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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『松竹・木下恵介』特集

生誕110年記念
巨匠・木下恵介監督
珠玉の作品を今こそ堪能せよ!

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1943年に監督デビューし、『カルメン故郷に帰る』や『二十四の瞳』『楢山節考』など数多くの名作を手がけた木下惠介監督の作品が配信されている。

日本映画史にその名を刻む傑作が多く、近年、改めて評価の高まっている作品も多い。ことし2022年、12月5日に生誕110年を迎えたいま、改めて木下惠介監督が遺した作品と、そこに描かれたメッセージに触れてみたい。

木下惠介監督の珠玉の名作群が配信中!

『陸軍』(1944)

出演:田中絹代/笠智衆/三津田健/杉村春子
©1944 松竹株式会社

幕末の頃から長年にわたって日本陸軍に関わり続けた一族がいた。祖父・友之丞は、息子・友彦に軍人になれと言い残して死去する。しかし友彦は病気のため戦線に立つことがかなわず、家業の質屋を継ぎ、自身の夢はその息子・伸太郎に託された。時は流れ、青年に成長した伸太郎はついに陸軍に入隊。やがて出征の日。母・わかは、戦地へと行進する息子の姿を探して走り出し……。

幕末から上海事変までの60年を、ある家族の姿を通して描いた作品。陸軍省の依頼で「大東亜戦争3周年記念映画」として製作された作品だが、その根幹には反戦の想いが刻みこまれている。田中絹代が演じる母が出征する息子を追い続けるラストシーンは圧巻。

『お嬢さん乾杯』(1949)

出演:佐野周二/原節子/佐田啓二/東山千栄子
©1949 松竹株式会社

自動車修理工場を経営して大成功をおさめている青年・圭三のもとに、元華族の令嬢・泰子との縁談が持ち上がる。当初、圭三は乗り気ではなかったが、お見合いの席で会った泰子の美しさにひと目惚れしてしまう。ふたりはぎこちないながらも交際をはじめ、ついに泰子から結婚の承諾を得る。すべてが順風満帆に思えたが、泰子の家を訪れた圭三はそこで“ある事実”を知ってしまう。

佐野周二と原節子が出演するロマンティック・コメディ。絶世の美女に惚れてしまった男と、家のために金持ちの男を愛そうとする女の駆け引きを軽妙なタッチで描く。単なるコメディではなく、没落した上流階級の顛末や、新興成金の台頭など混乱した戦後の世相が物語に巧みに盛り込まれている。

『善魔』(1951)

出演:森雅之/淡島千景/三國連太郎/桂木洋子
©1951 松竹株式会社

政治家の妻の失踪事件の真相を追うよう命じられた新聞記者の三國は、失踪した北浦伊都子の父の家を訪ね、記事にしないことを約束に、伊都子の妹・三香子の案内で、親友の家に身を寄せていた伊都子の居場所を突き止め、取材に成功する。やがて、三國は三香子に惹かれ、ふたりは恋に落ちるが、肺の弱かった三香子が倒れ……。

善を貫くためには、時に魔の力が必要なのか? そんな刺激的なテーマに挑んだ意欲作。純粋であるがゆえに苦悩する若い新聞記者を演じた三國連太郎は、本作で映画デビューを果たし、本作での役名をそのまま芸名として使用することになった。

『カルメン故郷に帰る』(1951)

出演:高峰秀子/小林トシ子/井川邦子/佐野周二
©1951/2012 松竹株式会社

※2012年=生誕100年記念の際に制作された映像につき、当時の情報が表示されております

東京でリリィ・カルメンの名でストリッパーをしている娘おきんは、同僚の踊り子・マヤ朱美を連れて、故郷の浅間山のふもとの村に帰る。穏やかな村には似合わないふたりの姿や立ち振る舞いに、村の人々は驚き、戸惑い、彼女は見学に行った村の運動会で大失態を起こしてしまう。男性を魅了するストリップを“芸術”だと信じて疑わないおきんは、名誉挽回のためにストリップ公演をすることに……。

日本初の長編カラー映画(総天然色映画)で、何かあった時に備えてモノクロ版でも撮影された。軽快なコメディ映画だが、その背景には自由で奔放な戦後の風潮と、それに反発や違和感を感じる人々の姿がある。主人公を演じた高峰秀子のハツラツとした演技が光る。

『二十四の瞳』(1954)

出演:高峰秀子/小林トシ子/月丘夢路/笠智衆
©1954/2007 松竹株式会社

※2012年=生誕100年記念の際に制作された映像につき、当時の情報が表示されております

昭和3年。小豆島の分教場に新人の女教師・大石が赴任する。彼女は12人の一年生を担当することになるが、慣れない環境や田舎の古い慣習に苦労する。いくつかのトラブルや事件を経ながら、良い先生になろうとひたむきに努力する大石先生と子どもたちの距離は近づいていくが、日本に軍国主義の影が忍び寄り、不況も重なって、先生と子どもたちの幸福な日々にも変化が訪れる。

壺井栄の同名小説を映画化した日本映画史に燦然と輝く名作。女性教師と子どもたちの物語を通して、戦争の悲惨さや、そこに巻き込まれる人々の苦悩が描き出される。公開年のキネマ旬報ベスト・テンでは、黒澤明監督の『七人の侍』をおさえて1位に輝いたほか、第12回ゴールデングローブ賞の外国映画賞を受賞。

『夕やけ雲』(1956)

出演:久我美子/田村高廣/田中晋二/東野英治郎
©1956 松竹株式会社

東京の下町で暮らす青年・洋一は、亡くなった父親から家業の魚屋を引き継ぎ、母と一緒に働いている。かつて洋一は船乗りになることを夢見て、希望にあふれていたが、やがて厳しい現実に向き合い、いくつかの別れを経験しながら、現実を受け入れ、その中にある希望を見つけ出していく。

木下惠介の実の妹でもある楠田芳子のオリジナル脚本を映画化した青春ドラマ。抒情的な描写、いくつかの別れ、挫折を描く“泣ける”映画でもあるが、その根底には貧しい暮らしの中でも希望を見出そうとする人々を丁寧に見つめる視点や、いつの時代も変わらない普遍的な青春期の感情が描かれている。

『喜びも悲しみも幾歳月』(1957)

出演:高峰秀子/佐田啓二/中村嘉葎雄/有沢正子
©1957 松竹株式会社

昭和7年。灯台守の有沢四郎と結婚したばかりの妻きよ子は、勤務先の観音埼灯台で暮らし始める。やがてふたりは北海道の石狩灯台に移り、そこでふたりの子が誕生する。九州の五島列島の先にある女島灯台では夫婦は別れて暮らすことになった。その後、新潟・佐渡島にある弾埼灯台に赴任した時に太平洋戦争が勃発。一家は戦争の波に巻き込まれた人々との出会いや別れを経験しながら、激動の時代を生き抜き……。

雑誌に掲載された灯台長と妻の手記から題材を得て木下監督自身が脚本を執筆した作品。家族のドラマだけでなく、日本各地の美しく雄大な自然も魅力的で、公開時には大ヒットを記録。観音崎、御前崎、野寒布岬、三原山、五島列島など日本全国でロケ撮影を敢行している。

『楢山節考』(1958)

出演:田中絹代/高橋貞二/望月優子/宮口精二
©1958 松竹株式会社

※2012年=生誕100年記念の際に制作された映像につき、当時の情報が表示されております

夫に先立たれた老婆おりんは、妻に先立たれた息子の辰平の後妻を探しながら、孫の面倒を見ている。おりんの暮らす村では長年にわたって貧しい村での口減らしのために70歳になった老人が楢山まいり(姥捨て)をする風習があった。夫に死なれた隣村の女性・玉やんが辰平の後妻になったことで、おりんは楢山に行けるというが……。

深沢七郎の小説を映画化した木下惠介の代表作のひとつ。全シーンがセットで撮影され、歌舞伎の様式を取り入れた演出がなされた。圧倒的なビジュアルと大胆な演出は日本だけでなく海外でも高評価を集め、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品。その後も繰り返し再評価の声があがる傑作だ。

『笛吹川』(1960)

出演:高峰秀子/田村高廣/市川染五郎(九代目松本幸四郎)/岩下志麻
©1960 松竹株式会社

各地で争いが絶えることのない戦国時代。武田家が支配する甲斐国(現在の山梨県)の笛吹川の橋の下には、貧しい農民の一族が暮らしていた。戦は続き、男たちは次々に駆り出され、命を落としていく。定平は、おけいを嫁にとり、貧しい暮らしの中でやっと子宝に惠まれるが、成長した子どもたちもまた、戦に向かうことに……。

『楢山節考』の原作者でもある深沢七郎の同名小説を映画化した作品。戦乱の時代に翻弄される一族の激動のドラマを描く作品で、高峰秀子は同じ役の18歳から85歳までをひとりで演じている。モノクロフィルムで撮影し、部分的に着色を施した映像など、実験的で大胆な表現にも驚かされる作品。

『永遠の人』(1961)

出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/石濱朗
©1961 松竹株式会社

昭和12年。九州・阿蘇で暮らす小作人の娘さだ子には、隆という恋人がいた。しかし、足を負傷して戦地から戻ってきた地主の息子・平兵衛に無理やりに関係を迫られ、川に身を投げて自殺をはかるも死ぬことができず、隆は置き手紙を残して姿を消してしまう。さだ子は平兵衛と結婚し、3人の子をもうけたが、さだ子は隆のことを決して忘れることはなかった……。

阿蘇の大自然を舞台に、四半世紀にわたる女性の夫への憎しみと情念を描き出す人間ドラマ。フラメンコが登場人物の暗く燃える感情を掻き立てる演出が印象的で、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。なお、さだ子の息子役で田村正和が本格的な映画デビューを果たしている。

『はじまりのみち』(2013)

監督:原恵一
出演:加瀬亮/田中裕子/ユースケ・サンタマリア/濱田岳
©2013「はじまりのみち」製作委員会

※2012年=生誕100年記念の際に制作された映像につき、当時の情報が表示されております

昭和20年。木下惠介は陸軍省から依頼されて監督した映画『陸軍』のラストシーンにクレームをつけられ、次作を撮れなくなってしまう。所属していた会社に辞表をだした木下は故郷に戻り、母と再会。空襲が激化する中、木下は療養中の母を連れて親族のもとに疎開することに。安静に母を移動させる必要があり、木下は母をリヤカーに乗せて運ぶことを思いつく。

木下惠介生誕100周年記念プロジェクトのひとつとして製作されたオリジナル映画。木下惠介作品の熱烈なファンとして知られるアニメーション監督の原恵一が初めて実写映画を手がけ、木下監督の実話や『陸軍』製作時のエピソードを題材に木下監督と母のドラマを描く。劇中には15本の木下惠介監督作品が引用されている。

日本映画界が誇る巨匠・木下惠介

日本映画史には、巨匠と呼ばれる映画監督が幾人か存在し、この世を去った後も繰り返し作品が上映され、映画ファンから愛され続けているが、木下惠介も間違いなく日本映画の歴史を語る上で欠かすことのできない存在、現在も作品の魅力が衰えることのない監督だ。

1912年に静岡で生まれた木下惠介は、1933年に松竹蒲田撮影所の現像部に入り、撮影部、助監督と移りながらキャリアを積み、1943年に『花咲く港』で監督デビューを果たした。なお、同年には黒澤明も『姿三四郎』で監督デビューしており、両者は朋友であるのと同時に良きライバルと呼ばれることも多かった。

木下作品は人情劇、喜劇、社会派作品と扱うジャンルの幅が広いが、人間を見つめる鋭くも確かな視点、“人間心理の奥底”を描き出すヒューマニズム、観客をアッと驚かせるショットや映像表現で映画ファンをうならせ、多くの観客から支持を集めた。

日本初の長編カラー映画『カルメン故郷に帰る』や、1954年のキネマ旬報ベストテンで『七人の侍』を抑えて1位に輝いた傑作『二十四の瞳』、ヴェネツィア国際映画祭で高評価を集めた『楢山節考』など、映画史のターニングポイント、欠かすことのできない名作を数多く手がけているのも特徴だ。

キャリアの中では数多くの名作テレビドラマも生み出しているが、現在も繰り返し上映、鑑賞され、繰り返し名前があがるのは木下監督が手がけた映画作品だ。亡くなるまでに49本の映画を発表し、世界中の映画ファンに愛され続けている。

※2012年=生誕100年記念の際に制作された映像につき、当時の情報が表示されております

「作品が多くて、どれから見始めていいのか迷ってしまう」という方は、原恵一監督が2013年に手がけた『はじまりのみち』が入門ガイドになる。

本作は、木下監督の第二次世界大戦中の実話と、映画『陸軍』制作時のエピソードを基にしたオリジナル作品で、加瀬亮が木下惠介を、田中裕子がその母を演じており、劇中には『陸軍』だけでなく、『お嬢さん乾杯』『カルメン故郷に帰る』『二十四の瞳』『野菊の如き君なりき』『楢山節考』など15作品が登場する。

劇中で描かれる物語は史実と創作が入り混じったものだが、単に木下監督の伝記映画ではなく、彼が生涯を通じて描き続けたモチーフやテーマが劇中に巧みに織り込まれており、木下惠介作品に入る予習として楽しむこともできるし、数々の木下作品を配信で楽しんだあとに本作を観ることで“より深く、キャリアを俯瞰して考える”こともできる。

木下惠介が描き続けたメッセージ

木下惠介監督は生涯を通じて、様々な題材、テーマを取り上げてきたが、戦争や激動の時代に翻弄される人々の姿を描くことで、反戦のメッセージを繰り返し描いてきた。

戦時下に、陸軍省の依頼で製作された『陸軍』でも、その結末には直接的ではないものの反戦への想いが込められ、代表作『二十四の瞳』では戦争の影が小さな島で学ぶ子どもたちのもとにも忍び寄ってくる場面を容赦なく描き出す。

また『死闘の伝説』では北海道の寒村を舞台に、壮絶なアクションとバイオレンスが描かれるが、中心に据えられているのは、争いによって引き起こされる悲劇的な結末と、その虚しさ、戦いに巻き込まれてしまった者たちの悲しみだ。

現代もいまだに世界の各地で紛争や内戦、戦争がやむことはなく、世界各地の映画作家が“現代的なテーマ”として反戦のメッセージを込めた作品をつくり続けている。木下惠介作品をいま改めて観ることで“現代にも通ずる視点”や“反戦に込めた想い”が伝わってくるはずだ。

また、木下惠介作品は没後も繰り返し上映が続いており、新しい世代のファンが加わり、新たな視点から再評価の波が起こっている。

近年はその大胆な映像表現や、巧みな語りを評価する声も多い。全編セット撮影で強烈な色彩と美術で描き切った『楢山節考』や、モノクロ映像に部分的に色をつけて描いた『笛吹川』など、ビジュアル面での革新性や斬新さは、現代の観客が観ても衝撃の連続だ。

また『陸軍』のラストで、戦地に向かう息子を追い続ける母を捉えた一連のシーンのモンタージュの巧みさは、いつ観ても映画ファンの心を掴む。洗練された語り、俳優の最上の瞬間を逃すことなく捉えた映像……配信で繰り返し観ることで新たな発見があるはずだ。

木下作品には穏やかな家族劇や“良作”と呼ばれる作品も数多く存在するが、その表現は凡庸とは程遠い精緻で大胆なもの。時を経ても決して色あせることのない“強烈な映画体験”が味わえるのも、木下惠介作品の大きな魅力のひとつではないだろうか。

■木下惠介作品を大スクリーンで。新文芸坐で特集上映が開催

東京・池袋の名画座・新文芸坐で特集上映「生誕110年 信念の人・木下惠介」が開催される。

上映作品は『カルメン故郷に帰る』『日本の悲劇』『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾歳月』『楢山節考』『惜春鳥』『春の夢』『永遠の人』『今年の恋』『死闘の伝説』の10本。

『カルメン故郷に帰る』と『二十四の瞳』『楢山節考』はデジタルリマスター版でDCP上映。残る7作品はすべて35ミリの上映になる。

特集上映「生誕110年 信念の人・木下惠介」
12月5日(月)から16日(金)まで
※10日、14日は別上映のため本特集上映はなし
新文芸坐(豊島区東池袋1-43-5-3F)
https://www.shin-bungeiza.com/

特集上映初日に開催された
映画評論家・秦 早穂子さん&日本経済新聞・古賀重樹さんによるトークショー
オフィシャルレポート
https://www.cinemaclassics.jp/news/3002/

■TシャツやBlu-ray/DVDも発売中

木下惠介監督作品『二十四の瞳』『陸軍』『カルメン故郷に帰る』『お嬢さん乾杯』をモチーフにしたTシャツをAmazon限定で販売中
https://www.cinemaclassics.jp/news/2629/

また、木下作品のBlu-ray/DVDも発売されている。
https://www.shochiku-home-enta.com/c/keisuke-kinoshita