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次世代による活発な作品づくり安住の地『凪げ、いきのこりら』稽古場レポート

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安住の地『凪げ、いきのこりら』稽古風景

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シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.14 安住の地 第8回本公演『凪げ、いきのこりら』が12月16日(金) から18日(日) まで東京・シアタートラムにて上演される。

世田谷パブリックシアターが新しい才能の発掘と育成を目指す「シアタートラム・ネクストジェネレーション」シリーズで今回選出された「安住の地」(主宰・中村彩乃)は、2017年に旗揚げし、20代後半~30代前半の若い世代が集う劇団。演劇のみならず映像・写真などを手掛ける個性豊かな14名のアーティストが所属し、京都を拠点に活動していて、東京での単独公演はこれが初となる。

岡本昌也と私道かぴが共同脚本・演出を務める今作は、メンバーである森脇康貴、日下七海、山下裕英、沢栁優大のほか、客演として池浦さだ夢(男肉 du Soleil)、古野陽大、金谷真由美が出演。岡本と私道はそれぞれ単独でも脚本・演出を手掛けてもおり、共同脚本・演出はこれが3作目となる。

東京での稽古が始まって約1週間の稽古場を取材した。

共同脚本・演出の私道かぴ(左)と岡本昌也

この日の稽古はホン読み(俳優は台詞だけを読んでいく稽古)。書き下ろしとなる今作の舞台は“はるか未来”。地球の環境は著しく変化し、わずかに残された安全な陸地に、人間、獣人、動物、怪物、妖怪、微生物とあらゆる生き物たちが集まって暮らしている――。彼らが目指すのは「ユートピア」。登場人物はみな異なる種類の生物だが、金谷演じる妖怪ウブメは「あやまちは繰り返しませんから」と繰り返す。この言葉に覚えのある人は多いだろう。過去に日本で起きたこと、いま起きていることと直結する言葉によって、このファンタジーに生々しさが混ざり込んでいくような感覚を味わった。

安住の地『凪げ、いきのこりら』稽古風景

しかしその平和も、ある登場人物の策略によって少しずつ脆くなっていき、あるきっかけを境に生き残りをかけた争いが始まってしまう。この日はホン読みだけだったが、俳優たちの芝居からそれぞれが背負ったものやその重量まで受け取れて引き込まれた。

演じるウブメの役柄について質問する金谷真由美(中央)、左はミドリほかを演じる沢栁優大、右はナナシ役の日下七海

ウブメ演じる金谷は、演出家ふたりと「ウブメの居方が定まらない」と話してはいたが、「あやまちは――」の言葉を掲げながら祈り続ける姿に、ウブメの見たものや悲しみを想わずにいられなかった。また、日下演じる猫のナナシは戦争孤児という役どころ。争いの最中に生まれ物心ついた頃にはひとりだったことがその声に表れていて、つい大人として謝りたい思いに駆られる。

バッハ役の池浦さだ夢(男肉 du Soleil)がラップを披露する場面も

もちろんシリアスばかりではなく、池浦演じる動物バッハはムードメーカーで、彼が動くと稽古場から笑い声が漏れ和ませる。ほかにも沢栁が演じるミドリの計算高さや、古野演じる退役軍人ロッコの信じるもの、森脇演じる獣人リヒテの思想や、山下演じる獣人クロワの深層心理などもどこか覚えがあり、だからこそこの登場人物たちがどこに向かうのか、手に汗握り見つめてしまう。

ミドリ役・沢栁優大
ナナシ役・日下七海(左)とクロワ役ほか・山下裕英

脚本について岡本と私道に尋ねると、最初は岡本の「異種格闘技をしたい」というアイデアだったそう。そこからふたりで脚本について話しているうちに「今起きていることと重なっていった」と言い、そこから私道が広げたり言葉にしていった。脚本の最後には、戦争にまつわる本、災害にまつわる本、暴力にまつわる本など数多くの参考文献が記されている。岡本はSNSで「誰かにとって、今すぐに必要な作品ではないかもしれません。でも、こういう作品をこれからを生きてくぼくたちがやらないとなって思ってます」「戦ってきた人に『大丈夫、伝わってるよ』って言いたい」と記す。

岡本昌也

ここまでのレポートでは重い物語に感じるかもしれないが、ラップバトル的なシーンや、「安住の地」の手法のひとつである映像の使い方や本筋とは別軸の場面の存在、登場人物のキャラクターが反映された衣装など、新鮮で躍動感のある表現が楽しく、観たことがない人にもぜひ一度味わってほしいとお勧めしたい。

左から)ロッコ役ほか・古野陽大、リヒテ役ほか・森脇康貴、ミドリ役ほか・沢栁優大、ウブメ役ほか金谷真由美

ホン読み後のノートの時間に、岡本や私道が一方的に話すだけでなく、「皆さんは実際に読んでどうでしたか?」と尋ねるとキャスト陣がどんどん気になったことや思ったことを話していたのが印象的だった。この活発な空気の中からどのような作品が生まれていくのか、期待して開幕を待ちたい。

取材・文:中川實穗

シアタートラム・ネクストジェネレーション vol.14
安住の地 第8回本公演 『凪げ、いきのこりら』チケット情報はこちら
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2235410&afid=Q04&tid=b2170716

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