早霧せいなが芝居の楽しさに立ち返った『ハリー・ポッターと呪いの子』
ステージ
インタビュー
早霧せいな 撮影:源賀津己
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すべて見る2016年にロンドンで開幕し、世界で上演されている『ハリー・ポッターと呪いの子』。アジアでは初上演となる日本公演も、次々に飛び出す魔法に驚き、ハリー・ポッターの世界観を体感できると話題だ。演者もまたその魅力を大いに感じながら舞台に立っているようである。ハーマイオニー・グレンジャーを演じている早霧せいなの言葉が、それを証明してくれる。
「エマ・ワトソンのようにかわいく演じたかったなという気持ちもありました」
──6月にプレビュー公演が開幕し、7月に本格的に初日を迎え、好評のうちに上演が続いています。実際に舞台に立ってどんな手応えを感じておられますか。
お稽古が始まるまでは、正直、不安だったんです。ロングラン公演ですから、体力的にもメンタル面でも、自分がどうなるのか想像がつかなくて。でも、4月に稽古が始まってから半年くらい経ちますが、飽きることも全くなく、日々楽しく、やりがいを感じながら演じられています。
──魔法の仕掛けなど、いろいろ気をつけなければいけないこともあって、大変だろうと想像はします。
自分がセリフを言うとこれが発動するとか、ここに立たないと何かができないといった、きっかけになるものが演技の中に多くあって、そこをシビアに守らないとこのお芝居の内容をちゃんと伝えられないので。安全面を含め、やはり、通常の舞台とは気を遣う部分も少し違いますね。でも、そのおかげで常にちょっとピリッとした緊張感があって、それによって鮮度が保たれているのかもしれません。
──そもそも、「ハリー・ポッター」シリーズは小説も映画も大人気の作品で、その中でもハーマイオニー・グレンジャーは、人気の高いキャラクターのひとりです。演じるにあたっては、プレッシャーなどもあったのでしょうか。
「ハリー・ポッター」については、メガネをかけた男の子が主人公の魔法の話、ということくらいしか知らなかったんです。だから、ハーマイオニー・グレンジャーのことも、魔女のひとりなんだろうな、それにしても長い名前だな、とかしか思っていなくて(笑)。後にハリーの友だちだと知ったので心してオーディションには向かったんですけど、そんなスタートだったからか、あまりプレッシャーを感じずにオーディションは受けられたんです。ただ、ハーマイオニー役が発表されてから、「小さい頃から大好きなキャラクターです」とか「自分のバイブルでした」といったお手紙をたくさんいただいて、こんなにハーマイオニーを好きな女性がいらっしゃるんだとわかって。これはちゃんとやらなきゃいけないなと、そこで改めて感じるものはありしました。
でも、これまでの小説や映画で描かれてきたハーマイオニーと、この舞台でのハーマイオニーは、年齢も重ねているし、やはり違うと思うんですね。魔法大臣になっていることも、魔法族ではないマグルに生まれたコンプレックスを抱えながらそこまで上りつめるには、どれだけ大変な思いをしてきたか。その信念や意志の強さを背負って、この舞台では存在していると思うんです。だから、映画のエマ・ワトソンのようにかわいく演じたかったなという気持ちもちょっとありました(笑)。
──残念だったなと(笑)。
はい(笑)。でも、強がっている分、その裏には弱さもあって。そういう見かけとは違う面を見せられる相手がいて、それがロンであるというところが彼女の魅力でもあると思うので。そのキュートさはにじみ出ているのではないかなと思っています。
──実際にどんなふうに役を作っていかれましたか。
舞台のハーマイオニーは、背負っているものが強いこともあって、誰かや何かに怒っていることが多いんですね。だからまず、エネルギッシュにスピード感を持ってやるということを演出からは言われました。

最初は、ダブルキャストの中別府葵ちゃんと、「こんなに怒る必要ある?」「強すぎるんじゃない?」と心配したんですけど、ちょっと柔らかくすると、「もっと強く怒って」と言われたので(笑)。この作品のキャラクターとして打ち出すものをしっかり表現しないとお客さんも迷ってしまうだろうなとも思って、強く、エネルギーを持って相手に向かうということを叩き込んでいきました。ただ、強く出るばかりではその強さ自体にも幅が出ないので、抜くところは抜いて緩急をつけたいなとは思っていて。そのいかに緩めるかというところは、例えば笑いのポイントを、ロンと一緒に夫婦で試行錯誤しながらやっていきましたね。稽古ではもう誰も笑ってくれなくなって自信をなくしましたけど(笑)。

でも、お客様が入って反応してくださったことが自信になっていったので、じゃあ、こうしてみようああしてみようと日々チャレンジができていて。やはり、お客様が育ててくれるんだなと実感しています。
目力とエネルギーの藤原ハリーと可愛さの滲む石丸ハリー、探求心をくすぐる頭脳派の向井ハリー
──今回の東京公演は、海外スタッフと共に作り上げられています。クリエイションの過程では、どんなことが印象に残っていますか。
演出や動きは、海外で上演されているものと共通しているんですけど、海外チームは、演じている人の個性をすごく大切にしてくれるんですね。ダブルキャストの場合も、ここでここに立つなど、やらなければいけないことは同じなんですけど、私のハーマイオニーはこうしてみていいんじゃない? という導き方をしてくれる。言ってみれば、目指す山の頂上は同じだけどどのルートで登ってもいいよという自由度があるんです。なので、今日はこっちを通ってみようかなというふうに、役者側が新鮮にトライしてみようという気持ちになれる。それが、最初にお話したような、日々楽しくやれている要因なんだと思います。
──ハリーを演じられているのは、藤原竜也さん、石丸幹二さん、向井理さんの3人。それぞれの魅力もぜひ教えてください。
私はお稽古もほぼ藤原さんとしかしていなくて、石丸さん、向井さんとは、直前に少し合わせたくらいなんですけど。藤原くんはとにかくこの作品が持つエネルギーやスピード感をキャッチするのが速くて、ロン役の竪山(隼太)くんと、「藤原さんの速さに合わせていたら上っ面しかできないから、私たちは私たちのペースでやろう」と言い合ったくらい集中力あって。本番でも、すっごいエネルギーと目力なので、すっごい負けないようにしています(笑)。また、そのハリーと対峙するシーンの後は、今日も楽しい芝居ができたなという爽快感というか、これまでにないくらいの充実感が味わえるんです。舞台上でセリフを交わせて本当に幸せだなと思っています。
それから石丸さんは、やさしさがにじみ出てしまっているかわいいハリーという印象です(笑)。かわいいなんて失礼かもしれないんですけど、一生懸命に理想の父親になろうとする姿が、石丸さんのやさしさとフィットして、ハリーを支えてあげたくなるんですよね。
そして向井さんは、いわば頭脳派ハリーで、ハリーが一生懸命考えていることが目のお芝居で伝わってきて、何を考えているのか、何をしようとしているのか、ハーマイオニーとして探りたくなるんです。危なっかしいことをしようとしているんじゃないか、だったら止めなきゃと思わせるハリーですね。
「今、お芝居が楽しくて仕方がないんです」
──今、これまでにない充実感という言葉も出てきましたが、この作品との出合いは、早霧さんの役者人生にどんな刺激を与えてくれているでしょう。
宝塚時代から数えると、お芝居を始めて21年目になります。宝塚では、新人公演の主役やバウホール公演の主役などを経て、男役のトップを務めさせてもらって、徐々に自分の中に責任やプレッシャーを抱えるようになっていきました。退団して一旦その荷を下ろしたものの、呼んでもらった以上はこれまでの経験を踏まえて舞台に立たなければいけない、期待以上のものを出すことが自分の仕事だと、やはり責務を果たさなければという思いが変わらずにあったんです。でもそれが、この『ハリー・ポッターと呪いの子』をやっているうちに取れていったんですね。それは私にとってはいい意味であって、ただただ役と向き合って、作品と向き合って、目の前にいる人とお芝居をして、お客様に何かを届けるという、シンプルなところに立ち返れた気がするんです。まるで宝塚の下級生の頃に戻ったようで、「そうだ、私はこの感覚を楽しいと思っていたんだ」と思い出せて、お芝居ってこうだったというところにいき着けた。最初は不安に思っていたので、こんな気持ちになるなんて思いもしなかったですけど、今、お芝居が楽しくて仕方がないんです。
──そう思えた一番の理由は何でしょうか。
それはもう、リスペクトし合える仲間がいることです。信頼し合える雰囲気を海外チームが作ってくれたから、安心感の中で役と向き合うことだけに集中できる。そしてそうなれる根本には、戯曲がいいということがあると思うんです。いい戯曲だからみんなが何の鬱屈も疑いも持たずに目標へ向かっていける。
──その戯曲の魅力も教えてください。
未だに私、最後のシーンが終わると、「今日もいい話だった」と思ってお客様と一緒に拍手しているんですけど、本当にいい話だなとしみじみ思うんです。魔法界を救ったヒーローのハリーも、子育てにはこんなに苦労するんだと親近感も湧きますし。親も子も成長していく物語で、子どもから大人までどの世代にも響くセリフが散りばめられていて、たぶん観るたびに響くところが変わったり、何度観ても違う感覚になったりすると思うんです。本当に飽きない。いい戯曲ってこういうことなんだなと思います。
取材・文:大内弓子 撮影:源賀津己
ヘアメイク=飯嶋恵太(mod’shair) スタイリスト=田中雅美
2023年5月公演まで販売中!
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/events/harrypotter-stage#ticket
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