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じわじわと感動し力が湧く作品が当たる、そんな演劇界を作りたい ホリプロ堀義貴会長×梶山裕三制作部長に聞くミュージカル『バンズ・ヴィジット』の魅力

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左から)ホリプロ堀義貴会長、梶山裕三制作部長 撮影:石阪大輔

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2018年のトニー賞で、『アナと雪の女王』や『ミーン・ガールズ』を抑えて10冠に輝いたミュージカル、『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』が日本で上演される。製作するのは、出資者の一員としてトニー賞のトロフィーを日本に持ち帰ってきたホリプロだ。エジプトの警察音楽隊が、対峙してきた歴史を持つイスラエルのとある辺境の町に、“間違って”到着してしまったことから巻き起こる大人のヒューマンコメディ。森新太郎が演出を手がけ、風間杜夫や濱田めぐみら豪華キャストが集うことも話題の舞台について、ホリプロの堀義貴会長と梶山裕三制作部長に聞いた。

幅広い作品を手がけるホリプロステージの出資第2弾

――まずは、本作に出資を決められた経緯を教えてください。

 元々の動機は、そんなに純粋なものではなくて(笑)。ホリプロとして初めて出資した『ディア・エヴァン・ハンセン』(2016年ブロードウェイ初演)が当たってくれたので、いずれ利益が出るだろうという話になったんですね。儲けるためじゃなく、いつか日本でやりたいと思って出資した作品で利益が出るなら、それは“あぶく銭”のようなもの。日本に持ち帰っても仕方ないから、また別のブロードウェイ作品に出資して使い切ってしまえ!と思っていた時に(笑)、仲介してくれている会社から何作か紹介されたうちのひとつがこの『バンズ・ヴィジット』でした。その時点ではA4用紙2枚ほどの資料しかなく、僕は原作映画も観ていなかったんですが、とにかく話が面白そうだと。イスラム国の話題が世界を席巻していた時に、エジプトの警察音楽隊がイスラエルで迷子になる話をミュージカルにするなんて、アメリカ人はすごいなと思いましたよ。

――出資される作品は、会長おひとりでお決めになるのですか?

梶山 候補を絞る段階では僕らが吟味をしますが、決められるのは会長です。多分、僕らに責任を取らせるのはかわいそうだと思ってくださってのことではないかと(笑)。

 いや、僕のところに持ってくるのは、現場で決め兼ねてるからだろうと思うんですよ。出資に限らず、オリジナル作品をやるかやらないかの判断もそう。『フィスト・オブ・ノーススター』の時もそうだったけれども、聞かれたから「やるでしょ」と言っただけなのに、僕の言葉を錦の御旗のように持って帰ろうとするところがある(笑)。

梶山 “ホリプロ作品”として上演する以上、会長のところにも「なぜこれをホリプロで?」というお話が行くでしょうから、決める前に一応聞いておこうと(笑)。

 でもたまに、僕が反対したのにやることもあるでしょう?

梶山 あ、そんなことありましたか?(笑) 僕は知らなかったです。すごい会社ですね(笑)。

――自由な社風と会長の決断力が、ホリプロ作品の幅広さにつながっているのですね(笑)。話を出資に戻すと、その後ホリプロは、ダイアナ元妃を描くミュージカル『Diana』(2021年11~12月ブロードウェイ)にも出資されています。

 ビギナーズ・ラックと言うんでしょうか、『ディア・エヴァン・ハンセン』と『バンズ・ヴィジット』が連続して当たったことで、また次の話がいくつか来たんです。あまり興味を惹かれるものがなかったなかで、ロイヤル・ファミリーが題材なら日本でやれる可能性があると思って選んだんですが、幕が開いたら痛快なほど酷評でね(笑)。収録されてNetflixでも公開されたから僕も観たけれども、日本でやれるような作品ではなかった。でもあんまり次々と当たっても不安になりますから、“厄落とし”ができたようで、悪い気持ちではなかったですよ(笑)。同じ時期にもう1本、『Sing Street』というミュージカルにも出資したんですが、あれはもう開いたんだっけ?

梶山 ブロードウェイを目指して、つい先日までボストンでトライアウト中でした。

 映画『シング・ストリート 未来へのうた』が原作の、『バンズ・ヴィジット』とはまた全然違う若者の話。今度は当たってくれたらいいなと思っています。

洒落た物語と力のある音楽、そして“笑い”も魅力のシュールな作品

――では、本題の『バンズ・ヴィジット』について伺います。いま目の前にトロフィーがあり、個人的にも大変興奮しているのですが、トニー賞授賞式にはおふたり揃って参加されたそうですね。

梶山 参加したといっても、僕はただのアテンドです(笑)。もし作品賞を受賞したら会長が舞台に上がるわけですから、その歴史的瞬間を写真に収めて会社に報告するのが僕の役目。それでも会場に入る以上はタキシード着用が必須ということで、お付き合いのある舞台衣裳屋さんから借りて行きました(笑)。会長は、ご自身のタキシードを持ってらしたと思うんですけど。

 いや、昔のタキシードは入らなかったから慌てて買いましたよ(笑)。

梶山 そうだったんですね。僕はニューヨークに着いてから、持ってきたカメラでは望遠が足りないかもしれないと不安になって、慌ててレンズを買いました(笑)。

 何かとお金はかかったよね。このトロフィーも、メインのプロデューサーはもっと大きいのを無料でもらえるけど、僕たちにはあとから請求書が来る(笑)。

あとから請求書が届いたというトニー賞のトロフィーを持つ堀会長

梶山 会場に入るチケットも高かったですよね。

 打ち上げの参加費まで有料(笑)。まあでも、それだけ名誉なことですから。

梶山 そうですよね。これは余談ですが、この年のトニー賞は、ミュージカル部門で『バンズ・ヴィジット』が、プレイ部門では『ハリー・ポッターと呪いの子』が作品賞を獲ってるんですよ。どちらもホリプロでやることになるとは、運命的なものを感じます。

――今の時点で、『バンズ・ヴィジット』という作品にどんな魅力を感じていますか?

 ほんっとに洒落た話ですよね。対立している国同士の間で、こんなことが実際にあったらいいなと思わせてくれる。登場人物それぞれにストーリーがあって、一つひとつは実に些細なんだけども、お互いに親近感を持つようになるきっかけが全部に詰まってるんです。なんとも言えないヒューマニズムがあって、静かだけどエモーショナルで、よくできた作品だなと思いますよ。

梶山 一切の無駄がないんですよね。そんな話に、一瞬で入り込ませてくれるのがあの音楽。ホリプロでは、同じデヴィッド・ヤズベック作曲の『ペテン師と詐欺師』も上演していますが、同じ人とは思えないくらい作風が違う。ねっとりとした、本当に力のある音楽です。

 だから僕は日本公演が決まった時から、役者よりもバンドのキャスティングばっかり気になっちゃってね(笑)。何なら中東から連れてきてもいいと思ったくらい、あのグルーヴ感をバンドが出せるかどうかがカギになると思った。

梶山 国内にいるその道の第一人者を揃えたので、そこは安心してください(笑)。そんな物語と音楽に加えて、“笑い”も魅力のひとつだと思います。元々シュールな面白さのある作品で、ブロードウェイ公演も笑いにあふれていましたが、日本版は森新太郎さんの演出。難解な戯曲をかみ砕いて届ける力はもちろんのこと、笑いもまた森さんの真骨頂ですから、きっとすごくいいコメディに仕上げてくださると思います。

濱田めぐみ、風間杜夫、新納慎也ら魅力的なキャストが集結

――キャストに期待することは?

梶山 濱田めぐみさんはもう、どハマリすると思いますね! 灼熱の太陽を浴びて、けだるく振舞ってる姿がもう見える(笑)。僕は普段の濱田さんも存じ上げてますが、公演中はその役になり切る方なんですよ。『カルメン』の時なんて、ずっと殺気立っていて1か月間しゃべりかけられませんでした(笑)。今回も、魅力的なイスラエル人になり切ってくれると思います。

 濱田はどんな役でもできるからね。僕としては、『リトル・ナイト・ミュージック』でご一緒した風間杜夫さんが、またミュージカルに出てくださることが嬉しい。それと、新納慎也さんが優男のトランぺッター役と聞いた時は、なるほどと思わされるものがありました。

梶山 僕、新納さんがブロードウェイに行かれた時に、この作品のチケットを取って差し上げたんですよ。「ありがとう最高だった。トランぺッター役は僕で決まりね!」というLINEが来て、僕も「もちろんです!」と無責任に返してたみたいなんですけど、実はすっかり忘れていて(笑)。有言実行したつもりはなかったんですが(笑)、結果的にそうなったので良かったです。

 役者さんにとって、出てみたい作品なんだろうね。派手ではないけど、ウィットに富んでてお洒落に終わっていく。だからこれだけの皆さんが集まってくださったのだと思いますよ。

――とはいえやはり派手ではない分、ミュージカルファンになかなか魅力が伝わりにくい側面もあるのかなと思います。少し下世話な質問になりますが、本作が当たる“勝算”は……?

梶山 ホリプロステージは今までも、どこもやらないような作品を手がけてきました。そういう意味で、これはまさに“ホリプロらしい”作品だし、クオリティはもう間違いない。いきなり売り切れましたってことじゃなくていいので、開幕してから口コミで広がって最後には一杯になる、そんな作品にしたいですね。この作品を当てたいというより、こういうものが当たる演劇界を僕らが作っていきたい、という気持ちが大きいです。

 怪人も動物も出てこない、誰も死なない、じわじわと感動して力が湧いてくるような作品を当てるのは、確かにすごく難しい。『パレード』も『ビリー・エリオット』も、序盤は全然売れなかったですからね。でもどちらもだんだんとお客様の支持を得て、再演される作品までになりました。これもそうなってくれたらありがたいなあと思っています。

梶山 僕もそれが理想です。『ビリー』ばりのセンセーションを巻き起こしてほしいですね!

取材・文:町田麻子 撮影:石阪大輔

ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2225401

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