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有村架純と孤独「人は孤独だけれど、1人ではない」

映画

インタビュー

ぴあ

有村架純 撮影:鬼澤礼門

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「孤独」という言葉は、どこか強い引力を秘めていて。口にするだけで、心の暗がりに飲み込まれてしまいそうになる。

けれど、有村架純は言う、孤独は悪いものではないと。

「私、人は一生孤独だと思っていて。結婚してパートナーがいて味方がいたとしても、やっぱり生きていくのは自分自身。あらゆる決断含め自分でやらなきゃいけないし、人は生涯1人で戦うことになるんだろうなと思っています」

決して悲観しているわけではない。諦観ともまた違う。事実を事実として、ありのまま捉える。そんな口ぶりで彼女は続ける。

「孤独って、なんとなくネガティブなワードのイメージがありますよね。でも私は、人は孤独かもしれないけど、1人じゃないと思っています。周りを見れば、人はいてくれる。ちゃんと自分が人を大事にしていれば。そういう考えもあると思っています」

ちひろさんは、誰かを救おうとは思っていない

有村架純が孤独について語ったのは、2月23日公開の映画『ちひろさん』で演じたちひろさんが、心に孤独を抱えた人だから。

飄々としていて、誰にでも分け隔てなく接する元風俗嬢のちひろさん。海辺の街の人々は、次第にちひろさんに癒されていく。ともすると、男性の理想が凝縮した聖母になりかねないキャラクターだ。だけど、有村架純が演じると、不思議とそうはならない。そこに、有村架純の知性と感性が光っている。

「ちょっとニュアンスを間違えると、何でも受け入れてあげるよみたいなキャラクターになっちゃうなと思ったので、そこは徹底して気をつけました。意識したのは、距離感。ちひろさんは、そんなに人に興味がないんです。悟っているというより、何もかもあきらめていて、そこからさらに1周回ったような人。だから、とてもからっとしている。距離感に粘度を感じないというのは今回特に気をつけたところでした」

かつての自分のような行き場のない子どもたちを目の前にしても、ちひろさんには押しつけがましさのようなものがまるでない。

「決して自ら踏み込んで手を差し伸べるという人ではないんですよね。私たちも生きていたら、この音楽に救われたとか、この絵に救われたとか、存在してくれているだけで力をもらえるものってあるじゃないですか。ちひろさんもそれに近い感じがしました。サービス精神で何かを分け与えようとしない。ただそこにいることで、周りが救われている。そういう人なのかなって」

中学生の頃から、友達に対しても執着がなかった

そうしたちひろさんの執着のなさは、有村架純にも通じるものがあると言う。

「私はそんなに人に執着しなくて。例えば物を無くしちゃったときも、ショックだけど、そういうタイミングだったのかなって。今までありがとう、さようならってわりとあっさり切り替えられるようなところがあって。人との出会いや別れも全部タイミングだなと考えているんですね。たとえここで道が分かれても、必要とあらば、またいつか出会う日がやってくる。そう思うタイプなので、人との距離感というのは意外と潔いのかもしれない。だから、ちひろさんのスタンスもわからなくはないって感じでした」

孤独を受け入れ、執着しない。この淡々とした生き方は何から生まれているのだろうか。

「いつからだろう。もう思い出せないですけど、たぶん中学生くらいの頃にはそういう考えだった気がします。友達に対しても大事にしたいなと思う一方で、じゃあ自分が思っているのと同じくらいの気持ちを相手に返してほしいとか、そういうことはまったく思わなかった。もしそれで友達が離れてしまったとしても、それはそれでしょうがないね、という感覚でした」

だからだろうか。有村架純の演じるちひろは、どこか翳りを持ちながら、過度に明るくもなく、湿っぽくもなく、海辺の街に吹く風のように、人々の生活に溶け込み、そして通り過ぎていく。

「きっとちひろさんもかつては普通の会社員で、普通にみんなと変わらないような生き方をしていたと思うんですね。でも、あるとき、自分が愛情に飢えていた分、人にいっぱい愛を与えすぎて、カラカラになってしまって疲れちゃったのかな、と。そこでちひろさんは、自分にとっていちばん気持ちのいい人との距離感を学んだ。もっとここにいたいと思う前に、もっと情が沸く前にさよならした方が自分自身も傷つかなくてすむ。期待をしなければ、裏切られたという気持ちにならなくてすむ。今の彼女の生き方は、全部ちひろさんが自分自身を守るために決めたものなんですね」

それは、人によっては淋しい生き方に見えるかもしれない。だが、有村架純はきっぱりとこう言う。

「決して彼女は過去を捨てているわけではないんです。何か無理矢理蓋をしたという感覚もなかった。ただ、過去を引っ張らずに生きているだけ。いろんなことを消化して、今に至ってるような気がするし、私は最後まで観て、これからのちひろさんの旅を見てみたいって思いました。次はちひろさんはどんな街で、誰と出会って、どんな台詞を言うんだろうって。これからのちひろさんを見てみたくなるようなラストでした」

そして、有村架純もまたちひろさんを演じることで救われたと振り返る。

劇中、ちひろさんは「私、恋愛で酔えないタチなんだよ」と明かす。人を独り占めしたくないし、されたくもない。もしもそれが恋愛なら自分には必要ないと。誰かを愛し愛されることがハッピーエンドとなることの多い日本の映画やドラマで、恋愛は必要ないと語るヒロインは珍しく、清々しい。

「私自身、ずっとそういうかっこいい生き方をしている女性像を演じてみたいと思っていました」

その言葉の裏には、彼女自身を縛ってきた「清純」や「健気」というステレオタイプからの解放があった。

「今までどちらかというと、いろんな背景がありながらも懸命に生きているような役どころとか、それこそ男性が理想とするヒロイン像みたいなものを求められ続けている気がしていて。このお話をいただいたときは、そこにちょっと違和感を覚えはじめた時期でもありました。なので、ちひろさんは私にとって出会いたかった役。それこそ救世主が現れたみたいな感じで(笑)。ちひろさんありがとうという気持ちで役に向き合っていました」

やりきれない夜は、カップラーメンを食べます(笑)

一つひとつ言葉を選び、じっくりと考えながら、有村架純は答える。そこに、決して易きに流されることのない彼女の芯の強さのようなものが見える。

でも決して近づきがたいわけじゃない。むしろとてもフラットで素朴な人だ。

そう感じたのは取材の最後。劇中に登場する「夜は私たちの味方だからね」という台詞にちなんで、やりきれない夜の過ごし方について聞いてみると、少女みたいに恥ずかしそうに笑って、話しはじめた。

「何事も考えてしまう性格なので、そんな夜はつい頭がパンパンになってしまうんですね。特に現場に入ってるときは、どうしても心も落ち着かないし、穏やかでいるのってちょっと難しかったりするので。だから、そういうときは普段食べないものを食べます。たとえばカップラーメンを食べたりして(笑)、いつもと違うことをしたぞってエネルギーを違うところに向けるようにしますね」

「次の日怒られません…?」と質問を重ねると、有村架純はもう一度控えめに笑った。

「そう。パンパンにむくむのはわかってるんですけど、それでももういいやって(笑)」

話題作へのオファーが引きも切らない、文字通りのトップ女優。そのプレッシャーは、きっと誰にも想像つかない。まさに「孤独」だろう。

それでも彼女はやりきれない夜を乗り越えて、自らのなすべきことに向き合っていく。心に孤独を宿しながら。時には、カップラーメンをやけ食いなんかしたりして。

取材・文:横川良明 撮影:鬼澤礼門 ヘアメイク:尾曲いずみ スタイリング:瀬川結美子

<作品情報>
Netflix映画『ちひろさん』

2月23日(木・祝) Netflixで独占配信&全国の劇場で公開

Netflix映画『ちひろさん』キービジュアル

【出演】
有村架純
豊嶋花、嶋田鉄太、van
若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子
鈴木慶一、根岸季衣、平田満
リリー・フランキー、風吹ジュン

原作:安田弘之『ちひろさん』(秋田書店「秋田レディース・コミックス・デラックス」刊)
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織 今泉力哉
製作:Netflix、アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、デジタル・フロンティア
配給:アスミック・エース

Netflix映画『ちひろさん』予告編

公式サイト:
https://chihiro-san.asmik-ace.co.jp/

(C)2023 Asmik Ace, Inc. (C)安田弘之(秋田書店)2014