浜崎あゆみの宇多田ヒカルカバーはなぜ“新たな代表作”となった? 『FNS歌謡祭』出演を機に考える
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浜崎あゆみが12月5日放送の『2018 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)に出演。宇多田ヒカル「Movin’ on without you」のカバーを披露する。このカバーは『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』に収録され、話題を呼んだ楽曲だ。また、宇多田と浜崎といえば、CDが最も売れたとされている1998年にデビューし、音楽シーンを牽引してきた存在であることは言わずもがな。双方のアルバムが同日販売(浜崎あゆみ『A BEST』と宇多田ヒカル『Distance』)されるとなれば、“世紀の歌姫対決”として社会現象になるほどだった。今回の放送で浜崎が「Movin’ on without you」をパフォーマンスするというのは、当時を知るファンからすると感慨深いものがあるだろう。
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ただ、同曲が話題を呼んだ理由はそれだけではない。浜崎あゆみによる「Movin’ on without you」が素晴らしかったのだ。実際にリスナーからは、浜崎あゆみが宇多田ヒカルの曲をカバーすることへの喜びよりも、楽曲自体を絶賛する声が多かった。“浜崎あゆみの新たな代表作”と呼ぶ人もいるほどだ。
浜崎あゆみによる「Movin’ on without you」は、レディー・ガガ、ニッキー・ミナージュなどで知られるRedOne Productionのヨハン・サイモンとトレヴァー・ムジーがプロデュース&ミックスを手がけた。EDMサウンドで同曲をアレンジしており、原曲にある湿った密室感とは対照的。まるでショーを彷彿とさせる派手な音作りがされているのだ。さらに浜崎は、繊細というよりも力強く、クールというよりも甘く魅惑的に歌ってみせる。全体的に閉塞感を払拭した演出がされているのだ。元々同曲は、好きな相手に翻弄されつつも最終的に自ら別れを告げるという内容。彼女のこうしたアレンジによって、同曲は“自立した女性の美しさ”が映し出された楽曲へと進化を遂げた。また、浜崎はこういった演出をすることで、社会を生き抜く女性たちや音楽活動を続けてきた宇多田への敬意を表したかったのではないだろうか。
同期である浜崎と宇多田は、ライバルというよりもむしろ“同志”として互いを意識していた。だからこそ宇多田は初のトリビュートアルバムに浜崎を選んだのだろうし、浜崎は2人が音楽シーンを走り始めた頃にリリースされた「Movin’ on without you」を選んだのだろう。また、同曲について浜崎は「私的にヒカルちゃんとのリリースタイミングが近かったり等の理由で当時よく耳にしていた、思い出のある「Movin’ on without you」をチョイスさせて頂きました。今でもこの曲を聴くと、あの頃の日々が鮮明に蘇ります」と述べている(参照:浜崎あゆみオフィシャルサイト)。そんなコメントからも、浜崎が宇多田を同志として見ていたことが伺える。
同曲は、当時活動休止中だった宇多田へのエールも込められているように思う。海外の大物プロデューサーの起用や、彼女らしさと宇多田への敬意を感じさせるアレンジ。一聴すればわかるその熱量からは、音楽シーンを走り続けるという浜崎の意志を感じると同時に、宇多田を鼓舞するようにも響いてくる。
現在活動を再開し、再び音楽シーンを牽引している宇多田ヒカル。浜崎が披露する「Movin’ on without you」のパフォーマンスは、彼女にはどう見えるのだろうか。そんなことを考えると、それだけで胸に迫る思いになる。(北村奈都樹)