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とっておきのサックスとの出会い 若き名手が招くサントリーホールの優雅な午後

クラシック

インタビュー

ぴあ

上野耕平

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「このプログラム、最高です。果物のいちばん甘いところだけを食べるみたいな、ぜいたくで凝縮されたプログラムですね」

サクソフォン界の若きエース上野耕平は、「最高」を何度も繰り返した。日本フィルとサントリーホールがタッグを組んだ好評シリーズ「とっておきアフタヌーン」にソリストとして出演する[2月1日(水)サントリーホール]。

平日午後のエレガントな名曲コンサート。今回上野はソリストとしてピアソラと《スカラムーシュ》(ミヨー)を吹く。でもそれだけではない。コンサート後半は、なんとオーケストラの中に入って、〈剣の舞〉でおなじみの《ガイーヌ》(ハチャトゥリヤン)や《アルルの女》(ビゼー)のサクソフォン・パートを演奏するのだ。

「オーケストラの中で演奏するのは最高なんです。すごく楽しい。なんならオーケストラに就職したいぐらい(笑)。たくさんの機会をいただいて、サクソフォンの出てくる主なオーケストラ曲はだいたい吹きましたけど、《ボレロ》だけがまだ一度もないんですよ」

ちなみにサクソフォンは19世紀半ばに誕生した、クラシックの歴史の中では新しい楽器なので、サクソフォンが編成に加わるのはそれ以降の作品に限られる。

「《アルルの女》はサクソフォンをオーケストラに採用した、ほぼ初めての作品です。まだ生まれてまもないサクソフォンをビゼーが聴いたんですね。

僕が思うに、オーケストラの中にサクソフォンを起用するのって、そこで何かちょっと違う色を足したいとか、別の時代から聴こえてくるような音を出したいとか、特別なところに使っている印象があります。たとえば〈剣の舞〉は中間部でチェロとアルト・サクソフォンが同じメロディを演奏するのですが、それによって、チェロだけで朗々と歌うのに比べて、なにかツンと鼻に来る感じが生まれると思うんです。ハチャトゥリヤンとビゼー。この2曲を聴けるのは、すげー(笑)コンサートだと思います」

そしてもちろん、コンサート前半の上野のソロはこの日のハイライトだ。

「《スカラムーシュ》は僕から提案したのかな。お昼に聴いていただくことを考えて、親しみがありながらも奥深い作品がいいなと思いました。この曲をサクソフォンとオーケストラで聴く機会はなかなかないですよね。

ピアソラはすごく好きな作曲家です。多くは語らず背中で語る、みたいな。そんなカッコよさ、男の生き様みたいなものに憧れを感じます。今回は3曲。超難しいスリリングな《エスクアロ(鮫)》と、背中で語る《オブリビオン(忘却)》の美しさ、はかなさ。そしておなじみの《リベルタンゴ》は啼鵬(ていほう)さんのアレンジで、最後はソプラノ・サクソフォン持ち替え。聴きごたえも吹きごたえもたっぷりです」

この楽器特有の「人間臭さ」はピアソラにぴったりだと話す。

「サクソフォンの音色や表情。ただ美しいだけじゃないのが人間らしいんです。むせび泣く時もあれば、二日酔いっぽい時も怒り狂う時もある。かと思えばこの世のものと思えない美しい音も出せる。本当にいろんなことができる楽器だということを、このプログラムを聴けばわかっていただけると思います。

たとえばビゼーの時代のサクソフォンは、現代の楽器ほど華やかではなかったんですね。そんなことも考えて吹き分けますし、ヴィブラートひとつとっても、作品によってかけ方を変えています。どの曲も全部音色が違って聴こえると思います。

だから、サクソフォンをあまり聴いたことがない人やクラシックの演奏会が初めてという人にもぜひ聴いてほしいです。この楽器のイメージが絶対に変わるはず。お昼ご飯を食べた後でも絶対眠くならない、眠くさせない曲ばかり! 本当にこれ、最高のプログラムです」

共演は広上淳一指揮の日本フィル。このオーケストラとは忘れられない縁がある。

「初めてオーケストラの定期演奏会に呼んでいただいたのが日本フィルでした。2015年、大学最後の年の9月。まだ若造の僕を指揮者の山田和樹さんが推薦してくださったんです。めちゃめちゃうれしかったですね。イベールの《室内小協奏曲》のソロと、今回と同じく、オケ中でミヨーの《世界の創造》も吹きました。《世界の創造》はすごいジャジーなグルーヴ感があるんですけど、それが安易なノリじゃなくて、すごく大人のグルーヴだったのを覚えています」

いかにも楽しげな話ぶり。音楽が好きでたまらないという風情に、こちらもうれしくなる。そんな上野のサクソフォンが、聴き手を新しい“とっておき”と出会わせてくれそうなサントリーホールの午後。人気俳優の高橋克典がナビゲーターとして案内役を務めるのも、このシリーズのとっておきだ。

日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 21
2023年2月1日(水) 14:00開演
サントリーホール 大ホール

出演
指揮:広上淳一
サクソフォーン:上野耕平
ナビゲーター:高橋克典
日本フィルハーモニー交響楽団

曲目
ドリーブ:バレエ組曲『シルヴィア』より 第4曲「バッカスの行進」
ミヨー:『スカラムーシュ』作品165c
ピアソラ:『エスクアロ(鮫)』/『オブリビオン(忘却)』/『リベルタンゴ』
ハチャトゥリヤン:バレエ組曲『ガイーヌ』より「剣の舞」/「アイシェの目覚めと踊り」/「バラの乙女たちの踊り」/「レズギンカ」
ビゼー:組曲『アルルの女』第2番

取材・文:宮本明

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2295961

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