパフォーマンスする鳥海STAGEの交互で繰り広げられる『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』、2日目全体のトップで登場したのは男性ボーカルユニットのC&K。DJにダンサー、ピアノを加えた編成でいきなりトップギアのパフォーマンスで会場をぶち上げる。一転、MC明けにはピアノと打ち込みのリズムに乗せてバラードの『Y』『嗚呼、麗しき人生』でしっとりとした雰囲気を作る。
さすがライブ巧者の彼ら、「日本全国地元化計画という僕たちの野望がある」というのもうなずける。タオルの産地として有名な愛媛県今治と繋がったレゲエビートの「I.M.A」、ニューヨークとかけたスカビートの「入浴」など、“地元”を意識した『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』仕様のセットリストで会場を大いに盛り上げた。
「9月中旬の秋田ということで、衣装を選んできたんですけど……暑い!」。1曲目「Look Back Again」に続いて披露したのは「Ring my bell」。アーシーで心地よいグルーヴは矢井田瞳のロック / ポップスの真骨頂だ。続く『駒沢公園』は9月7日(水) にリリースしたばかりのアルバム『オールライト』に収録されているナンバーで、未来を担う子供たちに寄せた想いを綴ったもの。確かに日差しは暑いが、会場を吹き抜ける風はどこか気持ちいい。そんな風のように心の奥にある大切なものに気づかせてくれる曲だ。
「My Sweet Darlin’」ではアコギを外してハンドマイクに持ち替え、ステージの左右いっぱいに動きながらパフォ―マンス。ラストは最新アルバムから「さらりさら」。〈聴かせて あなたの声〉――この歌のメッセージが3年ぶりに開催された『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』へ届けられたものに感じられた。
『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』と共にCOWCOWも3年ぶりに登場。もはや鳥海STAGEの主と言っても過言ではない彼ら。「女子バレーボール部のあいさつ」ネタを一緒にやるオーディエンスも。その輪が広がって会場のほとんどの人たちが「ダサい男はブロック!」で手を挙げて飛ぶというマジックが起きる。思わず「これはやりやすい。秋田に住もうかな」と多田。予定にないネタも飛び出し、来年の出場も濃厚だ。
この日のライブは「パイオニア」から始まった。続く2曲目「虹」といい、『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』における高橋優のセットリストには、明確な意志がある。それは――大袈裟でも何でもなく――秋田に生きる人たちの心に火を灯し、明日の糧になる歌を届けるということだ。そもそもこのフェスを開催していること自体がそうなのだが、当日も主催者として運営面にも気を配り、他の出演者のステージを最初から最後まで袖で観ている彼の姿がある。この2日間、高橋優のすべては秋田に注がれる。