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演劇の原点に立ち返るかのようなミュージカル『ファンタスティックス』【観劇レポート】

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ミュージカル『ファンタスティックス』より

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1960年にオフ・ブロードウェイで初演され、実に42年という世界最長ロングランを記録したミュージカル、『ファンタスティックス』。日本でも1967年以来、様々な演出で翻訳上演されてきた人気作が、装い新たにシアタークリエで上演されている。演出は、今年に入って『笑う男』『ネクスト・トゥ・ノーマル』『四月は君の嘘』と、破竹の勢いで良作を生み続けている上田一豪。かつて井上芳雄や田代万里生も演じた主人公マット役には岡宮来夢が配され、元タカラジェンヌからお笑い芸人まで、適材適所のキャスト陣が脇を固めている。

60年以上も前に生まれた作品だが、逆に新鮮さを覚える観客が多いのではないだろうか。ピアノとハープが基調を成すアコースティックな音楽、そして野外劇場のような趣きを醸す、手作り感と遊び心あふれる舞台美術。このところ『ミス・サイゴン』『ヘアスプレー』『キンキーブーツ』『ジャージー・ボーイズ』『エリザベート』と、大劇場・大編成・大音量で迫り来る大作が続いている日本ミュージカル界にあって、演劇の原点に立ち返るかのような本作は優しく体に沁みわたる。ささやくような台詞や歌声の場面でも、言葉が聴き取れない心配のないミュージカル観劇は筆者自身、久しぶりだった。

優しく温かく安心感のある舞台に、かわいらしさを加えているのがキャスト陣だ。岡宮は持ち前の運動能力(と剣さばき!)を封印し、読書好きの内気な青年マットを爽やかに好演。のびやかな歌声と奔放な演技が光る相手役、豊原江理佳ルイーザとのコンビは微笑ましさ満点だ。

コンビと言えば、ルイーザの父ベロミー役の今拓哉&マットの父ハックルビー役の斎藤司、老俳優ヘンリー役の青山達三&その仲間モーティマー役の山根良顕も相性抜群。コミカルな演技をしているというより、居るだけでおかしみが漂っているような存在感が、素朴な作品世界にも実に合っている。そんな3組を、通常は年配の男性俳優が演じる謎の男、エル・ガヨに扮した愛月ひかるが怪しい魅力でかき乱していく――。

描き出されるのは、観方によってはシンプルな“ボーイ・ミーツ・ガール”にも、哲学的な詩劇のようにも思えるストーリー。観る側が人生のどのフェーズにいるかによって、感じることや受け取るものは大きく異なることだろう。子どもの頃に親に連れられて足を運んだ観客が、フェーズが変わる度に再訪したからこそ、42年もの長きにわたってロングランされたに違いない――そう納得させられる思い。昔に戻って初めて出会いたいような、そして人生の最後にもう一度観たくなりそうな気がするミュージカルだ。

取材・文=町田麻子

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