【おとな向け映画ガイド】稲垣吾郎がハマリ役。現代の愛を描く今泉力哉監督の『窓辺にて』
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今週末(11月3日〜5日)の公開映画数は25本。全国100館以上で拡大公開される作品が稲垣吾郎主演の『窓辺にて』、マ・ドンソク主演の『犯罪都市 THE ROUNDUP』、ジュリア・ロバーツ×ジョージ・クルーニーの『チケット・トゥ・パラダイス』と個性豊かな役者が並んだ3本、中規模公開・ミニシアター系が22本です。今回はその中から『窓辺にて』をご紹介します。
『窓辺にて』
いま、日本映画で恋愛を描くのが上手いのは誰か、といったら今泉力哉監督の名前がまずあがる。ラブストーリーといっても、恋が成就するハッピーエンドのラブコメではない。自分に自信がないとか、ありすぎるとか、恋愛に臆病とか、つまり面倒な人たちの愛だの、恋だの。その中に、今の空気が確実に流れている。
これまでの作品は、テアトル新宿などのミニシアター数館で限定公開し、口コミで広がっていくパターンが多かったが、今回はなんたって稲垣吾郎主演、TOHOシネマズ日比谷をメインシアターに全国100館以上の拡大公開。メジャーのパッケージである。だからといって、テーマが変わるわけではない。この映画は、いってみれば、“こじらせ”夫婦の物語。今泉監督のオリジナル脚本だ。
稲垣吾郎が演じているのは、一度だけ小説を書いたことがあるが、それっきりで、いまはフリーライターをしている市川茂巳。妻・紗衣(中村ゆり)は編集者で、担当している新進作家荒川円(佐々木詩音)と不倫関係にある。それを知ってしまった茂巳は悩む。裏切られたとか心が傷ついたとかではないその悩みとは、「妻の不倫を知っても何も感じなかったことが、ショックだった」というもの。やはり、相当面倒なオトコである。
妻は妻で、道ならぬ愛に燃えているわけではない。どこか冷めている。普通は、不倫といえば、背徳のイメージがあり、それが興奮剤のように作用し、恋に落ち、恋の相手しかみえないようになっていくのだが、紗衣は一方でちゃんと茂巳のことを愛しているのだ。こちらも一筋縄ではいかない。
茂巳は文学賞の取材で、受賞した高校生作家・留亜(玉城ティナ)に出会い、その作品に興味を抱く。感性の合うふたりは、たがいに好感を持ち、デートのように会って話をするが、留亜の自由でとぎすまされた感覚は茂巳にとっては、刺激的だった……。
「今回、浮気とか不倫をしている人がたくさん出る話にしようと思った。だけど、みんな罪悪感に縛られていたり、こういうの良くないね、っていっているだけで、誰も恋愛を楽しんでいない(笑)。誰も楽しんでいない浮気を描きたくて」と今泉監督。やはり、監督も相当面倒な感じがする。そのあたりが、そこはかとないユーモアともなり、今泉映画らしい独特の味となっている。
そして何よりこの映画の魅力は、主演の稲垣吾郎にある。「新しい地図」の3人の中では、いちばん目立とうとしていないように見えるし、喜怒哀楽が外にでない、クールな印象。穏やかに微笑んでいる好人物に見える。それが映画出演となるとかなりくせのある役もこなす。なかでも注目を集めたのが三池崇史監督の『十三人の刺客』の狂気をはらんだ暴君役だった。今泉監督は、「ある種の謎めいた得体の知れなさを複雑に秘めた方じゃないかと思った」という。そのヨミはぴたり。今回のややこしいオトコの役に、これほどはまった役者はいない。
優れた感覚の監督は小物の使い方が巧み。今泉監督作品もたいてい、いくつか、観た後で人に話したくなるシーンがある。今回は、フルーツパフェが妙に気になる映画だった。フルーツパフェでこんなに会話が続くとは……。
文=坂口英明(ぴあ編集部)
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
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