Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 斎藤工、向井理、八木勇征『イチケイのカラス』の“ひと筋縄ではいかない男たち”【現場レポート】

斎藤工、向井理、八木勇征『イチケイのカラス』の“ひと筋縄ではいかない男たち”【現場レポート】

映画

ニュース

ぴあ

映画『イチケイのカラス』

続きを読む

フォトギャラリー(11件)

すべて見る

1月13日に劇場公開を迎え、現在大ヒット中の映画『イチケイのカラス』。本作は、浅見理都の同名コミックを原作として2021年4月クールにフジテレビ系で放送された人気連続ドラマの劇場版。通称“イチケイ”こと東京地方裁判所第3支部第1刑事部を舞台に、裁判所主体で検証を行う“職権発動”を駆使して事件と向き合う自由奔放で型破りな裁判官・入間みちお(竹野内豊)と、彼に振り回されながらも同じく真実を追求する超ロジカルなエリート裁判官・坂間千鶴(黒木華)をはじめとした裁判官たちや周囲の面々、被告人たちのドラマをコミカルにもビターに描いた、リーガル・エンタテインメントだ。

映画が描くのは、連続ドラマの2年後。“イチケイ”を去ったみちおは、現在は岡山地方裁判所秋名支部に所属。一方、坂間はみちおの影響もあってか、裁判官が別の仕事を経験する他職経験制度を利用して、法律で弱き人を助けたいと弁護士の道へ。奇しくもその着任先となったのが弁護士過疎地域の岡山県日尾美町で、同じ瀬戸内の地でふたりは裁判官と弁護士として再会を果たす。その中でみちおは防衛大臣が被害者で国家機密が絡む傷害事件、坂間は地元大企業にまつわる訴訟を担当することになるが、ふたつの案件には繋がりが!?

映画『イチケイのカラス』

もちろん入間みちおを演じるのは、竹野内豊。坂間千鶴には、黒木華。また、小日向文世、山崎育三郎、桜井ユキ、水谷果穂といったレギュラー陣も登場。加えて、新キャストとして柄本時生、西野七瀬、田中みな実、平山祐介、津田健次郎、尾上菊之助、宮藤官九郎、吉田羊といった豪華な面々が各界から集結している。

映画『イチケイのカラス』メイキング

もちろんすべてのキャラクターが印象深いが、今作の中でも特に注目の存在で惹きつけられるのが、みちおや坂間と深く関わることになる3人の男たちだ。ひとりは、坂間のバディとなる月本信吾役の斎藤工。そしてもうひとりは、みちおと対峙することになる鵜城英二役の向井理。あわせて、坂間を慕っている植木幸太郎役の八木勇征(FANTASTICS from EXILE TRIBE)。彼らをひと言で言い表すとしたら、ひと筋縄ではいかない男たちだ。

そもそもひと筋縄ではいかないというのは、本作の面白さそのものでもある。法律や社会のシビアさと、一方でその中にもある救いや希望。それこそひと筋縄ではいかない現実を見据えたうえで、エンタテインメントに昇華しているのが『イチケイのカラス』だ。

なにしろ主人公のみちおからして、ひと筋縄ではいかない。マイペースで破茶滅茶なトラブルメイカー。しかし人の心を乱す存在ほど人の心を奪うものでもあって、またみちおには決してぶれない芯もある。それだけに厄介で魅力的だ。そんなみちおを軽やかさも重みもある竹野内が演じることで、人としてのかわいらしさも、男としてのカッコ良さも浮かび上がる。

映画『イチケイのカラス』

そして上記の3人の男たちも同様。ある一面だけで括られたような、紋切り型のキャラクターじゃない。そもそも斎藤も向井も八木も、演じる役柄においても演じている本人にしても多面的な顔を見せてくれる存在。まさにひと筋縄ではいかない魅力を持った男たちだ。本作における彼らのキャラクターと合わせて、撮影現場で見せた顔を取り上げてみる。

竹野内とグータッチで笑顔も。斎藤工のお茶目な一面

映画『イチケイのカラス』

今作がクランクインを迎えたのは、2022年7月17日。竹野内の撮影入りはその翌日で、全体の初日にまず撮影されたのは、黒木演じる坂間と斎藤演じる月本が日尾美町の地元大企業であるシキハマへ調査に出向くシーンだ。

月本は弁護士過疎地域を渡り歩き、苦しみながらも声を上げられない人を救うべく社会正義を実践している心優しき人権派弁護士。小日向演じるイチケイの部長裁判官・駒沢義男が司法研修所教官を務めていた際の教え子でもある。そんな彼がシキハマについて独自に調べていた中で出会うのが、同じ弁護士である坂間だ。大人の男の落ち着きの中に、少年のような乱暴さや無邪気さも見せる月本。正義感から協力を申し出て行動を共にする坂間は次第に月本に惹かれていき、彼の秘められた過去と隠された一面も知ることになる。

映画『イチケイのカラス』

斎藤は初日舞台あいさつで、世間にはあまり知られていない竹野内の実はお茶目な一面を語っていたが、斎藤もまたお茶目。そちらはバラエティやトーク番組などで世間にも知られている一面かもしれない。ある日の撮影。月本が坂間と共に参加した草野球のシーンのロケが行われていたが、気づけば合間に斎藤が誰かに大きく手を振っている。実はこのロケを取材していた『めざましテレビ』のクルーを見つけて、そのカメラに向かって手を振っていたのだが、それこそお茶目だ。

実はこの草野球シーンのロケ日は、8月22日。奇しくも斎藤の誕生日で、またこの撮影をもって月本の出番はすべて終了。誕生日とオールアップを祝して竹野内から花束とグータッチが贈られ、笑顔を見せる姿もあった。

映画『イチケイのカラス』

穏やかな態度と柔らかな表情で、変わった見方の面白い発言をする斎藤。裏腹なものにも表裏一体のものにも思わせるギャップや二面性を併せ持つというのは、月本にも相通じるところだ。そんな月本がこれまでと違った顔を見せ、むき出しの感情と言葉を坂間にぶつけるシーンもある。斎藤が放つ鋭くも強い芝居と、それを受ける黒木の熱くも静かな芝居。体温や鼓動を感じさせる、注目シーンのひとつだ。

見惚れるほど凛とした芝居。品格や情熱も感じさせる向井理

映画『イチケイのカラス』

そして芝居部分の全体の撮影が終了したのは、8月29日。同日、竹野内と黒木も坂間がみちおの裁判官宿舎を訪ねるシーンでオールアップを迎えたが、その前に撮影されていたのが向井扮する政治家・鵜城のシーンだ。

史上最年少の防衛大臣にして、将来の総理候補とも目される切れ者のエリート。そんな中でイージス艦と貨物船の衝突事故が起こるが、原因もうやむやに幕が引かれ、鵜城は自身のキャリアを守るために不祥事隠しをしていると取り沙汰されることにもなる。衝突事故の犠牲者・島谷秀彰の妻・加奈子は、鵜城が秀彰の墓に参った際、夫の死の真相を知りたいばかりに彼に迫ってケガを負わせてしまい、傷害事件に発展。その裁判を担当することになったみちおは、事件の発端である衝突事故の真相に迫ろうとするが、鵜城は国家権力を盾にみちおの前に立ち塞って……。

映画『イチケイのカラス』

最終日に撮影されていたのは、まさに墓前のシーン。加奈子を演じるのは、田中みな実。また亡き夫・秀彰には津田健次郎が扮している。本当のことが知りたいと涙ながらに訴える田中=加奈子。向井=鵜城はその言葉を受け止めながらも、体勢と表情は変えないままやり過ごそうとする。見惚れるほど凛としていて、憎らしいほど冷たくもある芝居だ。

保身に走る傲慢な政治家。ここに記した鵜城にそんなイメージを持つ人もいるかもしれないが、スクリーンの中の向井の姿を見ればそんなオーソドックスなキャラクターではないことが分かるだろう。誤ったことをしている人ではあっても、彼には彼の正しさがあって、間違ったことをしている人ではない。クールな中に品格や情熱や理想も感じさせるのが向井の鵜城で、そこは向井自身ともどこか重なる。鵜城もまた魅了される人物となっている。

映画『イチケイのカラス』メイキング

映画を観れば、月本と鵜城もまるで対極に思えながら相通じるところがあって、さらにみちおと月本と鵜城も重なるところがあると感じる人もいるはずだ。もっと言えば、竹野内と斎藤と向井も共通するものはある。スタイリッシュな雰囲気にして、人間味を感じさせる魅力。それが演じるキャラクターにも通じて繋がる。声の良さというのも、あらためて本作で感じさせられる部分だろう。そしてなにより、色気だ。みちお、また月本、鵜城のそれぞれの正義と使命と生き方に匂い立つもの。見た目や空気感だけでなく、そこにも色気を感じさせ、感じられるのは、竹野内、斎藤、向井だからこそだ。

八木勇征のアドリブをきかせたチャーミングな芝居

その中にあって、また彼らとも他の出演作とも違った魅力を見せているのが、八木。演じている植木幸太郎は、日尾美町の商店街にある和菓子屋の若き店主で、かつてはやんちゃをしていた元ヤンの気のいい青年。吉田羊扮する医師で姉御肌の小早川悦子に懐いていて、その悦子が面倒を見ている坂間にも心を開いているどころか、頻繁に差し入れをするなど彼女のことをなにかと気にしている様子?

八木は連続ドラマ・映画化の『美しい彼』で演じた圧倒的なカリスマ性と美しさを持つ役どころでも話題を呼んだが、同作で共にダブル主演を務めた萩原利久もまたTVシリーズの『イチケイのカラス』第1話にゲスト出演。そのTVシリーズも家族で観ていたという八木は、最初こそ緊張した様子も漂わせていたが、吉田や黒木とも言葉を交わす中で、持ち前の度胸と自分なりに作り上げた幸太郎像を発揮。

映画『イチケイのカラス』メイキング

その中で一同を驚かせ、楽しませもしたのが、あるアドリブだ。裁判を終えて商店街の事務所に帰って来た坂間に、菓子を渡すシーン。そこで八木は、ウインクをするという台本にはなかった芝居を披露。しかしそんな思い切りの良さとチャーミングさがいかにも八木らしく、もちろん幸太郎らしくもあり、田中亮監督も大喜び。愛すべき商店街のムードメイカーとして、現場も作品も盛り上げることとなった。

刺さる映画だというのは、すでにもう作品を観ている人には分かる言葉だろう。突きつけられて、託されるものがある一作。それが真に迫るものとなっているのは、脚本や演出はもちろん、間違いなくキャスト陣が放つものがあってこそだ。ひと筋縄ではいかない現実の難しさ、作品の面白さ、キャスト陣の魅力。ただ、笑えるだけじゃない。ただ、泣けるだけじゃない。『イチケイのカラス』とは、そして映画とはこんなに重層的で多面的なものなのだと、ぜひ劇場で確かめて、酔いしれてほしい。

取材・文:渡辺水央

映画『イチケイのカラス』
上映中

©浅見理都/講談社
©2023 フジテレビジョン 東宝 研音 講談社 FNS27社

フォトギャラリー(11件)

すべて見る