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原点に立ち返りつつ未来を見据える! 世代を牽引する旗手・阪田知樹が節目に贈る王道プログラム

クラシック

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阪田知樹 (c)Ayustet

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2023年末に満30歳を迎える阪田知樹。節目の年の始めに開くリサイタルには、J.S.バッハ、ベートーヴェン、ラヴェル、ショパンを並べた。正統的なピアノ音楽の系譜を辿るような、まさに「王道」のプログラムだ。それが逆に、彼のリサイタルとしてはやや意外、と感じるファンもいるかもしれない。

「そうかもしれません(笑)。阪田知樹のリサイタルというと、きっと何か1曲は珍しい曲が入っているというイメージをお持ちの方は多いと思います。あるいはリストの作品を弾くか。今回はそのどちらも入っていないですからね。東京オペラシティ コンサートホールでのソロ・リサイタルは今回が初めて。あの澄んだ響きの中で何を弾きたいか、自分の中で思い巡らせた結果、定番中の定番という曲目になりました」

とはいえ実は、どの曲にも彼の代名詞でもあるリストが隠れている。

「プログラムの核として最初に決めたのがショパンのピアノ・ソナタ第3番です。ショパンはもちろんリストの友人であり、リストはこのソナタを自分でも弾いていたようですが、ベートーヴェンの《熱情》と同じぐらい難しいと評しているんですね。またラヴェルは、リストが切り拓いた道があったからこそ自分たちの時代があると言って、尊敬の念を抱いていました。

そしてバッハ。バッハがリスト自身に影響を与えているのはもちろん、今回弾く《シャコンヌ》を編曲したブゾーニは、リストをたいへん尊敬していて、またリストとバッハの大家として知られたピアニストでもありました。

このように、リスト自体は弾かないのですが、過去と未来からそこに繋がって、ある種のテーマになっているのは、リストの作品をよく弾く私ならではかなと思います」

プログラムの最後に置いたショパンのピアノ・ソナタ第3番は、リストのソナタと並んで最も好きなピアノ作品だという。

「デビューCDでも録音した楽曲です。2015年のリリースでしたが、それ以来しばらく離れていたんです。でもまた今、自分の好きな曲にあらためて取り組みたいと、原点に戻るような気持ちで、演奏することに決めました。

ショパンのソナタ第3番は、色彩感を豊かに感じる作品です。いろいろな情景を見せてくれる。それが非常に人間味あふれる感じなんですね。彼が大事にしていた、たとえばオペラ・アリアのような歌い口であったり、小品に見られるようなきらめくような響きだったり。いろいろな寄り道をしているようなところがあるのもたいへん魅力的です。それでありながらも、ベートーヴェンの最後のソナタに由来するような構築美を感じますし、モーツァルトのピアノ・ソナタに見られるような第1主題の再現の省略だとか、構造的にも立派なものがあります」

コンサートはJ.S.バッハの2曲で幕を開ける。阪田自身の編曲による《アダージョ》とブゾーニ編曲の《シャコンヌ》。

「ヨーロッパの教会を思わせるオペラシティ・コンサートホールの空間。祈りの意味も込めて、最初にバッハを置きました。じつはバッハ/ブゾーニの《シャコンヌ》を初めてコンサートで弾いたのもここだったんです(2018年1月サクソフォン上野耕平とのデュオ・コンサート)。それもあって、今回またあらためて。

この曲はバッハなのかブゾーニなのかという話がよく出ますけれども、私の中では、ブゾーニがいろいろな要素を加えたことによって出来上がった、二人の共作と捉えています。優れた編曲というのはそういうものだと思うんです。

その《シャコンヌ》の前に、私が編曲した《アダージョ》を弾きます。オルガン曲《トッカータ、アダージョとフーガ》BWV 564の一部で、これにもブゾーニの編曲があって、ホロヴィッツやキーシンなども弾いている、比較的有名な編曲です。それも素晴らしいのですが、オルガンの音をわりとそのままピアノに移していることもあって、かなり音が多いんですね。もうちょっと音を減らして美しく仕上げられるのではないかと思って、あらためて編曲しました。

編曲したのはコロナ禍が始まって1か月ぐらいの頃。先が見えない状況の中で、希望を見い出したのがバッハの音楽だったんです。もちろんブゾーニの編曲があることは知っていたので、彼へのオマージュも含めつつ《シャコンヌ》につなげます。編曲自体も、ブゾーニのスタイルを踏襲して、ロマン派寄りのスタイルで編曲しています。

この編曲を初めて公の場で演奏したのが前回のリサイタル、2021年10月のサントリーホールのアンコールでした。今回はその曲から始めようと。“つながっている”という意味もちょっとあったりします」

阪田知樹 (c)Ayustet

ここぞという節目のリサイタルではほぼ必ずベートーヴェンのピアノ・ソナタを弾くという阪田。今回は第23番《熱情》だ。

「《熱情》は、10年間お世話になったパウル・バドゥラ=スコダ先生のもとでじっくり勉強した曲のひとつです。先生とはたくさんのベートーヴェンのソナタを勉強しました。他の作曲家と比べても、やはりとくにベートーヴェンを多く勉強したんです。しばらく演奏していませんでしたが、あらためてそこに立ち返ってみようと選びました。

先生は単純に楽譜を追うのではなく、ベートーヴェンのクセというか、彼がこういうふうに書くのはこういう意味なんだよということを教えてくれました。先生自身もすごく学者的な部分のある方だったので、自筆譜や、ベートーヴェンの生前に出版された楽譜のコレクションなどを比較しながら、演奏上の注意だけではなく、ベートーヴェンの音符そのものや表記がどんな過程を経て変わっていったのか、とても細かく教えてくださいました。だからやはりベートーヴェンを弾く時は、先生から学んだことが、もちろんそれをもとに自分が考えたことも含めて反映されている、自分の中で生きていると感じます」

ラヴェルの《高雅で感傷的なワルツ》は、いつか弾こうとずっと考えていた曲のひとつで、直近のシーズンから弾き始めた比較的新しいレパートリーだ。

「自分の中で大事なレパートリーになっていくんじゃないかなという気がしています。ラヴェルの最高傑作にどの曲を挙げるかは人によって意見が分かれると思いますが、私は《高雅で感傷的なワルツ》一択です。ラヴェルの美的感覚が凝縮されている。彼の作品で如実に聴かれる、スパイスの効いた不協和音、彼しか選ばないような音と音の美しい衝突が、オペラシティのアコースティックならばじつに見事に聴き取れるはずです。

私が今、ピアノを演奏するうえで非常に大事にしていることのひとつが、音色のパレットを持っていたいということ。ラヴェルの場合、この曲も本人による素晴らしいオーケストラ・ヴァージョンがありますけれども、それをどうやってピアノで描くかということに、非常に大きな興味を持っています。もちろん、ラヴェルがたとえばオーボエで書いているからといって、そこをオーボエのような音色で弾こうという単純な意味だけではなく。演奏の参考にはなりますけど、彼と同じことをしてもあまり面白くない。オケ版を参考に、自分なりの表現方法を考えることは大切です。

今回のリサイタルは、プログラムも会場も、自分の原点に立ち返って、あらためて人生に向き合う、大きな意味を持つ機会になるのではないかなと思っています」

阪田知樹 ピアノ・リサイタル
2023年1月27日(金) 19時開演
東京オペラシティ コンサートホール

取材・文:宮本明(音楽ライター)

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2234269

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