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【おとな向け映画ガイド】ワイン・テイスティング世界一に挑んだ難民たち──『チーム・ジンバブエのソムリエたち』

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イラストレーション:高松啓二

今週末(12月16日〜17日)の公開映画数は22本。全国100館以上で拡大公開される作品が『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『Dr.コトー診療所​​』『ひつじのショーン スペシャル クリスマスがやってきた!』の3本、中規模公開・ミニシアター系が19本です。今回は、ドキュメンタリーなんですが、ドラマチックな『チーム・ジンバブエのソムリエたち』をご紹介します。

『チーム・ジンバブエのソムリエたち』

世界のトップソムリエたちが毎年集まり、ワインテイスティング(味鑑定)の世界一を競う、いわば“ソムリエ界のオリンピック”。その2017年大会に突如出場し話題をさらった、4人のメンバー全員が難民出身というジンバブエチームの活躍を追う、ドラマのようなドキュメンタリーだ。

会場はフランス・ブルゴーニュ。世界24カ国がエントリーした。競技は、各国4人とコーチがチームになり、世界中からセレクトされラベルを隠した赤白各6本のワインの、主要品種、生産国、生産地域、生産者、そしてビンテージ(収穫年)を特定し、総合点で競う。ワインがそそがれたグラスを手に、五感をフルに使って鑑定する。どれだけ多くのワインを過去に飲み、どれだけ記憶しているか、テイスティングの能力と経験、知識力が勝負。

ワインの生産国、消費国が強いのが当たり前のこの競技に、生産量と消費がほとんどゼロに近い、ワインに縁遠いジンバブエから来た、全員黒人、全員難民の4人は、なぜ、参加でき、いかに戦ったかが描かれる。

ワインのジャーナリストは、「ジンバブエとワインを結びつけるものはなく、彼らの挑戦は、エジプトがスキー選手を集めてオリンピックにでるようなものだ」と言い放つ。この映画の宣伝でも、ワイン版の『クール・ランニング』、そんな風にうたっている。確かに、太陽の国、ジャマイカからカルガリー冬季五輪をめざすボブスレーチームを描いたあのコメディを思い浮かべる映画ファンも多いと思う。だが、この映画は、誇張した再現ドラマでもコメディでもない、マジなドキュメンタリーだ。そこが面白い。

4人はチームになるまでは知らないもの同士。共通しているのは、みな経済が破綻したジンバブエから職をもとめて隣国の南アフリカ共和国へ2008年前後に流れてきたこと。母国ではワインと無縁の暮らしだった。レストランに職を得てからワインに関心を持ち、独学の耳学問と経験でソムリエに。そして、2017年には、南アフリカのトップソムリエ12人のなかにそろって入るまでのレベルになっていた。

彼らに目をつけたのが、ブラインドテイスティング南アフリカチームのコーチ、ジャン・ヴァンサン(JV)。彼らでもう1チーム作れるというわけだ。チーム結成が報じられると、遠征資金集めのクラウドファンディングが始まり、世界中から支援が押し寄せた。6500ポンドの目標に、なんと8200ポンドが集まり、彼らはおそろいのユニフォームで、フランスに乗り込むことになる。

この競技の鍵を握るのはコーチの存在だ。チームメンバーの舌をどう鍛えるか。できるだけ多くの種類の試飲用ワインを集め、テイスティングさせる。コーディネート力、膨大な知識が必要になる。JVは南アフリカチームのコーチに専念するため、選手権までのフランスでのトレーニングは別のコーチを雇うことになる。このコーチが個性的というか、破天荒なワインオタクで、彼が登場してからの一部始終は、“まるで映画みたい”にドラマテックな展開をみせる。そして注目の結果は……。

制作を手がけたのは長編ドキュメンタリー『世界一美しいボルドーの秘密』で知られる、ワーウィック・ロスとロバート・コー率いるオーストラリアのチーム。映画にも登場するイギリスのワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンがつなぎ、映画化が始まった。「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つ彼女こそ、チーム・ジンバブエのクラウドファンディングの仕掛け人で、彼らが世に出るきっかけを作った。ワインの世界にも多様性が必要、という考えを持つ人物だ。

様々な人間模様、選手権の戦いもさることながら、メンバーのトレーニングを通じて知る、ワインの奥深さ、テイスティングの魅力にもせまる。ワインにそんなに明るくない人にとっても十分楽しめる内容になっている。中心となるのは2017年の話だが、名作『アメリカン・グラフィティ』のように、その後の彼らを紹介してくれるラストも感動的だ。映画が上映されたNYのトライベッカ映画祭やシドニー映画祭では大絶賛で、観客賞に輝いたというのもうなづける、ハートウォーミングなドキュメンタリーです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

村山匡一郎さん(映画評論家)
「……ワインの世界は伝統的にヨーロッパが中心だが、ジンバブエの4人が活躍する姿に、ワイン生産と消費の未来が透けて見えるようで面白い……」

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