中国の現代ドラマを観てみませんか?「プラチナの恋人たち」「暴風眼」「家族の名において」「余生,請多指教」などオススメ&期待作をトーク
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中国現代ドラマのビジュアル。
人気がじわじわと上昇している中国ドラマ。時代劇、美男子俳優が大きな注目を集める中、今回、映画ナタリーでは現代ドラマと女優にフォーカスし、全2回にわたってコラムを展開する。
第1弾となる今回はライター・小酒真由子と島田亜希子に恋愛ドラマ、サスペンス、ヒューマンドラマの3ジャンルでオススメの現代ドラマを紹介してもらった。また日本における中国現代ドラマの歩みも振り返っている。
第2弾ではチャオ・ルースー、タン・ソンユン、バイ・ルー、リー・チンら女優たちの魅力についてトークを繰り広げた。お楽しみに!
取材・文 / 金子恭未子
ファンタジーを差し込んでも、乗り切れちゃうすごさがある(島田)
──お二人から見て、中国の現代ドラマならではの魅力ってどこにあると思いますか?
島田亜希子 ならではの魅力……難しい!(笑)
──時代劇はわりとわかりやすく日中間の違いがありますが、現代ドラマの場合“ならでは”の魅力って難しいかもしれないですね。
小酒真由子 時代劇が日本で人気が出ているのは、中国ドラマの強みである壮大なスケール感や映像美がウケていると思うんですよね。現代劇の場合は……どうでしょうか。
島田 現代劇のことを考えると、中国の場合はファンタジーを適度に差し込んでも、それを乗り切れちゃうすごさがありますよね。あまりにもファンタジックなものってきつくなっちゃう場合もあると思うんですが、半妖と人間の恋を描いた「半妖の司籐(スー・トン)姫 ~運命に導かれた愛~」もすごくバランスよく作っていた。
小酒 日本だと主人公が100年前から生きているファンタジー設定とか、ちょっとキツくなりますよね。でも何万年ものスパンでラブストーリーを描く中国時代劇の素地があればありあり!ってなる。
島田 宇宙人とか普通にラブの対象ですもんね。
小酒 特に「半妖の司籐(スー・トン)姫」は世界観の作り方がうまいんですよね。 視聴者がしらけないように、セットや映像もお金をかけて丁寧に作っているから物語にすんなり入っていける。
島田 要素が多くて設定だけ読むとなんかちょっと……って思っていても観始めると面白くて完走しちゃいますよね。現実からちょっと浮いた世界観が得意なのかなって。
小酒 それから、甘々なスパダリがヒロインを溺愛してくれるようなベタなラブコメが楽しめるのも中国ドラマの魅力ですかね。アクシデントキスがたびたび登場して(笑)、ひたすら萌えと胸キュンを摂取するみたいな。現実逃避してロマンスを楽しみたいという欲求に応えてくれるドラマも多いと思います。
もうヤン・ヤンがかっこよすぎて(小酒)
──恋愛ドラマ、サスペンス、ヒューマンドラマの3ジャンルでお二人にオススメの作品をお聞きしたいと思っています。恋愛ドラマでは小酒さんにヤン・ヤンとジェン・シュアンの共演作「シンデレラはオンライン中!」を挙げていただきました。
「シンデレラはオンライン中!」
コンプリート・シンプル BD‐BOX【期間限定生産】販売中:税込6600円
コンプリート・シンプル DVD-BOX1~2【期間限定生産】販売中:各税込5500円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※上記は2022年8月時点の情報
ストーリー
ゲーム好きな大学生ウェイウェイ(ジェン・シュアン)は、憧れの先輩シャオ・ナイ(ヤン・ヤン)に片想い中。ある日、ゲーム内の夫に振られた彼女はランキング1位のプレイヤーからの求婚に驚くも承諾することに。しかし、実は彼の正体こそがシャオ・ナイだった。
小酒 グーマンが原作を手がけている「お昼12時のシンデレラ」「マイ・サンシャイン~何以笙簫默~」「シンデレラはオンライン中!」が1番最初に日本でウケた中国の現代ドラマという印象があるんです。きっと、この3作に日本人の好きな要素が詰まっていて、中でも「シンデレラはオンライン中!」は絵に描いたような王子様との胸キュンラブストーリーです。ヤン・ヤン演じるシャオ・ナイは“これぞスパダリ”というキャラクターで。ウェイウェイは、私も美人だしぐいぐいいくぞ!というタイプのヒロインかと思いきや「王子様が私なんかのこと見てる……!」というスタンス。こういうパターンって懐かしの少女マンガに通じる部分で、乙女の心をときめかせる定番設定なのかもしれないです。ヤン・ヤン以外にもチャン・ビンビン、ジェン・イェチョン、バイ・ユーといったその後、主役クラスに出世したイケメンたちが脇を固めていてキャストも豪華ですね。
──この作品でヤン・ヤンのファンになったという人は少なくないと思います。
小酒 「シンデレラはオンライン中!」を観た人は、グーマンが原作と脚本を手がけた新作「プラチナの恋人たち」を観ると、ヤン・ヤンの成長を感じられると思います。こちらもオススメの1本ですね。
「プラチナの恋人たち」
DVD SET1~3:各税込1万3200円
発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
レンタルDVDリリース中 / U-NEXTにて独占先行配信中
※DVD SET1は販売中、DVD SET2は2022年10月5日、DVD SET3は2022年11月2日にリリース
ストーリー
トップ女優のチアオ・ジンジン(ディリラバ)は、ネット上に流れた動画のせいでイメージキャラクターを務めるゲーム会社と契約終了の危機に陥っていた。マイナスイメージ払拭に励んでいたところ、初恋の相手ユー・トゥー(ヤン・ヤン)と再会。思いがけず彼にピンチを救われ、再び彼に惹かれていく。一方、宇宙開発技術者の夢を叶えたものの、経済的な問題から転職を考えていたユー・トゥー。理想と現実の間で葛藤する中、自分の夢を応援してくれるジンジンが心のよりどころとなっていく。
小酒 「スター女優×初恋の相手×ゲーム×宇宙開発」っていう設定だけ見るとなんじゃそれは!?ってなるかもしれないんですが、本当にクオリティの高いドラマなんです。忙しい中、男女が愛を育んでいくという地に足の着いたアラサーカップルのラブストーリー。ヤン・ヤン演じるユー・トゥーは優秀な大学の経済学部を出ているんですが、同期は金融関係に進んで、年収何千万の世界で活躍している。彼は夢だった宇宙開発技術者の道に進んだものの、安月給で家族や将来のことが気になったりして、このままでいいんだろうか?と壁にぶち当たる。そこで彼の背中を押すのがディリラバ演じるチアオ・ジンジン。1話の登場シーンのディリラバの輝きがもう、すごくて……!
──振り向いたときの圧倒的オーラがすごいですよね。初登場シーン、大好きです。
小酒 ディリラバって本当にきらきらしていて、輝かしい女優さんだから、大スター役がおおげさでもなんでもなく似合っているんですよね。第一線で活躍する女優になったジンジンが、一般人ながら素敵すぎる初恋の相手であるユー・トゥーに思いを伝えるというのもツボな展開で。ユー・トゥーは学生時代にジンジンから告白された際には割りとひどい振り方をしているんですけど、大人になって彼女のよさに気付くというのもリアリティがある。そして、リアルな恋愛模様を描きつつも、いちいちヤン・ヤンとディリラバが、かっこいいし美しいしでおなかいっぱいで(笑)。
一同 あはははは。
小酒 ジンジンが砂漠で撮影しているところにユー・トゥーがジープで駆けつけるシーンがあるんですが、もうヤン・ヤンがかっこよすぎて……。ユー・トゥーが自分を抑えられずに、ジンジンをベッドに連れていくところもすごくセクシーでした。絵に描いたような王子様からリアルな大人の男になったヤン・ヤンが観られます。本当にこの作品はオススメ! 設定にビビらないで観てほしいです。そして恋愛ドラマなら「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」もぜひ推したいところで!(笑)。
──いい作品ですよね。
「月光変奏曲~君とつくる恋愛小説~」
DVD-SET1~3販売中:各税込1万6500円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※上記は2022年8月時点の情報
ストーリー
文学少女チュー・リー(ユー・シューシン)は、作家ジョウ・チュワン(ディン・ユーシー)の次回作の契約を取り付けるという条件で憧れの元月出版社で働くチャンスを手にする。彼を口説き落とそうとするも相手にしてもらえないリー。一方のチュワンは、リーを冷たくあしらっていたがひょんなことから彼女がSNSで親交を深めていた女友達だと知ることに。その事実を伝えられないままチュワンは彼女を助けるために次回作の契約を結び、住む場所を失ったリーと秘密の同棲生活を始める。
小酒 「花の都に虎(とら)われて~The Romance of Tiger and Rose~」でディン・ユーシーを好きになった人にはぜひ観てほしいです。胸キュン満載な作品ではあるんですけど、出版業界を描いているけっこう真面目なお仕事ドラマなんです。中国の出版社の事情を覗けるのも勉強になりますし、ユー・シューシン演じるかわいらしいヒロインが実はすごく意識の高い編集者なのもとてもいい。オススメの作品ですね!
──島田さんにはオススメの恋愛ドラマとしてリー・ホンイーとシー・シーが共演した「パラレル・ラブ~オレ様御曹司を社長にします!~」を挙げていただきました。
「パラレル・ラブ~オレ様御曹司を社長にします!~」
DVD-SET1~2販売中:各税込1万6500円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※上記は2022年8月時点の情報
ストーリー
キャリアウーマンのリン・ミアオ(シー・シー)は、カフェに入ろうと扉に手を掛けたとき、1人の男性とぶつかる。それがホンユーグループ御曹司のジアオ・ヤン(リー・ホンイー)だと知らない彼女は帰国したばかりの彼の副社長就任会見を台なしにしてしまい、ヤンの恨みを買うことに。そしてミアオは自分が2010年にタイムスリップしていることに気付く。「3カ月以内にヤンを社長にすれば2020年に戻れるが、失敗すればこの世から消える」というメールまで届き、ミアオはもとの時代へ帰るため、ヤンのアシスタントとして彼をサポートし始める。
島田 なんといっても、リー・ホンイーの魅力がすごくよく出ているドラマだと思いますね。ダメ御曹司が成長していく姿が本当にかわいらしくて! 彼もシー・シーも、ちょっぴりアンニュイな雰囲気をまとっていて、元気はつらつというタイプの俳優さんじゃないというのも、物語のテイストに合っている気がします。
この作品は鉄板のタイムスリップもので、このあとどうなっちゃうんだろう?というドキドキワクワクを味わえますし、歳の差恋愛ものとしても楽しめる。あっという間に観終わっちゃいました。「春花秋月~初恋は時をこえて~」でリー・ホンイーにハマった人にはオススメです!
エンタメ性の高い作品があるのも中国ドラマの魅力(島田)
──サスペンスでは、小酒さんに「Burning Ice<バーニング・アイス>-無証之罪-」をオススメの1本に挙げていただきました。
「Burning Ice<バーニング・アイス>-無証之罪-」
コンプリートDVD BOX販売中 / デジタル配信中
発売・販売元:ポニーキャニオン / 企画協力:NHKエンタープライズ
ストーリー
大都市・哈松で、運送会社社長・孫紅運の死体が発見される。遺体は雪だるまにくくりつけられており、「私を捕まえてください」という貼り紙があった。その手口から、警察は未解決の“雪だるま連続殺人事件”と断定。あるミスから交番勤務となっていた刑事の厳良(チン・ハオ)は捜査チームに合流する。一方、法律事務所勤務の青年・郭羽(ダイ・シュー)は初恋の人・朱慧茹(ドン・ジアジア)が孫紅運の愛人であり、事件の重要参考人であると知ることに。彼は朱慧如の助けになろうと奔走するが、2人は思わぬ事件を引き起こしてしまう。そして彼らの前に謎の男・駱聞(ヤオ・ルー)が現れ、事件の隠ぺいを提案してくる。
小酒 ミステリーもののドラマで最初に日本でウケたのがこのドラマという印象なんですよね。だから中国のミステリードラマに触れてみたいなと思っている人が最初に観るならこの作品かなと。けっこうシビアな猟奇殺人をテーマにしているので、硬派なものが観たい人、韓国ドラマの「ボイス」シリーズとかが好きな人にはオススメですね。「バッド・キッズ 隠秘之罪」と同じく、紫金陳の小説が原作で、人間ドラマもしっかり描かれている。見応えがありますね。
──中国ドラマファンだけじゃなく、ミステリー好きの海外ドラマファンもハマっていた印象です。
小酒 北欧ミステリーもそうですけど、事件の謎解きだけでなく様々な登場人物たちの心理が赤裸々に暴かれていくのも面白い、今世界的に流行っているタイプのドラマですよね。キャストも演技派がそろっています。
──島田さんにはオススメの1本としてヤン・ミーとチャン・ビンビンが共演した「暴風眼-特命捜査官-」を挙げていただきました。
「暴風眼-特命捜査官-」
DVD-BOX1~4販売中:各税込9900円
発売元:マクザム+中央映画貿易
販売元:マクザム
ストーリー
国安局捜査課・安静(ヤン・ミー)率いる捜査官たちは標的である“ブラスター”のコードネームで知られる産業スパイの追跡を始める。しかし、相手は尾行に気付いたのか、彼らを翻弄。やがて、ブラスターの乗る車は、デパートの地下駐車場へ。捜査官たちは、安静の指示のもと、ブラスターの身柄を押さえようとするが……。
島田 小酒さんがコアな作品を入れてきたので、私は、国安局VS産業スパイというようなエンタメに振り切ったものを選んでみました。硬派で本格的なサスペンスがある一方で、香港映画の流れを汲んだようなエンタメ性の高い作品があるのも中国ドラマの魅力だと思うんです。シリアスでありながらもちょっと緩い部分もあって、そこがまた愛しい(笑)。
この作品は出演陣が豪華で、「永遠の桃花~三生三世~」ファンにはたまらないキャスティング。華やかで楽しめると思います。ヤン・ミードラマの“いつメン”が出ていて、神様が人間界で修行してる?と思ってしまうような(笑)。中米テレビ祭でゴールデンエンジェル賞を獲ったりもしていて、海外でも評価された作品なんですよね。
小酒 ヤン・ミーってこういう現代ドラマを作っておいたりするところがさすがなんですよね。視聴者って正直物語のクオリティばっかりを求めているわけじゃないと思うんです。あのキャストとあのキャストが出ているから観てみよう!とか、ドラマにはいろんな楽しみ方がある。エンタメに振り切った作品も大事。
島田 そうそう。ヤン・ミーとチャン・ビンビン共演ですよ! 観ましょう!と(笑)。
本当にこういう家族がいるんじゃないかって肩入れしてしまう(小酒)
──ヒューマンドラマではお二人ともオススメ作品としてタン・ソンユン、ソン・ウェイロン、チャン・シンチョンが共演した「家族の名において」を挙げていただきました。
「家族の名において」
DVD-BOX1~3販売中:各税込1万3860円
発売元:ソニー・ミュージックソリューションズ / コンテンツセブン
販売元:TCエンタテインメント
ストーリー
血はつながっていないが兄妹のように育った3人、リン・シャオ(ソン・ウェイロン)、ハー・ズーチウ(チャン・シンチョン)、リー・ジェンジェン(タン・ソンユン)は、それぞれ幼少期のトラウマを抱えながら、リー・ジェンジェンの父とリン・シャオの父のもとで元気に育っていた。しかし2人の兄が高校を卒業したあと、あることがきっかけで離ればなれに。9年後、2人の兄と再会したリー・ジェンジェンは、兄妹として失われた時間を取り戻そうとするが、兄たちに思いを寄せられ、次第に自分の恋心に気付くようになる。
小酒 他人が家族になるという部分に違和感を感じないのは中国ドラマならではかもしれませんよね。アパートの上下に住んでいるという関係だと、日本の場合ご近所さん止まりで家族という表現には違和感を感じるかもしれない。でも、中国だと兄、妹と呼び合う仲になるという物語はよくありますよね。
──なるほど。
小酒 3兄妹の人生が子供時代から長いスパンで描かれているのがこのドラマのいいところ。本当にこういう家族がいるんじゃないかって肩入れしてしまう。街で見かけたら「お父さん! がんばって!」って声かけちゃいたくなるような。
島田 お父さん2人が本当にいいんですよね。すごく心つかまれる。
小酒 序盤はホームドラマで、途中からラブストーリーになっていく。タン・ソンユンを前にして、やっぱりお兄ちゃんたちは恋せずにいられない(笑)。大人になったヒロインが、再会したお兄ちゃんたちとちょっと距離を感じるところもいいなって。子供の頃みたいに無邪気ではいられない男女の姿がリアルでした。恋愛パートはソン・ウェイロン演じるリン・シャオに肩入れして観ていたんですが、つらい思いをした子供時代から、愛を求めてきた彼の姿を追ってきているのでものすごく感情移入してしまいましたね。幼少期の回想シーンをちょっと挟むだけなのと、「家族の名において」のように子供の頃からしっかり描いているのとでは、観ている側の感情の乗り方が全然違う。
島田 私も序盤の子供時代からずっと泣いていましたね。ごはん食べさせてあげてー!って(笑)。それぞれが、何かしらの思いを抱えていて、リン・シャオとハー・ズーチウのお母さんも悩みがあって、みんなが悪者じゃない。そんなところも切なくて、ぐっとくる。恋愛パートもとっても素敵なのですが、親や大人の目線で家族ってなんだろう?って改めて考えさせられるようなドラマでもありました。幅広い年齢層にオススメできる作品ですよね。タン・ソンユン、ソン・ウェイロン、チャン・シンチョンがお目当てでもいいし、ヒューマンドラマが好きな人にも観てほしいです。
──日本未放送・未配信、ソフト未発売の作品で楽しみにしているものはありますか?
島田 バイ・ジンティン主演のタイムループドラマ「開端(原題)」がすごく評判がよくて、日本に来てくれないかなと思っていますね。バスの爆発に遭遇した主人公がそれを食い止めるために奮闘するという作品です。あとはやっぱりシャオ・ジャンとヤン・ズーが共演した「余生,請多指教(原題)」ですかね。だってランキングでぶっちぎりのトップだったじゃないですか。ヒューマン、ラブ、医療、美男美女って今ヒットする要素が全部入っている。
小酒 「余生」は地に足の着いたラブストーリーですよね。恋愛パートが派手に盛り上がったりするタイプのふわふわした話じゃなくて。親子もののホームドラマでもあるし、観終わったあといいドラマだったなと思いました。
──現代劇でのシャオ・ジャンを楽しみにしている人も多いと思います。
小酒 時代劇でのイメージとは全然違っていましたね。彼が演じる顧魏は決してスパダリではない。エリートの医師なんですけど、打たれ弱いところがあって、そんな彼をヤン・ズー演じる林之校が叱り飛ばすんです(笑)。中国ドラマのヒロインだなと。顧魏がトラウマを克服していく姿にリアリティがありました。
島田 ヤン・ズーは実力も人気もあって、かわいいし、こういう女優さんが今中国で好かれるのかなと思いますね。
小酒 「余生」も明るい個性のあるヤン・ズーだからシリアスなパートになっても、絶妙につらくなりすぎない。キャストが豪華ですし日本でもみんな観てくれそうな作品だなと期待しています。
日本に入ってくる中国の現代ドラマは、韓流スターや台湾スター出演のものが多かった(小酒)
──ちなみにお二人は中国の現代劇の入り口ってどこだったんですか?
島田 アン・ジェウク主演の「ルームメイト」(2002年)って覚えてますか? いわゆる“同居もの”作品。ちょうど私が中国に住んでいるときにリアルタイムで観ていたんですが、国や言葉の違いを飛び越えて、韓流スターが普通に中国のドラマに出ちゃうんだ!ってすごいびっくりして。
小酒 彼は中国で人気でしたよね。当時は編集者として韓流のムック本も作っていたので覚えています。韓流ドラマ扱いとして「ルームメイト」も日本に入ってきていました。
島田 当時、中国では「秋の童話」とか韓国ドラマがすごく流行っていて、日本より韓流が浸透している印象だったんです。これからはアジア合作で作品を作っていくのが、流行るのかなと思った記憶がありますね。
小酒 私も思い返すと、韓国の歌手・俳優John-Hoon(キム・ジョンフン)出演の「キスは背伸びして」(2012年)が入り口だったかも。上海を舞台に田舎から出てきたヒロインが垢抜けていって恋も仕事も成功するというお話で、テイストとしては台湾のアイドルドラマの影響も感じる作品でした。
島田 「流星花園~花より男子~」(2001年)で台湾ドラマの認知度が一気に上がって。F4がすごい人気でしたよね。
小酒 F4ブームの後、「流星花園」中国版と呼ばれた「一起来看流星雨(原題)」(2009年)が大ヒットして、中国でもいわゆるアイドルドラマが増えましたよね。その中で日本に入ってくる中国の現代ドラマは韓流スターが出ていたり、フー・ゴーやチェン・ボーリンが共演した「ハッピー・カラーズ ~ぼくらの恋は進化形~」、ピーター・ホーやリー・イーフォンが共演した「彼女たちの恋愛時代」のように台湾と中国俳優の共演作が多かった印象ですね。すでに日本で人気のある韓流スターや台湾スター出演をフックにして、作品が入ってきていた。
島田 Rain(ピ)が中国ドラマ「ダイヤモンドの恋人」(2015年)に出ていたりもしてましたよね。おしゃれな作品が増えている頃で。
小酒 その頃は中国で「星から来たあなた」が大ヒットしたりK-POPが流行ったりして再び韓国ブームが来て、ドラマに韓国俳優が主演したり、韓国ドラマをリメイクしたりする流れもありましたよね。でも、2016年に韓国エンタメを規制する「限韓令」によって状況が変わって。韓国が関係するドラマは随分お蔵入りになってしまった。ション・イールンとディリラバ共演で「彼女はキレイだった」をリメイクした「逆転のシンデレラ~彼女はキレイだった~」はギリギリ日の目を見て幸いでした。
──韓国・台湾スター出演が売りではない中国ドラマの存在感が日本で増してきたのはいつ頃なんでしょうか?
島田 大きかったのは「お昼12時のシンデレラ」(2014年)ですかね。この作品は面白かった。
「お昼12時のシンデレラ」
コンプリート・シンプル BD‐BOX【期間限定生産】販売中:税込6600円
コンプリート・シンプル DVD‐BOX1~2【期間限定生産】販売中:各税込5500円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※上記は2022年8月時点の情報
ストーリー
風騰グループに就職し、憧れの上海での生活を始めたシャンシャン(チャオ・リーイン)。ある日、突然呼び出されて病院へ行くと、そこには風騰グループのCEOフォン・トン(チャン・ハン)の姿があった。彼の妹ユエが出産のためにAB型Rhマイナスの輸血が必要になり、同じ血液型の彼女が呼び出されたのだ。こうしてユエの命の恩人となったシャンシャンのもとに、毎日弁当が届けられることになる。おいしそうに弁当をほおばるシャンシャンに惹かれていくフォン・トン。しかし、彼女はフォン・トンの親友ジョン・チーに恋心を抱いていた。
小酒 確かに「お昼12時のシンデレラ」とそれに続く「マイ・サンシャイン~何以笙簫默~」(2015年)は印象的ですよね。そう考えるとこのあたりが変わり目なのかなと。2010年代半ばぐらいから今っぽい恋愛ドラマ、ラブコメが日本に入ってきた感触はありますね。私の中で大きかったのも2016年の「私の妖怪彼氏」で、中国の現代ドラマもイケてる!と思うきっかけの作品でしたね。
島田 主演が韓国の俳優さんでしたっけ?
小酒 そうなんですよ。でも有名なスターを起用したというパターンではなかった。「私の妖怪彼氏」は画面にエフェクトで吹き出しが出てきたり作りがすごくおしゃれでかわいくて。SNSを活用している今っぽい感じもドラマに盛り込まれ、ラブだけでなくミステリーも盛り上がるんです。今考えると監督は「贅婿[ぜいせい]~ムコ殿は天才策士~」のダン・カーで、その後もヒット作を送り出している。
「私の妖怪彼氏」
DVD-BOX1~2<シンプルBOX 5000円シリーズ>販売中:各税込5500円
発売・販売元:エスピーオー
Amazon Prime Video チャンネル「エンタメ・アジア」ほかにて配信中
ストーリー
アイドル女優ティエン・ジンジー(ウー・チェン)は彼氏にフラれた晩、交通事故に遭い、大量失血して意識を失う。だが、病院のベッドで目覚めると、なぜか無傷で、ジンジーの前に謎のイケメン、シュエ・リンチャオ(キム・テファン)が現れる。彼は、彼女の血によって100年の眠りから目覚めた不老不死の男だった。その後、リンチャオとなりゆきで同居生活を始めたジンジーは、いつしか不思議でクールな彼に惹かれていく。
──今は、中国でどんなジャンルが視聴者に受けているんでしょうか?
小酒 相変わらず主人公がヒロインを溺愛する「甜寵劇」はすごいですね。全然廃れない(笑)。
島田 日本と違うところで言うと、中国では“eスポーツもの”の人気は定着していますね。
小酒 “eスポーツもの”は「マスターオブスキル 全職高手」「Falling Into Your Smile 君の笑顔にメロメロ」とか面白いんですけど、日本では配信だけというのもあって、イマイチ知名度がない感じ。
島田 中国ほどわーっと熱く盛り上がらないですよね。
小酒 中国は若い子なら誰でもオンラインゲームやスマホゲームをやっているイメージですよね。最近は実在するゲームとタイアップしてドラマを作っていて、「プラチナの恋人たち」に出てくる「王者栄耀」も実際にあるゲーム。実は日本でもグローバル版(伝説対決 -Arena of Valor-)がリリースされているので、そのユーザーの皆さんにもドラマを観てもらえたらうれしいですね。
島田 あとは、コロナ禍以降、医療系ドラマが多くなった印象ですね。
小酒 レスキューものも増えたかもしれないです。それから、職場ものの描き方がどんどんリアルになっているので、その業界について知らなくても、ドラマを観ているうちに知識が着いて勉強になりますね。
島田 若手CEOだらけじゃなくなりましたね(笑)。
一同 (笑)
島田 コロナによって、家でテレビを観る時間が必然的に多くなったので、今まで外に仕事に出ていてドラマから離れていた人たちが戻ってきているんですよね。だからドラマが若い子だけのものじゃなくなって、恋愛ものでも大人向けのものだったり、お仕事ドラマも、金融の世界や弁護士の姿をリアルに描くようなものが人気を集めている。あとは、家族でテレビを観る時間が増えたので、ファミリー向けのヒューマンドラマの人気がぐっと上がってきましたね。
小酒 そうそう。鉄板の家族ドラマがテレビドラマランキングの上位3位に入っていますよね。
島田 あとはベテランの俳優をメインキャストに据えて建国の歴史を描く……日本で言う大河ドラマのような作品の需要がぐっと上がってきているらしいんです。若い子が1人で観るようなネットドラマに勢いがあったけれど、コロナの影響で、今は家族みんなで長い時間観るようなドラマが盛り返してきている。
小酒 社会における女性のリアルな悩みをテーマにしたもの、シスターフッドものも増えてきましたよね。日本に入ってくる作品はどうしても偏ってしまうんですが、中国ドラマには色んなジャンルがある。ラブコメもシンデレラが王子様に幸せにしてもらうのを待っているんじゃなくて、自分の意志で人生を切り拓いて幸せを手にするという作品が増えています。ヒロインも自立していて、女性視聴者がリスペクトできる部分がないと共感されない時代ですよね。
島田 そういうのが似合う女優さんの需要が高まっていますよね。
小酒 あざとかわいいヒロインが登場するラブコメも確かに健在なんですが、でもプライドを持ってしっかり仕事をしていたりする女性になっている。最初の感触は一昔前のラブコメと変わりないように見えても、キャラクター造形はかなり進化していると思いますね。「月光変奏曲」はそういう作品。
島田 あとは、今までの現代ドラマって5話くらいまで観ると、なんとなく先が見えちゃうものも多かったと思うんですが、最近は大どんでん返しがあったり、全部観ないとわからないドラマが増えましたよね。
小酒 恋愛ドラマでもミステリーを忍ばせて、最後まで飽きさせずに引っ張る作品は増えましたよね。今は40話以下にしないといけないというのもあるので、尺稼ぎがなくなってお話の展開も速くなっている。
──中国時代劇にはお約束のような“あるある”がいくつもあって、それを見つけるのも楽しみの1つです。現代劇にも“あるある”はありますか?
島田 若きCEOには要注意(笑)。
一同 (笑)
島田 会社が経営難になって若きCEOが突然退任するみたいな展開はあるあるですよね。お金なんかなくたってヒロインと2人で愛を育むという。学園ものだとジャージ姿もあるある。あとはひょんなことからの同居ですかね(笑)。
小酒 鉄板ですよね。契約結婚してとか、大家さんの問題でとかいろんなパターンがある。同居させるとお話を進めるのがスムーズなんですよ(笑)。でも、中国の現代ドラマはまたこのパターン?と思わせておいて、ひねりがあって面白いものがたくさんある。作り手がすごく工夫しているのを感じます。例えばシュー・カイチョン出演の「旦那様はドナー」も契約結婚ものなんですが、意外な展開に進んでいく。そういう物語の面白さ、作り手の意欲と誠実さが楽しみ続けられる理由なんじゃないかと思いますね。
小酒真由子(コサカマユコ)
フリーライター。アジアから欧米までドラマについて執筆。「韓国TVドラマガイド」(双葉社)にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆に参加した「チャン・ツィイー主演『上陽賦~運命の王妃~』公式ガイドブック 上・下巻」(ぴあMOOK)が発売中、「『夢幻の桃花~三生三世枕上書~』公式ガイドBOOK」が10月15日に発売予定。
島田亜希子(シマダアキコ)
中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆するほか、中文翻訳もときどき担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」(キネマ旬報社)「見るべき中国時代劇ドラマ」(ぴあ株式会社)「『夢幻の桃花~三生三世枕上書~』公式ガイドBOOK」などにも執筆している。