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道路問題に直面した人々の“声”を届ける、台本のない芝居作り ブス会*『The VOICE』稽古場レポート

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ブス会*『The VOICE』稽古より、天羽尚吾(左)、罍(もたい)陽子

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ペヤンヌマキが主宰するブス会*、その新作公演『The VOICE』のチラシが穏やかながら強い印象を放っている。さまざまな種類の野鳥や蝶が羽を休める大きなスギの木、そのてっぺん中央に覗く、真っ直ぐ前を見据えた人間の顔。聞けば、笑いやせつなさ、痛みが入り混じる“女性のリアル”を描いて共感を呼んで来たこれまでのブス会*とは趣の違う作品になるという。

やはり、と思うのは、今年のペヤンヌマキの演劇以外の活動を注視していたからだ。自身が住む杉並区で起こっている都市計画道路問題、それによる立ち退きの危機に直面して初めて社会との繋がりを痛感し、地域の運動に積極的に参加。6月の杉並区長選挙で187票差で現職を破り、区長となった岸本聡子氏の選挙活動に密着したドキュメンタリーシリーズ、『○月○日、区長になる女』を撮影・編集したことは話題となった。(このドキュメンタリーで、道路計画が実行されると伐採されてしまう立派なアケボノスギの木があることを知った)その流れでの『The VOICE』である。場所が西荻窪の小劇場、“遊空間 がざびぃ”であることも作品に大きく関係しているようだ。気になる新作公演の様子をぜひ覗かせてほしいと願い出て、稽古場を訪れた。

ブス会*『The VOICE』チラシ

「台本はありません」

可能ならば事前に台本を……と問い合わせて、返って来た意外な答。今回挑んでいるのは、
「ペヤンヌマキが書いた台詞を喋るのではなく、道路問題に立ち向かう地域の人々の生の声を聞き、その切実な思いを受け止めた俳優自身の、内から湧き起こったものを体現する」試みだそうだ。目指すは“伝承スタイルの音楽劇”で、街の人々へのインタビューを行い、その声を素材にしながらフィクションを作ろうとしている。実験的で興味深いが、演者にはなかなか負荷のかかる芝居作りのようである。稽古場に設えた舞台面、その中心に脚立が置かれていて、もしかしてアケボノスギの木の見立てかな? と思っていたところ、「あれは“がざびぃ”の空間に立っている柱」とペヤンヌが教えてくれた。

「あの柱の右側部分が、計画が進んだ場合、道路になってしまうんです。柱を象徴的に見せたくて」

上演される劇場“がざびぃ”内の柱の位置を示すため設置された脚立

柱に見立てたその脚立を真ん中に俳優たちが次々と登場し、エチュードのような立ち稽古が進んでいった。あるシーンでは都市計画とはなんぞや!? と語り合い、あるシーンでは理髪店の店主が客の調髪をしながら語り、またあるシーンでは数人が一致団結して行進し……。演出のペヤンヌマキが静かに見守るなか、俳優それぞれが活発に意見を出し合い、積極的に動き回ってシーンを組み立てていく。時折爆笑が起こる快活な空気に若干圧されながら、俳優たちのやりとりを目で追った。

金子清文(前)、古澤裕介

「ここ、“ありがとう”って言葉を加えたほうがいいかも。その情報を知ることが出来てよかった、って気持ちが伝わるんじゃない?」

高野ゆらこの提案を受けて、罍陽子が瞬時に実践。ブス会*公演ではおなじみの、ともに唯一無二の個性を光らせた実力者であるこのふたりに加え、異儀田夏葉、天羽尚吾、古澤裕介、金子清文と小劇場界の巧者が揃い、音楽監督の向島ゆり子が演奏を担う。俳優から次々にアイデアが発信される様子を見ながら、台本のない芝居作りとは!? という当初の疑問がなんとなく解けて来た。人々の“声”をもとに生まれたいくつものシーンを、コラージュして見せる舞台なのかもしれない。ペヤンヌにそう聞いてみると、「でも、やっていくうちにひとつの物語になって来たように思う」とのこと。

俳優たちが積極的に意見を出し合いシーンを組み立てていく

「街の人たちにインタビューした日に、すぐ稽古をしたんです。取れたての素材を、自分の体を使って表現する、それがすごく面白かった。そのまま本番でもいい、むしろそこから作り込むと違うものが乗ってしまうから、もう稽古はいらないな〜って思ったほど。それくらい実力のある俳優さんたちですし、彼らの感受性を信頼しているんです」

それでも稽古を重ね、目にしたような能動的な展開もあれば、俳優陣から戸惑いの声が上がることもある。

「やっぱり俳優さんは不安になって台詞が欲しくなる。台詞も動きも自分の体に落とし込んだうえで自由になりたい、その気持ちもすごくわかる。でも台詞と思って整理してしまうのは何かが違う、ただのお芝居にしたくないんですよね。人ごとではない、自分の身にも起こり得ると体を通して受け止めてほしくて」

古澤裕介
左から、高野ゆらこ、異儀田夏葉、罍陽子

そうして俳優個人の感覚がプラスされた表現を、観客に伝えていく。伝えられた私たち観客が、またそこから自分の思考を広げていくわけだな、なるほど……と理解は出来ても、伝える側のハードルは限りなく高い。生々しい感覚の放出と、作品として仕上げる確かな枠組み。このカンパニーが、葛藤のはてにそれをどう両立させ、音楽に乗せて伝承させてくれるのか。“がざびぃ”という空間のアシストも気になるところで、ブス会*の、ペヤンヌマキの新境地、その志をしかと目撃すべく次はいざ杉並である。

取材・文:上野紀子

<公演情報>
ブス会*『The VOICE』

2022年11月24日(木)~2022年11月30日(水)
会場:東京・遊空間がざびぃ

チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2232506

関連リンク

ブス会*公式HP:
https://busukai.com/

Twitter:
https://twitter.com/busukai

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