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ぴあ 総合TOP > 鬼才・白井晃の遊び心が光る噛み合わない会話劇 ー 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『住所まちがい』【ネタバレあり】

鬼才・白井晃の遊び心が光る噛み合わない会話劇 ー 演劇ジャーナリスト・大島幸久が観た『住所まちがい』【ネタバレあり】

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左から)田中哲司・渡辺いっけい・仲村トオル りゅーとぴあ×世田谷パブリックシアター『住所まちがい』 撮影:二石友希

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『住所まちがい』は10分間に4、5回、場合によっては1分間に1回笑いが起きる喜劇。それも謎解き、ミステリー仕立ての噛み合わない会話劇と言えるから、脳ミソをフル回転して観ることになった。

不可解な物語だ。舞台装置は白一色に統一された素晴らしく絢爛で豪華な一室。出入りするのが困難な密室だ。最初に下手の客席通路から登場し、扉を叩いて入ったのが、商売不明の会社社長・仲村トオル。何者かと待ち合わせているが誰もいない。さらに元警部の渡辺いっけい、教授の田中哲司。皆、住所を間違い、人違いをしている。名乗り合うと、仲村は渡辺だと言い、渡辺は田中、田中は仲村と自己紹介する。それぞれの俳優名だから、もう笑える、見る方は混乱する。原作を自在に書き換えた鬼才の演出家・白井晃の遊び心なのだろう。

相手を誹謗し、悪態を付き、自己正当化を計る。それも早口で長台詞だ。各人が競い合うように話術を尽くし、自己証明の再現をする。三人三様のその場面が一番の見せ場だった。突然、やたらと体操を始める渡辺は芸達者、仲村にはコメディアンの素養があった、田中はいちいち言葉遣いにうるさく、いらつく教授ぶりが板に合う。

ほぼ四分の三が進んだ頃、朝海ひかるがやっと登場した。床下からの姿は掃除婦。バケツを手に、ひどい訛りのしゃべり方。「アリエール、ある?」とか、ギャグもでる。そして幕切れ近く、着替えて出てきた格好に驚いた。まるで「ローマの休日」のプリンセスか女神じゃないか。その前で懺悔する3人。謎の女だった。

自分が間違っているのか? 人はそう思うと不安になり、怒りが増すのか。笑わせて、混乱させて、白井演出は4人を糸人形のように操った。

さて、付録。もし、森繁久彌、三木のり平、フランキー堺、池内淳子に演じさせたらどんな喜劇になったかしらん。ふと、想像していた。(9月29日所見)

<公演情報>
『住所まちがい』

2022年9月26日(月)~2022年10月9日(日)
会場:東京・世田谷パブリックシアター
豊橋公演(10月13・14:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール)、兵庫公演(10月22・23日:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)、松本公演(10月29日:まつもと市民芸術館 主ホール)、新潟公演(11月2・3日:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場)

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)

東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)、『歌舞伎役者 市川雷蔵 のらりくらりと生きて』(中央公論新社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

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